【長野県飯島町】ギネス世界記録™に認定された「りんりん祭」の風鈴街道は圧巻!子どもたちの記憶に残る新たな夏祭りを
東京から車で約3時間、名古屋から約2時間でアクセスできる、長野県南部の飯島町。西に中央アルプス、東に南アルプスの美しい山々を望む伊那谷(いなだに)に位置し、“飯島”という名の通り、おいしいお米の産地をしても知られている。
のどかな田園風景と豊かな自然あふれるこの街の新名物が、2023年8月に風鈴の最多展示数で「ギネス世界記録」に認定された『信州飯島風鈴街道りんりん祭(まつり)』。
町の中心部にある飯島町役場前の広場を彩るのは、1万個を超える風鈴。町民や地元企業のほか町外からも多くの支援を受けて3年かけて一つひとつ準備されたもので、風鈴に子どもたちの夢や願いが書かれた短冊を付けたり、風鈴をやぐらに設置したり、ステージイベントを企画するなどの準備・運営は30~40代の若手を中心とした町民たちが担う。
そんなりんりん祭は2024年以降の開催に向けて、町内・県内はもちろん、首都圏や中京圏、関西圏などからさまざまな形で祭りに関わってくれる仲間を求めている。具体的にどのような関わりができるのか。りんりん祭が生まれたきっかけや魅力、今後の展望をあわせ、実行委員会の委員長の堀内陽子さんにお話をうかがった。
■りんりん祭り
公式HP:https://www.rinrin-matsuri.com
りんりん祭公式Instagram:https://www.instagram.com/rinrin_fes
IIJIMANOTE LINE公式アカウント:https://lin.ee/jAQGrkG
誰でも風鈴街道を作り上げる一員になれる
りんりん祭を開催されるのは、毎年お盆前後。2021年の初開催から3年目を迎えた2023年は、8月12日(土)~13日(日)に町役場前の飯島町文化館駐車場周辺を会場に開催された。圧巻なのは約85mのやぐらに踊る1万個を超える風鈴だ。まさに風鈴のトンネルと呼ぶにふさわしい“風鈴街道”の中を歩けば、澄んだガラスの音色と、中央アルプスや南アルプスから吹き抜ける涼しい風に、心も身体も癒される。
風鈴はすべて地元の人たちや企業の協賛(1個2000円)によって資金が集められ、飯島町の隣の中川村に工房を構えて、20年となる『ガラス工房 錬星舎』の池上直人さん・西村由美さんの手によって、一つひとつ宙吹で作られている。
地元企業や首都圏に暮らす飯島町出身などの協賛を受けて、町内の保育園や小中学校に通う子どもたちが絵付けを行った風鈴もあり、将来の夢や思い思いのメッセージを記した短冊が取り付けられる。風鈴は夜には色とりどりの光でライトアップされ、より幻想的な雰囲気に。さらに打ち上げ花火が夏の夜空を彩る。
りんりん祭の楽しみはそれだけではない。会場にはかき氷やチュロス、クレープ、唐揚げなどの飲食屋台をはじめ、輪投げやくじ引き、すくい遊びなどのショップ、子どもも大人もワクワクするワークショップなど、50店以上が出店。ステージでは飯島中学校合唱団や吹奏楽部、ビッグバンド、迫力の太鼓による演奏の他、浴衣カップルコンテストなどのイベントも開催される。さらに、2023年には初めてアーティストや芸人が出演する「後夜祭」も実施され、2日間で計約8000人が足を運び、大いに賑わった。
ステージで行われた「浴衣カップルコンテスト」
スーパーボールすくいや輪投げなどの出店も
17年ぶりに暮らした飯島町で感動したこと
この「りんりん祭」を2021年に立ち上げたのは、町内で『居酒屋みなみ』と『バー・ラルゴ』を営む堀内陽子さん。飯島町で生まれ育った堀内さんは、高校を卒業後、すぐに東京へ。当時を「なにもないこの町を、とにかく出たかったんです。」と振り返る。
東京では、イタリアやアメリカの大使館職員や芸能関係者が多く訪れる、銀座のイタリアンの有名店などで働き、ヘッドウェイトレスまで務めた。17年間暮らした東京を離れ、地元・飯島町に戻る決意をしたのは、父親からの「戻ってきてほしい」という電話がきっかけだった。
「1年ほど迷いましたが、両親の老後のことを考えると誰かが側にいたほうがいい。それなら兄弟のなかで、まだ結婚していない私が戻るのがいいのではないかと決心したんです。そのときは、『ああ、またあの何もない町で暮らすのか……』と思っていました」
