【青森県弘前市×JAL】リンゴ園での農業体験を通じて、弘前のファンづくりを

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リンゴの収穫などを体験した202311月のワーケーションに続き、1212日〜1215日にも青森県弘前市で4日間にわたり、モニターツアーが開催された。 

参加者は、前回のツアーにも参加した日本航空株式会社や株式会社ジャルパックの6人。部署も年代も異なるメンバーが集まり、ワーケーションを体感することで、社内にワーケーションを広めていくこと、弘前での農業体験を通じて地域と連携した持続可能な取り組みを生み出すことを目的にしている。 

4日間の日程のなかで、リンゴの袋詰めや選果場の見学、地域活動に熱心に取り組むキーパーソンとの交流などを実施。最終日には弘前市の若手職員たちと、JALグループとしてどんな新たな取り組みが行えるか、意見交換会も開催された。 

▼第一回目のレポート記事はこちら!
https://turns.jp/91274

 

1日目:コラーニングスペースで地域プレイヤーと交流 

ワーケーションの初日、羽田から青森空港に降り立った6人は、バスで1時間ほどかけて弘前市内まで移動。「弘前駅」近くにあるコラーニングスペース「Heart Lighting Station 弘前」(HLS弘前)へ。こちらを運営し、弘前のまちづくりにも積極的に関わる「まちなかキャンパス」代表の辻 正太さんに、HLSの設立の経緯や活動内容などについて話を聞いた。 


辻さんは、愛媛の今治からオンラインで参加 

奈良の吉野で生まれ育った辻さんは、埼玉で体育教師として11年間、子どもたちと熱い日々を過ごす中で、「学校の中だけでは、これからの時代を生き抜く人材を育てることは難しい」と危機感を抱くように。「多様な人が関わり、学び合うような『まちの学校』がつくりたい」と、教育現場を飛び出すことを決意。東京のコンサルティング会社を経て、2016年、奥さんの実家からほど近い青森県弘前市に移り住んだ。 

HLS弘前」をオープンしたのは、20174月のこと。その運営を手がける中で、知人に誘われて参加したオンラインセミナーを通じて、サッカー元日本代表監督の岡田武史さんと巡り合い、愛媛県今治市にあるFC今治のホーム「今治里山スタジアム」を拠点とした、「FC今治高校里山校」の開校準備を手がけ、2024年の開校後は校長に就任することに。現在は、弘前・今治・東京の3拠点で活動している。 

 

HLS弘前を拠点に、年間100本以上のイベントを開催 

「弘前に来たのは2016年のこと。最初の9カ月間はとにかくまちを歩き回り、地域の大学生や市の職員、地域で働く方など、いろいろな人に声をかけまくり、『まちの学校』づくりに関わってくれる仲間を増やすことに注力しました。 

HLS弘前をオープン後、まず立ち上げたのは『金曜の夜は、ふらっと』というイベントです。参加者が食べ物や飲み物を持ち寄り、学生から公務員、地域で働く方々までが肩書きを忘れて、フラットに話し合える場を作りたかったんです」(辻さん) 

それ以降も、全国からアントレプレナーを招いた講演会や、毎週水曜日、朝630分から朝ごはんを食べながら「地域×教育」について語り合う「朝活」、「スパイスカレー研究会」など、年間100本以上のイベントを開催。世代や地域を超えて多様な人が集まり、ともに学び合う場を創り出そうと努めてきた。 

「地域とともに取り組んでいる一番大きなプロジェクトは、『まちなかキャンパスプロジェクト』(通称:まちキャン)です。これは、弘前市と弘前大学、HLS弘前が協働して、10年後の弘前を引っ張っていく人材を育成しようとするプログラム。市内・県内の企業に大学生がインターン生として1カ月半ほど入り、地域の企業が抱える課題解決に取り組むというもの。学生たちは参加することで大学の単位も取得できます。 

