買い物だけじゃない
地域密着型スーパーの底力

秋田県横手市 スーパーモールラッキー

もはや、スーパーは「単に買い物をする場所」ではなくなった。
お買い物バスの運行や配食や見守りサービス、お客様の困りごとの受付窓口などスーパーの枠を超えたサービスを提供し続ける理由とは。

ラッキーにないものはない!?

秋田県南部に位置する横手市は、雄物川や横手川などの豊富な水資源と肥沃な土壌に恵まれ、農業生産額は五年連続県内トップを誇るまちだ。人口は約九万人。市一帯が豪雪地域または特別豪雪地域に区分されるが、特に今冬の雪害は深刻で、農業被害額は約四十五億を越えた(二〇二一年五月 横手市発表)。自然の厳しさと豊かさが表裏一体であることをよく知っているこのまちの人たちには「困ったときはお互い様」の精神が根づいているようだ。

横手市十文字町に、地元でひときわ愛されているスーパーがある。「スーパーモールラッキー(以下、ラッキー)」である。初めて訪れた人はその品揃えの豊富さに圧倒されるだろう。一般的な食品はもちろん、オーガニック食材や産直の農産物がずらりと並ぶファーマーズマーケットは圧巻。惣菜コーナーには、郷土料理の隣に地元の飲食店のテイクアウト商品である石窯ピザなどの洋食も並び、多くの人でにぎわう。また県内屈指の品揃えのアウトドアコーナーは休日ともなれば県外からもわざわざ足を運ぶ人もいるという人気ぶりだ。ほかにも一階建・約三千五百坪と広大な店内には、酒店、書店、おもちゃ、メガネ店、ホームセンター、日用雑貨、家具、生花、ペットショップ、家電、ドラッグストア、果ては仏壇用品、旅行代理店まである。紳士服・婦人服売り場を歩いていると、マネキンの影から高級ブランド品のショーケースがひょっこり顔を出すのだから、「もはやラッキーにないものはないのでは!?」と言いたくもなる。

フードコート、キッズスペース、飲食可能な百十五席のフリースペースも完備。現在はコロナのため控えているが、フリースペースでは味噌づくりやマクロビなどのワークショップが行われ、子どもたちが遊ぶかたわらで友人と語らう人、コーヒーを飲む人、持ち込んだ将棋を楽しむ人など、いろんな人が憩っていた。買い物だけではない、実に多様な過ごし方を受け止めてくれる場所がここ、ラッキーなのだ。

「ラッキーに行く」。この言葉は地元の人たちにとって、「ただの買い物」を超えた意味を帯びている。

自前のバスで暮らしを支える
ラッキーの「お買い物バス」

ラッキーが充実しているのは、品揃えだけではない。自前のバスで運行する「お買い物バス」は、ラッキーの店舗と横手市十文字を中心に隣接する東成瀬村〜湯沢市の一部などを結ぶルートを、平日を中心に運行している。登録料百円の会員カードを見せれば、運賃は無料だ。

お買い物バス運行のきっかけは、ラッキーを運営する株式会社マルシメの代表取締役である社長の遠藤宗一郎さんが、店の駐車場で見かけたある風景にあった。「ご高齢の方がご近所さんと声を掛け合って、一台の軽自動車に乗り合いで買い物に来ていたんです」と遠藤さん。

人口減少に伴う路線バスの減便や廃線が相次ぐなか、買い物に行きたくても行けない、いわゆる「買い物弱者」は全国で七百万人いるといわれている。横手市では六十五歳以上の高齢者は人口に対して三八・五%と多い。潜在的に買い物に困っている人が身近なところにもいるのではと、遠藤さんは地元の民生委員にヒアリングを実施。すると地域には多くの独居老人がいて、買い物に困難を抱えていることがわかったという。

二〇一一年に三ヶ月間、補助金を活用して試験的に運行を実施したところ、地域の人々から大好評。「どうしても続けてほしい、ないと困る」という声があがり、会員向けのサービスとしてお買い物バスの運行を開始するに至った。現在では十四ものルートを運行する。ルートのなかには過疎のため路線バスが廃止された限界集落も含まれている。このバスがないと買い物にも銀行や病院にも行けないという人たちの暮らしを名実ともに支えるのが、このお買い物バスなのだ。

この取り組みは地域課題に取り組むモデルケースとして、学術論文などでも紹介されている。さらに二〇二一年、自動車販売店であるトヨタカローラ秋田から、モビリティの利活用を地域で支援する取り組みとしてコンサルティングを受けるなどして自治体や他業種も含めた地域全体でMaaSを普及させるなど、できることを模索しているという。

