親子で十和田市に暮らしてみたら
前編

|十和田市で、子どもと暮らすことについて考える。3|親子でお試し移住記

私が初めて十和田市に来たのは、4年前。十和田市から委託されTURNSが企画した1泊2日の移住体験ツアーに同行することになり、初めて青森県に降り立ち、そして十和田市を訪れました。

正直なところ、それまでの私の中の青森県のイメージといえば「雪国」「ねぶた」「りんご」くらい。今考えると、だいぶ偏ったイメージだったと思えますが、縁もゆかりもない街って、一辺倒な部分しか見えていないんだなと身をもって感じます。

そんなイメージを抱きながら訪れた青森県十和田市は、私が思っていたよりもずっと都会的で、暮らしやすそうな街でした。それでいて、Uターンして戻って来た人や移住してきた人が、のびのびと楽しそうに暮らしていて、こんなところで子育てできたらいいなあと本心から思ったものです。

2016年に開催された十和田市移住体験ツアーの時のもの(撮影:服部希代野)

その後も青森県にはご縁をいただき、ここ3年間で計5回訪れることになります。実は2年前にも、当時4歳の息子と一緒に青森県内で1週間のお試し移住をさせてもらったことがあり、今回は息子も私も里帰りするような気持ちで、十和田市でのお試し移住を体験してきました。

そんな十和田市で、子供と暮らすことについて考えた私なりのレポートを、十和田市のおすすめスポットとともにお届けします。

 

暮らしに馴染むように、アートな文化が根付く街。

東京駅から2時間50分。七戸十和田駅で ”はやぶさ” を降りて、駅前で借りたレンタカーを走らせること20分ほど。だんだんと商店が増え、アーケード街が見えてくると、市街地に到着します。

観光地としても有名な十和田市現代美術館が面する官庁街通りには、名前の通り市役所や市立病院、市立図書館などの公共施設が揃っていて、とてもコンパクトな範囲に収まっています。

今回、お試し移住を体験するのに借りたお試し住宅も、そんな官庁街通りから歩いていける距離にあり、周りを見渡しても横浜市とさほど変わらない住宅街の一角でした。

十和田市の中心部に位置する官庁街通り。とても田舎とは思えない雰囲気があります。

私は神奈川県の横浜市生まれで、今も横浜市に住みながら、ふだんは有楽町にあるオフィスに通っています。いわゆる郊外ベッドタウンの暮らしは、生活に不自由もなく、それなりに緑にも囲まれていて、子育てをするには悪くはない環境です。

と言いつつも、今年小学生になったばかりの息子は、田んぼの真ん中にポツンとある広い一軒家に住むことに憧れているので、今の住まいでは夢に程遠いかなと感じる、ちょっぴり窮屈なマンションで日々子育てと仕事に追われています。

 

そんな私から見た十和田市の第一印象は「私の住む横浜市より都会的じゃん!」でした(笑)

それはもちろん、十和田市の一側面でしかないのですが、そう感じてしまうほど街並みが綺麗で、洗練されている市街地です。

街なかに公園がたくさんあるのも、都会的だと感じる要因かもしれません。

そもそも2008年にオープンした十和田市現代美術館は、まちづくりの拠点として建てられており、美術館の敷地内だけでなく、街のいたるところにアート作品が溢れています。

美術館の中に入らずともアート作品に触れられ、市民向けのアートイベントやワークショップが定期的に開催され、暮らしの一部にアートがあるなんて贅沢な環境だと思いながら、そういう街並みを作ろうと決意した十和田市の方針もすごいなあと感心します。

美術館の外でも、定期的に企画展示が行われています。

滞在初日、私と息子は美術館の休憩スペースにあるカフェで昼食をとったのですが、さぞ観光客ばかりかと思っていたら、思いのほか近所のおばちゃん集団や子連れの親子がちょっとお茶しに来ているようで。美術館がしっかり街に馴染んでいる感じも、またいいなあと眺めていました。

ちなみに、頼んだメニューはりんごカレー、添えられていたピクルスはごぼう。なんとも十和田っぽいです。(ごぼうは十和田市の名産なのです!)

美術館に併設しているショップで買ったコガネムシ(?)のおもちゃを組み立てて、息子はご満悦。

それから、フラフラあたりを散策。なんてわけないんですが、散歩しているだけで楽しい。

そう思えるのは、建物も歩道もゆったりと設計されていて、窮屈さとはかけ離れた街並みだからでしょう。それもそのはず。市街地の洗練された一体感を作り出しているのは、美術館だけじゃないんです。

市街地の至るところに、馬のモニュメントがあります。

それを実感したのが、私もゲストの一人として呼んでいただいた、2017年12月に開催された「移住フォーラム第2弾 移住女子会」の中での、十和田市に移住された建築家の横濵久美子さんの言葉でした。

仕事があるのか、友人は出来るのか、不安はたくさんありました(笑)。その時はまだ「青森に住もう」くらいの決め方だったんですが、具体的に考える中で十和田は6万人ちょっとの街に世界的建築家の作品が3つもあるんですね。このトワーレも隈研吾さんの設計ですし、美術館は西沢立衛さん、図書館は安藤忠雄さん。日本全国でもなかなかこんな街はなくて、アートとか建築とかデザインに対して理解がある街なのかなと感じて、候補はいっぱいあったんですけど2人とも十和田が良いなと意見が合って決めました。

