宮崎県新富町から学ぶ ”稼ぐ自治体”の魅力
第3回現地視察(12/14-15)レポート

宮崎県新富町で2017年に設立された地域商社「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構」(以下、「こゆ財団」と記載)と、“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン『TURNS』が実施する、企業と一緒にめぐる “新富町フィールドワーク”。2021年12月14-15日の2日間で第3回が開催されました。

今回新富町にご招待した企業は、インターネット社会における子どもたちの育成支援システムを提供するベンチャー企業・サイバーフェリックスと、日本の最大手航空会社である日本航空(JAL)です。

宮崎県中央部にある新富町をぐるりと廻り、その魅力と課題、未来への展望について様々な視点から意見を交換。地方と企業における連携の可能性を感じる、有意義な時間となりました。

《メンバー》

▼視察メンバー
株式会社サイバーフェリックス カスタマーサクセスマネージャー 増田城司さん
日本航空 観光推進室 観光企画グループ 小檜山 大介さん
TURNSプロデューサー 堀口正裕

▼現地案内人
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構
観光担当 鈴木伸吾さん/スポーツ事業推進担当・福永淳史さん

 

地の利を生かした商品づくりに注目
『夢茶房』

“世界一チャレンジしやすいまち”をビジョンに掲げ、町の観光協会を解体して新富町役場が設立したこゆ財団。観光担当・鈴木さんの案内で最初に足を運んだのは、新富町にある3つの茶園の一つ、『夢茶房』。目の前に航空自衛隊新田原基地があり、訓練で発着する戦闘機の様子が間近で見られるという立地です。

広い茶畑に囲まれたお店に入り、陳列された商品の中でも目を引いたのがこちら。

戦闘機の離発着はなかなかハードな爆音なのですが、そんな爆音を聞きながら育ったお茶だからこその『爆音緑茶』というネーミング。イラストが得意な社長の安積一仁さんが描いたパッケージやポップのユニークさも加わり、思わず手にとりたくなります。


▲「おいしいですね!」20代前半とお若いですが、おいしいお茶の淹れ方もよくご存知のサイバーフェリックス・増田さん

安積社長率いる『夢茶房』は、東京の学生たちとワークショップを通して商品開発をするなど、これまでにイノベーティブな取り組みも数々されています。

参考:宮崎×東京発!「勉強がはかどるお茶」を商品化したい。高校生のアイデアから生まれた「勉強専用茶」

「最近は私たちと一緒に修学旅行の受け入れにもご協力くださる、貴重な存在なんです」
とこゆ財団・鈴木さん。


▲昨年の修学旅行受け入れ時の、安積社長直筆のウェルカムボード

帰り際、お店の前にそびえるシンボリックなのワシントニアパームツリーを見上げながら、「この木を恋愛成就スポットにするとおもしろそうですね」と、旅のプロであるJALの小檜山さんから楽しいアイデアも飛び出しました。

\INFORMTION/

夢茶房
■住所:新富町新田1113-14(新田原基地近く)
■営業時間:9:00〜18:00(喫茶オーダーストップ17:30)
■定休日:木曜日
■電話:0983-35-1026

 

神話の里・高千穂から移築された
『茅葺き古民家』

町の中心部から西へ向かい、上新田地区にある茅葺き古民家へ。

上新田地区は人口減少のため小学校と中学校が統合され、2018年に小中一貫校『上新田小中学校』として校舎が新設されました。そのため使われなくなった小学校の跡地があり、そこに移築されたのが、同じく宮崎県の高千穂町で推定120年前に建てられた茅葺き古民家。新富町・一般社団法人全国古民家再生協会・こゆ財団が協力し合ってプロジェクトを進めました。

参考:移築の際に開催した、子どもたちとの壁塗りイベントの様子

実はコロナ禍の影響もあり、まだまだ活用の実績が少ない施設。「大学のサークルなど、若い人たちが合宿で利用すると交流が深まりそうですね」など、ご自身も大学生でもある増田さんならではのご提案をいただきました。

 

