自分たちのまちは自分たちで守る。
市民が主役、南相馬市の地域防災

※本記事は未来ワークふくしまに掲載されている記事を転載しています

日本各地で相次ぐ地震や台風、豪雨などの自然災害に備え、地域防災の一層の強化が求められています。東日本大震災で地震・津波・原発事故の多重災害に見舞われた南相馬市では、これまでの教訓を十分に踏まえ、「地域の人々に本当に必要な防災とは何か」について真剣に考え、大規模な災害に備えた危機管理対策を進めてきました。被災経験から導かれた本当に役立つ”生きた防災”とは?市と連携しながら防災活動の支援・啓発を行っている社会福祉法人南相馬市社会福祉協議会の佐藤清彦さん、佐々木智洋さんにお話を聞きました。

震災を乗り越え、「100年のまちづくり」を目指して


南相馬市メモリアルパークにある、東日本大震災復興記念モニュメント

福島第一原子力発電所の事故で一部の地域が避難指示区域となった南相馬市は、避難を余儀なくされた市民への対応と、除染作業による放射線量の低減に力を注いできました。そのかいあって2016年7月に帰還困難区域を除く大部分の避難指示が解除。南相馬のまちに人々の暮らしが戻ってくるようになりました。

こうした状況下で南相馬市は「100年のまちづくり」をスローガンに掲げ、地域復興に向けてさまざまなプロジェクトを始動。子どもたちが故郷に誇りを持ち、人々の営みが何代も続くまちを目指し、子育て支援の拡充、介護サービスの整備、新産業・雇用の創出、再生可能エネルギー基地の建設など、さまざまな施策を講じてきました。近年では、子育て世帯の移住も増えているといいます。

地域の防災力の強化も、誰もが安心して住み続けられるまちを表現するうえで欠かせないポイントです。お年寄りから子ども、移住者、外国人の方まで、”誰ひとり取り残さない”防災のために、市が取り組んできた主な取り組みを紹介します。

■2011年以降、南相馬市で実施および、強化された防災対策

▶防災計画の中に、原子力災害への対策を盛り込む
震災以前は、原子力発電所は何重もの安全対策を講じるとされ、防災計画の中に原子力災害への対策はわずかしか盛り込まれていませんでした。

▶津波対策の強化。防波堤の高さを見直し、より強固な構造のものへと変更
同時に「森の防潮堤」として、防波堤の外周部分に植樹を実施。植林が津波の威力を減衰させ、避難時間を稼ぐ役割を果たしています。

▶土地利用のゾーニングの見直しを実施
大きな津波被害を受けた海沿いの地域を災害危険地域に指定し、農地や工場などの産業用地として活かし住宅(住まい)が建てられないゾーンへと変更。

▶ハザードマップの見直しを実施

▶防災無線の設置基準の見直しを実施、また、市民へ防災メールの登録を推進

▶災害時に活用できるLINEシステムの導入(チャットボット活用)など、防災情報を受け入れやすい仕組みづくり

▶防災備蓄倉庫の整備。9,000人が3日暮らせる分の水や食料、生活用品を常時配備

▶生涯学習まちづくり出前講座、地域防災・コミュニティ推進講座(社会福祉協議会主催)など、市民の防災意識向上への取り組みを実施

”生きた防災”を伝授する社会福祉協議会のオープン講座


「地域防災・コミュニティ推進講座」の様子

災害から地域の人々を守るためには、防災設備の整備などのハード対策だけではなく、災害に対する情報の共有や防災訓練の実施といったソフト対策も必要です。ソフト対策において特に重要な役割を担っているのが南相馬市社会福祉協議会です。市と協力し、市民の防災意識啓発や自主防災組織(※)づくりをサポートするさまざまな活動を実施しています。
※災害による被害を予防・軽減するための活動を行う地域住民主体の組織

例えば、「地域防災・コミュニティ推進講座」の開催もそのひとつです。当初は子どもを対象に防災教育を行っていましたが、2022年からは大人向けの講座内容にリニューアル。
防災の基本、今必要とされる防災スキルなど、自分や家族、地域住民を守るために必要な情報や災害時に役立つ知識を提供しています。

■「地域防災・コミュニティ推進講座」実施テーマ例

①有事の災害情報収集方法を学ぶ講座(防災メール、防災LINEサービスの利用方法など)

②救命救急講座

③ロープワーク講座

④災害ボランティア養成講座

⑤地域防災・コミュニティ推進講座(ハザードマップの見方、防災情報の活用方法)