こうして35歳のときに飯島町にUターンした堀内さん。17年ぶりに飯島町で暮らし始めて驚いたのは、夏の涼しさだ。
「東京では夏に外に出ると、むわっとした蒸し暑さに襲われていたのですが、飯島町ではそれがなくて。夏でも木陰に入ると涼しく、夜には薄い上着がないと寒いくらいです。東京ではつけっ放しだったエアコンも、こちらでは夜には切って、窓を開けて網戸で寝るように。あと、水道水がおいしいので水も買わなくなりましたね」
Uターンして1年ほどは、のんびりしながら仕事を探そうと思っていた堀内さんだったが、母親たっての希望で、休業していた『居酒屋みなみ』を再オープンすることに。
すると、以前の常連客をはじめ地元の人たちが大勢足を運んでくれ、瞬く間に大盛況に。3年後にはバー『バー・ラルゴ』もオープンさせた。また、飲食店を始めてから昔の同級生と再会したり、新たな友達ができたり、商工会の青年部にも参加するようになったことで同年代の店主や起業家の仲間ができたりと、だんだんとこの町に知り合いが増えていった。
若い世代が一丸となって開催した春祭りがベースに
自身が経営する店でイベントを開催することはあったが、町の行事には商工会の青年部の一員として参加するぐらいだったという堀内さん。そんな彼女が自ら夏祭りを立ち上げようと動き出したのは、新型コロナウイルスの流行がきっかけだった。Uターン後、結婚し、娘が生まれた堀内さん。いつも長期の休みには、お子さんと旅行に出かけるのが楽しみだった。
「けれど、コロナが流行し始めた2020年には、旅行はもちろん子どもをショッピングモールに連れていくこともできなくなって。保育園に通う娘は何度も説明しても納得してくれず、『どうして私はお留守番なの?』と泣きながら聞いてくるんです。そんなステイホームで苦しんでいる子どもたちやお母さん、お父さんが喜んでくれるイベントを開催できないかと思いました」
商工会青年部の仲間やOB,役場、消防団の皆さん、地域おこし協力隊として県外から移住してきた方などに声をかけると、快く手伝ってくれた。若い世代が一丸となって、飲食店の屋台やステージイベントを中心とした新しい祭りを春祭りを開催することができた。
「この経験がりんりん祭を立ち上げるベースになりました。もっと若い世代が中心に多くの人が関われて、飯島町の良さをアピールできる祭りにするためにはどうしたらいいかと考えたとき、頭に浮かんだのが『風』だったんです」
何もないからこそ、“風”がこんなにも気持ちいい
西には2800m級の中央アルプス、東には3000mを超える南アルプスが連なる伊那谷には、夏場も山々から涼しい風が吹き抜ける。
「飯島町には何もないからこそ、山々から吹き抜ける風がこんなにも気持ちいいんだと、Uターンしてくらすうちに気がついたんです・この風を表現するにはどうすればいいかと考え抜いた結果、『風鈴』にたどり着きました」
せっかく風鈴をテーマにするなら世界一の記録を取りたいと、堀内さんはアイデア段階で「ギネスワールドレコーズ」に連絡。ガラスの風鈴による世界記録がまだないことを確認し、“3年間で1万個の風鈴を作り上げ、ギネス世界記録™の認定を受ける”という目標を立てた。
実行委員会のメンバーは、当初はわずか7名。堀内さんの同級生や、青年部時代に知り合った仲間、飯島町でイベントを手がける若い男性、町内で多くの祭りに関わり人脈も豊富な先輩のほか、町を応援したいという志を持つ町外在住の地元出身者にも声をかけ、メンバーとして参加してもらった。
「風鈴を中心とした祭りを作り上げるのは初めてのことなので、風鈴の制作をどうするのか、風鈴を飾るやぐらの形や安全性はどうするのかなど、すべてが手探りで本当に大変でした。『どんな祭りにしたいのかわからない』『夢みたいなことを言って』をいった厳しい言葉をいただいたこともありました。けれど、1年目で3000個の風鈴が作れるだけの応援もいただき、とても勇気づけられました」
風鈴に短冊を取り付ける作業が間に合うかギリギリだったときも、多くの人が無償で手伝ってくれた。また、3年目のりんりん祭に関わってくれたボランティアは約50名で風鈴の設置や会場の運営などを行ってくれたのだという。
コロナ感染の広がりと台風の影響により、当初予定していた飲食屋台の出店やステージイベントなどは残念ながら中止せざるを得なかったが、やぐらに3000個の風鈴を飾った“風鈴街道”は、多くの町民に見てもらうことができた。