これまでに、53社・98名が参加してくれて、『まちキャン』をきっかけに地元企業への就職を決めた学生や、東京など県外から参加してくれた学生なども出ています」(辻さん) 

この他、HLS弘前では、弘前の高校生を対象とした放課後まちづくりクラブ「STEP」を開催。また、HLS弘前の2階では、ママやパパが子育てを楽しみながら、やりたいことにも全力で取り組めるコラーニングスペース「cotto(コット)」も運営している。こうした辻さんの幅広い活動について話を聞いた後、質疑応答が行われた。 

 

<質疑応答> 

Q 年間100本以上のイベントのテーマ作りは、どのように行っていますか。
  何かコツはありますか? 

辻さん「実は、入念に企画をしてということは、ほとんどなくて。大半が人との出会いや、思いつきから生まれています。例えば、参加した講演会の内容が面白かったら、『ぜひ弘前の皆さんの前でも話してほしい』とすぐに思ってしまうので、その場で講演依頼をすることもあります。 

心がけているのは、教育や子育て、起業などにテーマが偏らないようにすること。誰もが参加しやすい食をテーマにしたイベントや、『関西弁の日』などのゆるい会も開催し、できるだけ多様な人が集う場になるよう考えています」 

 

Q ジャルパックではワーケーションサイトを運営しているのですが、 魅力あるサイトにするためには、どんな内容が必要だと思われますか? 

辻さん「受け入れる側として感じるのは、ワーケーションに来る方は、観光というよりも、地元の人の日常を体験したいと思われているところ。高級なレストランよりも、まちの人が集う居酒屋や定食屋に行きたいというニーズが高い気がします。ですから、そういった情報や、ディープなまちを案内できるコンシェルジュ的な人や団体を合わせて紹介し、マッチングするようなコンテンツがあると、より魅力が増すのではと思います」 

Q 地域活動に学生を巻き込むコツとは? 

辻さん「移住当初は、弘前にツテも何もなかったので、自分の強みの一つであるサッカーを活かして、フットサル場に何度も通い、学生たちと一緒にサッカーをした後に声をかけたり、地方創生に関する会議などに積極的に顔を出し、参加していた学生と話をしたり、ひたすら足で稼いでいました。今では、HLS弘前の運営自体にも学生が携わっており、学生が学生を呼び込んでくれるいい循環が生まれています」 

辻さんの話を聞いた後には、HLS弘前の2階にある、おやこコラーニングスペース「cotto」を見学。それ以降は、各自のワーク時間に。コワーキングスペースやラーニングスペースとしても利用できるHLS弘前で、仕事を行う参加者もいた。 

 

■Heart Lighting Station 弘前(HLS弘前)
https://hls-hirosaki.com/ 

 

2日目:リンゴ農家で「袋詰め」を体験。夜には懇親会も! 

2日目は、朝から「中央弘前駅」に集合し、弘南鉄道大鰐線というローカル線に揺られて、リンゴ園を営む農業法人「みらいファーム・ラボ(株式会社小栗山農園)」へ。弘南鉄道は、“りんご畑鉄道”の愛称で親しまれるとおり、全国でも珍しいリンゴ畑の中を走る鉄道で、1011月には車窓から、枝に鈴なりに実ったリンゴを眺められる。 

弘前のモニターツアーに参加した6人は、11月にも「みらいファーム・ラボ」を訪れ、リンゴの収穫を体験。それに続き今回はなかなか体験できない、リンゴを出荷するための「袋詰め」作業を行った。参加者が袋詰めしたリンゴは、実際に岡山のスーパーなどに出荷される。袋詰めの方法を教えてくれたのは、みらいファーム・ラボのパブリシティマネージャーの高村瑞穂さんと、一戸小希子さんだ。 


袋詰めの方法をレクチャーする「みらいファーム・ラボ」の一戸さん(中央) 

