宮崎といえば南国、南国といえば青い海というイメージから、宮崎の「里山」に目を向けないのはもったいない。宮崎市中心部から車で約1時間半ほどのところにある中山間地域は豊かな自然に囲まれながら暮らすことのできる場所。今回は里山の一つである「高原町」について紹介をしていきます。

高原町ってどんなところ?

霧島山の霊峰・高千穂峰の麓に位置する小さなまち。天孫降臨伝説の神話の故郷としても知られています。神話と歴史ある神楽文化が根付き、のびやかに広がる田舎風景の中には昔ながらの集落が残っています。主産業は農畜産業で、水稲などのほか、牛、豚、鶏の生産も盛ん。また「西緒弁」というまるでで外国語のような鹿児島寄りの言葉が使われており、外国にいるようです。

 

火を使ったシンプルな暮らしをする 山本さん

人と山の自然が調和した「シンプルな暮らし」を実現したかった山本さん。高原町の豊かな自然には人を癒すちからがあると感じてご夫婦で移住し、現在はゲストハウスと鍼灸院を運営している。

山本尚生さん
福岡県生まれ。エベレスト登山経験を持つ。八ヶ岳の麓での自然体験スタッフ、幼稚園での野外活動担当として働き、2015年現在の地へ移住。

山本恵さん
宮崎市生まれ。南米留学経験を経て、国際協力NGOやフェアトレード等に従事。母親が倒れ、介護をする中で東洋医学と出会い、鍼灸師に。

 

宮崎と鹿児島にまたがる霧島連山を見渡せる山の麓に、凛とたたずむのは民宿「山の家 野らり暮らり」。

併設する「恵はりきゅう院」も営みながらこの場所で暮らし、日々訪れる人々に、心身の癒しを提供しているのは山本さんご夫妻だ。普段は山仕事に携わっている尚生さんと鍼灸師の恵さん。お二人は移住前、山梨で自然学校のスタッフとして働いていたが、恵さんの母親が倒れたことを機に、地元・宮崎に戻ることとなった。

「火を使ったシンプルな暮らしがしたい」という思いから中心市街ではなく、自然豊かな山の麓を住む場所に選んだ。現在暮らす家に、かねてより望んでいた「薪の火」を使う五右衛門風呂と囲炉裏が備えられていたこと、また、鍼灸師となった恵さんの治療院として最適な環境であったことが決め手となって、移住を決断。お互いにゆかりのない場所ではあったものの、山岳信仰の根強い「祓川(はらいがわ)神楽」への参加が人との縁を繋いでくれたという。

地域に溶け込んだ山本さんは、薪割り、風呂焚きとその残り火を使った調理という省エネの暮らしを実現している。「野らり暮らり」という屋号には「野にあるもので暮らす」という意味が込められている。人と山とが調和し、つながりを感じられるこの場所で、お二人はこれからも人を癒していく。

火を使う暮らしには欠かせない薪割り。かつてネパールを旅した時に、火を使う生活に感銘を受け、自分のライフラインは自分で確保できるようにしているという尚生さん。

 

山の家 野らり暮らり

高原の自然に癒されながら、鍼灸の治療を受けることができる。「鍼治療は人の力だけではなく、場所(自然)の力による影響も大きい」と恵さんは語る。

恵はりきゅう院

野らり暮らりのゲストルーム。自分たちで漆喰を塗ったり、洗面台を設けたりとDIYで少しずつ環境を整えている。自分と静かに向き合える落ち着いた空間だ。

【問い合わせ先】
住所:〒889-4414 宮崎県西諸県郡高原町蒲牟田6766-1
TEL:080-4315-8600 (山本さん)
※『山の家 野らり暮らり』と『恵はりきゅう院』は、同じ場所にあります。

 

「足りないものは自分でつくる」北原さん

「足りないものは自分でつくる」がポリシーの北原さん。高原町で学童保育クラブを立ち上げ、小水力発電や、地元素材のジャムやピクルスの加工・販売に取り組むなど、自分たちの手で暮らしをひとつずつ着実に豊かにしている。

北原慎也さん
神奈川県出身。福岡市内の大学を卒業後、都内の設計・施工管理の会社に就職。6年間の会社員生活を経て、家族とともに2013年に宮崎県高原町にIターンし、一般社団法人「地球のへそ」を立ち上げる。

北原優美さん
宮崎県出身。大学卒業後、子育てしながら保育士の資格を取得。高原町にJターンし、地域おこし協力隊に着任。地元食材の加工品販売も手掛けている。

 

ハンモック、クライミングウォール、コンテナハウスと、なんでもありの学童保育クラブ「さのっこひろば」。2014年に民家を改修し、北原さんご夫妻が二人で立ち上げた。「近くに学童保育がなくて困っていて、いっそつくってしまおうと思って」北原さんご夫妻は足りないものがあればすぐに自分の手で作りあげる。

地方に移住した理由も「ゴミを大量に出す都市部で生活するより、自前のエネルギーで自給自足な暮らしをつくりたかった」からだ。そんな思いから、高原町の豊かな水資源を活かし、水車による発電計画を5年前に始動させた。大学や研究機関、地元の人の協力もあって、まもなく実現できるという。

