自然に囲まれた島暮らしへの憧れの一方で、働く場の選択肢やその環境への不安はつきもの。鹿児島県の南に浮かぶ種子島。その中心地である西之表市で、地元を支える3事業者に働き方や現状の課題などを伺いました。島外からの移住者やUターン組の方々などさまざまなバックグランドを持っている方たちのお話から、種子島での働き方や生活スタイルを具体的にイメージすることができます。
この記事を通して、「種子島のことをもっと深く知りたい」「他にもどんな働き方ができるのか気になる」と興味を持たれた方は、9月7日(木)に開催される「西之表市(種子島)オンラインセミナー」にぜひ参加してみてください。
西之表市
西之表市は種子島北部に位置し、島の中心地としての役割を果たしています。人口は約1万4,254人(2023年7月末時点)、面積約205.8㎢。鉄砲伝来の地としての歴史があり、火縄銃の国産1号銃などを収蔵。サーフスポットやヨガの聖地としても知られ、自然を体感できるアクティビティも豊富に有しています。
【髙﨑酒造株式会社】
100年以上続く地元の酒蔵。4代目として受け継ぐ
1903年に初代・髙﨑貞吉が焼酎製造免許を取得し、創業した髙﨑酒造。100年以上続く種子島の蔵元は、現在4代目の髙﨑吉弘さんによってその伝統を受け継いでいる。髙﨑さんが同社に入社したのは2003年。東京の大学卒業後、鹿児島県の地方銀行で10年ほど勤務し、会社を継いだ。インタビューを通して、ゆったりとした口調で温和な人柄が伝わってくる一方、これからの経営への熱い想いも同時に感じた。
・お話を伺いました
髙﨑酒造株式会社 4代目・髙﨑吉弘さん
住所:鹿児島県西之表市西町 6993-1
TEL:0997-22-0707
HP:https://takasakishuzo.online
100年企業としてのぶらさない伝統と“造り手”としてのチャレンジ精神
メイン商品は、地元産のさつま芋と天然水を使用した「しま甘露」。鹿児島県本格焼酎鑑評会にて4年連続で優秀賞を受賞するなど、さまざまな品評会で高い評価を受けている逸品だ。そんな「しま甘露」を中心に髙﨑酒造が造るお酒は、地元の材料を使用。出荷に関しても、7割ほどが島内と、島に根ざした蔵元となっている。
「初代から変わっていないことは、地元の原料や食材を使ってお酒を造っていること。生産者と造り手、お客様が良い関係性を保ち、良い循環を醸成するために、地元産を貫いています」と髙﨑さん。
一方で、現状に満足しておらず、常に新たな一手を模索し続けている。焼酎を造る製造工程の中で重要だと語る蒸留工程においても、毎年変化を加える。
「既存の商品においても、常にチャレンジを行っています。「しま甘露」に関しては、昨年蒸留時間を少し長く取り、さつま芋の風味がより出るように改良しました。毎年少しですが、変化を加えているのです」
もちろん、長年愛された商品であるため、大幅な改良はできない。それでも、理想を追求し、前進を続けるのが、髙﨑酒造の方針だ。
「5年前には、リキュールの製造免許を新たに取得し、自社の芋焼酎に梅と砂糖を漬け込んだ「甘露の梅酒」を完成させました。“造る”仕事なので、常に新たなものを模索して、“造る”ことはぶらさずに続けていきたいです。今後はジンなどの製造にも挑戦したいですね。それに向けて、また新しい免許を取得しなくてはなりません」と嬉しそうに語る。
お酒造りだけじゃない。お酒を“伝える”ことも大切な仕事
常に挑戦心を持つ髙﨑さんだが、目下の課題は人手不足だと語る。
「通年で常駐している従業員は、経営層を除くと5名。そのすべてが50歳以上のメンバーになります。先代から長く勤務していただいている方ばかりで、非常に業務がやりやすい環境です。一方で、今後を考えると新たな風は必要。まだまだ会社の規模としても、大きくしていく必要性を感じているので、マンパワーは絶対的に重要な要素です」
もう一点の課題が広報やPR。より種子島のお酒として、全国や世界に知ってもらい、楽しんでもらうために、考えているという。
「やはりなかなか知ってもらう機会もなければ、そういったチャンスをつくれていない。この先、会社を伸ばしていくためにも、現状にはない新しい知恵や考えが必要なのです」
会社としてゼロからつくる段階だと語り、課題に向き合う髙﨑さん。小規模な会社だからこそ、変化をいとわないのだ。
「ゼロから会社をつくっていきたい」と行動できる人材を求む
100年を超える企業でありながら、変化を恐れない髙﨑さん。温厚な人柄の裏に感じる熱い想いには、地元への想いがある。
