カレー1杯から始まった挑戦と、それを現実にしてくれた「ココカラ」

宮崎県の中央部に位置する西都市。宮崎市街地から車で40分ほどの距離にあり、市役所や学校、公共施設、商業地も中心市街地に集約。コンパクトで住みやすいまちの魅力を生かした移住・定住政策に加えて、2021年には一般社団法人「まちづくり西都KOKOKARA(ココカラ)」の開所や「西都はじめるPROJECT」を展開するなど、まち全体で起業を推進している

そんなまちで2021年にカレー専門店「アポロンカレー」を開業した河崎祐司さんに、“はじめる”を応援する西都市の魅力についてお話を伺った。

河崎 祐司かわさき ゆうじさんプロフィール】
1971年生まれ、宮崎市出身。福岡で造園設計の仕事や営業職を経て、30歳の頃に宮崎にUターン。飲食店経営に関心もあり、バーテンダーとして10年間勤務。2013年にはシェフの友人と共に、宮崎市内に念願のカフェバーを開業するも、突然の立ち退き問題で2020年3月に閉店。カフェバー時代に好評だったオリジナルカレーをメインにした新規出店を目指すもコロナ禍の影響で店舗探しが難航。
2021年11月、ようやく西都市内にカレー専門店「アポロンカレー」をオープンした。

 

念願の2度目の起業に向けて、西都市へ

「スパイスに強いこだわりを持つ店主さんに比べると、自分はスパイスにはそこまで思い入れは強くないんです。ただ、お客さんにおいしいと喜んでもらえることが嬉しい。メニューの多さには妥協したくなくて、スパイスカレーから、スープカレーや日本っぽいルーカレーまで全部出したいと思っています」

そう話すのは2021年に西都市で開業したカレー専門店「アポロンカレー」の河崎祐司さんだ。一番人気は月替りでメニューが変わるスパイスカレーの「二種盛りカレーランチプレート」。他にも豊富に揃うカレーメニューにそれぞれのファンがついていて、早くも多くのお客さんで賑わう、同地区を代表する飲食店となっている。

福岡で営業職をしていた河崎さんが地元宮崎にUターンしたのが30歳の頃。2013年にはシェフの友人と共に憧れだったカフェバーを開業した。バーテンダーとして10年間の勤務経験を生かして担当したドリンクメニュー開発は、「カクテルだけで378種類、日本酒と冷酒も全部揃えて、なおかつビールも外国産ビールだけで30種類以上。A4ファイルのメニュー表が40ページ分の恐ろしい分厚さになりました(笑)」と言う。仕事に一切手を抜かないという河崎さんらしいエピソードだ。

メインのイタリアンと別に、河崎さんのお手製のカレーが好評で、その味を求めて来店する客がいるほどだったという。「2店目はカレー専門店で」と考えていた矢先に、突然の立ち退き問題が浮上。コロナ禍の影響も相まって、結局2020年3月に閉店することになってしまった。

閉店後しばらくは実家で2店舗目に向け、カレーの試作と店舗探しの日々。店舗が見つからずに出店する地域を広げた結果、ようやく選択肢に浮上したのが西都市だったという。開業に向けて市の補助金制度について相談に行った先が、創業支援をする「ココカラ」だった


一般社団法人「まちづくり西都KOKOKARA(ココカラ)」

はじめて訪れたその日にココカラの補助金担当の方にまで繋いでもらえたんです。補助金申請に必要な書類など、具体的な開業の話まで進んでいき、『この場でここまで決まるのならお任せしよう』と出店を決めました

 

“はじめる”を支援するココカラの存在

一般社団法人「まちづくり西都KOKOKARA(ココカラ)」は、行政では難しいスピード感や柔軟性のある対応を可能にするために、2021年9月にまちづくり会社として法人化し、2022年に6月から本格的に活動を開始している。

創業支援から、既存の事業者の悩みや課題解決の手助けをして、うまく事業が回るように支援しています。今は創業支援に特化していますが、昨年までは西都商工会議所で既存事業者コロナの対策の支援をメインに支援金獲得のサポートや融資のサポートを行っていました」と話すのは同団体でまちづくり課長を務め、河崎さんの創業支援を担当した川上大介さん。

「最初に会った時はどんな方が出てくるのか内心ビクビクでしたが、すごく優しそうな方でホッと一安心。書類の書き方など、わからないことがある度に何度も相談しに行きました一番助かったのが融資関係ですね。金融機関との手続きや書類のチェックなどスムーズに行えたのは川上さんのおかげです」

「融資に関しては金融機関と長く繋がりのある私たちが間に入って話をし、繋げていくと対応も全く違います」と川上さんも話すように、行政と民間の中間的な立場から起業を支えるのがココカラの特徴。業務のメインは、創業当初の設備投資に必要な費用を援助する 「西都市創業等支援事業 補助金」に関する創業計画書の作り方の指導。その他、融資や許可、会計や販促など創業に関わるあらゆること幅広くをワンストップでサポートしています。

「こんなにクオリティーの高い事業計画書を見たのは初めてで、ほとんど手直しする必要がありませんでした。河崎さんのカレーを見たとき、『こんなに手が込んでいる料理なんだ』と今まで持っていた概念が変わってしまったんでんすが、計画書にも手抜きができない性格がよく出ていますよね」(川上さん)

