岩手県・雫石町「コテージむら」を舞台に考える、暮らしたくなる農家住宅とは

東京から新幹線で2時間半、岩手県雫石町南畑地区にある「コテージむら」は、雄大な自然に抱かれた総面積約63ヘクタールの土地。岩手山から秋田駒ヶ岳にかけた山並みを望みながら農的暮らしをしたい人へ向けて、宅地付き農地として分譲しています。

 
このコテージむらを舞台に、「これからの農家住宅提案検討委員会」が立ち上がりました。これは、“田舎っぽい”“大変そう”などといった農家に対するマイナスイメージを払拭する、新しいスタイルの農家暮らしを形づくっていく試みです。地元の若手農家や建築士、地域づくりの専門家たちが、合計3回の検討会を通して、若者が憧れる農家住宅を提案します。

昨年行われた第1回目の検討会では、住人の案内でコテージむらを視察した後、ポータルサイト「別荘リゾート.net」を運営する唐品知浩さんに、全国の別荘や小屋製作の最新事例をうかがいました。そうして新しい発想を共有したうえで、これからの時代はどんな農家住宅が魅力的か、イラストを描きながら自由にアイデアを出し合いました。

 

第2回目の検討会は、農家住宅の平面図づくり


 
第2回目となる今回の検討会は、盛岡駅からほど近い「いわて県民情報交流センター」にて開催されました。ファシリテーターは、「特定非営利活動法人いわて地域づくり支援センター」常務理事の若菜千穂さん。

「今回は農家住宅の平面図をつくってもらいます。岩手ならではの特性、例えば冬の寒さや雪、広々とした大地といったことを活かした農家暮らしを考えていきましょう」

夏は清々しい風が吹きぬけ、冬は一面白銀の世界。四季折々、岩手の美しい自然を感じられる「コテージむら」で、どのような農家暮らしを描くことができるでしょうか。

まずはウォーミングアップもかねて、若菜さんが出合った素敵な農家住宅の例をスライドで見ていきます。
とある岩手の集落では、家屋のすぐ側に池があり、台所から残飯を池に捨てられるようになっていました。さらに池には鯉が泳いでいて、捨てられた残飯を食べるという循環ができています。

そのほか、かさばる薪の保管や、散らかりやすい農機具の収納など、農家住宅における機能的かつ見た目にも美しい工夫が紹介され、新しい農家住宅を考えるヒントとなりました。

 

分野を横断して話し合える、検討委員会のメンバー

いよいよ平面図づくりです。検討委員のメンバーは、すでに2つの班に分かれて着席しています。
農家住宅といっても、農業で生計をたてる大規模なものと、自家菜園など小規模なものでは、求められる住宅の形も異なるため、両方のパターンで考えていこうというわけです。

各班のメンバーは以下のとおりです。

 
A「コンパクトな暮らし班」(兼業農家、自給用畑、1〜2世代居住)
一関平泉イン・アウトバウンド推進協議会 コミュニティマネージャー 佐藤柊平
株式会社タカヤ デザイナー 森居綾那
山藤農園 山本早苗
株式会社リゾートノート 唐品知浩

B「がっつり農業班」(専業農家、販売農家、3世代以上住居)
有限会社美建工業 住工房森の音 代表取締役 櫻田文昭
有限会社ファーム菅久 常務取締役 菅原紋子
山藤農園 山本藤幸
株式会社浄法寺漆産業 松沢卓生

 
平面図のつくり方は簡単。
用意されている模造紙を敷地にみたてて、部屋や畑にまつわるイラストの描かれたパーツを配置します。さらに、配置の意図や詳細をふせんに書き、貼っていきます。「要素を出すことが大切なので、用紙におさまらなくても構いません」と若菜さん。制限時間は2時間、話し合いがスタートしました。

どちらの班も、最初は手を動かさずに、住宅の方向性を話し合っています。
農家であるメンバーは、リアルな農家暮らしの実情や課題、望みなどを知っています。建築士やデザイナーのメンバーは、理想の農家暮らしを住宅というハード面から叶える現実的な方法を提案。さらに、時代の変化に対して鋭いアンテナを持ち、普段からコミュニティやまちづくりに携わっているメンバーもいます。

こうした、各分野に精通した人物が揃っていることが、この検討委員会の強みです。見た目はオシャレでも実用的がない、実用的だけれど時代に合っていない、といった偏った提案にならず、多角的な視点から見て合理的な農業住宅を模索できるのです。

話し合いが進むにつれ、徐々にふせんへの書き出しや、平面図のパーツの切り貼りが始まりました。視覚化することによって、よりイメージが固まっていきます。

話し合いが終わったら、発表です。まずは「がっつり農業班」から・・・。

 

大きな土間と趣味の部屋で、幸せを感じられる農家暮らし

キャッチフレーズは「ワンランク上のヤギつき住宅」。敷地は、畑と家畜小屋のゾーンと、家(母屋)と土間のゾーン、2つのゾーンに分けられています。

畑のそばに家畜小屋を配置したのは、家畜の排泄物を畑の肥料にすることで、昔ながらの動物と共存する循環型生活を目指すため。とくに、飼いやすくて雑草を食べてくれる山羊は欠かせないとか。

