茨城県北部、豊かな山林に抱かれた常陸太田市里美地区。
ここで林業に携わりながら、山とともに暮らす岡田洋さん・瑞穂さん夫妻。
自然の中で暮らすことに憧れを抱いていた彼らの願いを現実へと近づけてくれたのが、常陸太田市での「お試し居住」でした。
林業という仕事に出会い、常陸太田市で暮らすことを選んだ二人。その歩みを伺いました。
山に惹かれて。林業を志し、たどり着いた常陸太田市
瑞穂さんが山に惹かれるようになったのは、幼稚園の頃。祖母が暮らす福島県南会津の山で、自然の中をのびのびと駆け回った楽しい記憶が、今でも心に残っているといいます。
その後、茨城県鹿嶋市で生活していた瑞穂さんのもとに祖母がやってきて一緒に暮らすようになると、山の暮らしについて話を聞く機会が増え、ますます憧れが深まっていきました。
岡田瑞穂さん
高校卒業後は工場勤務を経て、ワーキングホリデーでロンドンへ。数年後に帰国すると、瑞穂さんはいよいよ「山で暮らす」という願いを実現させようと動き出します。
「自然の中で自給自足しながら生きてみたかったんですよね。今の日本でそれに最も近いのは林業なんじゃないかと思って、まずは働かせてもらえる場所を探し始めました」(瑞穂さん)
当初は、林業が盛んな他地域への移住も視野に入れていたそうですが、調べるうちに、生まれ育った茨城県にも林業が根付いていることを知ります。
そんな時、常陸太田市森林組合の求人を見つけ、初めてこの地を訪れることに。
「実際に来てみたら、想像以上に理想的な環境でした。南会津の山とはまた違う魅力があって、ここで暮らしてみたいと思えたんです」(瑞穂さん)
地域との相性を確かめた「お試し居住」が、移住の後押しに
「ここで暮らしてみたい」──初めて常陸太田市を訪れたとき、そう強く感じた瑞穂さん。しかし、すぐに移住を決断するのは不安もありました。
そこで活用したのが、常陸太田市の「お試し居住事業」。市が用意した住宅に一定期間滞在し、実際の暮らしを体験できる制度です。生活に必要な家具・家電はひと通りそろっていて、田舎暮らしを無理なく始められる点も魅力でした。
「実際に住んでみて、自然環境だけでなく、人との距離感も心地よかった。この地域の暮らしを体感できたことが、移住への大きな一歩になりました」(瑞穂さん)
photo by Takuya Furusue
「お試し居住」の期間中に瑞穂さんの暮らしを支えてくれたのが、合同会社ポットラックフィールド里美の代表・岡崎 靖さんでした。岡崎さんは、「トライアルハウスJinba」「トライアルハウスMachiya」という2つのお試し居住施設を管理・運営し、利用者が地域で安心して過ごせるよう、生活面から地域住民とのつながりまで丁寧にサポートしています。
合同会社ポットラックフィールド里美の代表、岡崎 靖さん(左)と岡田さん夫妻。岡崎さんが着ているTシャツは瑞穂さんがデザイン。
実は岡崎さん自身も、20年ほど前に家族とともに日立市から移り住んできました。
「やっぱり移住って、簡単に決められることではありません。だからこそ、まずは一定期間その土地で生活してみて、環境や地元の人との相性を確かめることが大切なんです」(岡崎さん)
瑞穂さんと出会ったとき、岡崎さんは「この人は本気だ」と直感したと言います。
「林業をやりたいという目的が明確でしたし、お試し居住の時点で“ここに住みたい”という気持ちが周囲にも伝わってきました。だから、地域の皆さんの間にも、自然と瑞穂さんを応援する空気が生まれていましたね」(岡崎さん)
ある日、地域の集まりに参加した瑞穂さんに、岡崎さんが地元の方々を紹介。その場に偶然市長も居合わせており、なんと翌日には「林業をやりたいという若者がいるから、大事にしてあげてほしい」と、市長自ら森林組合に電話を入れてくれるという、心温まる出来事もありました。
