宮城県南三陸高等学校 「kizuna留学生」たちが第2の故郷、南三陸町の未来をつなぐ PART2

100年にわたり、地元住民のアイデンティティとして愛され続ける宮城県南三陸高等学校(旧:宮城県志津川高等学校)。
「高校を守りたい」という思いから始まった「kizuna留学生」制度によって全国から集まった生徒たちは、地域の自然や人とふれあいながら、新たな視点で町の魅力を発見し、発信している。
第2回目は台湾の嘉義県立竹崎高級中学との海を超えた交流の模様と、「kizuna留学生」のインタビューをお届けします。


コンパクトなまちだからこそ
新たな風が
大きな変化をもたらす

台湾との定期的な異文化交流

 取材に訪れた5月22日、嘉義県立竹崎高級中学(台湾)から56名の生徒が来校し、交流会が開催された。琵琶や二胡など中国の伝統的な楽器を用いて、台湾の民謡から日本のアニメ主題歌まで幅広い楽曲を演奏。南三陸高校(以下、同校)の生徒たちは、見事な演奏に聴き入っていた。終盤は、同校の音楽部も交えて「チキチキバンバン」を熱演。曲に合わせ、先生から生徒までその場に居合わせた全員が思い思いに踊り、交流を深めた。プログラム終了後は、台湾と日本の生徒が抱き合って思いを語らう場面が見られるなど、国を超えた関係性が育まれている様子が伝わってきた。次回は同校の生徒約15名が台湾へ渡り、ホームステイなどを体験する予定。

 台湾と南三陸町の交流の発端は、東日本大震災まで遡る。市街地を襲った津波によって町は公立志津川病院を失ったが、病院再建にかかる事業費の約4割にあたる義援金を寄せてくれたのが台湾だった。そこから台湾との友好関係がスタートし、これまでに同町を訪れた生徒は1000名以上。2020年2月には、嘉義県立竹崎高級中学と旧志津川高校が姉妹校締結を結んだ。コロナ禍もオンラインでの交流は継続し、実に4年ぶりとなる2023年6月、再び対面での交流が実現。校名変更に伴い、新たに姉妹校締結を行う運びとなった。

南三陸町高校魅力化プロジェクトの推進

 震災を経て少子化が急激に進み、統廃合の危機に晒された同校だったが、2023年から留学生制度を開始し、着実に生徒数を増やしている。実は10年近く前から、町をあげて高校を存続させるためのプロジェクトを進めてきた。「南三陸町高校魅力化プロジェクト」と題し、①公営塾の設置②生徒の全国募集③学校設定教科を含むカリキュラム設定、の3つの柱を立てたのだ。

 このうち、先行して2017年にスタートしたのが公営塾「志翔学舎」。学力向上を目的として校内に開設された施設で、在校生に対し無料で個別の学習サポートや進路相談、就職支援などを行っている。施設には1〜2名のスタッフが常駐し、生徒はわからないことを質問したり、自習スペースとして使ったりと自由に利用できる。読書や生徒間での交流に利用されることも多く、生徒にとって家庭・学校以外の「第3の居場所」としての役割も担っている。
カリキュラムにも特色がある。同校ではプログラミング教育に力を入れており、2016年にはドローンを使った学習を導入。高校生自身がプログラムを組み、考えた通りにドローンを動かす学習を行っている。また2022年には、日本の高校では初となるLinux(リナックス)アカデミックパートナーに認定された。IT系資格の取得支援も積極的に行い、これからの時代を牽引するIT人材に求められる最先端の知識や技術を習得できる環境を整える。

 生徒たちが地域の企業や行政と協力し、地域課題を発見し解決策を考える「地域学」も特徴的な取り組み。これは自己実現力や課題解決力、コミュニケーション力などの力を伸ばし、どのような分野でも活躍できる「地域起業家精神」を持つ人材の育成を目的としている。これまでに町の商工観光課をはじめ、林業や水産加工事業者などと連携。町の魅力を伝えるラップ動画の制作や、町の名産品を活用したSNS映えする海鮮丼の企画などを行っている。

