2011年から東日本大震災復興支援「サントリー東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、現地に赴き、地域の方々と共に活動することを大切にしてきたサントリー。
震災から10年が経つ2021年、新たに「みらいチャレンジプログラム」を開始し、岩手県・宮城県・福島県の地域創生・地域活性化を目指して挑戦する団体・個人を3期にわたって応援していく。
今回、TURNSでは「みらいチャレンジプログラム」の助成先となった国産天然スレート生産復活の取り組みを広く知ってもらうために、TURNS読者を現地に招待する取材ツアーを企画。宮城県石巻市雄勝町の伝統産業「雄勝石」による天然スレートの工房や採石場などの現場を見学。参加者3名の、雄勝町外に住む「第三者目線」で現地を視察した感想を紹介する。
※スレートとは…粘板岩のこと。薄い板状に割れる性質があり、防水性・耐火性・耐候性・耐久性に優れ、屋根材などに使われる。
ツアースケジュール
▼3月12日
11:30 雄勝硯伝統産業会館 集合
11:40 オリエンテーション
13:30 雄勝硯伝統産業会館 見学
14:00 雄勝石制作工場見学
15:30 語り部による雄勝町(震災復興の話、質疑応答)
▼3月13日
10:00 雄勝石採掘現場 視察
10:45 雄勝町 まち歩き
13:20 雄勝石の加工体験ワークショップ
14:30 ツアー振り返りミーティング
参加者3名の感想
▲写真左:大塚さん、中央:有田さん、右:熊谷さん
有田早織さん
【ツアー参加理由】東京都在住。地方創生や、地域活性化について関心があり、自分が関われる点はどこなのかを見極めるためにツアーに参加。
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私が石巻市の存在を初めて知ったのは2011年の震災がきっかけです。縁もゆかりもなく親戚や友人がいるわけでもない私にとって東北地方は何となく遠い存在でした。
そこに震災があり、東北地方を強く意識するようにはなったものの、ずっと行きづらさを感じていたのです。それは「ただ観光しにきた」と気軽な気持ちで行ったら現地の人にとっては心象がよくないのではないか・・・などと勝手に考えてしまっていたからです。
今回の舞台である雄勝町、そこで採石されている雄勝石というブランド石、そしてその石を使った硯の生産量が日本一であるということを初めて知りました。現地で見た雄勝石スレートを利用した町内住宅の黒く輝く様はとても上品で、率直に素敵だなあと感じました。
しかし、「もともと人口減少は進んでいたが、震災によって人がいなくなり少子高齢化が30年スピードアップしてしまった」という話を伺い、物理的なものだけでなく、伝統工芸品の担い手不足にまで震災は被害をもたらしてしまったのだと、これまで考えたことのないことを突きつけられショックを受けました。きっとこれまで通りテレビを見ているだけでは思いを馳せることができなかったことだと思います。
東北に行くのを躊躇っているという話を現地の人にすると、「外の人がそんなことを考えてるなんて思いもしなかった!」「もっと遊びにきてほしい」と返事をされ、逆に拍子抜けしてしまいました。
今回のツアーで特に印象に残ったのは、現地の方が「復興は使命感でやっていてはやっていけない。楽しいからやっている」ととても明るく笑顔で話されていたことです。「外の人にしてもらって一番嬉しいことは何ですか?」という私の質問に対しては、「一緒に街を作ってくれること」という回答をいただきました。「嬉しいこと」は地域によって異なるとは思いますが、私たちは気軽に遊びに行っていいのだし、実際に行ったことで石巻が一気に身近な存在になったように、まずは「実際に足を運んでみること」が、町外に住んでいる私ができる一番簡単で、最善の貢献方法なのではないかと思いました。
今回のツアーで、日本一の生産量を誇る雄勝石の硯だけではなく、水揚げ量が県内一位のホタテのほか、銀鮭、ホヤなど本当に恵まれた海の幸など、雄勝町の良いところをたくさん知ることができました。(私も海鮮をたっぷり堪能させていただきました!)
