約2日に1人が秋田市民になる首都圏の移住相談所
「秋田市移住相談八重洲センター」
相談員が秋田市長と語る
移住支援の最前線とこれから

首都圏における秋田市の移住相談拠点として2019年5月に開設された秋田市移住相談八重洲センター開設から5年2か月を迎え、同センターへの相談を経て秋田市に移住した移住者の数が1000人を突破した。

これを記念して穂積 志ほづみ もとむ秋田市長、同センターの移住相談員である白山靖彦しらやまやすひこさんと正木 暁まさきさとるさん、そして司会役のTURNSプロデューサー・堀口正裕ほりぐちまさひろの4者による「移住支援の最前線とこれから」をテーマにしたトークセッションが行われた。

 

秋田市のことを熟知する、2人の凄ウデ移住相談員

TURNSプロデューサー・堀口正裕(以下、堀口)  この度は移住者1000人突破おめでとうございます。まずは、その立役者である移住相談員のお2人から喜びのコメントをいただきたいと思います。

白山靖彦さん(以下、白山相談員) 正直、最初はどれだけ成果をあげられるか分からないという不安もありましたが、地道な取り組みを続けるうちに段々と相談件数が増えてきました。こうした実績を作れた要因は、移住を検討される方と同じ目線に立ち、必要なものを汲み取って、そこに応えるサポートをしてきたこと。とてもシンプルではあるのですが、その積み重ねが結果につながったと思っています。

正木暁さん(以下、正木相談員) こうした節目を迎えられてとても嬉しいです。相談に来られる方は秋田市への移住に強い関心をお持ちの方がほとんどです。その上で、秋田市のことを熟知し、細かなご相談にも応えられる二人の相談員がいることが、当センターの強みだと自負しています。


正木相談員(左)と白山相談員(右)

堀口 開設時から関わってきたお二人からすると喜びもひとしおでしょうね。それでは穂積市長から「秋田市移住相談八重洲センター」設立のきっかけを教えていただけますか。

穂積志秋田市長(以下、穂積市長) 秋田県は東京に移住相談窓口を設けていますが、そちらは秋田県下25市町村の移住支援を一律で行う場となっています。広い地域の情報が一か所で手に入ることはメリットもある反面、同じ県内でも移住支援制度や受け入れ態勢は自治体ごとに異なりますから、市単体のアピールとしては少し物足りない面があると感じていました。そこで県庁所在地として秋田県全体の人口減少対策をリードするとともに、秋田市役所の本庁と同じレベルできめ細かな支援を行うことを目的に市単独の拠点を置きたいと考えました。


穂積市長

堀口 今日、久々に八重洲センターを訪れてみてどんなことを感じましたか?

穂積市長 東京駅八重洲口というのは、秋田新幹線や高速バスの発着地に隣接し、東京と秋田を結ぶ交通の拠点です。この場所を見つけたのは白山さんだと聞いています。話題の新スポットである東京ミッドタウン八重洲のそばで、商業的にも新たににぎわっている環境にあり、小さなお子さんをお持ちの方や高齢者の方など、さまざまな方に訪れていただきやすい立地にあると改めて思いました。首都圏でも親身になって移住希望者の相談にあたってくださる白山さん、正木さんというお二人の存在が、本市の移住者増に直接つながっていることに感謝しています。

堀口 八重洲センターを開設以降、秋田市に移住された方の約6割が八重洲センターを利用しているそうですね。これは移住相談員のお2人が、秋田市への移住に興味を持つ方と市役所の担当課との間をしっかりとつないでいる証ともいえます。そうした役割を果たすために、相談員のお二人が普段から心がけていることは何でしょうか?


TURNS・堀口正裕

白山相談員 秋田市に移住してやってみたいこと、長期的に実現したいことを最初の面談の際にしっかり伺うことです。それを知っていないとニーズに応える情報を提供できませんからね。ここで面談をさせていただく際は1時間ほど、イベントなどに相談ブースを出展した際は20〜30分ほどと決して長い時間ではありませんが、会って話す最初のタイミングでお相手の方が何を必要とされているかをしっかり汲み取り、私たちからは「秋田市に来てほしい」という熱意をちゃんと届けることが大切だと思っています。

正木相談員 ニーズに応えるという点では即応性も大切で、そのために相談員の間の連携も日々欠かさないようにしています。相談時も一人がメインで相談を受け、もう一人が相談内容にマッチする支援制度を探すなど2人で対応していますし、メールで受けたご相談のやりとりも共有するようにしています。知りたいことにすぐに応えてほしいというケースも少なくありません。その熱を逃さぬよう、どちらかが不在の時でもすぐに応えられる体制をとっています。

堀口 なるほど、鉄も移住相談も「熱いうちに打つ」ことが大切ということでしょうか。穂積市長は普段、現場をくまなく見るということはなかなか叶わないと思いますが、今の二人のこだわりを聞いて、どんなことを感じましたか?

