人との出会いを大切に、里山で自分のビジネスを楽しむ

識者インタビュー[村落エナジー株式会社 代表/井筒耕平さん]岡山県英田郡西粟倉村

岡山県英田郡西粟倉村。人口約1500人の小さな里山で
薪を活用するバイオマス普及に尽力する井筒さん。
里山ビジネスの楽しさ、むずかしさについてうかがいました。

「100年の森林構想」に、ビジネススキルと変化を

薪ボイラーを軸に 行政と民間でまちづくり

僕と岡山との出会いは、2005年までさかのぼります。当時、東京で所属していたエネルギー関連のNPOが、岡山に会社を立ち上げることになり、それを機に岡山県備前市吉永町に移住しました。その後、その会社を退職し、2011年に美作市の地域おこし協力隊になりました。
薪(木のエネルギー)には大学院生時代から興味があり、コンサルタントとして活動していましたが、かねてより西粟倉村で計画中の薪ボイラーの導入について興味をもち、家族4人で西粟倉村への移住を決意しました。

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いま西粟倉村は、全国から注目されています。なぜこの山里にベンチャー企業が増えているのか、現地を見て学ぼうと、多くの若者たちが集まっています。
全国の自治体が相次いで市町村合併を進めた2000年代前半、西粟倉村は2004年に美作市との合併を拒否。50年前に植えられた森林を再生して地域を活性化し、次の50年につなぐ「100年の森構想」を掲げ、経済的にも自立した村を目ざしています。行政の覚悟のもとで木材加工のベンチャー企業が増え、行政と民間のコラボレーションが生まれる。その結果、さまざまな関連サービス業も生まれたんだと思います。
村は、企業支援プログラムなどさまざまな経済政策を通して、民間企業を全力で応援してくれます。西粟倉村の起業家たちや行政は、うまくいかなかったら、やり方を変えていくことが大切だということをしっかりと認識しているのです。

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全国トップレベルの行政・西粟倉村から、さまざまなサポートを受けつつ、地域全体が成長しているのだと思います。ビジネススキルの高い行政と経営部分を担う民間が共生することで地域は活性化していきます。
村では、年内にもう一台薪ボイラーを導入。2018年には地中にパイプをはわせ地域全体に熱エネルギーを供給する「地域熱供給システム」を計画しています。

役割を分解し、地域で求められる存在に

西粟倉村に移住後、その資源を生かした、再生可能エネルギーの活用を促進するためのコンサルティングをしてきました。2012年には、薪を活用するバイオマスエネルギー事業の会社「村楽エナジー」を設立しました。
薪をつくるなど、さまざまな作業は、目的ではなく手段のひとつ。ゆるくのんびりではなく、ちゃんと稼いで生活していくことこそが、地域の課題解決の糸口となり、さらには活性化につながります。
西粟倉村にはモノづくりの会社がたくさんあります。もちろん特産品などのモノづくりも必要ですが、同時に里山エリアでは空き家や廃校といった建物、森林の活用などを、うまく展開していくことも必要です。そのためにはきちんとした方向性と専門性をもって活用していくためのディレクションが重要です。

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しかし、地元にはその人材が少ない。そこで、私は、モノづくりではなくサービス業・ソフト面を担うことにしました。じつはここ西粟倉村には、活用できる資産がたくさんあり、多くのビジネスチャンスがあるんです。 もちろん最初からうまくいくわけではありません。地域としては「外から来た、よくわからない人に仕事をまかせられない」という思いがあります。「どう乗り越えるのか?」という質問に、講演会などでは、以下のように説明しています。
まず、プロジェクトやビジネスを進めていくうえで大切なのが、プロデューサー、ディレクター、マネージャー、オペレーターですから、この4つの役割について説明します。

田舎にも、お金があって思いのある「プロデューサー」(行政)はいる。仕事をこなす「オペレーター」もいる。「マネージメント」を多少できる人たちもいる。欠けているのは、プロデューサーの思いを引き継ぎ、専門性をもって業務を管理する「ディレクター」だと思うんです。
だから、地域で働きたいという人には、まずは、ディレクターをやってみてはどうかと提案します。あるいはマネージャーとディレクターを兼ねるもよし、あるいは全部でも。まずは4つの役割を分けて、そこから動いてみるといいですよと、アドバイスします。

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いま、「元湯」「バイオマス」「コンサルティング」の3つの事業を手がけていますが、すべて役割を分解して、それぞれが責任をもって取り組むことで、ビジネスとしてもしっかりと成り立っています。
ディレクターとしてのビジネススキルをもっていれば、たとえば里山でも求められ、活躍できる人材になると思います。そして、いずれビジネスチャンスをつかむことができるでしょう。


井筒 耕平(いづつ・こうへい)

村落エナジー代表。環境学博士。10年前、バイオマス普及のため岡山へ。2014年に西粟倉村に移住し、薪工場の運営や薪・丸太ボイラー導入コーディネイトなど、再生可能エネルギー活用のコンサルティングを行う「村楽エナジー株式会社」を発足。2015年、閉鎖していた「あわくら温泉元湯」をリノベーションして開業。客観的な視点をもとに調査研究やSNS発信を行う。大学での講義、講演など全国で精力的に活躍中。

文:井上友子  写真:泉奉和
全文は本誌(vol.20 2016年12月号)に掲載

                   

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