農作業をすると衣類に土や雑草が付きます。そのまま家に入ると室内が汚れてしまうので、大きな土間を設け、2層式の洗濯機やシャワールームに直行できる間取にしました。

土間のひさしからは太陽光を取り入れ、その熱でお風呂のお湯をあたためるなど、生活エネルギーとして利用します。地域の人とお茶をしたり、収穫した野菜を干したり、外と内の中間にある土間は、なにかと使える空間です。
土間の奥には、夫婦それぞれが趣味や遊びを楽しむための「姫の部屋」と「殿の部屋」があります。殿の部屋では旦那がスキー板のメンテナンスをし、姫の部屋では奥さんが編み物をする、といった使い方が考えられます。スイーツやクラフト製品をつくって、小さなショップを開いてもよいでしょう。

岩手では、12〜3月は雪のため農作業がほとんどできません。こうした趣味の部屋があれば、冬の時間を充実させられます。農業をがんばるだけでなく、楽しみを満喫できる設計が、この住宅が“ワンランク上”と謳っている理由です。
ちなみに、寒さ対策として、家全体を20cmくらいの厚さの断熱材で囲っています。

 

“シェア”でコストをおさえ、若者でも農業を始めやすくする

続いて、「コンパクトな暮らし班」の発表です。
こちらの班は、1戸というよりは、「コテージむら」のコミュニティ全体の世界感から考えました。
 

農業に新規参入する移住者、とくに若者をむかえるためには、初期投資をできるだけ少なくさせる必要があります。そこで、個別の家や畑はコンパクトにし、その分“シェア”するものを充実させます。最近の若者にはものを所有する欲があまりないという、時代の流れを踏まえての提案です。

それぞれの家は10坪くらいのコンパクトなもので、つくりもシンプル。小屋に近いものをイメージしています。暮らしていくなかで同伴者や家族ができたら、増築します。
「コテージむら」の中心部には、共用の倉庫やワークスペース、キッチンなどを据え、住人同士でルールを決めて活用します。共用部ではさまざまなコミュニケーションが生まれるはず。
また、初心者が農機具を揃えるのは、知識面からも金銭面からもハードルが高いことから、岩手の農家に眠っている農機具のリサイクルセンターを設立するアイデアも出ました。

ゼロから農業を始めるのは、一人では難しいものです。そこで、共同で農業をする畑もつくりました。スクールなどを開き、教えてくれる人と出合える仕組みがあれば心強いでしょう。さらに、例えばコミュニティで麦を栽培し、ビールを醸造。外部へ販売して、収入は共用スペースの運営費にあてるといった、ビジネスの展開もあり得ます。

こうしたシェアの仕組みがあれば、IT系など比較的場所を選ばない仕事に就く人が、農業を副業にしながら暮らすこともできます。また、移住までいかなくとも、短期間の滞在で利用することも可能でしょう。
実際にコテージむらには、共同の農業スペースや、管理センターがあり、シェアとの親和性は高そうです。


 
「がっつり農業班」「コンパクトな暮らし班」それぞれが作成した平面図は、検討委員会のメンバーである建築士の櫻田文昭さんが、本格的なパース図に落とし込みます。それをもとに、全国へ発表する最終形に向けて、提案をまとめる予定です。

 

職人が集める岩手の漆を身近なものに

最後に、岩手で漆産業を営む「株式会社浄法寺漆産業」の松沢卓生さんから、岩手の漆についてお話をうかがいました。

「漆は岩手らしい素材です」と松沢さん。漆は、漆掻き職人が木の幹に傷をつけ、傷口からにじみ出た樹液を採取したものです。漆掻き職人が集団で活動し、まとまった量の漆を生産しているのは日本では浄法寺だけだそうです。
現在国内で使われている漆の98%は海外、主に中国から輸入したものです。日本の漆は、風前の灯火にあるといえます。そして2%の国産の漆のうち、約8割が二戸市浄法寺町で生産されています。

松沢さんは、漆産業が残る岩手で、漆文化の継承と革新、振興を目的に活動しています。新しい漆の活用にも積極的に取り組み、豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」の内装に漆塗りパネル材を提供したり、トヨタ自動車の「AQUA」の外装を展示用に漆塗装にしたりもしているそう。

「漆は優れた塗料です。昔はいろいろなものに使われていました。漆塗りの柱がある家もあったとか」

漆をもっと自由に活用し、身近なものとして捉えてもらいたいと松沢さんは言います。岩手らしい農家住宅を考えるにあたって、漆を取り入れるのも、ひとつの方法でしょう。

こうして、「これからの農家住宅提案検討委員会」第2回目の検討会が幕を閉じました。
次はいよいよ最終回。どんな農家住宅が提案されるのか、こうご期待!

 
文:吉田真緒 写真:佐々木光里

 
現在プロジェクトが進んでいるコテージむらが気になった方のために、
コテージむら移住セミナー&相談会を開催します。(岩手県農業公社主催)

日時:平成30 年3 月24日(土) 17:30~20:00(定員30人)
場所:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会8F ふるさと回帰支援センター セミナーコーナーA
内容:雫石町・コテージむらの紹介、移住者の農的暮らしの話、町の移住支援策、個別相談など
※参加者プレゼントあり(県産米「金色の風・銀河のしずく」各3合)

お問い合わせ先
公益社団法人岩手県農業公社総務部 総務課 
019-651-2181 
cottage@i-agri.or.jp
http://www.i-agri.or.jp 

 
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