穂積市長 移住相談員というのは、非常に多分野の相談に答えなければならない大変なポジションだと思います。白山さんの仰る通り、最初に会った短い時間の中で相談者の方のニーズを正確に汲み取るというのも、優れた感覚と深い経験がなければできないことですよね。そうした中で秋田市の各課と連携を取りながら、少ない人数でこうした実績をあげていただいているのは、やはりお2人の人柄によるものだと感じています。

 

移住者からのメッセージ

堀口 ここで、正木さん・白山さんお2人の尽力により移住を果たされた方々から、ビデオメッセージが届いておりますので、ご覧ください。

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南斉俊佑さん(正木相談員が担当)

自分に合った子育て環境を求め、2人のお子さんを含むご家族と共に首都圏から秋田市に移住。幼稚園や物件探しのため、移住相談ツアーも活用。

 

最初の相談では移住に関する制度やその使い方、移住の具体的なステップについて教えていただきました。正木さんは年末年始にもかかわらず、細やかな相談にも応じてくださり、おかげで移住の決断からわずか3か月という短期間で無事に移住を実現することができました。今は自然の多い環境を満喫しています!

武内良太さん(白山相談員が担当)

東京都内の中国料理店に勤めた後、2019年に秋田市に移住。2021年に自身の店「美・中国菜 武陵源」を開業。

 

秋田の新聞にお店のオープン情報が掲載され、それを見た白山さんからお祝いの連絡をいただきました。後日、白山さんが来店し、私の料理を食べていただき、少しは恩返しができたと感じています。このお店を開くことができたのも、白山さんに相談したことが大きな第一歩でした。もし白山さんと出会っていなければ、私の夢は実現できなかったかもしれません。

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堀口 いかがでしたでしょうか?

正木相談員 本当に感慨深いですね。南斉さんが相談に来られていた頃より、お子さんが大きくなっている様子が見られるのは、なおさら嬉しいです。

白山相談員 武内さんが移住して起業したいと話してくれた際、私はすぐに実現できることではないから、まずは秋田で仕事を見つけ、ゆっくりと起業に向けた道を探してはどうかとアドバイスしました。起業には専門の相談窓口や、先輩起業家とのつながりが大切なので、それを築いてからスタートする方が良いと伝えたところ、彼は本当にその通りに行動されたんです。移住にはさまざまなケースがありますが、相談者と相談員の気持ちが通じ合い、信頼関係が築けると、移住の決断につながりやすいと感じています。

堀口 正木さんと白山さんが首都圏と秋田市のさまざまな事情をよく理解し、その違いを包み隠さずにアドバイスされている点が、移住者にとって大きな支えになっていることが伝わってきました。

 

移住相談で最も力を入れる職業マッチング

堀口 穂積市長は秋田市のどんなところに移住者を惹きつける魅力があるとお考えですか。また、普段から秋田市で暮らしていて移住者の活躍が増えているという実感はありますか?

穂積市長 秋田市は「ちょうどいいから、住みやすい」を移住・定住のキャッチフレーズに掲げています。その言葉が示す通り、文化、商業、産業、自然などがバランスよく揃っているまちです。犯罪が少なく、子どもの学力の水準が高いという点も、暮らしの安心感として特に子育て世帯の方々から高く評価されています。最近は都会に憧れて秋田を一旦離れた方が、結婚や出産、親の介護などライフステージの変化を機に、地元での活躍を考えてUターンされるケースが目立っています。また、本市は「秋田市文化創造館」や民間の共創施設など、クリエイターの方が挑戦できる土壌が整っているので、そうした場でも移住者の方々が起こす新たな風が地域コミュニティに刺激を与えていると感じます。

堀口 開設から5年間。その間にはコロナショックがありました。現場に立つお2人は、その前後で移住希望者の属性やニーズが変わってきていると感じますか。

白山相談員 コロナ禍を機に相談にいらっしゃる年代の割合が変わりました。それまでは20代、30代からの相談が7割程度と大半を占めていましたが、今もその年代からの割合が依然多いことは確かであるものの、40代以上の中高年層からの相談が増えつつあります。市長が仰る通り人生の転機を迎えるタイミングで、都会の便利さとは違った故郷の魅力に目が向き、地元に戻りたいと考え始める方が多いです。

堀口 移住先を決めるには、生活、仕事、子どもの教育などさまざまな要素が絡んできますが、そうした状況において具体的にどんな相談が多いのでしょう?

白山相談員 やはり仕事に関する相談が多いです。若い方はもちろんですが、東京での仕事をリタイアして移住される方の中にも、ご自身の経験を活かして、まだバリバリ働きたいと希望される方も多いですから。

正木相談員 そうですね。都会で経験を積んできた方は高いスキルをお持ちですし、優秀な人材は秋田市の企業にとっても魅力的に映ると思います。そうした方々に役立つ情報を集め、即戦力として活躍してもらえるようなマッチングを増やしていくことは、私たちの大きな責任です。ちなみに、当センターは無料職業紹介事業を行っているのですが、白山さんは有料職業紹介の企業で働かれていた経験があるので、その経験を反映した支援が行えていることも隠れたアピールポイントですね。

穂積市長 職業マッチングについては、特に市役所と連携し、緊密な情報交換をしてもらっているので本当に心強いです。市政を担う立場としては、全国や世界に視野を向けた取り組みを行う若い起業家等を積極的に支援したいと思っています。また、さまざまな年代の方が輝ける魅力的な仕事の掘り起こしや企業誘致に引き続き注力していきたいと考えています。

 

これからも、2人で力を合わせて

堀口 そろそろ締めに入っていこうと思いますが、相談員のお立場から穂積市長にリクエストしたいことはありますか?

