小さな村は「つながり」を武器に、
この時代に立ち向かう。<後編>

【宮崎県諸塚村】一般社団法人ハチハチ 代表 森佑介さん

前編はこちら


小さいことは本当に不利なのか。固定概念を覆す新たな挑戦

「人口集中による都市の課題が示される一方で、地域の未来は『人口の多い少ない』というものさしだけで語られる風潮にあります。そのことに違和感を覚えていました」

こう語るのは、2017年4月、東京から諸塚村に移住した森佑介さん。諸塚村は、宮崎県の北部、九州山地のほぼ真ん中にある、人口1,500人の小さな村。村の面積の95%が山林という山深い環境にあって、村人たちは森と向き合いながら、独自の文化を育み、互いに助け合うことで暮らしをつくってきた。

前編から引き続き、一般社団法人ハチハチの森佑介さんにお話を伺った

「諸塚村は小さいからこそ、人と人がつながり合える。つながることで生かされる人の可能性があるんじゃないかと思いました」と移住を決意した思いを振り返る。

森さんは、学生時代に関わった東日本大震災の復興支援活動や、社会人一年目に仕事を通して体験した里山での自給自足生活を通して、「人間同士のつながりが感じられること」と「自然の中で仲間と生きていけること」が人生の重要なテーマになった。この二つを条件に、全国を回って移住先を検討した中で、人口も平地も少ないからこそ、人と人がつながりの中で生きている諸塚村に可能性を感じたという。

移住と同時に「一般社団法人ハチハチ」を設立し、「来るもの拒まずの精神」で、村から委託された多種多様な仕事に取り組むことで、仲間と呼べる人を増やし、つながりの中で生きることを実践している。

 

お互いのために「無理のない移住」を支援したい

移住して最初に関わったのが、村内の求人者と求職者をつなぐマッチング事業だ。この季節だけ、この曜日だけ、1日のこの時間だけなど、小さな人手不足が村の中でたくさん起きている一方で、週のこの曜日なら働きに出たい、農閑期にできる仕事があったらいいなというニーズもある。森さんは、この両者をつなぐコーディネーターの役割を果たしながら、自身も求職者の一人として、依頼された農作業などを請け負ってきた。

人口が減少する中、これまで血縁者でまかなってきた農作業の人出を確保できなくなることは避けられない。村の将来を見据えて、今のうちに仕事として誰かに依頼したり、村外の人を紹介したりする仕組みをつくっておくことも目的の一つだ。

村の主産業である林業のしごと

「移住者にとっては、さまざまな仕事をお手伝いすることが、地域のことをよく知り、地域で必要なスキルを学ぶ機会にもなります。当時は若者の僕に仕事の依頼が集中してしまったこともあったんですが(笑)、いろんな仕事を通して人のつながりが広がったことは大きな成果です」

森さんは今、移住支援の窓口義務を担当している。そのことを活かして、人材マッチングに移住支援を組み合わせ、求人者と移住希望者をマッチングし、村に滞在して農林業を中心とした仕事を体験してもらう「諸塚型移住お試し滞在」という支援制度を展開している。この制度では、移住希望者の要望に沿ったオンリーワンのツアーをアレンジするのはもちろん、村までの交通費や宿泊費、滞在中のレンタカー代などの費用の一部を支援する。「かゆいところに手が届くような制度を実現できるのは、小さい村ならではだと思います」という。ここ数年は、この支援制度を利用して、移住者が少しずつ増えているそうだ。

移住お試し滞在のツアーの様子

「もちろん移住となると、空き家は少なく、求人のある会社や職種も限定的で、他の地域に比べてハードルは高いと思います。だからこそ、お互いのために時間をかけながら、村の人たちとつなげていって、『無理のない移住』を支援したいという思いで動いています」

諸塚村の人々には、まず「村民」という太い軸があり、立場や所属を超えて、村民として協力し合おうとする意識が根付いている。一人の移住希望者に対しても、村民同士が柔軟に連携することで、オンリーワンの移住支援が実現しているのだ。

 

小さいことを逆手に取った「全村民参加」の村づくり

そんな村民意識の高い諸塚村には、「小さいこと」を逆手にとった、この村らしい暮らしや文化がある。村民全員が参加する「自治公民館活動」もその一つ。諸塚村では集落の集まった地域を「公民館」と呼び、その組織が主体となって各集落を自治するという全国でも類を見ない試みに取り組んできた。さらには、村内にある16の公民館を統括する「公民館連絡協議会」という自治組織が、村の行政と対等な関係で村づくりを行っている。

こうした「全村民参加」による村づくりは、一人の村民が複数の役割をこなす「一人多役」の暮らしにつながっているという。

伝統芸能である祭りを担うのも役割の1つ

「この村では、地域の草刈りや清掃、水源の管理、道路のコンリート舗装など、都市では行政が担うような部分も、地域の仲間と一緒にやります。本業以外にも、猟師であったり、伝統芸能の担い手であったり、村で暮らすことは多彩な役割を担うことでもあります。だから集まって飲み出せば、当たり前のように地域の未来が話題にのぼる。大変なこともありますが、役割があるから人が輝き、人のつながりが広がっていきます」

森さんは住むほどに、小さな村のポテンシャルを実感している。

 

