JAL×三豊市の出会いが生む、地域協創型ワーケーションの可能性

vol.2

リモートワーク化の時勢を追い風に、新たな旅のスタイルとして定着しつつあるワーケーション。そんなワーケーションの新たな可能性を感じさせるモニターツアーの第2回目が、2023年12月下旬に香川県三豊市で開催された。  

ツアー参加者は日本航空株式会社の社員8名。 

参加者は一棟貸しのゲストハウス『UDON HOUSE』を拠点に、4日間のワーケーションを体験。さらに、農作業体験や無人島・訪問、地域活動の最前線で活躍するキーパーソンたちとの交流などを通し、さまざまな角度から三豊市の地域性と魅力、課題を見つめ、JAL×三豊市ならではのワーケーションプランを企画。最終日には、三豊市役所職員や地元企業の代表者らとの意見交換会を開催した。 

▼第一回目のレポート記事はこちら!
https://turns.jp/91101

 

1日目:地域農業体験、地域プレイヤーとの交流会 

 まるく農園 


みかんの収穫方法をレクチャーする、まるく農園の組橋聖司さん 

瀬戸内海中央部に面する三豊市仁尾町地区は、糖度の高いみかんが育つ条件とされる①温暖な気候②日当たりの良さ②水はけ良い土壌の3つをすべて満たす、日本有数のみかんの名産地。 

参加者は地域農業の魅力に触れるべく、曽保地区にある果樹農園『まるく農園』の3代目・組橋聖司さんのもとを訪ね、みかんの収穫を体験。まるく農園では東京ドーム2個分に相当する約30,000坪(9.9ha)の農地で仁尾町の特産品・曽保みかんのほか、デコポン、レモン、キウイなどを栽培している。


収穫体験をする参加者。果実が傷つかないよう、果柄を2段階に分けて切り揃える 

組橋さん「みかん栽培は手間と体力が求められる仕事です。年間を通して一本一本の樹木の樹齢や大きさなどを見極め、土や水、肥料の量を調整し続けなければなりませんし、毎年11~2月には冷たい潮風が吹き抜ける急傾斜地で収穫作業を行います。手間暇かけて育てても、色、形、重さ、見た目が少しでも基準から外れると規格外品となりロスが生じてしまうんです。 

一昔前までこの辺りの山々にはみかん畑が広がっていたのですが、そうした生産の難しさに加え、担い手の高齢化や継承者不足によって耕作放棄地が目立つようになりました」 

組橋さん「そこで、まるく農園では後継者のいない耕作放棄地を引き継ぎ、地域内外からボランティアスタッフを募って営農するほか、規格外品を活用した加工品づくり等の六次産業化にも取り組んでいます。まるく農園のファンでいて下さる方のためにも、柑橘畑が広がる曽保地区らしい風土を守りたいという地元の方々のためにも、地域農業を未来につないでいきたいです」 

三豊市の農業産出額は211億(令和3年度)と香川県内第一位。 

言わずと知れた農業立市だが、その背景には人口減少や高齢化の波を肌で感じながら地域農業と向き合う、農家さん一人ひとりの姿があることが感じられた。 

■まるく農園
HP:http://www.marukufarm.com
オンラインショップ:http://www.marukufarm.com/shop 

地域プレイヤーとの交流会 

夜には『IZAKAYA 時々jiji 高瀬店』で開かれた地域プレイヤーとの交流会に参加。 

交流会には前回のワーケーションで出会った三豊市役所職員や瀬戸内ワークス株式会社の原田佳南子さん、森さくらさんも加わり、約2カ月ぶりの再会と地産食材を用いたあたたかい料理を楽しみながら親睦を深めた。 

 

2日目:無人島見学・地域事業者訪問  

蔦島 


『瀬戸内ワークス株式会社』の森さくらさんの案内で島内散策へ 

第一回目のワーケーションで市内を巡り、瀬戸内海の島々を望む三豊市の「多島美」に魅力を見出した参加者。今回はその多島美を構成する島の一つ、大蔦島を実際に訪問してみることに。 

大蔦島は仁尾港から渡船で7分ほどのところにある、周囲4kmほどの無人島。『つたじま渡船』という定期便がお客さんを運んでいる。この日は定期便の運行期間外だったため、地元の漁業協同組合の協力で船を出していただき島へ。上陸すると白砂青松の美しい浜辺が迎えてくれた。 