「移住に大切なのは、地域が好きだという気持ちと、自分から地域に飛び込んでいく姿勢。それさえあれば、みんな助けてくれる。常陸太田は農産物も豊富で、食べるには困らない。お金がなくても、なんとかなりますよ(笑)」(岡崎さん)
「お試し居住」を経て、常陸太田市で新婚生活をスタート
古民家に暮らし、五右衛門風呂と晩酌が日常に
こうして、常陸太田市での暮らしに手応えを感じ始めた瑞穂さん。そんな彼女に寄り添い、ともにこの地で新たな暮らしを歩み出したのが、パートナーの洋さんです。
洋さんは、茨城県南部の牛久市出身。小学生のころ、自然の中で過ごすサマースクールに参加した経験から、田舎暮らしへの憧れを抱くようになったといいます。
岡田 洋さん
環境保全活動に取り組むNPO法人で働いていた洋さんは、ある田んぼ体験イベントで瑞穂さんと出会います。
自然を愛する者同士、すぐに意気投合。瑞穂さんが林業を志していることを知り、彼女が「お試し居住」を経て移住を決意したタイミングで結婚。二人は常陸太田市で新たな生活をスタートさせました。
「ちょうどその頃、里美地区で古民家を借りることができました。市の『新婚家庭家賃助成制度』も、移住を後押ししてくれる心強いサポートでした」(洋さん)
その古民家は、キッチンなどはリフォームされていたものの、お風呂は五右衛門風呂のまま。「DIYなどして家の中を整えたいのですが、仕事から帰って晩酌すると、つい眠くなってしまって、なかなか進まないんです(笑)」(瑞穂さん)
自宅でくつろぐ岡田さん夫妻。ヤギ2頭、ネコのほか、最近はニワトリも迎え入れ、暮らしはますます賑やかに。
森を守り、田を耕す。二人が目指す“林業×農ある暮らし”
二人は常陸太田市森林組合に2年勤務したのちに独立。造林を手掛ける企業などから依頼を受け、苗木の植え付けや育成中の木の間伐、建材として出荷する木の伐採などに、日々取り組んでいます。
瑞穂さんの間伐作業の様子。大きく育った木を伐採した後は、新たな苗を植え、山の循環をつないでいく。
朝は6時過ぎに自宅を出発し、8時には山で作業を開始。日が暮れれば道具を片付けて帰宅。雨の日は足元がぬかるんで危険なため、お休み。
「だから、晴れた日は土日関係なく山に入ります。できるときにやっておかないと」(洋さん)
なかでも特に重労働なのが、苗木の周囲に生える雑草を刈り取る作業です。
「雑草に地中の養分を取られないよう、延々と草刈りしていますね」(瑞穂さん)
現在は、同じくフリーランスで林業に携わる仲間たちと「Little Free Foresters(リトル・フリー・フォレスターズ)」というユニットを組み、互いに協力しながら現場作業を進めています。
さらに、昨年からは休耕田を預かって、米作りにもチャレンジ。“半林業×半自給的な有機農業”という、自分たちが理想とする暮らし方を少しずつ形にしています。
「林業や農業は担い手が少ない分、意外と食べていけるし、チャンスも多いです。道具をそろえて、自分たちでできることを少しずつ増やしているところです」(洋さん)
「まだまだ自給自足にはほど遠いけれど、思い描いていた生活に少しずつ近づいている実感があります」(瑞穂さん)
苗木を運ぶ洋さん。「このあたりの山々は八溝山系(やみぞさんけい)に属していて、代々林業に携わってきた方々がいます。私たちも木を伐って、また苗を植えて育てる──そうやって山を守る仕事に大きなやりがいを感じています」
“よそ者”から“地域の一員”へ。そして、新たな移住者の道標となる
常陸太田市へ移住して7年。山と自然とともに暮らしを積み重ねてきた岡田さん夫妻。昨年からは、自宅の近くにある別の古民家の管理も、地域の方から任されるようになりました。
「私たちにできることは限られているけれど、里美地区のみなさんには本当に良くしてもらっているので、少しでも恩返しできたら嬉しいです」(瑞穂さん)
日焼けした顔に、たくましさが滲む手のひら。その頼もしい姿は、岡田さん夫妻がこの地に根を張り、ともに歩んできた年月の証です。