慎也さんの本業はフリーランスの音響エンジニア。「これまでにないシステムをつくって欲しい」と依頼されることもあり、ここでもご自身のクリエイティブな才能が遺憾なく発揮される。奥さまの優美さんは、この冬、地元食材の加工販売ビジネスのスタートを切った。高原町で「アート作品」のようなジャムとピクルスを作られていた方の想いと技に惚れ込んで、自宅の敷地内に本格的な加工場を一から整えた。「思いついたらとにかくなんでもやってみます」北原さんご夫妻はこれからも底抜けのポジティブさで、この町、この学童保育クラブと共に、自給自足の暮らしを拡張していく。


ハンモックとロッククライミングウォールがある館内。外にはトランポリンとコンテナハウスもある。子どもたちは片時も退屈せずに自由に遊んでいる。


霧島山を望む広い庭でのびのびと遊ぶ子供たち。自然の中で学び、育つ、まさに理想的な教育環境が整っている。


自作のコンテナハウスで、黙々と仕事をすすめる北原さん。仕事場も自分好みにカスタムして、働きやすい環境をつくっている。

 

おすすめコンテンツの紹介

①神話の舞台となった天孫降臨の地
高原町は、「天孫降臨の地」「神武天皇御生誕の地」として伝えられています。天孫降臨の神話の舞台となった高千穂峰の山頂には、ニニギノミコトが突き刺したという「天逆鉾(あまのさかほこ)」があります。平成31年4月1日には「御代替わりの奉祝 高千穂峰登山会」が行われ、新元号発表時には、山頂で大きな白布のキャンバスに新元号の揮毫が行われました。山頂からの眺めは圧巻です。

②郷土料理「がね」「煮めし」「神楽そば」
霧島山の澄んだ空気と清らかな水に恵まれた高原町は農畜産物の宝庫。地域の歴史や環境を活かした地域独自の食文化が受け継がれています。代表的なものに「がね」や「煮めし」等があり、町ならではのおふくろの味として親しまれています。また、狭野神楽・祓川神楽が行われる際に振舞われる「神楽そば」は、大切な伝統行事として継承されています。町内にはいくつかの食事処があり、お店ならではのこだわりのある料理を楽しむことができます。

③霧島連山がもたらす豊かな原風景
高原町は小さい町ではありますが、四季折々の自然が顔をのぞかせてくれます。春には桜が美しく咲き、夏は緑に包まれ、秋は山々が紅葉し、冬は霧島連山からの「霧島おろし」が吹きおろし、町全体に厳しい寒さをもたらします。1年をとおして星がきれいに見える点も田舎ならではの魅力。自然豊かな場所で、都会の喧騒とは離れた静かな場所、高原。ここなら、都会にないものに出会えます。

 

\中武さんと五感を癒すスポット巡りへ/

中武利仁さん
宮崎県高原町生まれ。写真、登山、剣道、SUP、DTPなど多趣味な公務員。現在は所属する産業創生課で、熱量の高い仲間達と供に高原町の発展のため日々奮闘中。

御池
霧島山の色彩を湖面に映す「御池(みいけ)」。ただ眺めるもよし、サップやカヤックなど本格アクティビティを楽しむもよし。対岸にはキャンプ場もある。「これからは遊覧船の導入や施設のリニューアルも始まり、さらに盛り上がる」という中武さんイチオシスポット。

霧島東神社
霊峰・高千穂の麓に位置する神仏統合の神社。鳥居をくぐると杉林の参道が。社まで続いており、一帯が荘厳で清らかな雰囲気に包まれている。中武さんがおすすめするシーズンは12月上旬。「イチョウの葉が参道を一面黄色に染め上げる様は圧巻です」

③祓川湧水
霧島山に降った雨水が数百年かけてろ過され、湧き出る名所。中武さんによれば、ここの水はちょうどいいミネラル量でほどよく甘いため、飲みやすくて汲みにくる人が絶えないとか。周辺にはクレソンが自生しており、生き生きとした緑が彩るせせらぎに癒される。

④手打ちそば庵 みやなが
祓川湧水からの水路をめぐらせた立派な日本庭園を構える蕎麦屋さん。直接引いた湧水をつかって店主の宮永さんがそばを打っている。中武さんのオススメは天ぷらそばセットの「ざる」。九割そばでコシがつよく、甘みが感じられる逸品。

 

\観光のポイント、高原町の魅力/
中武さんがおすすめする観光のコツは、今回のような「御池」一周を中心としたスポット巡り。「御池」は国道からの景観がよくなったことと、昨今のキャンプブームで観光客が激減し、高原町で今もっとも盛り上がっているスポットだという。官民協働で観光に力を入れており、対岸のキャンプ場とアクティビティスペースを遊覧船でつなぐ取り組みも計画されている。サップやカヤックのレンタルサービスなどもある。今回紹介したスポットは御池を起点に各地、車で5分以内で移動可能だ。ゆっくりと自然に癒されたいという方には絶好のラインナップとなっている。「高原町の雄大な山々の懐に抱かれにきてください」と中武さん。

 

文:福森 勇次 撮影:永山 省吾

                   

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