高村さん・一戸さん「袋の一番下にはサイズが大きめなリンゴを、中央の表側=商品の顔になるところには、赤みが濃いリンゴを入れます。上には少し小ぶりなものを入れると、封が閉じやすいです。こういった生キズやツル割れ、茶色い点などがあるものは加工用に回しますので、キズがないかぐるりと見てチェックしてくださいね」 

そう教わった6人は、2組に分かれて早速袋詰めをスタート。最初、参加者が苦戦していたのは、6個のリンゴのバランス。サイズが大きなものばかりを詰めてしまうと、最後に封が閉じられなくなってしまう。また、出荷できないキズを見分けるのが難しく、高村さんや一戸さんに確認しながら、丁寧に作業を進めていった。 

12時過ぎには昼食を、15時にはお茶休憩を挟みながら、ひたすら袋詰めを行った。リンゴが傷むのを防ぐため、作業中も暖房はつけられない。底冷えする倉庫での作業はなかなか大変なものだと、参加者6人は実感していた。 

休憩中には高村さんに、女性を中心にリンゴを栽培する「みらいファーム・ラボ」の思いについて話を聞くことができた。 

「みらいファーム・ラボ」の高村さん(中央) 

「『みらいファーム・ラボ』は、120年続く個人農家が、2019年に法人化して誕生したリンゴ農園です。私や一戸といった女性スタッフが中心となり、5ヘクタールのリンゴ園で40品種を育てています。私は、農水省の『農業女子プロジェクト』にも参加。女性でも、若手でもリンゴ栽培ができることを発信することで、若い新規就農者が増えるきっかけになればと願っています。 

“農業は肉体労働で大変”というイメージを少しでも払拭するために、光センサーを内蔵し、糖度や濃度、内部品質、色味や大きさを自動判別する『選果機』や、月面探査機の技術を活かした『リンゴ運搬ロボット』などの導入も進めています。最先端の技術を積極的に取り入れ、省力化や効率化を図っていきたいと考えています」(高村さん)

2023年には、農業について学びたいという大学生を、約1カ月半にわたり受け入れたのをはじめ、インバウンドの観光客を中心とした農作業体験や、JALグループの他にも企業のワーケーションの受け入れも行った。 

「収穫や摘果の作業を体験し、リンゴが作られる過程を知ってもらうことで、青森産のリンゴをはじめ、弘前のファンになっていただけたらうれしいですね。私たちにとっても、さまざまな業種や地域の方々と交流することは、とてもいい刺激になります」(高村さん) 

そう話す高村さんは、約4年前に神奈川県から移住し、リンゴ農園で働きはじめた。「リンゴ作りを学びたい、弘前に移住して農業を始めたいという方がいたら、ぜひ研修の受け入れも行っていきたいと考えています」 

こうして袋詰めの作業は、16時前に終了。最後は参加者と高村さん、弘前市観光部の漆舘 正さんとで記念撮影を行った。 


参加者全員で記念撮影。写真上段左が弘前市観光部の漆舘 正さん 


外では大粒の雪が降っていた 

■みらいファーム・ラボ
https://miraifarmlabo-koguriyamanouen.com/ 

2日目の夜には、弘前市の中心部にある「アジアン・エスニック 弦や」にて、懇親会が開かれた。懇親会には、「みらいファーム・ラボ」の高村さん、一戸さんや、弘前市観光部の漆舘さん、加藤吉晃さん、一般社団法人Clan PEONY 津軽(クランピオニーつがる)の渡邊幹人さんが参加。青森県産食材をふんだんに使った創作アジア料理を味わいながら、弘前へワーケーションに訪れた感想や、弘前のまちの魅力などについて語り合った。 

「弦や」では、津軽に約400年前から伝わる幻の唐辛子「清水森ナンバ」の栽培から手がけている。その豊かな風味と穏やかな辛さが特徴の「清水森ナンバ」を使った、グリーンカレーも堪能した。懇親会の終盤には、弘前を訪れて農作業を体験した感想などをシェアし合った。 

