サントリーみらいチャレンジプログラム

東北3県のこれまでとこれからをつなぐ
「みらいチャレンジプログラム」

【東北3県×サントリー×TURNS】
東日本大震災から11年、サントリーみらいチャレンジプログラム取材レポート

#Challenge.02

原発事故で無人になったまちをワインで立て直す。
日本一海と駅に近いワイン畑「とみおかワインドメーヌ」

小高い丘の上から180度海を見渡す「とみおかワインドメーヌ」のブドウ栽培圃場。▲小高い丘の上から180度海を見渡す「とみおかワインドメーヌ」のブドウ栽培圃場。

再び人々が集まるまちを目指して。地元の幸が生きるワイン造りに挑む

2011年から東日本大震災復興支援「サントリー東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、現地に赴き、地域の方々と共に取り組んできたサントリー。2021年、新たに「みらいチャレンジプログラム」を開始し、岩手県・宮城県・福島県の地域創生・活性化を目指して挑戦する団体・個人を、3期にわたって応援していく。今回は、第1期の助成先である福島県双葉郡富岡町の「とみおかワインドメーヌ」が取り組むワインを核としたまちづくりについて紹介する。代表兼発起人の遠藤秀文さんに、本プロジェクトにおける新たな試みと富岡町再生にかける想いをうかがった。


「サントリーみらいチャレンジプログラム」とは

サントリーグループが東日本大震災復興支援「サントリー東北サンさんプロジェクト」の一環として、東北の未来づくりのために、岩手県・宮城県・福島県で地方創生・地元活性化を目指して挑戦する団体・個人 を応援するプログラム。2024年6月までの計3期実施し、1活動100万円を上限に、総額1億円規模の奨励金を支給してサポートする。
サントリーみらいチャレンジプログラム
https://www.suntory.co.jp/company/csr/support/mirai/

 

 

避難先から集まった町人有志とともに
地域の未来は自分たちの手で切り開く

「ドメーヌ」と聞くと、車で峠を登ってやっと辿り着く山深い風景を思い浮かべるが、ここは別世界。特急停車駅から徒歩圏内というアクセス良好な立地でありながら、海までわずか180m。川もあれば山もある。ゆえに、豊かな自然の食材にもひときわ恵まれている。

小浜海岸に面し、東京電力福島第一原子力発電所が近距離にある富岡町は、東日本大震災で地震・津波・原発事故の多重災害に見舞われた。全町民が避難を余儀なくされ、誰もいなくなった。この荒涼としたまちに「とみおかワインドメーヌ」の前身である「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」が発足したのは、立ち入り規制が解除される前の2016年3月のこと。「故郷の賑わいを取り戻すために、ワイン造りに挑戦したい」。一念発起した遠藤秀文さんのもとに、町民有志10名が避難先から集まった。

小浜圃場と小浜海岸を眺望する見晴らし台。右遠くに福島第二原子力発電所が見える。
▲小浜圃場と小浜海岸を眺望する見晴らし台。右遠くに福島第二原子力発電所が見える。

地元食材との“マリアージュ”と
“テロワール(自然風土)”による環境形成

聞けば、遠藤さんも有志メンバーも全員、未経験からのチャレンジだったそう。なぜ、ワイン造りのアイデアが生まれたのだろうか?

「震災の後に思い立ったわけではないんです。高校卒業とともに上京して、2008年に35歳で戻ってくるまでの間、故郷に新しい何かを持ち帰れないかと、ずっと考えていました。アフリカ、アジア、中米などで海外赴任を経験し、そのなかで高いポテンシャルを感じたのがワインでした。ブドウ畑があれば、地域に美しい自然の風景“テロワール”が生まれます。また、ワインは魚料理や肉料理と相性が良いので、富岡の海で獲れた魚、川であがる鮭、山の養豚場で飼育された豚からつくられる良質なハムやソーセージとの“マリアージュ”も楽しめる。このように、ワインが地元の魅力とどんどんつながっていくわけです。富岡再生の核になるのは、これだと確信しました」(遠藤さん)

