【イベントレポート】
“都市農業”の魅力にふれる料理会&トークショー
〜農業の魅力発信コンソーシアム〜

毎日の食事――その食材をどこで誰がどのように作っているのか、日々の暮らしの中で思いを巡らすことがどれくらいあるでしょうか。特に都市で暮らしていると農園や生産者と距離が遠く、食材が店頭に並ぶまでの行程に意識を向けることはあまりないのかもしれません。しかし、実は都市にも多くの農園があり、農業を営んでいる人々がいます。農作物を育てている生産者は遠い存在ではなく、思っている以上にすぐ近くにいるのです。

都市生活者に農業をより身近に感じてもらおうと、7月17日(月・祝)、吉祥寺PARCO(東京都三鷹市)で「都市の農」をテーマにした新しい食と農の体験イベント「URBAN FARM TO TABLE in 吉祥寺PARCO」が開かれました。

登録者数95万人以上の人気YouTubeチャンネル「1人前食堂」を運営するmaiさんと農業の魅力発信コンソーシアムが選出するロールモデル農業者の「鴨志田農園」(三鷹市)6代目・鴨志田純さんをゲストに迎え、夏野菜を使ったmaiさんの料理会とお二人のトークセッションを行う2本立てのプログラム。午前と午後の2回にわたって開催され、20代を中心とした多くの来場者で賑わいました。


吉祥寺PARCO 8階にあるコワーキングスペース「SKiiMa」にて開催。ゲストのmai さん(左)と鴨志田さん(右)。

「農業の魅力発信コンソーシアム」とは、農林水産省の補助事業を活用して発足した組織で、農業と生活者の接点となる⺠間企業9社が参画。これまで農業に縁のなかった人たちに、“職業としての農業”の魅力を発見してもらう機会をつくるため、全国で活躍するロールモデル農業者を選出し、彼らとともにイベントを企画・開催するほか、就農に役立つ情報を発信しています。

 

都市農園で採れた野菜を使ったオリジナルレシピをmaiさんと一緒に作って味わう料理会

今回のイベント用にmaiさんが考案したレシピは全8品。使う食材は鴨志田農園から直送された採れたて野菜です。料理はmaiさんのデモンストレーションだけではなく、来場者も助手として参加。maiさんの手ほどきを受けながら、野菜を切ったり、ソースを混ぜたりと一緒に料理を楽しみます。会場はゲストと来場者の境のない、アットホームな雰囲気に包まれました。

★当日のメニューはこちら

・ウエルカムスープの夏野菜のガスパチョサラダ

・発酵トマト

・発酵たまねぎ

・焼きナスのフムス

・紫蘇タブレ

・ヨーグルトソース

・甘長唐辛子の発酵トマトソース和え

・緑のファラエル(豆のコロッケ)

「発酵トマト」と「発酵たまねぎ」はmaiさんオリジナルの発酵調味料で、発酵トマトは赤唐辛子(トマト4個に対し赤唐辛子1本)と塩(トマト総重量の2%)、発酵たまねぎは中玉たまねぎ2個にたまねぎ総重量の3%の塩と、25%の水を加えて冷蔵庫で数日寝かせるだけの簡単レシピです。焼きナスのフムス以外のレシピには、このどちらかが使われて、体にやさしい旨み調味料としての効果を発揮しました。

 

生産者の視点で料理にアプローチ

また、料理に使われる食材の特徴を、生産者である鴨志田さんが一つひとつ丁寧に解説。堆肥は植物性、動物性を使い分けることで煮込み用、サラダ用に適した野菜ができること、青唐辛子は夏の時期なら葉も食べられること、柿の木の下でミョウガを育てると虫にやられにくいなど、生産者ならではの知識に、来場者たちも興味津々で聞き入ります。

maiさんからは今回の料理が、基本的に塩とレモン、オリーブオイルを使った簡単レシピであることが説明され、来場者と積極的にコミュニケーションを取りながら手際良く調理。緊張していた来場者の表情もしだいにやわらいでいきました。

ナスはトースターで焼いた方がふわっとした焼き上がりになることや、発酵トマトや発酵たまねぎはビンで作るよりも保存袋の方が手軽など、気取らないアドバイスはYouTubeチャンネルそのまま。身近な野菜と簡単な調理法で、来場者の「これなら作れるかもしれない」という気持ちを引き出します。

 