(十和田市移住サイト「移住の語LOG」に掲載されたレポートより引用)

トワーレで開催された移住フォーラムの様子

移住先を探すときに「街並みが好きだ」とか「街の雰囲気に馴染めるか」というのは大事な感覚だと思います。

横濵さんの言葉にあるように、有名建築家が設計した建物が並んでいることや、アートや建築が街に馴染んでいること。さらに、それが市民活動の拠点になっていたり、賑わいづくりの場としてイベントが定期的に開かれていたり、はたまた学生の溜まり場になっていたり。

そういう部分を紐解くと、十和田市のアートなまちづくりは、観光のためだけでなく住んでいる人も楽しめて、暮らしの身近な文化として根付いていて、それこそが十和田市に人を惹きつける大きな魅力なのかもしれないと感じました。

十和田市立図書館は、建築としてもかっこよいですが、使い勝手もよくて、つい長居したくなる空間でした。

そんな官庁街通りを流れる「せせらぎ水路」で水遊びしたくなる衝動を抑えきれなかった息子。気付いたら、掃除をしているおばちゃんたちに話かけていました。

聞くと、この「せせらぎ水路」は山の水がそのまま流れてきているから綺麗だよと。それなら水遊びしてもいいかなと思えてしまうのは、都会の人口的な小川と違い、まちなかにも豊かな自然の恩恵が感じられるのだと知ったからかもしれません。

こんなに都会的な街並みだけど、ここは青森県十和田市。おばちゃんとの会話から、私が訪れるたびに驚かされていた田舎と都会の両側面をもつ十和田市のギャップについて思い出しました。

そのギャップについては後編でお話するとして、前編の最後は、市街地で子連れにおすすめな場所を少しご紹介しますね。

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コミュニティスペース「14-54(イチヨンゴーヨン)」

商店街の一角にある「14-54(イチヨンゴーヨン)」。アメリカ出身のアレックスさんとマイケルさんが、事務所兼住居兼コミュニティスペースとして運営されています。開放的な広々とした空間には、移住した20代のご夫婦が営むカフェがあったり、卓球台が置かれていたり、仕事や勉強ができるコワーキングスペースになっていたり。

私たちが訪れた時も、老若男女が訪れ、思い思いの時間を過ごしているようでした。ちなみに、卓球台は無料で使えるので、一度ハマると子供はなかなか帰ろうと言い出さなくなるので、注意です(笑)

14-54カフェで企画されている「ミライチケット」。注文するときに少し多くお金を払ってチケットを購入すると、ここを訪れた子供がそのチケットをつかって無料でドリンクを注文できます。お互いのメッセージを読みながら、なんともほっこり。私も1枚購入しました。誰か使ってくれるかな?

14-54(イチヨンゴーヨン)では、様々なイベントが定期的に開催されていて、十和田市に居ながら多様な文化に触れられる場所でもあります。まるで、まちの人々を繋ぐ玄関口のような場所。ぜひ十和田市に興味を持った人は、訪ねてみてくださいね。

 

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民藝品のギャラリー/時々郵便局の「く+10(くとうてん)」

十和田市に住む人々は、アートな文化を楽しんでいる人がとても多いように感じます。そんな “遊び心” を実感するのが、ここ「く+10(くとうてん)」。

このスペースを運営する吉田さんご家族は、十和田市に来るたびに私たち親子がお世話になっており、息子も大好きな青森の友達一家です。旦那さんの吉田進さんはデザイナー、奥さんの千枝子さんは編集者として、言葉とデザインを綴る『字と図』というユニット名で活動しています。

「く+10(くとうてん)」は、そんなお二人がまちにないものを作ろうという思いではじめた、1年間という期間限定の拠点。青森県内の若手作家のクラフト作品や民藝品の展示販売を行うほか、書いた手紙を預かって展示し、いつか届けるよという”時々郵便局”という取り組みを行っています。

訪ねた日は1日限定のかき氷屋さんのイベントをやっていて、吉田さん家族のお友達がたくさん集まっていました。うちの息子も、ちゃっかり同級生の輪に入れさせてもらい、とても楽しい時間だったようです。

ちなみにここでは、子供仲間だけでなく、面白い大人たちにもたくさん出会えました。吉田さん夫妻の周りにいる青森県内で活躍する人々が、入れ替わり立ち替わりやってくるので、新たな出会いが楽しくて、私もついつい長居してしまいました。

 


お試し移住をして思ったのは、子供がその土地に馴染むには、友達をつくるのが一番だということ。それは、子供だけでなく大人にも言えることかもしれません。

また会いたい、一緒にいたいと思う友達や仲間ができれば、すぐに移住ができなくても、自然にまた行きたいと思えるし、何かのきっかけで行く機会も巡ってくる気がします。

というわけで、後編では十和田市の市街地以外、いわゆる田園風景が広がる田舎な十和田市を訪ねて感じたレポートをお届けします。

(文:須井直子)

後編はこちら

 

|十和田市で、子どもと暮らすことについて考える。|連載

1) 佐藤さん一家の暮らしかた

どこに住むかより、誰がそこにいるか。”十和田の親” に見守られて、成長する家族のこれから。

2) 丹上さん一家の暮らしかた

この地で叶えたい夢を追い続ける、移住家族の物語。

3) 親子で十和田市に暮らしてみたら

前編 ・ 後編

                   

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