こちらも古民家をリノベーションで活用
『一棟貸切宿 茶心』

休憩も兼ねて、こゆ財団が管理している『一棟貸切宿 茶心』に向かいます。

ここは、地元の名士が遺した57坪もある屋敷をこゆ財団がリノベーションして、2019年5月に誕生しました。その名の通り、お茶の心を体験できる貸切宿です。


▲室内から外の庭園が見渡せます


▲さまざまなお茶が自由に飲める仕立てになったキッチン

先に訪問した『夢茶房』はじめ、『新緑園』『もりもっ茶』という町内3つのお茶を常備。お客様が自由に淹れて味わうことができます。茶香炉の香りと相まって、室内まるごとお茶に包まれているかのような清らかさです。


▲メインのリビングはソファやダイニングテーブルも備えられており、とても広々としている

リビングの奥には、24畳もの広さがある和室があります。こちらはお茶や着付けの体験に使われたり、団体客の宿泊部屋としても利用できます。瞑想にもぴったりなこの空間で、本日の振り返りをする視察メンバー。

「夜は外で焚き火をしながらの対話もできます。みなさんの会社で企業研修などいかがですか?」という鈴木さんの言葉に全員うなずいていました。

\INFORMATION/

一棟貸切宿『茶心』
■住所:宮崎県児湯郡新富町新田15499番地2
■タイプ:一軒家貸切(家主居住型民泊)
■広さ:188.90平米(57.14坪)
■お部屋:キッチン・ダイニング・リビング・縁側・大広間・寝室・トイレ・洗面所・脱衣所・浴室・テラス・庭園
■宿泊可能数:1名〜10名(セミダブルベット2台・布団10組)
■設備:冷蔵庫・炊飯器・調理器具・ケトル・食器・テーブル・椅子(6脚)・ソファー・エアコン・無料Wi-Fi・駐車スペース・焚き火&BBQセット
■運営会社:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(TEL:0983-32-1082)

 

スポーツまちづくりの観点でみる新富町

翌日はこゆ財団オフィスからスタート。
2日目の案内人は、新富町地域おこし協力隊であり、こゆ財団のスポーツ事業推進担当・福永淳史さん。まず、福永さんが今取り組んでいる事業について説明を聞き、その内容や課題を把握して町内視察に出かけました。


▲2日目の案内を担当する福永淳史さん


▲新富町ではサッカーを中心に、スポーツまちづくり事業が進んでいるようです

新富町では国の地方創生交付金事業として、「スポーツ合宿」「海の拠点」「芸術家まちづくり」「学び舎再生」の4つの事業があります。福永さんが担当する「スポーツ合宿」「海の拠点」について、関連する町内のスポットをめぐるというのがこの日の視察内容です。

 

海の拠点事業の舞台、富田浜公園へ


▲日向灘に面した富田浜へ。見事なまでに一直線にのびる海岸線でした

日向灘に面し、南北にのびる海岸線を有する新富町。その富田浜はアカウミガメが上陸・産卵する貴重な自然観察スポットです。すぐそばにある「富田浜公園」は昨年から女子サッカークラブが使用するようになったものの、サッカー以外の利活用に関してはやはり少なく、遊休資産として近年の課題の一つとなっています。


▲九州リーグ2部(来季より1部)の女子サッカークラブ「ヴィアマテラス宮崎」が、富田浜のグラウンドをホームに活動中

遊休資産の利活用のための実証実験として、今年度福永さんはイベントを実施しました。「焚き火」とスポーツを絡めたイベント「焚き火トリップ」として、今後シリーズ化を目指しています。


▲2021年10月に富田浜一帯で開催した第1回焚き火トリップ。富田浜入江でのSUP開催は初めての挑戦


▲公園内にはキャンプスペースもあります

浜辺から芝生広場、キャンプ場を見ながら、現状と課題を伝える福永さん。
「宿泊場所はありますか? 泊まって飲食でお金を落としてもらうことは地域にとって大事なことですから」
地域の現状を伺いながら、視察メンバーからも質問を投げかけていました。

 

スポーツ事業関連施設へ

●元・富田小学校追分分校 跡地
スポーツ合宿の誘致に向けて、こちらも町の資源の一つである元・富田小学校追分分校(平成24年3月で廃校)へ。リノベーションの真っ最中でした。