「風鈴の澄んだ音色や、きらきらと輝く姿に感動したという声をたくさんいただき、私たちも本当に感動しました。お父さん、お母さんやおじいちゃん、おばちゃんが、自分の子どもや孫が短冊にどんな夢を書いているのか一生懸命探したり、写真に収めたりしている姿も見られて、とてもうれしかったですね」
きらきら輝く夏祭りを、子どもたちの心の中に
2年目の目標は、風鈴約6500個。一度もりんりん祭を開催したことで、「前回のあの風鈴街道を倍にするってことでしょ」と祭りのイメージが共有でき、多くの人が快く風鈴の設置に協力してくれた。2年目からは、会場を飯島駅前から現在の飯島町文化館駐車場周辺に移動。飲食屋台の出店やステージイベントにも力を入れた。
3年目の2023には、アーティストや芸人たちがステージに登場する「後夜祭」を新たに開催。風鈴を2個協賛すると+1000円で後夜祭の入場券が1枚購入できるようにし、風鈴数1万個の目標を達成を目指した。後夜祭には、ダイノジやコウメ太夫などの芸人も登場し、当日は大いに盛りをみせた。
ステージで演奏する飯島中学校吹奏楽部の生徒たち
なかでも、堀内さんがうれしかったのは、地元中学生の有志で結成された『りんりんジュニア』のみんなが、風鈴の設置やソフトドリンクの販売などをボランティアで行い、りんりん祭に積極的に参加してくれたこと。もう一つは、全国大会にも出場したことのある飯島中学校の吹奏楽部をはじめ、合唱団、鼓笛隊など青春を捧げる生徒たちに、ステージで普段の練習の成果を発表してもらえたこと。さらには、数多くの風鈴が吊るされた“風鈴街道”の下で告白された子がいたということだという。
「私たちが大人になってから同郷の友だちと集まって話題にのぼるのは、『あのとき誰々に告白されたじゃん!』など夏祭りの思い出ばかり。そんなふうに子どもたちの心に残るような、賑やかで活気にあふれた夏祭りをこれからも開催していきたいです。楽しい夏祭りの記憶が子どもたちの心に刻まれることで、たとえ『りんりん祭』が終わったとしても、次の世代の子たちがさらに盛り上がる夏祭りを続けていってくれるはずだから」
町外や県外から「りんりん祭」に関わるには?
りんりん祭で飾られる風鈴の「1万個」という数字には、現在は9000人前後となっている町の人口が、再び1万人を超えてほしいという願いも込められている。「そのためにも、祭りの当日や準備段階から、飯島町出身の方など町外や県外に住んでいる方にも気軽に参加してもらい、関係人口を増やしていきたい」と、堀内さんは考えている。
「今年は、飯島町に伝わる昔ながらの曲を含め、新しい曲も加えながら『盆踊り』を開催したいと思っています。その盆踊りをどのような形で行ったらいいか、一緒にアイデアをでしてもらえる方がいたらうれしいですね」
また、町内には、キャンプ場やグランピング施設、ロッジ、宿泊施設、コワーキングスペースなどがあり、SUPや釣り、テントやサウナなどのアクティビティが楽しめる『千人塚公園』や、キャンプやBBQの他、プールやテニス、川遊びなどが満喫できる『与田切公園キャンプ場』などがあり、現在、りんりん祭と宿泊がセットになった旅行プランも検討中。インバウンド旅行者に向けて、浴衣のレンタルも行っていけたらと考えている。
千人塚公園内にある宿泊施設『yado櫻山』
「風鈴に短冊をつけたり、やぐらに風鈴を設置したり、イベント終了後に風鈴を片付けるなど、ボランティアスタッフとして参加していただくこともできます。もちろん、当日に遊びに来てもらうのもウェルカムです!」
堀内さんが“何もない”と感じていた飯島町には、今や、ギネス世界記録™に認定されたりんりん祭がある。今年のりんりん祭は8月12日(月・祝)に開催予定。二つのアルプスから吹く風に揺れる風鈴の音色や、ライトアップされた幻想的な風景などを楽しみに、ぜひ足を運んでみてほしい。
昨年の「りんりん祭」のステージで、「ギネス世界記録™」の証書を授与された際の様子
「ギネス世界記録™」認定受けて喜びに湧く皆さん
文:杉山正博 写真:宮崎純一
■りんりん祭り
公式HP:https://www.rinrin-matsuri.com
りんりん祭公式Instagram:https://www.instagram.com/rinrin_fes
IIJIMANOTE LINE公式アカウント:https://lin.ee/jAQGrkG