移住とは、住む場所を変えるだけではない。
仕事や暮らしなどのライフスタイル、人とのつながり、考え方や価値観……新しい土地への移住は、多くの新しい出会いをも与えてくれる。
では、倉敷に移り住んできた人たちは、ここでどんな出会いや変化があったのだろうか。
第4回は、絵本と紅茶の専門店「つづきの絵本屋」を営む、都築照代さんにお話をうかがった。
〜都築さんにQ&A〜
Q.「倉敷に来て、得たものは?」
A.「穏やかで、あたたかな暮らしです」
パズルのピースがはまるように、倉敷で理想の場所に出合う
「実は最初から倉敷に移住しよう!と思ってここに来たわけじゃないんです」と話し始めた都築さん。その朗らかな語り口は、とても柔らかく心地よい。
「以前から自分の好きな絵本と紅茶をお出しするお店を持ちたいという気持ちがあり、そろそろ子どもも手がかからなくなるな、というタイミングで土地探しを始めました。当初は出身地である愛知県で探していたけれど、ピンとくる物件に出合えなくて。それで悩んでいたときに、ふと『今まで住んだ場所は、どこも素敵だったなあ。そのなかで検討してみるのもいいかな』と思ったんです。
そして『なるべく地元にすぐ帰れる場所がいいな』と考えてまずは本州に絞り込み、かと言って東京近郊は便利だけれども自分にとってずっと暮らすイメージが湧かないなと感じていたので、最終的に愛知県と岡山県が候補として残りました」
岡山には「人があたたかくて暮らしやすい場所」という印象を抱いていたという。以前住んでいたのは北部の市だったが、倉敷には子どもを連れてよく遊びに来ていたそうだ。
「なので、利便性が高くて素敵な街だと知っていましたし、美術館などもあり文化的で穏やかな雰囲気が自分のお店にもぴったりだな、と思っていました」
外からは窓越しにたくさんの絵本が。見ているだけでもワクワクする
しかし、なかなか思うような場所に出合えず、土地探しは難航。人づてにいろいろな場所を紹介してもらったが、やはり自分の目で確かめなくては、と思い立ち、家族4人でまずは倉敷へ。そこでの出会いが、都築さんをここに引き寄せることとなる。
「美観地区の近くにある古民家をリノベーションした施設に宿泊した際に、鍵を持って来てくださった女性と話をしてみたら、実はそこを設計した建築士さんで。思いつきで来てしまったから不動産屋のアポなども一切取っていなくて、せっかくだからどこかご紹介いただけないかと頼んでみたんです」
彼女はその場で知り合いの不動産屋に電話をかけ、翌日にアポを取ってくれたそうだ。
大通りから少し入った住宅街にある店舗。静かで落ち着いた雰囲気で、ゆっくりとした時間が流れている
「通りすがりで立ち寄るのではなく、自分の店を目指して来てもらえる場所」という都築さんの希望は、駅から近く、大通りから少し入った静かな場所で、駐車スペースを確保できること。
「駅近は人気だから……」と最初は頭を悩ませていた不動産屋だったが、ひとつだけ該当する土地を見つけ出し、案内してくれた。それが今、店舗兼住宅が建っているこの場所だ。
「初めてきたときの感想は『ここいいな!』。長く土地を探していたので、100点を追い求めていてはいつまでも見つからない。それよりは、自分のなかで譲れない3点を満たしてくれるこの場所にしようと思い、その場で即決しました。不動産屋さんには『もうちょっと考えてください』って止められましたけど(笑)
だから、移住することが目的というよりは、いろんなご縁やタイミングがパズルみたいにピタッとハマって、自然に倉敷に来る流れになったんですよ。ひとつでも何かが違っていたら、今ここでお店をやっていなかったと思います」
倉敷で繋がった人の縁が、想いを形にしてくれた
まるで“呼ばれる”ようにしてめぐり合った倉敷の地。さらに、運命とも言える偶然はその先も続く。
「当時はまだ埼玉で暮らしていてすぐには引っ越して来られなかったので、生活の区切りがつくまでの間、お店の準備をするためにかなりの数の設計士さんとお会いしました。でも、私のこだわりを話しても100%わかってくれる方になかなか出会えなくて。
