紀伊半島で生まれる地域イノベーションの最前線 Vol.3
地域に根ざし、外の世界と繋がる
-グローカル×イノベーション-

長い歴史のなかで、常に文化や信仰の中心地として存在感を見せてきた紀伊半島。ここに今、おもしろい人が続々と集まり、おもしろいことを始めているという。

古いものを受け継いできた地域で生まれる新たなイノベーション。そこには、たくさんの“ここだからできる”“ここでしかできない”が詰まっていた。

Vol.1

Vol.2

 

紀伊半島とは?

紀伊半島は雄大な自然と歴史文化を抱えた日本最大の半島。なかでも奈良県・三重県・和歌山県にまたがる総面積1万平方メートルを超えるエリアを「紀伊地域」と呼ぶ。15市33町9村から成るこの地域には現在、約123万人が暮らし、それぞれに特色ある豊かな文化を持っている。

沿岸部は温暖な海洋性気候で、黒潮に乗ってさまざまな魚が集まる海産物の宝庫。リアス海岸が広がる北東部では、貝類や魚類の養殖が盛んだ。

一方、内陸部に広がる紀伊山地は標高1,000〜2,000メートル級の山々が連なり、清流と森林資源に恵まれた場所。有史以前から人々の信仰を集め、その足跡は「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されている。 


それぞれのストーリーを大切に
ボーダーレスな事業をローカルから
-From 奈良県五條市-

伊達 文香 さん

五條市出身。店を構える新町通りは小中高と毎日歩いた通学路だった。大学は広島に進学し、学生向けツアーでインドを訪問。インド刺繍には初めて見たときから親近感があったというが、その理由を「奈良にはシルクロードの遺産がたくさんあったから」だと分析する。

大学院在籍中にイトバナシを起業し、1年後に法人化。現在五條市に構える店舗は、元呉服屋だった空き店舗をリノベーションした。「出会う物件のストーリーも大切にして事業を考えていきたい」と語る。

昔ながらの街並みを残す奈良県五條市・新町通り。ここにインド刺繍を中心とした服と雑貨を扱う「ししゅうと暮らしのお店 奈良五條」がある。営むのは、五條市出身の伊達文香さんが代表を務める「株式会社イトバナシ」だ。

「大学時代にインドで職業訓練を行うNGO団体に出会い、在学中に何度か訪れていました。その中で刺繍をしていた女性から、インド刺繍は地域と紐づいていることや、刺繍をすると故郷を思い出すことを聞き、故郷を慈しめる手仕事の存在に感銘を受けました。そしていくつかの産地を訪れて買い集めた生地を、ストーリーごと日本に届けたいと思ったことがきっかけです」。

当初は催事などをメインに展開していたが、コロナ禍をきっかけに実店舗を構えた。それらはすべて、「あるものをよりよく使う」という行動指針に則り、空き家をリノベーションしている。

「五條市は20年ほど前から町おこしの気運があり、上の世代の方々がとてもオープンなんです。物件探しから大家さんへの口添えまで、本当に助けていただいています」。

2022年にはチョコレート専門店「chocobanashi(チョコバナシ)」もオープン。新町通りで100年続いた饅頭屋がチャレンジショップとして再生したことを聞き、お菓子文化を引き継ぎたいと思ったそう。

「夫が科学者としてカカオ豆を研究しており、インドの知人からは『カカオ農園なら紹介できる』と言われ。それならチョコレートだろう、と(笑)」。

こだわりはフェアトレードのカカオ豆を使うこと。そして、パッケージに原産国のテキスタイルをまとわせていることだ。

イトバナシ・チョコバナシの製品は、すべてにストーリーがある。「それを丁寧に伝えることが私たちの役割です」と伊達さん。作り手も使い手も無理せず豊かになれるスタイルを模索し、「ししゅうと暮らしのお店」は月3日、「chocobanashi」は週3日営業としている

「私たちが大切にする会話を重視したスタイルは、地域だからこそ生かされる。だから、今後もローカルな場所に出店していきたい」と伊達さん。

「私にとっては五條とインドはすぐ近所の感覚。行政が引いた境界よりも、事業や人の繋がりを大切に続けていきたいと思っています」。

奈良県五條市
南和地域の中心地である五條市は、市中央を吉野川が流れ、金剛山や吉野連山に囲まれたまち。大阪・和歌山・三重・奈良に繋がる5つの街道が交差し、水運の便もよい交通の要衝として発展してきた。