対価より地域との接点づくりを

この日、利用客が家に帰るお買い物バスに同乗させてもらった。「今日は天気がいいから、田植えと山菜採りでいつもより人が少ないの」と口々に話す利用客の皆さんは、のきなみ八十代だという。「お買い物バスがないと生活できないもの。助かっています」と話す人もいれば、「このバスで会えるから〝元気だか?〟と声を掛け合える。友の会みたいなものです〜!」との声があがると、乗客全員が「んだんだ」と笑いながら相づちを打つなど、車内はたいそうにぎやかだ。「ラッキーさ行けば、みんな揃うもの」「他の地域に住んでいる知り合いにも会えるし」「ケアマネさんや家族に代わりに買い物に行ってもらうこともできるけれど、自分の目で見て、自分で選んで買えるからここが一番いい」。つまり、「買い物はラッキーでねばダメだ」という声が圧倒的だった。

今ならネットスーパーや移動販売など、もっと効率のよい手段はある。それでもラッキーがバスの運行という元手も手間もかかる手段を選択したのは、買い物の楽しみを味わってほしいという思いと、〝地域との接点づくり〟が必要だという遠藤さんの思いがある。

創業六十年のスーパーの三代目に当たる遠藤さんは、都内で大手コンビニの本部で流通業に携わったのち、父親が病を得たことを機に弱冠二十五歳でUターン。跡を継いだ。お買い物バスは遠藤さんが社長に就任した初期に手がけた事業だった。

同じく遠藤さんが初期に手がけた事業に、ファーマーズマーケットがある。いわゆる産直の仕組みで、現在では実施するところも増えたが、遠藤さんが社長に就任した当時、この地域には産直の概念が一切なかった。ゼロから仕組みづくりをすすめ、現在では地元を中心に四百軒を超える契約農家や加工業者から仕入れているというこのファーマーズマーケットは品数も豊富で新鮮、しかも比較的安価なため、利用客にも好評。売上も上々で、とくにコロナ禍で外食産業への卸しが減少している今、生産者にとっても大切な収入源となった。

「いつも〝地域で経済を循環させるにはどうしたらいいか〟を考えています」と遠藤さん。地元で販売力があり、多くの地元生産者と契約しているラッキーで買い物をすれば、売上は生産者や飲食店に還元される。自社も含めて地域全体が潤えば、給与として還元もできる。給与が増えれば、それがまた「お買い物」につながるというわけだ。バス事業単体では年間一千万円もの赤字だというがそれでも、全体で見て「お買い物をするためにラッキーに行く」という動機付けをする観点と、地元で関わる人が増えれば増えるほど地域が潤うという視点から見れば、「地域を元気に」という芯から一ミリもぶれないプロジェクトであることは間違いない。

ラッキーのユニークなサービスは止まるところを知らない。二〇二〇年五月には、コロナ禍で打撃を受けた地域の飲食店の「応援チラシ」を作成。さらにテイクアウト需要の高まりを受けて好調だった惣菜コーナーでは、応援チラシに掲載した飲食店とのコラボ商品などを販売した。飲食店側にはノーリスクでメリット大のこのスキームは飲食店サイドからも「本当にありがたかった」という声が多数聞かれたという。こうして、関わる人が増えることで、ラッキーのファンがまた増えていくというわけだ。

多様な人材が多様なサービスをうむ

従業員約二百人を抱えるマルシメ。近年は、毎年高校生の採用も実施している。もちろん古くからの従業員も多く、中には遠藤さんの子ども時代を知る従業員もいるほどだ。

若くして社長に就任した遠藤さんが、これだけ多様な人材を束ねながら、次々と新しい取り組みを仕掛け続けることは、容易ではなかっただろう。既存の枠にとらわれない柔軟な発想、そしてときには短期的な採算は度外視して地域に必要と思われるプロジェクトはまずやってみるという実行力。それが実現しているのは、遠藤さんの掲げる「地域で経済を循環させたい」という強い信念のもと、次第に約二百人の従業員が「お客様のために何ができるか」をそれぞれに考えるようになった部分もあるのではないか。