大蔦島から本土を望む風景 

森さん「毎年、夏季の海水浴シーズンには海遊びやキャンプを楽しむ方もいますが、渡船が運休する11~3月までのオフシーズンに島を訪ねる人はいません。 現在は地元事業者が指定管理者として島を維持・管理しています。次年度に指定管理者を広く募集し活用方法を模索していく予定なので、これから島の新しい歴史が始まるかもしれません」 

手つかずの自然が残る大蔦島を見学した参加者からは、「何もない=何でもできる自由を活かして、新しいワーケーションプランやチームビルディング・企業研修プログラムなどが企画できるのではないか」という声が聞かれ、無人島という地域資源に新たな価値と可能性を見出したようだった。 


渡船の運行も乗り降りも、人と人との支え合いで成り立っている 

■蔦島
https://www.mitoyo-kanko.com/facility/tsutajima-island 

 

株式会社喜田建材 

本土に戻った一行は、『株式会社喜田建材』が運営する建材ショールーム『DEMI 1/2』へ。 

“空き家王子”の愛称で親しまれている、島田真吾さんの元を訪ねた。 

喜田建材は、創業100年を超える地元の老舗企業『喜田木材株式会社』の木材販売事業から派生して生まれた建材販売企業。最大の特徴は、工務店からの発注に応えるBtoBビジネスを基本とする建材屋でありながら、不動産事業や雑貨販売業、ゲストハウスやラーメン店『讃岐らぁ麺 伊吹いりこセンター』の開業・経営、アップサイクル事業まで、さまざまなBtoCビジネスを展開していること。 

島田さん「珍しい事業形態のように思えるかもしれませんが、弊社の事業はすべて自社建材の販売に繋がるようにデザインされています。例えば『DEMI 1/2』は、自社の不動産事業『くらしの不動産』の顧客対応窓口でありゲストハウスのチェックインスポットであり雑貨店でもあるため、建材ショールームとしては異例の年間1万人以上が来店します。 

ゲストハウスは地域の空き家を自社建材等を用いてリノベーションすることで、市外から人来た人が三豊の暮らしを疑似体験し、その魅力を体感できる“泊まれるショールーム”としての機能も持たせています」 


空き家をリノベーションして造られたゲストハウス。三豊市に暮らすように滞在することができる 

三豊市に「住みたい!」と思う人を増やしても、空き地・空き家を確保できなければ住宅着工件数は伸びず、建材受注数も増えない。そこで島田さんは、自らの足で地域を巡り空き地・空き家をマッピング。時には地主・家主と直接交渉して成約につなげたり、自社で空き家をデザインから手掛けてリノベーションすることで販売価値を高めて市場に出したりすることもあるのだという。 

島田さん「『住みたい!』と思われるまちづくりは、魅力的なまちづくりにつながっています。“建材の未来をつくるために、まちの未来をつくる”という、人も地域も自分たちも幸せにする新しい建材企業の在り方を確立していきたいです」 

■株式会社喜田建材
https://demi-kitaken.com 

 

RACATI(ラカティ) 

お昼時を迎えた一行は、「Bean to Bar」をコンセプトに、カカオ豆の選別・焙煎・製造・ラッピングまでの全工程を自社で一貫して行うショコラトリー「RACATI」(ラカティ)へ。 

RACATIの運営母体は地元の老舗木材加工企業「株式会社モクラス」。 

モクラスは長年、障がい者雇用の促進に取り組んできたが、大型の機械を扱い危険も伴う事業特性上、責任ある仕事を任せるのは難しいという課題を抱えていた。 

「誰もがやりがいを持って生き生きと働き、人を幸せにできる仕事をつくりたい」と新規事業を模索している時に、たまたま訪ねた広島県尾道市でチョコレートのおいしさに出会い、ショコラトリーの立ち上げに至ったのだと言う。 


RACATIを反対から読むと、TICARA(チカラ)。すべての人のチカラになるチョコレート届けたいという思いが込められている 


併設の『EVERYONE’s SANDWICH』では、出来立てサンドウィッチを楽しむことも 

チョコレート工房の裏手には、モクラスが自社の製造設備を使った新事業として始めたサウナ製造・販売と商品開発事業の商品展示場があり実際に設備を利用してこの場で“整う”体験もできる。 