近年は、岡田さん夫妻の存在に背中を押され、「お試し居住」を希望する人も増えているのだとか。二人の営みが、この土地に少しずつ、確かな変化をもたらしている。
今も交流が続いているという岡田さん夫妻と岡崎さん。こうしたさりげないつながりが、地域で暮らしていくうえでの大切な支えになる。
常陸太田市移住支援制度のご紹介
自然豊かな暮らしを求める方へ。常陸太田市では、移住者や移住希望者に向けたさまざまなサポート体制を用意しています。地域での暮らしを試してみたい方から、新生活を始めるご夫婦まで、それぞれのステージに寄り添う制度をご紹介します。
<お試し居住事業>
常陸太田市では、移住を検討している方に向けて、「お試し居住事業」を実施しています。
この事業では、市内の住宅に一定期間滞在し、移住前に地域での生活をリアルに体感することができます。施設内には家具や家電などの生活必需品がひと通りそろっており、特別な準備は不要。到着したその日から、すぐに田舎暮らしを始められます。
現在ご利用いただけるお試し居住施設は、里美地区にある「トライアルハウスJinba」と町屋町にある「トライアルハウスMachiya」の2カ所です。
◆利用料金:1日2,000円、8日目以降は1日1,000円(光熱水費込み)
◆利用期間:1週間から4週間(1か月)が目安
▶️ 詳細はこちら
ひたちおおた移住・定住総合サイト「じょうづるライフ」
【トライアルハウスJinba】
【 所 在 地 】茨城県常陸太田市小菅町1522
【構 造】木造平屋建て5DK
【周辺施設】常陸太田駅22㎞、道の駅さとみ2.3㎞、コンビニ3.3㎞
【トライアルハウスMachiya】
【 所 在 地 】茨城県常陸太田市町屋町2212-1
【構 造】木造平屋建て5DK
【周辺施設】常陸太田駅11㎞、道の駅ひたちおおた12.7㎞、コンビニ3.3㎞
<常陸太田市の新婚家庭への家賃助成>
常陸太田市では、新生活を始める新婚家庭を対象に、家賃の一部を助成する制度を設けています。以下の条件を満たす世帯が対象となります。
◆主な要件
・申請日から遡って3年以内に婚姻届を提出していること
・夫婦いずれもが満50歳以下であること
・賃貸住宅の所在地に、夫婦ともに住民登録をしていること など
◆助成内容
・家賃助成金:月額15,000円(家賃が15,000円未満の場合はその額)
・助成期間:最長48月間
▶️ 詳細はこちら
常陸太田市ホームページ
<地域おこし協力隊事業>
常陸太田市では、地域おこし協力隊事業を活用し林業の担い手を支援しています。
この事業では、最長3年間の任期中、常陸太田市森林組合を研修先として林業の技術を学ぶことができます。本格的に林業を学びたい方には大変有効な制度ですので是非ご活用ください。
現在募集している地域おこし協力隊の申込期限は、9月5日(金)です。
▶ 制度の詳しい内容はこちら
令和7年度地域おこし協力隊を募集します!【令和7年12月委嘱予定】
▼常陸太田市の移住・定住情報はこちら
「じょうづるライフ」は、茨城県常陸太田市での暮らしに興味のある方へ向けた、移住・定住情報のポータルサイトです。
地域の魅力や住まい・仕事・支援制度の情報はもちろん、実際に移住した方のインタビューや、暮らしのリアルが伝わる記事なども多数掲載。お試し居住体験の詳細や相談窓口の案内もあり、「常陸太田での暮らし」をより具体的にイメージできます。
里山の風景や人の温かさに触れながら、新しい暮らしを始めてみませんか?
移住の第一歩は、「じょうづるライフ」から。
移住や二地域居住を検討している方、また旅行者向けに、常陸太田市の地域情報や移住者の体験談、さらに移住支援制度の詳細を掲載したガイドブック。
特に「移住へのステップ」のコーナーでは、情報収集の手順や利用できる制度がわかりやすく示されています。
取材・文:渡辺圭彦 撮影:内田麻美