清水森ナンバを使ったグリーンカレーとレッドカレー 

<農作業を体験した感想> 

11月にリンゴの収穫を体験させていただき、本当に手がかかっていることや、リンゴにはいろいろな種類があること、大切に出荷されていることなどを実感しました。これまでリンゴに特別な思い入れはありませんでしたが、前回のワーケーションに参加してからは、東京に帰ってからもリンゴを目にすると何の品種かな? と気にするなど、自分の中で大きな変化がありました。 

今日の袋詰めも、バランスを取るのがなかなか難しかったですが、とても貴重な体験をさせていただきました。本当にありがとうございました!」(塚田さん(JALPAK)) 

「前回、リンゴの収穫を体験した際にも、お土産にリンゴをいただいて家族で食べたところ、新鮮で中に蜜も入っていて本当においしく感動しました。それまでは、何気なくリンゴを買っていましたが、産地や鮮度を見て選ぶようになりました。農作業も体験させてもらい、地道な作業の積み重ねであることを知りました。ぜひ、他の社員にも、弘前でのワーケーションをすすめたいと思っています」(上村さん(JALPAK)) 

「私は秋田県出身で、弘前のまちも地元と近い雰囲気かなと思っていたのですが、来るたびに新しい発見があって、とても楽しく過ごさせてもらいました。ワーケーションを通じて弘前に知り合いもできましたので、個人的にも足を運んで、またリンゴの作業をやらせていただきたいと思います。ありがとうございました!」(西野さん(JAL)) 

「これまで、何度か弘前市内を通って嶽温泉に行ったことはあったのですが、市内に立ち寄ることはなくて。今回、弘前市のまちなかを訪れ、まずは市場の『虹のマート』で食文化に触れて、一気に弘前のファンになってしまいました。また、まちなかにはシンプルな動線の中に、昔ながらの個人商店がたくさんあり、表情が豊かで人情味があるところも素敵です。何よりも、会う方々が皆さんとても個性的で、攻めている人が多いなと感じました(笑)。今回もありがとうございました」(乙二さん(JAL)) 

「弘前の方は、リンゴを食べて種類がわかるって本当かな? と思っていたのですが、実際に品種によってこんなに味が違うんだと思いました。しかも、現地で食べるフレッシュなリンゴは、本当においしいなと実感しました。また、弘前には歴史ある喫茶店が数多くあるなど、まちの歴史や魅力についてももっと知りたいなと。また、友だちを連れ訪れたいです。ありがとうございました」(幸野さん(JAL)) 

「前回、『ラグノオ』のアップルパイのスティックを、お土産に社内で配ったんですけど、若い人たちから『国内のお土産の中で一番好きです』という声が聞かれました。私も弘前は大好きですが、ちょっと難しいなと思うのが、空港から距離があり、新幹線も通っていないというアクセスについてです。そのような中で人を呼び込むためには、商品の背景や生産者の思いを伝えるなど、発信の仕方を私たちももっと勉強していきながら、弘前の皆さんと一緒に取り組ませていただけたらと思います。 

また、個人的には、娘が次は青森に行きたいと言っているので、またぜひ訪れたいと思っています」(岡本さん(JALPAK)) 

こうした参加者の声に対して、農作業体験を受け入れた「みらいファーム・ラボ」の皆さんからも、次のような言葉があった。 

「前回の収穫体験も、今回の袋詰めも作業をしていただき、本当にありがとうございました。袋詰めは出荷のタイミングが迫っていたので、半分終わっただけでも御の字です。初心者の方では、リンゴのサイズや傷みを見分けるのは難しく、それでも皆さんしっかり確認しながら丁寧に進めてくれたので、大変助かりました。お越しくださり、ありがとうございました」(一戸さん) 