「富田浜公園はU15クラス、この追分分校は小学生のスポーツクラブ等の利用なら十分な施設ですね」視察メンバーからはこんな意見も出ていました。

●ユニリーバスタジアム新富
新富町のスポーツ施設と言えば、今季誕生したばかりの『ユニリーバスタジアム新富』。宮崎県初のJリーグクラブ「テゲバジャーロ宮崎」のホームグラウンドとして、2021年は県内外からサッカーファンが新富町へ足を運ぶという、これまでにない現象が起こりました。

スタジアム名に「ユニリーバ」が付いています。新富町はユニリーバ・ジャパンと連携協定を結んだ際、スタジアムの命名権を付与したのだそうです。

参考:命名権、対価は「取り組み」 新富のサッカースタジアム(2019.7.19 宮崎日日新聞 MIYANICHI e-PRESS)

2021年はJ3のテゲバジャーロ宮崎や女子九州リーグのヴィアマテラス宮崎が活躍し、またこのスタジアムに隣接して2023年3月末にはフットボールセンターが完成予定。新富町がサッカーの町として注目される日もそう遠くはなさそうです。


▲観客席などに木材をふんだんに使った珍しいスタジアム

 

新富町役場 訪問
小嶋町長と貴重な意見交換

この日は視察メンバーで役場を訪問し、小嶋崇嗣(こじま・そうし)町長とお話させていただくことができました。

実行力・スピード感ある新富町のトップとあって、和やかさとユニークさの一方、町の課題解決に向けた多様な視点を持ち合わせていらっしゃいます。

前述のように、新富町には航空自衛隊基地があります。隊員の異動があるからか若い世代が比較的多く、高齢化の視点で見ると宮崎県で2番目に高齢化率が低い町なのだそうです。
サイバーフェリックスの増田さんから、自社事業である子どもたちへの情報モラルのアップデート(DQ)を提案がありました。

「子どもたちの情報モラル教育はこれまで禁止や制限といった形で行ってきましたが、今後は活用することを前提とした情報モラルへアップデートする必要があります。現在九州の約120校で、弊社のシステムが使われているので、新富町でもぜひご検討ください」(増田さん)

「いいですね。子どもはもちろんですが、子どもより学ぶ機会の少ない高齢者にもやりましょうよ。子どもと同じシステムで高齢者にも実施できるはずです」(小嶋町長)

また、TURNS堀口から話題に上がったのは、映画を活用した地域プロデュースを行っている企業『映画24区』の事例です。

「活動の場を求めている役者たちを、地域おこし協力隊として新富町で受け入れてもらえませんか?」(TURNS 堀口)

「それはぜひ!どうぞ全員で来てください。新富町は町民ミュージカルの歴史もあります。実は今、新富町の連続ドラマをYouTubeで作りたくて、機材も揃えているんですよ。何より、この地方に住む子どもたちに目にする機会の少ない制作風景を見せたいんですよね」(小嶋町長)

突然のご提案にも本気で応えてくださる小嶋町長と、さまざまな話で意気投合。都市部企業と地方の自治体による連携は、双方にとって新たなチャンスとなりそうです。

「みなさん新富町へ来ませんか? これからは“パラキャリ”の時代ですよ。うちは副業OKですから」
と、最後までオープンな小嶋町長に、視察メンバーはすっかり魅了されていました。

 

名物ランチを楽しみながら振り返りの時間


▲入江そばのデッキでHatsuneのビュッフェランチ


▲Hatsuneオーナーの瀧口初美さんにもご挨拶

富田浜入江を見渡す『カフェレストランHatsune』でランチをいただきながら、今回の視察をメンバーで振り返ります。

「町長が本当にアグレッシブで、新富町だけを見ていないところに可能性を感じました」
「新富町にはぜひ同じ規模感の自治体のなかで中心となってもらいたいし、我が社もぜひ連携してみたいですね」

 

町の課題を発展へのチャンスと捉え、さまざまな取り組みを進める新富町。企業側もリソースを提供してみたくなる、そんな魅力を十分に感じられた2日間でした。

今回のような企業さんとの新富町視察をきっかけに、今後どんなオープンイノベーションが起こっていくのでしょうか。
まさに新しい富が生まれるまち「新富町」に、ぜひこれからもご注目ください!

 

文・写真/矢野由里

                   

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