左・プログラミング教育  右・志翔学舎

地域学・地域探究学 この日の地域探究学は南三陸町で林業を営む企業「株式会社佐久」を講師に招いて、森林の有効活用について学んだ

 親元を離れ、なぜ遠く離れた南三陸町で学ぼうと考えたのか。留学生たちに話を聞くと、目的は主に3つに大分される。まずは「風光明媚な景観」、次が「最先端の情報スキルを得る」、3つ目が「防災を学ぶ」だ。関東出身の留学生が大半を占めており、豊かな自然に惹かれて入学を決めたという声が多く聞かれた。津波の被害を受けたことから海のイメージが強い同町だが、山も川もあり、四季を通して美しい景観が楽しめる。自然や生き物が好きだという生徒は、「自然科学部」に所属し、日々自然とふれあいながら楽しく過ごしているという。全国募集を行う他の高校と比較して、どの点に惹かれたのか聞くと、「人の温かさ」や「設備の充実度」をあげた生徒が多かった。とくに設備については、学生寮に個室があること、きれいに整備されていることが決め手となったという声も多く聞かれ、町が全力で受け入れ体制を整えてきたことが奏功したようだ。被災からの復興を経験したまちであること、さまざまな地域課題を抱えていることから、まちづくりに深く関われることを魅力として挙げる生徒も多い。

 

留学生が地域に新たな風を吹き込み、かき混ぜる

 2023年度から校長を務める難波智昭先生は、実は教員として同校に赴任したのが1993年。その後数年を経て、教頭、校長として、約10年にわたり同校の変遷を見守ってきた。難波先生が教員として赴任した頃は、1学年あたり6クラスあるほど生徒数が多かったが、その後少子化の影響でどんどん生徒数が減り、震災直前には3クラスにまで減少。震災後はさらに減少し、存続の危機にまで陥った。そこで留学生の受け入れを始めたところ、さまざまな相乗効果が生まれているという。この町で生まれた子ども達は幼稚園から高校までほぼ同じ顔ぶれで過ごすため、人間関係が固まってしまい、少なからず閉塞感があった。そこに留学生が入ることで、固まった空気を「かき混ぜる」役割を担ってくれているというのだ。難波先生は、「地元の子が当たり前に感じていることも、外から来た子にとってはそうじゃない。『どうせ田舎だし』『どうせ自分の立ち位置はこうだし』と凝り固まっていた価値観が、良い意味で壊される。それによって自信や可能性が生まれる、たくさんの化学反応が起こっていると感じます」と話す。

 加えて、地域学などを通じて地元の人たちと密な関わりを持てるのも、同校の魅力だ。地域課題の解消を共に目指す過程で、それまで両者間に存在していた隔たりが消えていく。

 生徒たちの活動や考え方を間近で見聞きすることで、町民からは「思っていたよりもずっとしっかりしているね」という声が聞かれるようになった。生徒たちにとっても、異なる年代の人たちとのコミュニケーションは人間的な成長を促進し、プラスになっている。

「IT教育や地域学、防災教育などを通して、目標に向かって頑張るための環境、フォロー体制をしっかりと整えています。コンパクトな町であり、少人数な学校だからこそ、1人ひとりに手の届くきめ細やかな指導ができると自負しています」

 震災を乗り越え新しく生まれ変わった南三陸高校でこそ得られる、唯一無二の体験がきっとあるはずだ。

 

文・岩崎尚美 写真・窪田隼人


地域みらい留学 現役生×卒業生対談

「町全体が、留学生を優しく迎え入れてくれている」

「地域みらい留学」によって留学生本人、そして受け入れ側の生徒や町が変わったこととは?かつて「地域みらい留学生」として島根県立隠岐島前高等学校で3年間を過ごし、現在はTURNSのコーディネーターとして活躍する鈴木優太が、〝留学生〟の伊藤芽衣さんと〝迎える側〟であり先輩の山内万桜さんにお話を聞きました。

