100年にわたり、地元住民のアイデンティティとして愛され続ける宮城県南三陸高等学校(旧:宮城県志津川高等学校)。
「高校を守りたい」という思いから始まった
「kizuna留学生」制度によって全国から集まった生徒たちは、地域の自然や人とふれあいながら、新たな視点で町の魅力を発見し、発信している。
町唯一の高校を守りたい。
官民一丸となってはじまった「kizuna」留学生の受け入れ
南三陸町 佐藤仁 町長 インタビュー
南三陸町唯一の高校・宮城県南三陸高等学校が、2023年4月から「kizuna留学生」として生徒の全国募集を開始しました。県の公立高校としては初の試みで、初年度は5人、2年目は2倍となる10人が入学。留学生制度の取り組みや、未来の南三陸町への想いなどを、佐藤仁町長に聞きました。
—全国から留学生を募集に至った経緯を教えてください。
最初のきっかけは、「危機感」でした。東日本大震災で被災し町全体が壊滅。子育て世帯が町外へ住まいを移したことで子どもの数が激減し、町で唯一の高校が統廃合の危機に直面したのです。学校がなくなると、まちの衰退は一気に進みます。なんとかそれを防がねば、という思いでした。
—生徒を集めるために工夫されたことはありますか?
まずは全国の自治体へ足を運び、先進事例を視察しました。そこで、成功している学校はきちんとした寮を整備していることに気づいたのです。それまではイニシャルコストを抑えるために、里親制度を利用しようかと考えていましたが、そういったところに人は集まっていません。そこで、かつて復興作業員が利用していたビジネスホテルの建物を、バス・トイレ付きの個室や食堂、自習室などを備えた学生寮「旭桜寮」として再整備しました。
—1年目は5人、2年目は10人の留学生が入学しました。この反響についてどう思われますか。
全国募集をしている高校は全国にありますから、正直集まってくれるか不安はありました。だから、これほどの生徒が当町に来てくれて本当に嬉しく思います。「震災から立ち上がってきた町民と一緒に生活しながら、防災を学びたい」と話してくれる学生が何人もいます。震災から13年が経過し、今の中高生に震災を経験した記憶のある子はほとんどいません。それでも選んでもらえた。これは非常に意義のあることだと感じています。
—震災や防災に対して、意識の高い生徒が集まってきていると感じます。
そうですね。ただそれだけではなく、地域が一体となって生徒たちの受け入れ体制を整えてくれたことも大きいです。全国募集を始めるにあたり、町民の皆さんが「南三陸高校を応援する会」を立ち上げてくれました。留学生を含めた南三陸高校の生徒たちと一緒に、芋煮やBBQなどの交流会を開催してくれて。生徒と町民の距離がぐっと近くなったと思います。
—それだけ、町民の方にとっても南三陸高校がアイデンティティになっていたのでしょうね。
志津川高校の頃から数えると、100年間この町にありますからね。地域をあげて子ども達をお迎えしています。私自身も、15人全員の身元引受人になっています。孫が15人いるようなものですね。
南三陸町を第2の故郷に
—今後、留学生たちに何を期待しますか?
町内のイベントに参加したり、地元企業と連携してアイデアを出したりと、留学生たちはさまざまな活動をしてくれています。それが、町民の皆さんにとっても良い刺激になっているんです。子ども達にはぜひ、どんどん町へ出て、彼らの目線を大事にしながら町民の皆さんと積極的に関わってもらいたいですね。そして願わくば「第2の故郷」として、この町に根づいてくれたら嬉しいです。
—留学を検討している子どもや保護者へメッセージをお願いします。
当町は、瓦礫だらけのところから再び立ち上がったまちです。町民の皆さんも、いろいろな想いを抱えて今を生きています。そうした場所で生活することは、きっと人生に良い影響を与えてくれると信じています。どうぞ若い皆さんに来ていただいて、素敵な青春の3年間を過ごしてもらえればと思います。
町は子どもから活気をもらい、子どもは町で学びを得る。留学生制度によって相乗効果が生まれ、今後さらなる町の発展につながることが期待されている。
※PART2では5月に行われた台湾の高校生との交流会のレポートや授業の特色、さらに留学生の対談を掲載します!
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広がる海と自然。南三陸町はこんなところです
1.道の駅「さんさん南三陸」
道の駅「さんさん南三陸」は、平成29年3月に先行して開業した「南三陸さんさん商店街」と、令和4年10月開業の東日本大震災伝承館「南三陸311メモリアル」、観光交流施設「南三陸ポータルセンター」、そして「JR志津川駅」を含む交通拠点施設が一体となった、複合型の交流拠点。
2.南三陸311メモリアル
災害の恐ろしさを、命を守り抜く難しさを、突然の別れの悲しさを、そして、あきらめずに立ち上がり支え合って生きる喜びを。南三陸311メモリアルは、映像コンテンツを通して南三陸住民の声に耳を傾けていただきながら、自らと向き合い、語らい、学び合うみんなの広場。
3.神割崎キャンプ場
朝は水平線から昇る綺麗な「日の出」、昼は清々しい青のコントラスト、夜は幻想的な「月の出」や満天の星空。海が隣接するキャンプ場だからこその景色を楽しめる。キャンプ場利用者のキャンプスタイルはInstagram「#神割崎キャンプ場」で検索できる。
4.うみべの広場(モアイ像)
道の駅「さんさん南三陸」から南に徒歩3分。志津川湾を一望できる場所に緑の芝生が鮮やかな多目的広場と、志津川湾を背に2体が並んで鎮座するモアイ像に出会える「うみべの広場」がオープン。「なぜ南三陸にモアイ像が?」。その答えはぜひ現地でお確かめください。
5.サンオーレそではま海水浴場
ラムサール条約の登録湿地でもある志津川湾内に位置し、全長300mの砂浜が由来となり名付けられた人工海水浴場。静かな渚と透明度の高い綺麗な海は、シュノーケリングなども楽しめる環境。この環境を守っていくために、ビーチクリーンや環境教育活動等を取り入れ、国際環境認証「ブルーフラッグ認証」を取得している。
6.田束山(たつがねさん)
古くから山岳信仰の霊山として人々の信仰を集めてきた田束山。町内屈指のビュースポットの1つとしてリアス海岸特有の海岸美と、太平洋を一望できる。5月上旬から中旬にかけては山ツツジが咲き誇り、山頂付近は燃えるような朱色に染まる。
文・岩崎尚美 写真・窪田隼人
宮城県南三陸高等学校 「kizuna留学生」たちが第2の故郷、南三陸町の未来をつなぐ PART2