#Challenge.03
被災した土地に美しい景観を取り戻す。
椿のカーペットがつなぐ未来
▲苗を植える高田東中学校の生徒たち
次世代が希望を持てるように。椿の植樹が育む故郷への愛
2011年から東日本大震災復興支援「サントリー東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、現地に赴き、地域の方々と共に取り組んできたサントリー。2021年、新たに「みらいチャレンジプログラム」を開始し、岩手県・宮城県・福島県の地域創生・活性化を目指して挑戦する団体・個人を、3期にわたって応援していく。
今回紹介する活動は、「レッドカーペット・プロジェクト~みらい世代とつくる椿産業と誰ひとり取り残さない地域社会~」。東日本大震災の津波被害を受けて市街地が高台に移転し、その影響で残った広大な未利用地。沿岸付近の低地部に市の花でもある「椿」を植えていくプロジェクトをレポートしました。
「サントリーみらいチャレンジプログラム」とはサントリーグループが東日本大震災復興支援「サントリー東北サンさんプロジェクト」の一環として、東北の未来づくりのために、岩手県・宮城県・福島県で地方創生・地元活性化を目指して挑戦する団体・個人 を応援するプログラム。2024年6月までの計3期実施し、1活動100万円を上限に、総額1億円規模の奨励金を支給してサポートする。
サントリーみらいチャレンジプログラム
https://www.suntory.co.jp/company/csr/support/mirai/
困難をしなやかに乗り越えた椿を、防災、産業、緑化のシンボルに
愛着を持って暮らしていた場所が、今後荒れた土地になっていくだけだとしたら、どんな感情を抱くだろうか。これからを生きる10代が、そんな故郷を見ながら過ごしたら、未来に希望を持てるだろうか。
2021年10月、岩手県陸前高田市で実施された「レッドカーペット・プロジェクト~みらい世代とつくる椿産業と誰ひとり取り残さない地域社会~」には、陸前高田市立高田東中学校3年生53名、陸前高田市立高田第一中学校3年生80名が参加。津波で被災した土地に「椿」を植えるというこのプログラムには、自分たちが育った郷土への愛着を育んでほしいという期待が込められている。プロジェクトについて、一般社団法人レッドカーペット・プロジェクト代表理事の高橋和良さんにお話を伺った。
▲一般社団法人レッドカーペット・プロジェクト代表理事の高橋和良さん
高橋さんは空き地のままだった場所に、2015年から有志で椿の苗を植え続けている。陸前高田市から始まった「レッドカーペット・プロジェクト」。きっかけは、高橋さんの工場の社員であり、被災者である女性のこんなひと言だったという。
『私らの住んでいた場所が、今では草ぼうぼうになってしまいました。寂しいもんですね…』
これを聞いて何とかしたいと思った高橋さんの頭の中に、母校である三重大学助教授のお母様から聞いた話が蘇ってきた。
「昭和19年の12月、紀伊半島沖で昭和東南海地震が発生しました。岩手沿岸と同じリアス式海岸地形の三重県尾鷲市の辺りでは、約6~10mの大津波に見舞われたそうです。軍需工場も多い東海地域の被災を、敵である米国に知られないようにするため、当時は名刺程度の大きさで新聞に「大津波きたる安否かくにんせよ」と出ただけ。煙が立つからと火葬すら許されず、亡骸は山に埋めるしかなかったというんですよ。若い男子は戦争に行ってしまったので、県庁の職員たちと地域の女子供・年寄りだけで、山から被災土地に土を運んで、みかんや梅を植えた。それが、今の紀州ブランドの礎となり、復興に向かっていったと聞きました」(高橋さん)
高橋さんがみかんや梅の代わりに着目したのが「椿」。生育が遅い樹木だが、一度育てば災害にとても強い。被災した土地に植えれば「防災」にも、椿の「産業化」にも、さらには「緑地化」にも役立つ。高橋さんのなかで、椿を軸に復興と未来につながる産業化が結びついた。そこから有志と会社のスタッフの手で、被災した土地への椿の植樹が進められていった。
「植樹をするうちに、何かこの活動に名前をつけたいね、となりました。椿といえばやっぱり赤ということと、私が映画好きなことから、〝レッドカーペットを作るプロジェクトにしよう〟となって、『レッドカーペット・プロジェクト』と名付けたんです」(高橋さん)
▲植樹から一ヶ月が経った高田第一中学校の苗木(左)と成長を見守る高橋さん(右)
震災を見つめ直す「椿学習」と「椿植樹」を共に行うことの意義