鈴木「伊藤さんはどちらで南三陸高校の地域みらい留学の制度を知ったのですか?」

伊藤「私は山形県鶴岡市の出身なんですが、修学旅行で南三陸町に来たことがあって、とても印象に残っていたんです。進路として留学を検討して、というよりは『とにかく南三陸町に行きたい!』という気持ちが強かったですね」

山内「私はずっと南三陸町育ちなのですが、ここは震災で電車がなくなり、仙台に出るのもバスで時間がかかったりする場所なので、最初は『こんな不便なところによく来てくれたな』と驚きました(笑)。でも、その分、とても嬉しかったですね」

左・宮城県南三陸高等学校 2年生 地域みらい留学 現役留学生 伊藤芽衣さん

右・宮城県南三陸高等学校 3年生 山内万桜さん

 

鈴木「伊藤さんは南三陸町のどこにいちばん惹かれたのでしょう?」

伊藤「中学校のとき、防災教育で震災のことなどを習っていたので、どこか重いイメージがあったんですが、実際に来てみたら町の人がとても元気で活気があって、ギャップがあったんです。私はまちづくりに興味があったので、どうやったらこういった町ができるんだろう?と興味が湧きました」

鈴木「南三陸高校に来てみたときの印象はどうでしたか?」

伊藤「留学生を募るきっかけが生徒の減少と知ってたので、勝手に廃校寸前の高校を思い描いていたのですが、こちらも町と一緒で、入学式からみなさんが明るく受け入れてくれて、イメージと全く違いましたね(笑)」

TURNSコーディネーター 鈴木優太

鈴木「南三陸高校の授業は、どんなところに特徴がありますか?」

伊藤「私のいる『情報ビジネス科』は町にどんどんくり出していって、様々な実践をするんです。町の人も協力してくれて、町全体がやさしく県外から来た人を受け入れてくれているなぁ、と感じます。やるほどに南三陸を知って、どんどん好きになっていきますね」

鈴木「そういった授業は、地元出身の生徒さんも南三陸町を見つめ直すきっかけになっているんじゃないでしょうか?」

山内「私はここにしか住んだことがないので、留学生の皆さんとは見てきたものも、感じ方も違います。いろんな地域の人が来てくれると嬉しいし、もっと繋がりたいですね」

鈴木「僕も神奈川県から海士町の高校に留学生として行った時は生活が全然違ってギャップだらけでしたが、だからこそ毎日が新鮮でした。外から来た人が新たな魅力を発見し、共有して、お互いさらに南三陸町を好きになっていけたらいいですね」

伊藤「それと、生徒の数が少ないので、先生と生徒の距離も近いのも、いい刺激になっています」

鈴木「僕も高校は少人数だったので状況は似ていますが、ここは生徒と先生の関係がもっと親密で、とてもいい関係ができているなと授業を見て思いました。授業以外でまちの人との触れ合いはありますか?」

伊藤「南三陸町は移住者が多くて、私たちがイベントをやるときは手伝ってくれますし、一緒にボランティアや、商店街で募金活動をしたりと、町の外から来た人も一緒になって、行動することが多いです。みんなで南三陸を盛り上げようという勢いがありますね」

鈴木「最後にいま、地域みらい留学に興味をもっている人にメッセージをお願いします」

伊藤「実は私は出願締め切りの2日前に地域みらい留学制度を知ってギリギリに申し込んだんです(笑)。なのでオープンキャンパスも参加できず、下準備がなかったのですが、それでもすぐに南三陸町に馴染めて、楽しい学校生活を送っています。なので、少しでも気になったら、気軽に学校を見に来てほしいですね」

山内「留学生が来てくれて、触れ合えることを、私たちもとても嬉しいと思ってます。今の学校生活を楽しんでる人も、そうじゃない人もいると思いますが、ここでは、どんな人も取り残したり、一人きりにしたりしません。是非、南三陸に来てください!」

写真・嶋脇佑


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