【福島県大熊町】「震災のせいでなくなったもの」を減らしたい。ひととまちをつなぐ移住者が見据える未来

福島県大熊町は、浜通りの中央に位置するまち。東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機が立地しており、原発事故が起きたまさにその場所でもある。事故を受けて、全町民が避難することとなり、一時は復旧作業員以外の立ち入りが全面禁止される警戒区域にもなった。

あれから時が経ち、2019年に避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示が解除され、今年6月には、まちの中心部を含む特定復興再生拠点区域でも避難指示が解除され、少しずつだが、まちに人が戻りつつある。

佐藤亜紀(さとう・あき)さんは、大熊町の復興支援員として、2014年に東京から福島に移住した。現在は大熊町に居を構え、人と地域をつなぐコーディネーターとして奮闘している。なぜ彼女は東京から大熊町にやってきたのか。どんな未来を見ているのか。原発から7キロの場所で暮らす佐藤さんに、大熊町への想いを聞いた。

 

子どもの頃の思い出と、こころのふるさと

千葉県で生まれ育った佐藤さんは、子どもの頃から、母の故郷である双葉町(大熊町の北隣)に何度も足を運んでいた。夏休みや春休みなど、長い休暇の際には必ず祖父母の家に長期間宿泊していたという。双葉の海で泳いだり、大熊のプールで遊んだり、浪江のサンプラザ(ショッピングセンター)に入り浸ったり。地域一帯を、まるで自分の故郷のように感じていた。

幼少期の佐藤さん。双葉海水浴場にて(佐藤亜紀さん提供)

だからこそ、東日本大震災と原発事故は、大人になり東京で働くようになった佐藤さんに「自分ごと」として降りかかった。

「震災の少し前に祖父が亡くなったんですが、あのへん一帯が警戒区域になったことで、もしかするともう、お墓参りにも行けないのかな……というのがショックで。そして、それと同じくらい『原発事故って何なんだろう?』という疑問が自分の中で大きくなっていきました。世の中の仕組みはこのままでいいんだろうか。そんなことを気にしないで生きてきた自分のまま、これから先も生き続けるのは無理なんじゃないか。そう思うようになったんです」

そんな疑問を抱きながらも、東京での日常は続いていく。何をしていても、頭のどこかでは震災や原発について考え、悩み続けていた。時間とともに震災が過去のものになり、周囲の興味が次第に薄れていくことに違和感も抱いていた。「まだ何も解決していないのに!」と。

そうして3年が経った頃、佐藤さんは、福島への移住を決めた。

「もう東京にいてやれることなんかない、と思ったんです。福島に通うのではなく、実際に住んで、仕事としてまちに入り込みたい。そうしないと、まちがどうなっているのか、行政がどんなことをしているのか全然わからない。だから、双葉か大熊か、原発の立地しているどちらかの土地に住んで働こうと決めました」

 

復興支援員として、ばらばらになった地域のコミュニティをつなぎ直す

双葉町と大熊町に絞って仕事を探し始めると、すぐに仕事は見つかった。大熊町が復興支援員を募集していたのだ。説明会に申し込み、その1ヶ月後には、役場の出張所があるいわき市に移住していた。そうして復興支援員として働き始めた。

佐藤さんの担当はコミュニティ支援。避難のために散り散りになった大熊町の人々のつながりをつくり、コミュニティを構築することが仕事だ。だが、「人々のつながりをつくる」「コミュニティを構築する」とは、具体的にどういうことなのか? おそらく即答できる人はあまりいないだろう。佐藤さんも、最初の半年はとにかく人に会い、話を聞くことに専念したという。そうやって町民の本音を聞いていくうちに、みんなで集まれる機会が必要だと感じるようになった。

「でも、集まって具体的に何をやっていいかはわからない。だから最初は、避難先の公民館を借りてお茶会をしたんです。そのなかで、みなさんに何をしたいか聞きました。すると、大熊の人たちがいままでやってきたことをすごく大切にしていることがわかったんです。そこで、みんなでほっきめしと豚汁をつくって食べるというイベントをやることになりました。そんなふうに大熊の人たちがやりたいことを一緒に企画して、チームをつくっていく、それが仕事でした。」

上が2017年にいわき市の公民館前で行った餅つき、下は2020年に大熊町で行った餅つきの様子(佐藤亜紀さん提供)

その後、復興支援員をやめてからも佐藤さんは大熊町のコミュニティ支援を続け、それは彼女のライフワークになっていくわけだが、当初は福島に永住するつもりはなく、数年で東京に戻るつもりだったという。

「私は原発事故やこの地域のことが知りたいと思っていたし、そういう自分の欲求は福島で暮らして働くことで満たされるかもしれないけれど、一方で、まちにとって自分が全然役に立たないこともありえるだろうと思っていて。3年くらい経ったらまた東京に戻るのかなあ、とぼんやり考えていました」