地元の子供達の郷土愛を深めるために、活動をどう進めていけばいのか。これまで植樹だけだった活動に、大きな変化を与えたのが「みらいチャレンジプログラム」への応募。子供たちに向けたプログラムとして「椿植樹」だけではなく「椿学習」もセットで取り組むことがスタッフによって考案され、サントリーの助成金によって、さらに大きく活動が前進した。
「椿学習」は、樹齢1,400年の日本最古の椿が津波の難を逃れて生き残ったという「椿物語」を中心に、産業化への一つの道しるべになった椿茶製造、開発、パッケージ化、販促の流れを学ぶもの。地域資源を生かしてゼロから商品を生み出すという実践例を紹介し、産業化の考え方を知る教育プログラムだ。以前から大船渡市の課外授業として行われてきた「椿学習」と、レッドカーペット・プロジェクトが積み重ねてきた「椿植樹」を組み合わせることによって、参加した子供達の熱量はぐっと高まったという。
「『椿学習』によって、子供たちが椿の生育スタイル、つまり根を深く張って荒波に耐える〝椿マインド〟を知るんです。しかも、椿が〝市の花〟ということを改めて受け止めることで、結果的に〝地域愛イコール椿〟というメタファーが子供達の中に醸成されたのだと思います。植樹をしているときの生徒たちの真剣な表情が印象的でした」(高橋さん)
今回のプロジェクトに参加したのは、陸前高田市内の全ての中学3年生。卒業記念というサブテーマもあり、子供達はより強いインパクトを感じていたという。
「この辺りの中学生はほとんどが保育園から一緒に育った仲間。ですが、高校進学と共にバラバラになってしまうことが多いんです。そんな彼らが植樹しながら互いの進路や将来について語り合っている姿を見ていて、『みらいチャレンジプログラム』のおかげで子供達の中に、明るい想い出がひとつできたなと思いました。また、自分の名札が付いている椿を植えたことで、毎年、椿を見に来たいと話す子供もいました。こうした想いが郷土愛につながっていくことを期待しています」(高橋さん)
▲植樹の際のコミュニケーションが、その後の生徒たちの思い出の1ページに
花が咲き続けられるように、永く椿を守り育てる
今回のプロジェクトからは、もう一つの収穫があった。それは、荒廃地における椿の苗の育て方を発見できたことだ。提供された資金を活用し、栄養分のある土を補充。さらに、風よけの不織布で苗木を覆うことで、中学生が植えた苗の全てがしっかりと冬を越し、3~4月に見事な花を咲かせたのだ。
津波が押し寄せ、取り急ぎ造成された土地は、長年耕されてきた田や畑とは違い、水分も十分に含んではいない。加えて、強い風も吹きつける。荒廃地に椿がしっかりと根を張り、強く自立できるまでは、手厚く見守る必要があるのだ。新たな工夫が効果を発揮し、苗の活着を促す手入れの方法を学べたことは大きいと高橋さんはいう。
▲左)2022年4月、見事に開花した椿の花 右)高田東中学校のシンボルツリー
文・小山景子 写真・藤枝宏
「今後は地元中学卒業記念エリア、内陸や高校の記念エリア、公園のような緑地化と憩いの場エリア、産業化を目指した畑エリアなど、『みらいチャレンジプログラム』での実績を活かしながら計画を再度作り上げ、継続していきます。また、椿を使った商品から寄付が入る仕組み作りや、椿商品の開発を目指す地元企業の開拓など、レッドカーペット・プロジェクトがより長く続くよう尽力していきます」(高橋さん)
今回のプロジェクトの成功によって、様々な学校から、オファーが届いているという。地域の成長とともに地域に対する愛情が育まれ、希望の輪が広がっていく。レッドカーペット・プロジェクトは、この輪がさらに大きく広がっていくように、植樹を続けていく。
サントリーとTURNSでは今後もWEB記事やイベント等を通じ、東北の生の情報を発信していく計画だ。
地域再興を目指して東北3県で展開されていくサントリーの「みらいチャレンジプログラム」の取り組みを、TURNSでも順次紹介していく。少しでも興味を惹かれたプロジェクトは、まず自身のSNSで発信してみるなど、なんらかの方法で関わってみよう。そのアクションの集積が東北復興の確かな支えになるはずだ。
東北三県×サントリー×TURNS取り組み一覧
・#Challenge.01「雄勝石」による天然スレートの生産復活
・#Challenge.02 福島県富岡町 原発事故で無人になったまちをワインで立て直す
・【東北三県×サントリー×TURNS 】サントリーみらいチャレンジプログラム対談