勤続三十八年で、サービスカウンターやレジを担当するパート従業員の柿崎美和子さんは「若い世代の人たちに好まれる売り場も増えて、県外からのお客さまもぐっと増えました。一方で、昔からのお客さんも〝ここさくればみんな揃うからラッキーが一番いい〟と言って継続的に来店してくださるんです。三代目になってから、ラッキーは長く勤めている人から高校生までさまざまな年齢の人が働く場所になりました。そうするとそれぞれがお客さんの快適さや、楽しさを考える。だから、多くの方に選ばれるスーパーになっているのではないでしょうか」と話す。

柿崎さんが立つレジに一枚のチラシが置いてあった。「暮らしのお困りごと、ラッキーが解決します」とある。これはカスタマーマーケティング部サポート事業グループが担うサービスで、春〜夏にかけての草刈りや秋口の雪囲い、冬は屋根の雪おろしなど体力が必要な作業を中心に、エアコンやレンジのクリーニング、害獣駆除、外装工事など利用客の「どこに相談していいかわからない」「これまで頼んでいた業者が廃業したので頼み先がなくなってしまった」などの日々の困りごとに応えるサービスである。

担当の遠藤健さんは「私がこの事業部に配属になって五年経ちますが、これまで対応できずにお断りしたご依頼はほとんどないですね」と話す。自社でできないサービスを実現するのも、地域のネットワークだ。自社で請け負う仕事のほかに、工務店やゴミ処理業者、庭木の専門職、ハウスクリーニングなど二十九社の地域業者と提携。ラッキーが窓口となり、仕事をアウトソーシングしているのである。できるサービスを提供するだけでなく、集客力を生かした窓口業務で地域に新たな仕事を生み出す役割も、地元スーパーが担っている。スーパーがここまでやる時代になったのだ。

〝お客さんとの接点を増やす〟。これにより新たに出会えるニーズがあるということをラッキーの事例が教えてくれる。それがビジネスチャンスである場合もあれば、広義の意味ではケアや福祉のジャンルになる場合もあるが、思いは一つ、「地域を元気に」なのだ。

「人口減社会のなかで、サービスを提供する会社数も減っていくでしょう。でも、そのサービスを必要とする人は残る。そのサービスは誰かが担わないといけないんです」と社長の遠藤さん。「将来的には小売業を中心にした地域商社のような業態になっていくかもしれません。そのときのためにも、外部との連携は欠かせない」と話す。

食はエンターテインメント

マルシメではUIJターンも積極的に受け入れている。二〇二〇年九月にJターンした渡邉理さんもその一人だ。

渡邉さんはこれまで都市部でブライダル関連のシェフとして経験を積んできた。子どもが生まれたことを機に、子育てや秋田の実家のこと、自分の仕事と将来について改めて見つめ直したとき、帰郷とキャリアアップを同時に叶える働き方を模索しているなかで、エージェントを通して遠藤さんに出会った。「生産者から直接仕入れた農産物や、プロもうなるようなセレクトも多く、〝これをローカルでやっているなんてかっこいいな〟と。遠藤社長から『地域商社として既存のスーパーにとどまらない食の体験という価値の提供をしていきたい』という話を聞き、これだと思いました」と渡邉さん。

ラッキーが構想する体験型食品スーパーは、フードコードと惣菜コーナーを併設する。店内で販売する商品を使ったメニューを併設のフードコードで食べられたり、フードコードで作ったデリを惣菜コーナーで購入できたりするというもの。グローサリーとレストランを合わせて「グローサラント」という造語で呼んでいるという。現在店舗の一部改装に向けて動いており、オープンは二〇二一年夏の予定だ。

「食を通したコミュニティをつくり、地域の味を発信していきたい」と渡邉さん。地元の生産者や企業とのコラボや、自社の新商品の開発をはじめ、新しいジャンルの農産品に取り組む人を積極的に応援する場所となるようにとメニュー開発などを行っているという。

朝どれの野菜が生産者から直接届き、選び抜かれた食材からメニューを開発する。作った料理は、さまざまな目的でラッキーに来店する老若男女にプレゼンテーションが可能。気に入ったら家庭でもその味が楽しめる。「シェフとして、これ以上の環境はない」と渡邉さんは顔をほころばせる。「Jターンをきっかけに食を通じたよりやりがいのある仕事に出会えました」と話す。

お買い物バス、産直、他店応援チラシ、お困りごと相談サービス、そして体験型食品スーパーへ……。豊富な品揃え同様、あるいはそれ以上にラッキーの引き出しを地域の人たちがどんどん増やしているという印象があった。ただの買い物の、その先へ。ラッキーは今日も地域とともに歩み続ける。

 

 

文・編集…石倉 葵 写真…高橋 希

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