しかし、福島で復興支援員の仕事を始めて半年経った頃、その気持ちは大きく変わった。

「もう一生福島にいたい、と思ったんです。私の人生、これから生きられる時間のすべてを費やしてもわかりきれないものがここにはある、一生をかけても達成できないほど大変なことが起きていると感じたからです。その頃はまだ、いつ大熊町の避難指示が解除されるか目処も立っていなかったこともあり、解除されたら絶対に大熊町に住もうという気持ちになっていました。大熊町の人たちとこれから一生一緒にいたい。こんなに人を尊敬したことがない。それくらい尊敬できる人が何人もいる。大熊町の人たちに惚れちゃったんですね」

 

「ここにいさせてくれてありがとう」

2021年からは、持続可能な地域発展に貢献することを目的とした地域連携団体「一般社団法人HAMADOORI13」の事務局で若者の起業支援などにも携わり、2022年からは「HITOkumalab」(ヒトクマラボ)という屋号で独立開業。大熊町を中心とした双葉郡や浜通り地域のコーディネーターとして、コミュニティ支援やイベント企画運営、地域の案内などを行っている。屋号には「大熊町やこの地域の人をずっと、もっと知り続けたい、つなぎ続けたい」という想いが込められている。

7年間続けた復興支援員をやめたのは、「民間をもっと強くしたい」と思うようになったからだ。

「こういう状況なので、今のまちの姿はまちとして本来あるべき姿からすると、ややバランスに欠けていると言えるかもしれません。この地域をこれから何十年もかけてより良い場所にしていくためには、行政の力だけでなく、民間の力がもっと必要なんだと感じます。これまでは復興支援員として行政側でたくさん勉強させてもらったので、次は、民間をしっかり勉強したいんです」

まだまだ復興は道半ば。原発はもちろんあるし、その周囲には中間貯蔵施設が広がっている。町内には工事車両が多く、帰還困難区域が解除されていない地域もある。だが、冒頭でも触れたように、この6月には特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、企業の誘致や住宅建設、商店の設置が予定されている。そうした変化を自分の目で見て、一住民として活動に参加できることは喜びだと佐藤さんは語る。

「その歴史的瞬間にみんなと一緒にいられることが嬉しいし、とても貴重なことだと思うんです。『ここにいさせてくれてありがとうございます』と感謝する日々です」

佐藤さんから感じるのは、震災や原発事故からの復興という大きな物語を背負う悲壮的な使命感というよりはむしろ、とにかく大熊町が大好きで毎日が楽しいという、一生活者としてのリアルでポジティブに未来を見据える視線だ。

「私は移住者なので、元のまちの姿はあまり知りません。それなのに、元々ここにあったものに執着している気がするんです。それは、祖父母に会いに何度もこの地域に足を運んでいた幼い頃の記憶があるからかもしれません。できるだけ『震災のせいでなくなったもの』を減らしたい、そう思っています」


佐藤亜紀(さとう・あき)さんプロフィール

大熊町在住。HITOkumalab代表/一般社団法人HAMADOORI13事務局/元・大熊町復興支援員コミュニティ支援担当。千葉県出身。母親の実家が双葉町。小さいころから何度も通った双葉町は「自分の田舎」。大熊町のコミュニティ、文化、伝統芸能や農業に浸る日々を送る。大熊町での暮らしについて、毎日発信中。

佐藤亜紀twitter
https://twitter.com/310akiokuma

文/山田宗太朗 写真/鈴木宇宙


◎移住や二拠点生活をご検討の皆様へ

「課題を見つけてチャレンジできる町」
現状の大熊町は合う人合わない人が明確に分かれます。震災によってまだ生活インフラが十分ではないので、便利さを追求する人や純粋に古民家などで田舎暮らしをしたい人は工夫や労力が必要かもしれません。しかし課題は無数にあり、さまざまな人がさまざまな新しい取り組みをするために大熊町に集まってきています。そのような取り組みに参加したい人、新しいことを始めたい人には日本一可能性のある町です。

チャレンジの仕方も町内企業への就職、復興支援員への応募、独自で起業・開業など形は様々です。当然、町役場職員の採用も毎年実施しております。是非、町に力を貸してください!

◎大熊町への移住のお問い合わせ

令和4年から開設した大熊町移住定住支援センターで移住などに関する相談を受け付けております。住む場所・買い物・仕事・支援など色々聞きたいことがあるかと思います。まずは、お気軽にお問合せください。

・移住定住相談窓口
大熊町移住定住支援センター
福島県双葉郡大熊町大字下野上字清水307-1
TEL:0240-23-7103 FAX:0240-23-7139
メール:ijuteiju@okuma-machizukuri.or.jp
HP:https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/iju/

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※受付期間や交付条件の詳細は、福島県避難地域復興課のHPをご覧ください。

                   

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