「今回、弘前市役所さんにお声がけいただき、企業さんのワーケーションを受け入れるのは初めての試みだったので、ちゃんと期待に応えられるか不安な点もありましたが、皆さんに満足いただけたようで、ホッと安心しました。ありがとうございました。 

皆さんに、ワーケーションを通じて弘前のことを好きになっていただき、リンゴについても興味を持っていただき、これからもいいお付き合いができればと思っていますので、今後とも、ぜひよろしくお願いいたします!」(高村さん) 

この後、二次会は500店以上の飲食店で賑わう「鍛冶町」の「Honey(ハニー)」というスナックへ。弘前に息づく、スナック文化を体感しました。 

 

3日目:弘前を代表する選果場で作業を体験 


写真中央が、案内してくれた「キタエアップル」の葛西俊宣さん 

3日目の午前中は、「弘前駅」から車で10分ほどにある、リンゴの仲卸や冷蔵倉庫業、リンゴの通信販売業を手がける「キタエアップル株式会社」の選果場や倉庫を見学。選果場で、実際に作業も体験させてもらった。案内をしてくれたのは、通販部 部長の葛西俊宣さんだ。 

キタエアップルの創業は、1950年。117700㎡の広大な敷地には、選果場や普通冷蔵庫、CA冷蔵庫、自動CA冷蔵庫などの倉庫が建ち並んでいる。まずは、冷蔵庫群を案内してもらった。 

葛西さん「CA冷蔵庫の『CA』とは、『Controlled Atmosphere』の略で、組成を調整した空気のことを言います。酸素の割合を減らして二酸化炭素の割合を増やし、リンゴの呼吸を抑えることで、通常の冷蔵庫で保存するよりも約2倍長く品質を維持できます」 

キタエアップルでは、15000㎡のCA冷蔵庫と、1400㎡の自動CA冷蔵庫、2000㎡の普通冷蔵庫を保有。業界トップクラスの冷蔵収容量とCA冷蔵技術を誇り、夏場(68月)まで、品質・量ともに安定的にリンゴを出荷できる。 

次に案内してもらったのは選果場。キタエアップルには複数の選果場があり、品種ごとの選果作業を進めている。大量のリンゴを一度に選果することで、常温での作業時間をできる限り短縮し、リンゴの品質低下を防いでいる。また、612等級の細かな等級分けも可能だ。 

葛西さん「選果ではセンサーを活用して、自動的に大きさや色味などによって仕分けられますが、最後は人の目によってキズの有無などをチェックするようにしています」 

選果場を見学後、参加者はキタエアップルのオリジナルのエプロンを羽織り、実際に選果の作業を体験させてもらった。 

■キタエアップル株式会社「apple mate」
https://applemate.jp/ 

15時からは、弘前城のほど近くに日本で唯一現存するとされる甲賀流忍者屋敷の隣にある「忍者カフェ レジオン」で、最終日に行われる弘前市の担当者との意見交換会に向けて、参加者同士でアイデアを出し合うミーティングが行われた。 

11月に4日間、そして今回4日間、ワーケーションでリンゴ園や選果場などを訪れ、農作業を体験して参加者が実感したのは、作業の機械化や自動化が進んできているとはいえ、収穫や選果の最終チェックなど、どうしても人の手や目が必要となる仕事があること。そこで、弘前を代表する産業である「リンゴ」の分野で「人手不足」を解消するために、JALグループとしてどんなことができるのかをメインテーマに、アイデアを出し合った。 

 もう一つ、大切にしたのは、イベントのような単発で終わるものではなく、サスティナブルな事業として続いていくものにすること。 

 具体的なプランを考えていく中で、ポイントとして見えてきたのは、一般の方の弘前への関心を高め、「もっと知りたい」「足を運んでみたい」と思ってもらうための価値やストーリーを、どう作り出すかというところ。最終的には、小中学生から大学生、社会人、シニア層、それぞれの年代に向けたプランを考え、翌日の意見交換会に臨んだ。 