持続可能な都市農業の実現に向けて、生産者と消費者ができること

料理の完成後は、試食しながら聞く鴨志田さんとmaiさんのトークセッション。今回のイベントを通じてお二人の率直な意見が交わされました。

まず問題提起したのはmaiさんです。「都市生活をしながらでも、今以上に自然にふれあっていきたいと思う。けれど情報収集に前のめりになって、行動がなかなか伴わないのが現状で、YouTuberである自分は最たる一人かもしれない」と語ります。

2014年に教員を経て家業である農園を継ぎ、4年前より野菜づくりとともに家庭の生ゴミを堆肥化してサスティナブルな有機農法を推進している鴨志田さん。maiさんのコメントを受けて「都市生活者と生産者の距離が近くなることが大切で、病気になった時に頼れるかかりつけ医がいるように、“かかりつけ農家”を見つけることから始めてみては」と提案します。

そして「三鷹市は10分の1が農地。積極的に情報発信している生産者は、農園見学や収穫イベントを実施しているところも多く、比較的接点を持ちやすい。地産地消の第一歩として、ぜひ訪ねてみて欲しい」と、生産者との交流を促します。

maiさんも農園を訪ねた体験談を交えて「里芋の間にハーブを植え付けていて、畑のスペースを有効に活用していたのが印象的でした」と話題を広げます。

都市部では農地を広げることはなかなか難しく、都市農業は栽培法に創意工夫が必要と説く鴨志田さん。さらに都市農業のあり方についてこう続けます。

「農作物は単一栽培ではなく、組み合わせて植え付けた方が発育は良くなります。こうした栽培方法と同じように、都市農業も農作物の生産だけではなく、地域の食育や防災面で避難場所になり得ること、子ども食堂と連携して子どもの貧困対策に取り組むなど、地域課題の解決にコミットしていくことが重要です」と都市農業の認知拡大と存在価値向上につながると語ります。

maiさんも「今回のイベントきっかけで都市生活者と生産者の距離が近づくきっかけになったら嬉しい」と語り、「自分自身も情報を発信する側の一人。生産者の方との交流を広げて、それを含めて発信できるようにしていきたい」とイベントに関わったことで新たな視点が広がったと目を輝かせました。

イベントを終えて来場者からの感想を聞いてみると、「シンプルな味付けで野菜の美味しさが引き立つことを知った」と野菜の美味しさに驚く声が続出します。単に楽しく美味しい料理イベントではなく、「料理と同時に野菜づくりの背景を知れて良かった」「今まであまり気にしたことのなかった職業としての農業、農家さんを意識して食事しようと思う」など、料理のバリエーションが広がっただけではない気づきを得たと語る来場者が多かったのも印象的です。さらに「農園で収穫体験をしたみたい」と生産現場に足を運んでみたいと語る方も現れて、今回のイベントが次の行動につながるきっかけになっているようです。

「堅苦しくならず、ホームパーティーのような一体感あるイベントができて良かった」と嬉しそうに語るmaiさん。朗らかなmaiさんの人柄で会場は終始和やかなムードで、「作る」「食べる」のアクションを通して、ゲストと来場者の距離感がグッと縮まっていきました。

こうした交流は、都市生活者と生産者の関係性に置き換えることができるのかもしれません。都市農業のリアルを「知る」ことから好奇心が生まれ、考え、行動を起こす。知らない誰かが作る農作物ではなく、家から◯分の所にある◯◯さんの農園で作られた農作物。そうなることで他人事ではなく自分事として農業を身近に感じられるようになります。そのファーストステップになり得る、楽しく、美味しく、都市農業を学べる実り多きイベントでした。


【ゲストプロフィール】

maiさん

2019年YouTube「1人前食堂」を開設。普段から自分が食べるものを自分で決めて作るという何気ない日常を動画にして綴る。日々、食と暮らしと健康の良い関係性を模索し、映像や言葉を通じてさまざまな提案を行っている。

<YouTubeチャンネル1人前食堂>
www.youtube.com/channel/UCk8HTeS7wRRam6nEKZkH1eA

<SNS>
Twitter: https://twitter.com/ichininmae_1
Instagram: https://www.instagram.com/mai__matsumoto

 

鴨志田農園  
鴨志田 純さん

三鷹市に代々続く野菜農家の6代目。家庭から出る生ごみや落ち葉などの有機廃棄物を、微生物の力で堆肥化させるコンポストの普及を進めるコンポストアドバイザーとして、ネパールや全国各地で活躍。

<SNS>
Instagram:https://www.instagram.com/kamoshida_farm/
note:https://note.com/nmhconsortium/n/nf690e117b4f3


取材・文:浜堀晴子 撮影:中山ノリ

                   

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