富岡の明るい未来構想を大きく膨らませていた矢先に、突然襲ってきた大災害。全てさらわれてしまった故郷のために、やるべきことは決まっていた。

遠藤秀文(えんどう・しゅうぶん)さんは富岡町出身。大学卒業後、東京の企業に就職して2008年に富岡町に帰郷。建設コンサルティングを主業とする(株)ふたばの経営者でもある。応急仮設木造住宅を移築・再利用した自宅にてインタビュー。
▲遠藤秀文(えんどう・しゅうぶん)さんは富岡町出身。大学卒業後、東京の企業に就職して2008年に富岡町に帰郷。建設コンサルティングを主業とする(株)ふたばの経営者でもある。応急仮設木造住宅を移築・再利用した自宅にてインタビュー。

ブドウ栽培を始めるため、手付かずになっていた町内2ヶ所の有志メンバーの土地を自分たちで切り開くところからスタート。その1ヶ月後には350本の苗を植え付けて試験栽培を開始。2年目は216本、3年目は297本を定植。圃場は徐々に大きくなった。2020年には富岡駅前にも圃場を拡張して、現在総面積は17,600㎡に。約5000本の苗木が成長している。

杉林を切り開いた小浜圃場。2016年に6aだった圃場は現在44aまで広がった。伐採した杉材は遠藤さんのオフィス建設資材に再利用。森林資源を無駄にせず、有効に活用した。
▲杉林を切り開いた小浜圃場。2016年に600㎡だった圃場は現在4400㎡まで広がった。伐採した杉材は遠藤さんのオフィス建設資材に再利用。森林資源を無駄にせず、有効に活用した。

塩害リスクに晒される沿岸部でのブドウ作りは困難も多かったと振り返る遠藤さん。栽培開始から4年目でようやく初収穫まで漕ぎ着けた。ワインの完成までにかかった時間は実に5年。ブドウ栽培の生産量は年々着実に増え続けている。

「海風を浴びて育ったブドウからつくられる『とみおかワイン』は、海の潮の香ばしさとミネラル感のある味わいが特長です。現在は、赤白合計11品種のブドウを栽培していますが、まずは、富岡の海産物にマッチする白ワイン用のシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョの3種をしっかり根付かせていきたいですね」(遠藤さん)

左からソーヴィニヨン・ブラン(白)、メルロー(赤)、シャルドネ(白)。ラベルには、小浜圃場の風景と、小浜海岸のシンボル・蝋燭岩が描かれている。クラウドファンディングで先行販売中。
▲左からソーヴィニヨン・ブラン(白)、メルロー(赤)、シャルドネ(白)。ラベルには、小浜圃場の風景と、小浜海岸のシンボル・蝋燭岩が描かれている。クラウドファンディングで先行販売中。

初収穫には避難先から帰還した子どもたちや、全国からボランティアも駆けつけた。
▲初収穫には避難先から帰還した子どもたちや、全国からボランティアも駆けつけた。

毎年収穫期には各地からボランティアが集まってくる。昨年9月のシャルドネの収量は約300kgに及んだ
▲毎年収穫期には各地からボランティアが集まってくる。昨年9月のシャルドネの収量は約300kgに及んだ。

「富岡にもう一度訪れたい」を喚起させる体験交流拠点づくり

原発事故避難区域でのブドウ栽培は開始当初、周囲から無謀な挑戦と言われても仕方なかった。しかし、6年間活動を続けていくうちに、全国各地から応援してくれる仲間が集まってきた。今年入職した細川順一郎さんもその一人。ワインの先進地・山梨の醸造所で長年経験を積んできたワイン造りのエキスパートだ。経験が浅い職員やボランティアにブドウ栽培の知識や技術を伝授しながら、畑の管理から醸造まで、ワイン生産の全業務を統括している。

「とみおかワインドメーヌを知ったきっかけは友人の紹介です。遠藤代表の話を聞いて、ワインでみんなを笑顔にしたいという本気が伝わってきました。畑を見せてもらうと、海が広がる風景にひと目惚れ。私のスキルを活かしてこの町の力になりたい、もっとワインで人に感動を与えたいと、富岡にやって来ました」(細川さん)

さまざまな人たちと出会い、協力を得てワイン製造を成し遂げた遠藤さんたちは今、サントリーみらいチャレンジプログラムで、ワインを通じた地域交流拠点づくりに臨んでいる。

「助成金は富岡駅前の圃場整備と苗木の購入などに充てさせていただきました。駅から徒歩3分という稀有なロケーションは、地域外から多くの人を呼び込むことができるでしょう。一般の方がワイン造りを体験できるイベントを開催したり、富岡の食材をワインと味わってもらえるシチュエーションを提供して、交流人口を増やしていきたいと考えています」(遠藤さん)