⑥屋根のシート張り講習会

⑦いざというときのための家庭の備え、備蓄品(食料、水など)講習会

⑧やさしい日本語を使った防災講座(外国人向け)など
※一部、市の実施する生涯学習まちづくり出前講座の内容も含む


佐藤さん

市民を対象とした講座の開催理由について、社会福祉協議会の佐藤さんと佐々木さんはこう話します。
「大きな自然災害が起きて地域全体に被害が広がった場合、行政が一人ひとりを救助しに行くのは限界があります。市民全員が普段から防災に役立つ経験や知識を積み重ね、迅速な救助や避難支援ができるようにしておくことがとても重要なのです」

講座をリニューアルした矢先に起きたのが、2022年3月16日の福島県沖地震です。南相馬市では最大震度6強を観測。民家の瓦が落ちるなど多くの被害がでました。その経験から、⑥の屋根方シート張り講習会は実施されることになりました。
「これは市民のみなさんの生まれた講義。本当に必要なスキルを習得できるよい機会になったのではと感じています。実際の被災経験に基づいた講座の企画・開催を今後も積極的に実施していきたいです」

市民自らの手で、地域の暮らしと大切な風景を守る


佐々木さん

もっとも力を入れて行きたい講座は、「災害ボランティアの養成」と「自主防災組織づくり」だという佐藤さんと佐々木さん。
「南相馬市には沿岸部も山間部もあり、それぞれ地形や地質、災害リスクの種別も異なります。だからこそ、地域住民による自主防災組織づくりが必要なのです」
災害ボランティアは社会福祉協議会でも募集をしていますが、もっと多くの人にその活動に興味を持ってもらいたいと話します。
また、災害ボランティアを有事の際だけに動かすだけではなく、普段からつながるコミュニティへと発展させていきたいと考えているそうです。
「ボランティアの皆さんが平時からつながり、『こんなことがあったよ』『こちらの地域はこうだよ』といったような、常に情報を交換しあえる組織は、有事の際にとても強い力を発揮すると思うのです。そうしたつながりのなかでこそ、安心して、安全に暮らしていける地域社会ができあがっていくのではないでしょうか」


社会福祉協議会のある原町区福祉会館

いわゆる地域班のような隣組という体制が確立している南相馬市。回覧板を回すだけでなく、顔を合わせたご近所付き合いで良好な関係を築き、さらにボランティアの力でつながっていけば、地域全体が災害に強いまちになっていくでしょう。

「各地域で隣組を対象に講座を開くことで、その下地を作っていきたいですね。さらに移住者と地域住民をつなぎ、ボランティア活動やイベントなどに一緒に参加していただくなど、新たなコミュニティづくりにも力を注いでいければと思っています」

移住者が暮らしたくなる地域づくり


南相馬市メモリアルパークから見える海岸線

意外なことに、社会福祉協議会の災害ボランティアに参加しているのは移住者の方が多いそうです。聞けば、東日本大震災時の災害ボランティア活動を通じて南相馬市とつながり、魅力を感じて移住してきた方がほとんどだとか。

「災害ボランティアのコミュニティを活性化させ、移住者向けの講座やイベントを開いていきたい」と語っていた佐藤さんと佐々木さんですが、それが実現すれば、さらに移住者が地域になじみやすくなり、「この風景と暮らしを、ずっと守っていきたい」、そう考える人がこれからどんどんふえていくのではないかと、筆者は感じました。

最後に、お二人に南相馬市のお気に入りの風景を教えていただきました。

「北泉の高台にある南相馬市メモリアルパークから見える海の風景や高台から見渡す原町区の原風景です。南相馬市メモリアルパークには、震災の慰霊碑も建てられています。そこから見える海は津波被害があった場所。震災後に整備された地域なので、昔からの風景ではなくなっているのですが、新しく生まれ変わったその海の風景も好きです」


高台から見渡す南相馬市原町区の風景

大きな災害を経験した南相馬市には、美しい風景がたくさん生まれています。”生きた防災”を通じて市民が一丸となり、こうした地域の誇りや人々の暮らしを、後世のために守り続けています。

■社会福祉法人南相馬市社会福祉協議会
住所:〒975‐0011 福島県南相馬市原町区小川町322‐1
TEL:0244‐24‐3415 FAX:0244‐24‐1271
E-mail:shakyo@m-somashakyo.or.jp
HP:https://m-somashakyo.jp/

取材・文:笠井美春 撮影:中村幸雄

                   

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