 

4日目:弘前市職員との意見交換会 

最終日は、約100年前に建てられた煉瓦造の建物を改修した現代美術館「弘前れんが倉庫美術館」の会議室で、弘前市りんご課の齋藤典子さん、農政課の齋藤 蓮さん、国際広域観光課の加藤吉晃さんと共に意見交換会が開催された。進行役は、11月も含め8日間に渡り、ワーケーションに同行してくれた、国際広域観光課の漆舘 正さんが務めた。 

<参加者による発表内容> 

岡本さん(JALPAK):「弘前重要な産業であるリンゴの分野で、人手不足を解消し、リンゴや弘前のファンを増やしていくために、JALグループとして何ができるかを6人で話し合い、ライフステージごとにプランをまとめました。 

まず、小中学生に対して考えたのは、『交流学校授業』や『教育旅行』です。例えば、ジャルパックでは群馬県みなかみ町と連携し、弊社がオーナーになっている珍しい黄色いリンゴ『ぐんま名月』を活用した特別授業を、品川区の小学校で行っています。具体的には生産者の声を届けるオンライン授業や、『ぐんま名月』のプレゼントなどを実施。こうした取り組みを通じて、子どもたちはリンゴに興味を持ったり、修学旅行ではみなかみ町に行きたいと感じたり、地域のファンを作ることにつながります。こうした取り組みを、弘前でも実現できればと考えます」 

乙二さんJAL):「大学生に向けては、JALのスカイメイトを活用した案を考えました。スカイメイトとは、25歳までなら学生でも社会人でも利用できる割引運賃で、当日出発の4時間前から20分前まで購入でき、例えば、現在行っている伊丹青森便は片道7270円で利用できます。 

実際に、スカイメイトを売り出すと、チケットの販売数がポンと跳ね上がります。フットワークが軽い学生さんなら、『安く行けるなら行ってみよう!』『弘前でリンゴの収穫を手伝ってみよう!』といったことも起こるはずです。1日リンゴ園でバイトをすれば、片道代以上の稼ぎになりますし、夜は弘前のおいしいものを食べてと、そういった非日常の体験に価値を見出す学生さんも多いはずです。 

このように、スカイメイトにより、弘前のまちを大阪や東京、札幌から来た学生たちが歩き出し、新たな人流が生まれれば、弘前のリンゴのブランドも各地に広まっていくはずだと考えます」 

岡本さん(JALPAK):「30代からシニアの方に向けては、JALが新たに始めたばかりの『旅アカデミー』というプラットフォームを活用することを考えました。旅アカデミーとは、旅行をしたいという願望ではなく、『学びたい』という欲求に対して訴求し、最後に現地でのフィールドワーク(旅行)が付いてくるタイプの商品です」 

旅アカデミー
https://www.jal.co.jp/jp/ja/tour/jal-academy/ 

乙二さん(JAL):「例えば、鹿児島の屋久島のコースでは、現地のガイドの方を講師に招いたオンラインセミナーを35回行い、豊かな自然について学んだり、場合によっては、参加者が東京で集まって顔見知りになったりした上で、最後に現地へフィールドワークに訪れます。学びを通じて地域に愛着を持ってから現地を訪れることで、地域のファンになってもらえる可能性が高まります。こうした旅アカデミーを、弘前のリンゴや歴史・文化などをテーマに開催できればと考えています」 

西野さん(JAL):「もう一つ、社会人に向けたプランとしては、リンゴの収穫繁忙期に、空き家を活用した臨時出張所を弘前に設けさせていただき、JALの社員が入れ替わりで弘前を訪れ、リモートワークをしながら収穫作業を手伝うことで、相互の連携を深めていくプランを考えました。 