また、何かきっかけさえあれば、それまで遠い存在だった場所も、瞬時に心の距離は縮まるのだということを身をもって体感しました。とても学びが多く、楽しい2日間でした。
大塚光太郎さん
【ツアー参加理由】岩手県陸前高田市在住。震災後、復興支援に携わり、埼玉県より移住。今回の支援プログラムにも関心を持って参加。
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今回のツアーの舞台である石巻市雄勝町は私にとって頭のどこかでずっと気にかかっていた地域であり、一泊二日という短い時間でしたが、訪れることができて本当によかったと感じています。
長い歴史を有し、家内工業として地域に不可欠な雄勝石。今回、雄勝石を通じて雄勝町を大切に思う人たちとお会いでき、直接お話を伺うことができたことは大変有意義な時間であったように思います。
一方で、震災や復興による影響と人口減少・過疎化の深刻さは一目瞭然であり、同じく震災の被害を受けた岩手県で活動を行なっている私にとっても、多くの共感と危機感を抱く時間となりました。
ツアーの中で現地の方から伺った様々な言葉は、雄勝町の現実を表しているものであると同時に、東北「被災地」において-もしかしたら多くのいわゆる「地方」でも-共通した現実であるように感じています。
個々に努力をしつつも、社会システムとしての限界や地域の尊厳について考えねばならないということを今回改めて感じました。それぞれの地域が経験してきた多くの労苦に想像を働かせ、敬意を抱きながら、自分にできることを考え、動いていきたいと思います。
熊谷郁さん
【ツアー参加理由】福島県大沼郡在住。現在、ツアーなどの企画に携わっていることに加え、出身地である宮城県の復興の現状が知りたくて参加。
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スレートの板を割る。
力はそこまでいらないけれど、石の割れる方向や石の状態を見極める必要がある、職人の仕事だ。
硯生産販売協同組合の若い二人は、淡々と作業を進めて行く。雄勝町に限らず、後継者問題の話を伺うことがあるが、文化継承の担い手として二人だけで全てを進めて行くことはなかなか難しい。技術を教えてくれる師匠の方もほとんどいないそう。継承よりも再生である、と言うお話が非常に印象的だった。
採掘場も見学した。
黒々とした石がバラバラと一面に広がり、まるで他の惑星にでも居るような非日常的な風景を作り上げる。ワクワクしてしまった。私は、ずっと旅行・観光畑で仕事をして来た。こんなポテンシャルの高い場所があるなんて、ずるい、正直そう思ってしまった。
雄勝石が有名なことは知っていたが、実際に触れるのは今回が初めてだ。
2日間滞在した道の駅も、スレートが外壁に張られた造りで、到着した時と帰る頃では印象ががらりと変わった。現場を見てお話を伺ったことによって、雄勝石への愛着が生まれつつある。
東北にUターンをして8年目、石巻は遊びや仕事で来る場所だったけれど、復興については意識的にあまり考えないできた。
同じ県内、雄勝から1時間ほど内陸に入った所が地元だが、震災当時は東京で働いていた。被災した親から、誰かが普通の生活をしていてくれると思うと安心する、と言われた記憶がある。だから私は、普通に仕事を、生活を続けてきた。
その代わり、お祭りやイベント、美味しい海鮮を食べに、東北を遊び場にする機会は格段に増えた。友達もたくさん連れて行った。私に出来ることはきっと、その程度なんだ。だけど、特別じゃないその“普通”の小さな小さな関わりが、今では大切なんじゃないかな、とも感じている。
きっと、また誰かと一緒に雄勝に遊びに行くだろう。その時は、組合の皆さんと一緒に私も雄勝石について熱く説明することができるはずだ。
取材ツアーフォトライブラリー
【東北三県×サントリー×TURNS取り組み一覧】
▼2月9日(水):【東北三県×サントリー×TURNS 】サントリーみらいチャレンジプログラム対談
https://onl.bz/91BFYQU
▼硯生産組合×サントリー×TURNSの対談記事
https://turns.jp/57702
【サントリーみらいチャレンジプログラムHP】
https://www.suntory.co.jp/company/csr/support/mirai/