白山相談員 先ほどの市長のお話にあったように、秋田市は全国的に見ても高い教育水準を誇ることから、最近は教育移住に関する相談を受けることが増えてきました。昨今は「保育園留学」という形で、お試し移住感覚で地域を知ってもらう取り組みを行う自治体も出てきています。そうした中で、必ずしも学校等に限定した取り組みでなくとも、子どもたちがのびのびと生活できて、教育レベルが高い秋田市をアピールできる企画も可能じゃないかと思っているのですが、いがかでしょう?

穂積市長 子育て世代の移住者に地元へ溶け込んでもらう取り組みとしては、地域おこし協力隊を中心に子育て中のお母さんたちが主体となって親子で遊べるイベントを企画する「あきたマママルシェ」という民間団体の活動が実を結んでいます。一方で、教育面についてはフリースクールの学習を単位認定するなど教育改革を推し進めているところですが、教育を魅力に移住者を呼び込むというのは面白いアイデアですね。実は国内留学のような形は一度検討したことがあるのですが、その時は実現に至らなかったので、貴重なご提案と受け止め、今一度検討していきたいと思います。

堀口 穂積市長から今日の座談会の感想と今後の八重洲センターへの期待をお願いします。

穂積市長 開設からこんなに早く移住者1000人突破という区切りを迎えることができたのは、相談員お二人の努力をはじめ、お二人と連携する本庁職員の働き、また、移住後にさまざまな形で秋田市の魅力を発信してくださっている先輩移住者の皆さんや地域おこし協力隊のおかげだと思っています。私が市長になった15年前に比べて、秋田市の社会減が8割以上改善してきています。そこには移住者が増えているという点も作用しており、移住相談の充実が成果に結びついている側面もあると思っています。白山さん、正木さんにはこれからも引き続き相談者に寄り添った移住支援を続けていただきたいと思いますし、私たちもお二人が最前線でキャッチした移住希望者の方々のご要望を聞きながら、移住就職支援の拡大、子育てや福祉環境の充実、文化的な街づくりなど、移住して住み続けたいと思っていただける環境づくりに反映させていきたいと考えています。

堀口 最後に相談員のお二人から、今後の意気込みをお願いします。

正木相談員 当センターまで相談にいらっしゃる方は移住への本気度が高い一方で、イベント等でお話しさせていただく方の中には「いつかは移住したいんだけど…」という方が多くいらっしゃいます。今後の課題は、後者のように本格的な移住検討に入っていない方々にも当センターを知っていただき、秋田市の魅力を発信していくことだと思っています。秋田市への移住に少しでも興味がございましたら、ぜひ当センターまでお越しください。

白山相談員 5年で1000人の移住者に関わるという結果を残すことができたことは嬉しく感じていますが、移住を検討される方々に当センターの存在があまねく認知されているかといえば、そうではないと感じるところもあります。やはり移住相談が増えないと移住者の数も増えないので、もっともっと当センターの名前を広め、私たちを利用してほしいという思いが強いです。そのために、これからもコツコツと情報を発信し、皆さんからのご要望に応えながら、正木さんと力を合わせて頑張ります!

堀口 本日は貴重なお話をありがとうございました。お二人のご活躍によって、今後も秋田市の移住者が2000人、3000人と増えていくことを我々も応援しています。

秋田市移住相談八重洲センターが1000人もの移住者を生み出した成功の背景には、白山さんと正木さんの「移住者目線」に立った温かな対応と、熱意あふれるサポートがある。二人は、移住を考える人々の不安を丁寧に解消し、新たな人生への一歩を力強く後押ししてきた。今後も多くの人々の人生に寄り添い、支え続けていく存在となるだろう。

Profile

◇秋田市移住相談員 白山靖彦 氏

秋田市出身。都内の民間企業に勤め、定年退職後、富山県の移住相談員に。2017年から現職で、2019年の本センターの設立に参画。

◇秋田市移住相談員 正木 暁 氏

秋田市出身。民間企業に勤めていた28歳の時に転勤で秋田を離れ、以降、各地で転勤生活を送り、2002年から東京在住。2019年から現職。

◇秋田市長 穂積 志 氏

1957年 秋田市出身。成蹊大学法学部卒業後、1987年に秋田市議会議員に初当選。1995年からは秋田県議会議員を務め、2009年から現職。

◇TURNSプロデューサー/司会 堀口正裕

総務省地域力創造アドバイザー、国土交通省「地域づくり表彰」審査会委員を務めるほか、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数。

 

文:鈴木 翔 撮影:内田麻美


トークセッションのダイジェスト版は秋田市公式YouTubeでも配信中です。ぜひご覧ください。

                   

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