「東京の大学へ行く際も、銀行に入行する際も、どこか家業のことが頭にあったんです。将来経営ができるように大学は商学部を選択し、お金周りに詳しくなるように地方銀行に就職しました。実際、継ぐことになったのは、家の事情もありましたが、地元への想いは常にどこかにあったんだなと、今振り返ると感じます」
高﨑酒造が常に変化と成長を求め続ける背景には、島全体を活性化させて魅力的な地域を築いていきたいという狙いもある。
「それこそ、材料は地元産にこだわっています。商品が人気になって、今以上に生産者に還元できれば、嬉しいことはありません。そういった意味でも、成長は止めてはいけないと感じています」
だからこそ、新たな風が必要。5名の会社であるため、これから一緒に会社をつくっていくことに面白さを感じる人、安定よりもチャレンジ精神が強い人がマッチしているという。
「島に移住することは、本当に大きな決断です。自然が好きだったり、島暮らしが好きだったり、という生活環境も重要ですが、働く場所が充実していることも一つの決断の要素。髙﨑酒造では、経営層により近い立ち位置で、一緒に会社をつくっていく経験ができます。課題であった広報面ではなくとも、働き方や経営の制度面などで新しい発想があれば、相談してほしい。そういった自分の想いを行動に移せる人、またそれを面白いと感じられる人と一緒に会社をつくっていきたいですね」
伝統と変化を融合させ、進化を続ける髙﨑酒造。新たなチャレンジを一緒に担っていける人材と共に、歩みを進める。
◉求人に関するお問い合わせ
髙﨑酒造株式会社
TEL:0997-22-0707
E-mail:shochu@takasakishuzo.com
【JA種子屋久(種子屋久農業協同組合)】
地域の協同組合の一員として島の生活を支える
JA種子屋久は、農業に関連する経済事業をはじめ、ガソリンスタンドや自動車整備工場など地域のインフラを担う生活事業、共済(保険)事業、信用(金融)事業など幅広く展開する農業協同組合。島の農業や生活インフラに携わり、それらを支える組織だ。職員は約340名と、島内では大きな事業者となる。
種子島出身の種子田秀樹さんは、2001年にJA種子屋久(旧JA西之表)に入組。現在は企画管理部総務人事課で、主に職員の教育や採用施策などの業務を行う。休日は、自身が持つ畑で作物を育てて過ごしているという。20年以上この地域の総合事業体の一員として、さまざまな業務を担当してきた種子田さんと上長の中村拓郎さんに、仕事の魅力や働きやすい職場づくりについて語ってもらった。
・お話を伺いました
企画管理部総務人事課・種子田秀樹さん(右)、中村拓郎さん(左)
JA種子屋久
住所:鹿児島県熊毛郡中種子町野間5281
TEL:0997-27-1211
HP:https://www.ja-taneyaku.or.jp/
島の農業や生活インフラを支え、農家や地域住民と協力し、
地域の経済と暮らしを活性化させる仕事
「JA種子屋久は、種子島、屋久島の農業や生活インフラを支える事業を行っています。組合員は7,800人ほど。生産者の技術や経営指導、販売促進を中心に、幅広い業務を展開しています。地域の方と密につながって、しっかりと島の生活を支えている実感を得られるのが、やりがいのひとつになっています」と種子田さん。
種子田さんは、ガソリンスタンドの事務や共済の営業専門職など経て、2019年から企画管理部総務人事課の課長として、人事・雇用や職員の教育、研修などの業務に従事している。
「JA種子屋久では、ガソリンスタンドにおける危険物取扱者や購買店舗での農薬を扱う毒物劇物取扱責任者など、業務に必要な資格があります。そういった資格取得のフォローやスキルアップのための研修プログラムの計画を行うほか、職場環境の改善や採用などを担当しています」(種子田さん)
人手不足解消のために待遇から働きやすさまで変革
現状、今まで運営していたガソリンスタンドを休業したり、営業日数を減らしたりと、100%稼働していない状況。それはひとえに人手不足が原因だ。新たな働き手を迎え入れるために、さまざまな施策を行っている。
「2023年4月には、賃金のベースアップを実施。その金額が大きかったことで、職員からは喜びの声を聞くことができました。また、体制面でも、共済(保険)の営業目標を2023年に改善したのです。営業目標値をこれまでの約7分の1程度まで引き下げ、活動期間もこれまでの半分以下に短縮。職員の共済営業目標への負担感を大幅に軽減することにより、大きな待遇改善を図りました。」(中村さん)
待遇面から体制まで、採用に関してメスを入れているのだ。また、JA種子屋久では、「自ら考え、新たなことにチャレンジできる人材」など4つの人材像に沿って、採用活動などを実施している。