木材加工×チョコレート×サウナという、一見突飛にも思える事業形態だが、すべての事業の根底には「従業員の幸せを追求し、お客様に信頼され、地域社会に貢献する」というモクラスの理念が息づいていた。 

■株式会社モクラス
https://mokurasu.com 

 

3日目:地域事業者訪問 

荘内半島オリーブ農園 

三豊市の北西部に位置し、瀬戸内海へと伸びる庄内半島は、あの『浦島太郎』の舞台になったという伝承が残る地。浦島太郎が生まれた里とされる「生里」や、玉手箱を開けた地とされる「箱」、玉手箱から立ち上った煙が紫色の雲となってかかったことに由来する「紫雲出山」など、浦島太郎にまつわる地名が数多く残っている。 

この地で『荘内半島オリーブ農園』を経営しながら、宿泊事業、ガソリンスタンド事業を展開しているのが真鍋貴臣さん。三豊市で生まれ育った真鍋さんは、大学卒業後、サラリーマン生活を経て35歳の時にUターン。家業のガソリンスタンド業を継ぎ、さらに父親がおよそ6,000坪の耕作放棄地を開墾し700本のオリーブを植えて開いた農園を継承した。 

真鍋さん「オリーブの木は地植えして大切に育てることで、1,000年以上もの間実を付け、生き続けます。父が農園を開いたのは、この地に代々続く新産業を作りたいという思いからです。その思いとともに事業を受け継いだ私は、オリーブ農園に何か自分らしい新しい価値を付けたいと考え、瀬戸内海の多島美を望む景観を活かして一棟貸しのゲストハウス事業を始めました」 

真鍋さんは現在、荘内半島で全7棟のゲストハウスを経営。国内外から宿泊客を受け入れており、年間稼働率約8割の棟もあるのだそう。宿泊費は何れも一泊2~3万円ほど。カップルや家族が気軽に滞在できる価格にこだわり設定している。 

真鍋さん「10月中旬から11月末までのオリーブの収穫期には、長期滞在型のアルバイトを募集しています。農園滞在を通して三豊市で暮らす魅力を体感していただいたり、地域の方々と出会い交流を深めていただくなど、ここから地域をより豊かにする好循環を生み出していきたいです」 

 

■荘内半島オリーブ園
https://26-olive.jp 

■フィネストラ(ゲストハウス
http://finestra.co.jp 

 

おむすび座 

農園見学を終えた一行は、『寝転がれるお座敷ブッフェ おむすび座』へ。 

おむすび座は、三豊で子育てするママ・パパからの「子どもと一緒にゆっくりご飯やおしゃべりを楽しめる場所があったら…」という声を、地元の子育て世代等から成る『株式会社ブレーメンカンパニーズ』が中心となってカタチにした食事処。「子育てを孤独な『孤育て』から、地域みんなで助け支え合う『Co育て』へ」をビジョンに掲げ、この場所から共助の輪を広げていくべく運営されている。 

農家の母屋をリノベーションして造られたゆとりある店内は、中心部に絵本ライブラリー付のキッズスペースが設けられていて、どの席からも子どもの様子を見守ることができる造り。客席の全面にはクッション材の入ったふかふかの畳が敷き詰められており、子を持つ親同士、子どもを自由に遊ばせながらゆっくり食事を摂ったり、会話を楽しんだりすることができる。 

メニューはメインを肉・魚の2種から選べるほか、おむすび、サラダはおかわり自由でフリードリンク付き。子ども向けのキッズプレートも用意されていて、未就学児は無料でおなか一杯の食事を楽しめるのも魅力の一つだ。 

おむすび座
https://www.omusubi-za.com 

4日目:意見交換会 


ワーケーションプランをプレゼンするJAL社員(右) 

最終日には、参加者と三豊市役所職員、瀬戸内ワークスの原田さん、森さんによる意見交換会が開かれた。 

JAL社員が提案したのは、“自ら燃える集団”を生み出すための地域×企業協創型ワーケーション。 

廣谷さんJALグループはヒト・モノの移動を生み出す企業ですが、人は移動した先で新しいヒト・モノ・コトと出会い、つながり、新たな関係性を築きます。移動が生み出すそうした社会的・経済的価値をさらに高め、人も地域も幸せにするワーケーションプランを検討しました」 