関係人口の量より質へ。新しい価値を生む関係性づくり

競争から共創へと向かう時代にあって、可能性を秘めた諸塚村の輪の中に、都市の人たちにも加わってほしい。そんな思いで諸塚村が今取り組んでいるのが、村の豊かさを多くの人と分かち合うためのコミュニティづくりだ。持続可能な森づくりで世界的な評価を受ける諸塚村では、これまで企業との連携は盛んに行われてきた。そんなつながりの輪を企業から個人へと広げようとしている。

関係人口創出を目指す「山とまち。」事業

2019年12月、諸塚村に関わりたい人たちが集うプラットフォームとして、諸塚村のLINE公式アカウント「山とまち。」と、公式ファン倶楽部専用SNS 「諸塚かてゃーり隊」 を開設し、情報発信や交流を行ってきた。

▼諸塚村のLINE公式アカウント「山とまち。」/公式ファン倶楽部専用SNS「諸塚かてゃーり隊」 はコチラ
https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/morotsuka-fan/

LINE公式アカウントで友達登録すると、諸塚村の最新情報をチェックでき、さらに公式ファン倶楽部専用SNSから「諸塚かてゃーり隊」の「隊員」になると、隊員向けの情報を受け取りながら、隊員同士で情報交換もできる。村の暮らしが気になるという人から、もっと知りたい、他の人にも知ってもらいたいという人まで、諸塚ファンは全国にじわじわと増えているそうだ。

小さいことを活かしてきた諸塚村らしい、ファンづくりとは何か。この問いに対して、取り組みの推進役でもある森さんは、関わってくれる人の数を単に増やすことよりも、「関係性の質を高める」ことだと考えた。めざすは、受け身の参加だけでなく、新しい価値を一緒に生み出せるような関係性づくり。それを形にすべく、森さんは全国の隊員たちと一緒に、村の資源を活かしたプロジェクトをつくっている。

さんさき坂カフェで提供した諸塚村ランチ

例えば、東京台東区谷中で、森さんの母親が運営する「さんさき坂カフェ」を交流拠点として、諸塚村の食材を活用したランチを提供したり、山村と都市の関係性の越境・融解・共創を目指す学び場「山とまちアカデミー」でオンラインセミナーを定期開催したり、食べ手とつくり手が一緒になって特産の乾物を発信する場として「乾物LAB」を立ち上げたり、教育系のNPO法人と連携し、都内の小学生向けに、夏休みの自由研究の教材として「菌床キクラゲ栽培キット」を共同開発したり。

乾物LABによるオンライン乾物料理イベントの様子

さらには、多様なジャンルのアーティストが、オンラインで村の子どもたちにアートプログラムを提供するアートプロジェクトも構想中だ。村を超えて、都市に暮らす仲間とつながりの中で、小さくも新しい価値が生まれつつある。

「諸塚村には、今の日本になかなか残っていないようなものが残っています。移住となるとハードルは高いのですが、関係性を持つ地域として、すごく刺激的な場所なんじゃないかなと思っています。一人でも多くの方々に、多彩な関わり方を持ってもらって、その中から、移住してみようかなという方が出てくると、すごくうれしいなと思っています」

 

村の暮らしは「にぎやかさ」にあふれている

森さんの村での暮らしは、とにかく忙しい。暇さえあれば、村の人たちの後をついて、在来種の栽培やニホンミツバチの養蜂を手伝ったり、狩猟に行ってイノシシやシカを捌いたり、外部に流通しないような希少部位を食べたり。まさに想像だにしなかったことの連続。「こんなに小さな村に、こんなに多彩なものがあるのか」と、日常の豊かさに驚かされているそうだ。

村の人たちとの“にぎやか”な日々

森さんは、そんな村での暮らしについて、「にぎやか」という言葉で表現する。「村」と「にぎやか」。一見結びつかないような気もするのだが、どういうことなのだろう。森さんはこう説明する。

「村には街灯が少なくて夜は真っ暗なのに、暮らしの中ににぎやかさがあふれていて。人の多い少ないではなく、人のつながりこそがにぎやかさを生んでいるんだなといつも実感します。それと山で暮らしていると、いのちのにぎやかさをすごく感じるんです。『人のつながり』と『いのちの躍動』から生まれるにぎやかな輪の中に、たくさんの人に加わってもらいたい。そんな思いが根っこにあります」

森さんの話を聞くにつれ、「この村に行ってみたい」という気持ちが湧き上がってくる。そして、都市とはまったく違う「にぎやかさ」を体験してみたくなる。小さな村の暮らしは、多くの人にとって未知の世界。まずは、今いる場所で諸塚村とゆるやかにつながって、多彩で豊かな村の暮らしを感じてみることから始めてみたい。

文:中里篤美 写真:森佑介(諸塚村より提供)

 

 \諸塚村が気になった方へ、おすすめ情報一覧/ 

■移住お試し滞在について
https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/otamesi2020/

■諸塚村LINE公式アカウント「山とまち。」
https://lin.ee/zji4K5W

■登録会員制のコミュニティSNS「諸塚かてゃーり隊」
https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/morotsuka-fan/

■山とまちアカデミーYoutube
https://www.youtube.com/channel/UCzkUGeN6tKmkpdFMU-EJfDA

■乾物LABインスタグラム
https://www.instagram.com/kanbutsu_lab?r=nametag

【お問い合わせ】
諸塚村 諸塚村企画課
〒883-1392 宮崎県東臼杵郡諸塚村大字家代2683番地
TEL:0982-65-1116(直通) FAX:0982-65-0032

■移住・定住について
https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/otamesi2020/

                   

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