▲細川順一郎(ほそかわ・じゅんいちろう)さんは静岡県浜松市出身。ワインの本場・山梨県のワイナリーで栽培から醸造、マーケティングまで経験した後、2022年からとみおかワインドメーヌ に入職し、統括リーダーに着任。ソムリエの資格も持つ細川さんは頼れる存在だ。

富岡駅前の「駅東圃場」。ボランティアの方々と通過する電車に手を振り、富岡町の印象を残す。乗客も手を振り返してつかの間の交流を楽しむ。
▲富岡駅前の「駅東圃場」。ボランティアの方々と通過する電車に手を振り、富岡町の印象を残す。乗客も手を振り返してつかの間の交流を楽しむ。

ワインの木は、数十年後、100年後を生きる次の世代へのおくりもの

遠藤さんは、富岡には眠ったままの資源がまだまだたくさんあると考えている。

「例えば、奇跡的に津波に流されなかった川岸のケヤキの木は、震災遺構として災害の記憶と教訓を後世に伝えるばかりでなく、木の下でワインを飲める気持ちいい場所になります。富岡川で鮭が上がる9月は、ちょうどブドウの収穫の時期なので、収穫祭と鮭祭りをセットにして、富岡特有の観光産業にすることもできます」(遠藤さん)

「とみおかワインドメーヌ」の真の目的は、ただ美味しいワインをつくることではなく、ワインでさまざまな人と人、人とものを結びつけること。そして、新たな観光、文化、雇用、移住を創出して、地域の持続可能な産業をつくっていくことだ。

「ブドウの木は100年生き続けるといいます。100年前に私たちが植えた苗が、数十年後、100年後にワインとなって、次の世代、次の次の世代を笑顔にすることができる。サントリーみらいチャレンジプログラムでの活動を通して、永続的な地域発展の基盤をつくる役目を果たしていきたいと思います」(遠藤さん)

ケヤキの木陰で料理とワインに舌鼓を打つ大人たち。魚を釣ってはしゃぐ子どもたちの姿。観光客をもてなす町民たちの笑顔。遠藤さんの瞳の中に、そんな美しい富岡の未来の風景を見た。

駅周辺は津波の被災エリアで集落が丸ごと流されてしまったが、川岸に生えていた五本のケヤキは津波に耐えた。震災後、河川増幅工事のため切り倒す計画があったが、遠藤さんが国土交通省に直談判して残してもらった。
▲駅周辺は津波の被災エリアで集落が丸ごと流されてしまったが、川岸に生えていた五本のケヤキは津波に耐えた。震災後、河川増幅工事のため切り倒す計画があったが、遠藤さんが国土交通省に直談判して残してもらった。

福島大学果樹園芸学研究室のブドウ栽培研修の様子。座学も含めてシーズンごとの作業を指導。次世代の人材育成にも力を入れている。
▲福島大学果樹園芸学研究室のブドウ栽培研修の様子。座学も含めてシーズンごとの作業を指導。次世代の人材育成にも力を入れている。

「冬眠から目を覚ました苗は、根から水を吸い上げるので、せん定した切り口からこのように水が出てきます。私たちはこの水滴で、春が来たことを感じるのです」と教えてくれた職員の大島遊亀慶さん。現地で実物を見ることで、初めてわかることも多い。
▲「冬眠から目を覚ました苗は、根から水を吸い上げるので、剪定した切り口からこのように水が出てきます。私たちはこの水滴で、春が来たことを感じるのです」と教えてくれた職員の大島遊亀慶さん。現地で実物を見ることで、初めてわかることも多い。


サントリーとTURNSでは今後もWEB記事やイベント等を通じ、東北の生の情報を発信していく計画だ。
地域再興を目指して東北3県で展開されていくサントリーの「みらいチャレンジプログラム」の取り組みを、TURNSでも順次紹介していく。少しでも興味を惹かれたプロジェクトは、まず自身のSNSで発信してみるなど、なんらかの方法で関わってみよう。そのアクションの集積が東北復興の確かな支えになるはずだ。

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写真・中島悠二、細川順一郎(とみおかワインドメーヌ)

                   

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