「まずは店舗含め、100%稼働まで戻すこと。地域のインフラも担っていることを考えると重要な課題です。採用に関しても、地元高校への訪問などの活動を行っています。現在は、事務職全般、ガソリンスタンドスタッフや農業の技術と経営の指導員などを募集中。指導員は専門的な領域ですが、事務職から指導員へキャリアップした実績もあるので、経験、未経験問わず、挑戦してもらいたいですね。種子島は自然を含め、住みやすさは抜群だと感じています。働く場所にやりがいを持ち、環境が整備されていることが大切。そういった部分を、JA種子屋久が担って、新たな移住者を受け入れる体制を整えておきたいと考えています」(種子田さん)
地域とのつながりを強く持ち、島民の生活を支える業務を担えるのがJA種子屋久。「住みよい地域づくりに貢献したい」「地域に根差し、安定した環境で働きたい」と考える人にぴったりの環境だといえる。
◉求人に関する情報・お問い合わせ
JA種子屋久
https://www.ja-taneyaku.or.jp/recruit/
TEL:0997-27-1211
【社会医療法人 義順顕彰会 種子島医療センター】
約1万5,000人の島民の健康を守る中核医療機関
種子島の医療の中核を担う種子島医療センター。26の診療科を有し、島民の健康を見守る。2022年に鹿児島県から移住を決め、現在副看護部長として業務を行う竹之内卓さんと前看護部長、現在経営企画改善室で採用活動などに携わる戸川英子さんに、高齢化率38%超の島の医療を支える看護師の役割や種子島医療センターのこれからについてお話を伺った。
・お話を伺いました
看護師・竹之内卓さん(左)、経営企画改善室・戸川英子さん(右)
種子島医療センター
住所:鹿児島県西之表市西之表7463
TEL:0997-22-0960
HP:https://tanegashima-mc.jp/
本土から種子島に移住。診療看護師として、離島医療を支える
竹之内さんは、大学生時代に奄美諸島で離島実習を行ったことがきっかけで、離島医療に関心を抱いた。その後、鹿児島の大学病院で多くの医療現場を経験したが、医師の指示に従って看護を行うだけではなく、自ら判断して診療ができる診療看護師という職種に興味を持ち、資格を取得。昨年から、種子島医療センターで診療看護師として働いている。
離島における医療現場の課題はさまざま。特に医療設備などのモノと現場のヒトは大きな課題だ。
「離島医療では、本土と比べ設備が整っていなかったり、常勤医がいなかったり――。さらには看護師の知識・技能という点でも、課題があると感じています。そういった意味で、看護師として医療行為の一部が担える診療看護師を取得することで、現場での迅速な対応はもちろん、院内の看護師への教育や研修といった面まで、向き合えると考えています」と竹之内さん。
種子島医療センターでは、初の診療看護師の登用だった。そんな竹之内さんが種子島を移住先として選択したのには、同センターの影響があった。
「私は鹿児島の大学病院で看護師の特定行為の研修を受けた1期生でした。2期目からは指導する立場となり、研修生に教えていたのですが、その3期、4期と種子島医療センターから2名ずつ派遣されたことが、当院を知るきっかけになりました。離島医療に興味があったため、そこで種子島という土地、種子島医療センターという選択肢が浮かんできたのだと思います」(竹之内さん)
当時のことを、看護部長だった戸川さんは振り返る。
「竹之内さんが移住する1年前からメールなどで連絡を取り合っていました。離島医療の現状を変えていきたいという強い想いと私たちの院内でスペシャリストが必要だという課題が一致。2022年に満を持して、当院に来てもらいました」
人材発掘から育成、働きやすい職場づくりまで幅広く活躍
竹之内さんは、通常の副看護部長の業務に加え、看護師の育成・教育、そして新たな人材の発掘に至るまで、幅広く携わっている。特に求人業務に関しては、この1年で大きく変化したという。行政と連携して、東京で開催される移住相談会に赴いたり、鹿児島の看護学校を周ったり。また、島外だけでなく、島内の看護師の育成にも注力する。
「離島という特性上、やはり島内のスタッフの割合が多くなるので、その点は重要だと考えています」(竹之内さん)
「竹之内さんは移住者としての想いがあるため、対外的な求人活動において説得力があると感じています。といっても、まだまだ人員は必要。今後も島内外、積極的に種子島医療センターに興味を持ってもらう施策を考えていきたいと思います」と戸川さん。
実際に組織横断的な活動として、病院のスタッフの質を上げるための施策を実施している。今までは島外に出ないと受けられなかった研修を院内で完結できるように整備を進めている。