旧紀州街道沿いには国の重要伝統建造物保存地区に指定されている古い街並みが残り、まちづくりやリノベーションが進んでいる。

 

3500の個性が溢れるまちで、地域と外を繋げていく
-From 和歌山県すさみ町-

源口 葉月 さん

大阪府出身。コロナ禍で心身ともに疲弊していた時期に、先に移住していた知人を訪ねてすさみ町へ。町の人が生き生きと暮らす姿を見て移住を決意し、二拠点生活を経て2021年に移住。地域コーディネーターとして活動をはじめ、一年後に合同会社シェアローカルを設立した。

「すさみ町は心地いいおせっかいが溢れる場所。たくさんのおとん・おかんができました」と、住み心地を語る。

海に面した道沿いに、鮮やかなスカイブルーの建物が見える。「SUSAMI TRAVEL COUNTER FRONT 110」は、交番だった建物を再活用した、すさみ町の観光拠点だ。ネーミングやコンセプトを手掛けたのは、合同会社シェアローカル代表の源口葉月さん。2021年に大阪から移住してきた。

この日、軽トラで現れた源口さん。荷台には、クーラーボックスが積まれている。

「今、未利用魚の活用プロジェクトを進めているんです」と開けてくれた箱の中には、漁師から買い取ってきた魚が入っていた。未利用魚とは、網にかかったものの、市場で値がつかず売り物にならない魚の総称だ。

「今、すさみの漁師の数は激減し、高齢化も進んでいます。彼らが一日、一年でも長く漁師を続けられるよう、収入に結びつけたいとプロジェクトを始めました」。

現在は東京の企業と提携し、ストーリーと合わせてメニューを提供している。また、廃業した県内の水産加工会社がこの取り組みに共感し、事業承継だけでなく新たな商品開発に向けて技術提供までしてくれたそうだ。

源口さんがこれほどまで地域で動ける最大の理由は、“人”の繋がり。

「地域で必要なものは、まず信頼。私の場合は先に人と繋がれたおかげで地域のリアルを知ることができたし、何かやりたいと思ったら、すぐに人を紹介してもらえたり、協力してもらえる関係をスピーディーに築くことができました」。

観光プラン作成や未利用魚プロジェクトをはじめ、源口さんの仕事は多岐に渡る。現在は町民一人一人にフォーカスした「町民カード」を作成して人の魅力の可視化を進めるほか、地域の子どもに地域の魅力を伝えるツアーなども企画しているそうだ

源口さん曰く「すさみ町は3500人の個性が爆発する場所」。自分らしく暮らしを楽しんでいる人で溢れているという。

「今後はその魅力を可視化していくつもりです。そして、外の人はもちろん、地域の子どもたちにも、すさみにはこんなに面白い大人がいるんだ、面白い生き方ができるんだということを見せていきたい。それが、地域愛に繋がってくれればうれしいですね」。

和歌山県すさみ町
紀伊半島の南西部に位置し、眼前に太平洋を望むすさみ町。全国屈指の「ケンケン船」の基地として知られる港町で、カツオやブリなどさまざまな魚が揚がるほか、温暖な気候を活かしたレタス栽培や花卉栽培も盛ん。

近年はマリンスポーツを楽しむ人や、世界遺産に登録されている熊野古道を訪れる人も多く、観光産業にも力を入れている。


リアルイベント開催決定!!

<TURNS×スカロケ移住推進部>
紀伊半島トーク&交流会
「地域×イノベーティブ」からライフスタイルを考える 

TOKYO FMで放送中の「Skyrocket Company」とコラボしたトーク&交流会を開催!紀伊半島でイノベーティブな活動をしている3名のゲストをお呼びし、”地域との関わり方“や“地域で実現できるライフスタイル”をテーマにお話を伺います。

当日は、同番組で秘書を務める浜崎美保さんと、移住推進部部長と務めるTURNSプロデューサー・堀口正裕がファシリテーターとして参加予定です。ぜひお気軽にご参加ください!

日時:2025年1月31日(Fri.) 19:00〜
場所:SHIBUYA QWS

詳細&お申し込みはこちらから!

                   

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