そこで、倉敷で出会った建築士の女性に連絡してみたんです。彼女の旦那さんも建築士で、お2人で関東から移り住まれたそうなのですが、その旦那さんに私のこだわりのひとつである書架の角度について話したときに『それってこういうのですよね』と、書架の名前を口にされたんです。『どうしてわかったのですか?』とよくよくお話を聞いてみたら、実は関東にいた頃に図書館の設計に関わったことがある、と。
もう、それを聞いた時に鳥肌が立っちゃって。『この方しかいない!』とお願いをして、何年もかけて思った通りのお店を作っていただきました」
そうやって数年かけて作り上げた都築さんのお店には、細部までこだわりが詰まっている。
表紙を向けての面出し陳列ができる本棚は、誰もが見やすく取り出しやすい角度に。棚を差し込む場所をたくさん作り、本の幅や大きさに合わせて自由なレイアウト変更を可能にした。中央にはヒノキでできた「読書の木」が、その枝にたくさんの絵本を抱きながら優しく影を落としている。
「今日来たお客さんが明日来たら『あれ、なんか違うな』って思ってもらえるように、レイアウトは常に動かしています。本ってずっと同じところにあると、なんか元気がなくなっちゃう気がするんですよね。本が好きすぎるからそう思うのかもしれませんけど(笑)」
内装だけでなく、月ごとにテーマを決めた展示やワークショップ、ギャラリーでの原画展、作家を呼んでのイベントなど充実したコンテンツも評判を呼び、県外からも多くの人が訪れている。
自由にレイアウトを変えられる書架は、都築さんがもっともこだわった部分のひとつ
窓から明かりがたっぷりと差し込む開放的な店内。中央の「読書の木」はこの店のシンボルにもなっている
ただの「絵本屋」ではなく、地域のコミュニティの場としてあり続けたい
店を開くための理想の地を探した結果、倉敷にたどり着いた都築さん。店ありきの移住だったが、住んでみてますます倉敷の街や人が好きになった、という。
「人や土地にはそれぞれが持つリズムがあると思っているのですが、しばらく住むと、なんとなくその土地のリズムに変わっていく。でも私がもともと持っているリズムは、生まれ育った愛知のもの。それがこの倉敷と似ているみたいで、自分が自分らしくいられる気がして、とても住み心地よく暮らせています」
田舎すぎず、都会すぎない。そのバランスがちょうどいいそうだ。
時間ができるとよく散歩するという、「倉敷みらい公園」の遊歩道
「それに、とにかく人が温かくて、本当に親切で。うちに来るお客さんが道に迷っていたときに、ご近所の方がわざわざ家から出て来て案内してくださったことが何回もあったんですよ。
『倉敷は災害が少ないから助け合う文化がないんだ』なんて地元の方はおっしゃいますけれど、他の移住者の方とも『全然そんなことないよね!』っていつも話しています」
イベントや読み聞かせで手が足りないときに、いつの間にか来ていたお客さんが他のお客さんの子どもを一緒に見てくれていたこともあったそうだ。
「そんな倉敷だからこそ、8年も続けてこられたのだと思います」と、都築さんは微笑む。
「うちのお店は絵本屋ですが、今、コミュニティの場にもなってきているんですよ。ご家族で来る方も、大人1人で来る方も、“絵本や紅茶が好き”っていう共通項があるから、お茶を飲んでお話しして、帰る頃にはみなさんすごく仲良くなっていたりして。
価値観の共有という点では絵本や紅茶だけじゃありません。たとえば私も転勤族だったので、小さい子どもを抱えて新しい土地に行くことの大変さもわかっています。同じように悩むお母さんの話し相手になれるし、実際に『話して気が楽になった』と言ってくださるお母さんもいらっしゃいます。
そういう地域に根ざしたコミュニティの場として、今後もあり続けたいな、と思っています」
倉敷でいい土地にめぐり合えたのは“偶然”だったのかもしれない。しかし、いきいきと輝く都築さんの姿に、「来るべくして来たんだ」と思わせられる倉敷との素敵な繋がりが感じられた。
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