八木さん「これまでのJALのワーケーション実施状況として、弊社では2017年からワーケーション制度を導入し利活用を促進してきましたが、これまでは社員の有給休暇取得率や仕事に対するモチベーションアップを主目的とする、福利厚生の一環としての位置づけでの実施でした。今回私たちが提案するのは、『休暇型ワーケーション』から、『業務型ワーケーション』へのフェーズ移行です。ワーケーションを通して出会った三豊市の魅力を地域の皆さまと共に活かし、新たな旅の目的と移動の機会を生む事業を創出することで、地域・企業の双方にメリットもたらすワーケーションを実現していきたいと考えています」 

中村さん2回にわたるワーケーションで地域を巡り、私たちが見出した三豊市の魅力は2つあります。一つ目は人です。三豊市では明確なビジョンとパッションを持って事業を行っている熱量の高い地域プレイヤーが多数活躍しており、さらにプレイヤー同士が互いの思いを尊重し、刺激を与え合いながら協業している姿に大きな刺激を受けました。2つ目は無人島です。今回巡った蔦島には、何もない=何でもできる自由があり、ワーケーションのフィールドとして大きな可能性があると感じました」 

福田さん「ワーケーション実施にあたり大切にしたいのが、JALフィロソフィー(社訓)です。その内容は、人には火を近づけると燃え上がる可燃性の人、火を近づけても燃えない不燃性の人、そして自ら燃え上がる情熱を持った自燃性の人の3つのタイプがおり、何かを成し遂げようとする人は、自燃性の人でなければならないとするものです。このJALフィロソフィーを活かし、自燃性の人から成る燃える集団(組織)を生み出すためのワーケーションをご提案します」 

三輪さん「具体的なワーケーションプログラム案として、参加者にはまず三豊市で活躍する地域プレイヤーたちの元を訪ねてプレゼンを聞き、一人ひとりの魅力と熱量に触れながら『自燃性の高い人とはどのような人か』を考えていただきます。そして、蔦島をフィールドに仲間と共に学びを深め、どうすれば自燃性の高い人になれるかを考え、具体的な目標を宣言する。インプットアウトプットミッション宣言までを一連のワーケーションプログラムとして実施します」 

相場さん「無人島を活用することで、さまざまなアウトプットとチームビルディングのカタチが実現し得ると思います。例えば、火起こしをするところからの自給自足やキャンプファイヤー、釣りやSUP、トレッキングなど自然を活かすアクティビティもできますし、仲間と知恵を出し合い、島から本土に帰る方法を考えて実行するなど、同じ目標に向かって協力するという原体験を持つこともできるはずです」 

参加者によるプレゼンを受けた三豊市役所職員、地元企業の代表者からは、好意的なフィードバックが得られた。 

三豊市「『自ら燃える人を生み出す』という考えに共感しました。三豊市の魅力のひとつとして挙げていただいたは、市としても地域の魅力として認識しているところですし、地域プレイヤーたちと出会いその熱量に触れることで芽生えたを、幾多もの活用方法が考え得る無人島をフィールドに育むことで、それぞれの組織らしいに育てていけると思います。ワーケーションにより生まれた人と地域の縁が関係人口や移住定住人口の増加つながれば、三豊市最大の地域課題である人口減少問題の新しい希望になる可能性もあり、実現できたらとても良いと思いました」 

原田さんJALさんのように多くの社員を抱える大企業がこんな風に三豊市に関わって下さると、大きなムーブメントが生まれ、世の中全体の“働く”に対する価値観もより良い方向に進化していくのではないかと希望を抱きました。地域と企業が並走していくプログラムは、私が次のフェーズで挑戦しようとしていたことともピッタリなので、ディスカッションを重ねてぜひ実現させましょう!」 

森さん「皆さまのコメントの通り素晴らしいプレゼンで、この企画をどうすれば実現できるのかを考えながら聞いていました。実現にあたりJALさん側も三豊市側も乗り越えなければならない課題が出てくるかもしれませんが、協力し合ってぜひ実現しましょう!」 

 

ワーケーションをきっかけに、『叶えたい未来は、自分たちの力でつくる』という熱量の高い”人”が魅力の三豊市と、”自ら燃える人であれ”をフィロソフィーとするJALが出会い、共鳴し、生まれた、地域×企業協創型ワーケーション。 

ワーケーションが生み出す効果は、福利厚生の向上や平日・長期の旅行需要創出だけに留まらない。人・企業・地域を新たな方法でつなぎ、より良い未来へと共に向かう推進力にもなり得ると実感できる4日間となった。 

 

                   

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