料理に使う砂糖1gの量と販売価格から原価を割り出すなど、半年をかけて徹底して作り込まれた事業計画書には、今まで多くの起業に関わってきた川上さんも舌を巻いた。その後、補助金の交付も問題なく決まり、2021年11月にようやく念願の開店へ。

スパイスカレーにはじまり、食べたいカレーがなんでも揃う河崎さんの想いが詰まったカレー屋さんが誕生した。

 

新しい挑戦を生み出す環境と新たに広がるコミュニティー

「今年だけで15件の創業支援を担当しています。以前は飲食店や美容室などが多かったのですが、今では映像クリエイターやカメラマン、珍しい所ではミルワームという虫の養殖など、さまざまな業態から相談を受け、支援しています」と川上さん。

同市では「西都はじめるPROJECT」に取り組み、起業や移住を促進するブランディングを積極的に展開している。川上さんが担当している起業希望者の特徴は、移住者が半数を占めているという点。その移住の決め手になっているのが、河崎さんも利用した「創業補助金制度」と「暮らしやすさ」だだ。

「創業等支援事業補助金」は2021年からスタート。西都市で起業や事業継承などを行う者に対して最大160万円まで補助金を交付する制度で、他の地域にはない大きな魅力になっている。「場所に縛られず開業できる時代なので、補助金などの条件がより良いエリアが選ばれているのかもしれません」と川上さんは分析する。

起業しやすい環境は多くの挑戦者を生み、それによって新しいコミュニティーの創出にも寄与している。市の創業等支援補助金を受けた人が受講を義務付けられているのが「実践創業塾」。商工会議所が主催して、創業に関する幅広い知識やSNSの活用などを勉強する場を提供している

「創業塾のメンバーが、ポインセチアの花を持って開店一周年のお祝いに来てくれました。『1年越しに小料理屋をやっと始められます。今度はいろいろ教えてください』と報告してくれたので、自分の今までの経験を伝えました。起業に関して同じ志を持っている人同士が集まって、人脈が広がったのが一番のメリットでした」(河崎さん)

新しい何かをはじめたい者同士の関係性が、新しい挑戦を支える基盤となっている。

 

周囲の支えがあり、台風被害も乗り越える

河崎さんにとって、起業し営業を続ける上で大きな支えになったのは、飲食店仲間をはじめとする近隣商店街の方々の存在だ。河崎さんが大事に着用するエプロンは、商店街の飲食店仲間から1周年記念に贈られた、店のロゴが入ったオリジナル。2022年9月に宮崎県を襲った台風14号の時には、オープンから休みなく作り続けていた大半のカレーが数日に及ぶ停電で台無しになった。そんな時、商店街のメンバーが暴風で壊れた店舗のシャッターの修理に駆けつけてくれたという。役所も、コロナ禍で店内飲食が制限された時期には職員自らテイクアウト商品を購入して支援。ココカラが2022年からはじめた「西都夜市」や商店街の中心施設「パオ」でのイベント開催など、地域全体が一丸となって支え合い、まちを盛り上げようとしている。

「ライバルになるかもしれない自分に対して、困った時に手を差し伸べてくれた。周囲の温かい励ましや手助けに支えられ、ここまで来られました」

この商店街は1980年代前半に行われた市街地再開発等で、地方自治体における再開発成功事例として名を馳せていた歴史を持つ。

西都市で起業する強みはやっぱり地域の人たちの人柄だと思います。『一緒に頑張ろう』っていつも周りの人が助けてくれる。何かこの土地ではじめようとするなら、そういう人たちが絶対助けにはなってくれるはず。自分も手伝えることがあったら、新しい人の力になってあげたいですね」(河崎さん)

河崎さんに今後の展望を聞くと「今後の目標は台風の影響で6品に減った単品メニューを9品に戻すこと。まずは事業を軌道に乗せて、できればレトルトか冷凍した商品を販売できたら、うれしいですね」という答えが返ってきた。

まだまだ広がる河崎さんの夢。西都市はそれを現実にできる場所なのだ。

取材・執筆:日高智明
構成:田代くるみ(Qurumu)
撮影:田村昌士(田村組)

 

– 西都市について –

宮崎県の真ん中に位置し、宮崎市から車で40分ほどとアクセスも良好な『西都市』は、実は『完熟マンゴー』の発祥の地。そして日本遺産に認定された古墳群が広がる、現在でも古代の風を感じられるまちです。

 

◆ 西都はじめるPROJECT ◆
西都市で新しい暮らしや仕事をはじめる人を応援するために、多彩なサポートプログラムを提供しています。
HP:https://www.saito-hajimeru.com/

◆ 地域経済の活性化 ◆
一般社団法人まちづくり西都KOKOKARAでは、まちづく りを推進しながら起業・開業のサポートを行っています。
HP:https://saito-kokokara.com/

◆ 農業とおいしい食のまち ◆
温暖な気候と豊かな土壌に恵まれ、カラーピーマンや完熟マンゴー、スイートコーンなどの生産が盛んです。

◆ 子育て世代を応援 ◆
子育て世代の移住者が、住宅を新築または購入する場合に、最大200万円を助成しています。

 

【西都はじめる相談窓口】
宮崎県西都市小野崎1丁目105番地
TEL:080-6470-4065
Mail:saitohajimeru@ab.auone-net.jp
https://www.saito-hajimeru.com/

                   

人気記事

新着記事