「新人研修の計画や看護師の勉強会の計画を行っています。勉強会に関しては、コロナ禍でオンラインでの開催がメインでしたが、対面に戻しました。私が所属していた大学や愛知県の講師の方などを呼ぶ予定です。回数に関しても、月に1度は開催を必須事項にしました」(竹之内さん)
また、戸川さんは看護部長の経験を活かし、院内の体制を見直し。無駄な業務を減らし、職員が働きやすい環境づくりを行っている。
「コロナ禍で島の渡航制限もあったりして、離職した方も多くいました。その中で業務を見直し、改善していく方針に。夜勤を3交代から2交代にしたり、医師と看護師、その他のスタッフの業務を明確化したり。明確化というのは、例えば、医師事務作業補助者や看護補助者などの権限を独立させ、そのスタッフ同士の横のつながりの中で、業務分担や判断を行うようにしました。そうすることで、各スタッフの業務に余裕が生まれるようになりました」(戸川さん)
スタッフと患者さんとの近い関係性が、
正確性の高い医療サービスの提供を可能にする
人員や知識などのハンディキャップがある一方で、離島ならではのこの仕事のやりがいを伺った。
「大学病院などと比べると、患者さんとの距離の近さがメリットだと感じます。カルテ一つにその患者さんの病状や生活、病気履歴などが詰まっている。その過程がしっかり分かり、患者の家族含め、スタッフに浸透していることが種子島で働いているうえで感じた魅力。患者さんのことを細かく理解していることで、有事の際の迅速な判断や柔軟な対応が可能となります」(竹之内さん)
「地域の医療施設なので、やはり地域への貢献は必須です。2023年は4年ぶりに鉄砲祭りが開催され、職員も参加しました。島民とは院内外でしっかりとコミュニケーションを取っていることで、何かあった時でも素早く対応ができるのだと思います」(戸川さん)
職員寮も完備。島生活で新たな自分に出会えた
移住者に対しても、移住後不安がないような生活面の整備も行う予定だという。
「すでに職員寮があり、移住者に関して、住む場所に困ることはないと思います。今後、ファミリー移住者向けの住宅を建設する予定も。また、看護学校のサテライト教室のような学べる場を行政と協力して、進めています。働く場所と住む場所の大きな不安を少しでも取り除いていけたらと考えています」(戸川さん)
移住者の竹之内さんは、種子島で新しい自分に出会えたと語ります。
「種子島に移住してから、新たにサーフィンを始めました。全く興味がなかったわけではありませんが、自分がこんなにハマるとは思っていませんでした。島民との距離が近い分、サーフィンの先生も近所で見つかるし、同じ趣味の仲間も増えて、充実しています。本土とのアクセスも、鹿児島港まで約90分、鹿児島空港まで約30分と短時間で移動できます。夕方ごろの便が最終という点が、少し不便に感じることはありますが」(竹之内さん)
離島医療の課題に向き合い、体制を改善・発展させている種子島医療センター。竹之内さんや戸川さんを中心に、働きやすさとやりがいを両立させる体制を整えている。
◉求人に関する情報・お問い合わせ
種子島医療センター
https://tanegashima-mc.jp/tanegashimalife
TEL:0997-22-0960
【無料|9/7(木)20:00〜】
“島暮らし”「仕事」を見つけて豊かに生きる!
『西之表市(種子島)オンラインセミナー』開催
さまざまな分野で地域を支える西表市の事業者の皆さんに仕事の魅力を伺った今回のインタビュー。このインタビューを通じて種子島への移住に関心を持たれた方や、新しい環境でのチャレンジを考えている方に向けて、2023年9月7日(木)に『西表市(種子島)オンラインセミナー』を開催いたします。
このセミナーでは西表市に移住し、事業を立ち上げた方、就職した方をゲストスピーカーに迎え、島のリアルな生活情報や仕事の始め方、見つけ方など、新しい生活を始めるためのヒントをたっぷり伺っていきます。
▼詳細はこちらをクリック!
【無料|9/7(木)20:00〜】“島暮らし”「仕事」を見つけて豊かに生きる!
『西之表市(種子島)オンラインセミナー』開催
また、2023年10月27日(金)〜29日(日)には、TOKYO FMスカロケ移住推進部とTURNSとのコラボによる『種子島西之表市×スカロケ移住推進部 島暮らし!仕事マッチングツアー2023』も開催予定。種子島の魅力を実際に肌で感じながら、仕事のマッチングも実現できる貴重なツアーです。ぜひチェックしてみてください。
▼詳細はこちらをクリック!
【10/27(金)・28(土)29(日)】種子島西之表市×スカロケ移住推進部
『島暮らし!仕事マッチングツアー2023』
取材・文:足立拓哉