JALでは、秋田県美郷町との連携事業として、10近く冬に社員が美郷町を訪れ、高齢者宅などの雪かきを行う、除雪ボランティアを行っています。こうした、持続可能な仕組みが作れればと考えています」 

こうした参加者からの意見を受けて、弘前市の職員からはさまざまな意見が挙がった。 

 

弘前市 農林部 農政課 地域経営係 主事 

齋藤 蓮さん 

「今日のテーマの中では、小中学生に向けた『教育旅行』が一番気になりました。市では出張授業を行ったことはなかったと思うのですが、何年か前にJAさんのほうで、確かリンゴではなくお米をテーマに、大阪で出張授業を行った事例があったと記憶しています。それの逆バージョンを、リンゴをテーマに実現し、いい循環が生まれたらベストだなと感じました。 

また、20231011月のリンゴの収穫繁忙期に、企業の方に収穫作業のお手伝いに来てもらう事業も実施しました。60人くらいの方に参加いただくことができ、農作業を体験したいというニーズはあるのだと実感しました。これを学生向けなど、他の年代に向けて展開するのも面白いと思います。 

課題だったのは、弘前のリンゴ園は個人農家が多く、1カ所に数人ずつしか派遣できないため、交通費が多くかかったこと。もう一つは、いろいろな方に参加していただけるのはうれしい反面、毎回レクチャーに時間がかかり、ツル抜けなどのミスも起こりやすいところです。農家さんとしては、作業に慣れた方に長く、もしくは毎年来てもらえたらありがたいという面はあります」 

 

弘前市 りんご課 企画推進係 主査 

齋藤典子さん 

「弘前市では、1日バイトアプリ『daywork(デイワーク)』を活用し、農業者と農業で働きたい人を結びつける取り組みを行なっており、市職員もリンゴ農家などで繁忙期に兼業できるよう環境整備を行いました。デイワークには法人版機能というものがあり、企業では自社の社員が何日デイワークを利用したかが把握できます。まだ副業を解禁していない企業も、こうした機能があることで導入しやすいのではと感じています。 

また、小中学生を対象にした『交流学校授業』や『教育旅行』など、幼少期から弘前のファンになってもらえるような取り組みは、市としてはあまりなかったと思うので、とても興味を持ちました。 

社会人やシニア世代の方に向けた、『旅アカデミー』の取り組みについては、最近、津軽産ワインやシードルが注目を集めています。津軽産ワインでは、津軽産のブドウだけを使った銘柄が、日本ワインコンクールのスパークリングワイン部門で最高賞を受賞しています。シードルやワインの飲み比べのイベントを開催した際の参加者アンケートでは、『実際に作っているところや、収穫するところを見てみたい』という声がありますので、携わる方々に旅アカデミーの講師になってもらうのも面白そうだなと思いました」 

 

弘前市 観光部 国際広域観光課 主事 

加藤吉晃さん 

JALさんとのワーケーションの取り組みが始まって3年目になりますが、最初の年にワーケーションを受け入れる際に、弘前市として何ができるだろうと話し合ったとき、東京の方が田舎で自然に接するなら千葉などでもできる。わざわざ弘前に来てもらうなら、やはり『リンゴ』は外せないだろうと。まずは、他にはないリンゴからスタートし、裾野を広げて弘前全体に興味を持っていただければと考えました。 

参加者の皆さんには、収穫作業などの体験を通じて、弘前自体にも興味持っていただけたようで、今年はスナックにも一緒に行くことができ感無量です(笑)。本日は有意義な時間をありがとうございました。これからも末長くお付き合いできればと思っております」 

ワーケーションは、農作業を体感したり、自然に触れたりしてリフレッシュでき、参加者同士のチームワークが高まるだけでなく、地域の皆さんとのつながりが生まれ、新たな事業の可能性も広がっていく。そんなワーケーションの多彩な魅力を、実感できる4日間となった。 

 

文・写真:杉山正博 

 

JALワーケーションレポート

 

                   

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