【自転車でめぐる茨城の魅力体験ツアー】
自然と、ご飯と、移住の “リアル”。

REPORT

「サイクリング王国いばらき」を掲げる茨城県。県内には、国土交通省が指定するナショナルサイクルルート「つくば霞ヶ浦りんりんロード」をはじめ、4つのサイクリングロードが整備されています。

今回はフォトグラファーである横尾涼が、茨城の大自然の中や里山を自転車で走りながら景観や食事を楽しみ、さらに移住者と交流できる体験ツアーに参加してきました。

本格的な自転車に乗るのは、これが初めてです。装備をしっかり整えて、ツアーをスタート!

おいしい食事や、きれいな景色。ブリヂストンの自転車で自然の中を走っていると、様々な地域の魅力を感じることができます。

まずは、茨城の魅力に惹かれて移住を決断し、2021年に茨城県大子町でベーカリーを開業した比留間 玲美(ひるま れみ)さんを訪ねました。

 

優しい人たちのいる大子町で、パンを通して地元食材の良さを伝えていきたい

サイクリングロードの一つ、奥久慈里山ヒルクライムルートのそばにある『Michiru Bakery(ミチル ベーカリー)』。オーナーの比留間さんは、2年ほど前に大子町に移住してきました。

比留間さんにとって大子町は、祖父母が暮らすゆかりの地でした。幼いころからたびたび訪れていた、なんてことのないただの「おばあちゃんち」がある町。特産品などにも興味がなかったそうですが、結婚をして夫を連れて訪れるようになると、「東京出身の夫に田舎のいいものを教えてあげたい」と思うようになったといいます。

「りんご、お茶などの特産品を夫に紹介するうちに、もっと多くの人にこの魅力を知ってもらいたいという気持ちが強くなっていきました。そこで、得意だったパン作りや料理の腕を活かして特産品を広めていけたらいいなって。図々しいけど、そんなふうに思い始めたんです」(比留間さん)

それまでは横浜に住んでいた比留間さん。料理教室の講師などをしていましたが、結婚を機に退職。子育てをしながら、趣味で通い始めたパン教室で本格的な理論を学ぶうちに、パン作りにのめり込んでいきました。

「大子町に引っ越してきてから開業するまでの間は、地元の人に誘ってもらい、イベントを開催して雑貨屋さんのシェアスペースでクッキーや台湾カステラなどをふるまっていました。そのうち、そこでパンも販売するようになりました。『パンを焼いている人だ』って知ってもらいたかったんです」(比留間さん)

定期的にイベントを開催して、地域の人との繋がりを作っていったそうです。

『Michiru Bakery』には、地元だけではなく近隣の町からもお客さんが訪れます。人づてに聞いてやって来たという方や、インスタグラムでお店を知って訪れた方もいらっしゃいます。

「お客さんがお店の前で、マスコットキャラクターのみちるちゃんがプリントされたショッパーと一緒に写真を撮ってインスタに上げてくれて。それを見た人が、どこですか?と気にしてくれるみたいで、反響が広がっていったんです」(比留間さん)

比留間さんは、移住前からSNSを通じて大子町の知り合いを作っていました。「ハッシュタグに『♯大子町』や『#大子町移住したい』をつけて投稿していると、役場の方からDMが届いて。それをきっかけに色々な人とやりとりをしていきました」(比留間さん)

「地元の人って大子町が大好きだから、ハッシュタグ検索でチェックしているんですよ」そう言って嬉しそうに笑う比留間さん。会うのは初めてだけど、お互いに知っている人がいたことは、実際に移住したときの大きな安心材料になったといいます。

移住を考え始めてから実行に移すまでには、それなりに年月を要しました。都会では不要だった車の免許の取得や、不動産の仲介業者が少ないことによる家探しの難航。それでも挫けずにやり遂げることができたのは、やりたいことを口に出していろんな人に発信していたから。

“私は絶対に移住するんだ”

まだ何も決まっていないときから、周りにそう宣言していたそうです。すると、誰かが繋げてくれたり、助けてくれたりということがたくさんありました。

「みんな、優しいんです。みんなおしゃべりが大好きで、知らない人でも普通に話せる。何かをしてあげたら、何かを返す、みたいな交流も楽しいです」(比留間さん)

想像を超える冬の寒さだったり、使ったことのなかった灯油ストーブに悪戦苦闘したり、苦労したこともあったけれど、それ以上に得られたものは大きいといいます。
子どもたちがのびのびと遊べるようになり、お裾分けをたくさん頂くようになるなど、嬉しい変化もあったようです。

これからやりたいことをお聞きすると、

「地元の食材の素晴らしさを伝えたいです。調理の仕方次第でもっとおいしくなるよとか、こういう食べ方もあるよねとか。そういうワークショップを企画して、一緒に作って楽しんでもらえるような体験を提案したいなって。都会では重宝されるようなオーガニックな野菜の素晴らしさに、地元の人が気づいていなかったりするので。新しい魅力を伝えられたらと思っています」と比留間さん。

 

おいしい空気と特産品。茨城の大自然を自転車で駆けめぐる

ツアーは、大子広域公園オートキャンプ場からスタートしました。電動アシストがあるおかげで坂道はずいぶん楽に登ることができましたが、そうはいっても不慣れなサイクリング。はじめはとにかく一生懸命にペダルを漕ぎました。

運転に慣れてくると、景色を見る余裕も出てきて、自分が美しい大自然の中にいることに気がつきます。空気がとってもおいしい。この日は秋口であるにも関わらず真夏日でしたが、風を切る爽快感を全身で感じられる、なんとも心地いい体験でした。

途中、里山に自転車を停め、少し歩いて向かった「月待の滝」では、滝の裏側へ歩いて入ることができます。滝に虹がかかるという神秘的な光景も見ることができました。

続いて立ち寄った「袋田の滝」は、日本三名瀑に数えられ、スケールは壮大。高さの違う複数の展望所があり、様々な角度からその巨大な姿を楽しむことができます。

普段あまり運動をしないので少し不安でしたが、サイクリングロードがきちんと整備されていて、みちみちに休憩が取れるスポットが設置されているのでひと安心。適度に休憩を取りながら、無理なくサイクリングを楽しむことができました。

サイクリングロードのそばには、久慈川が流れます。清流で育った天然鮎の塩焼きを、川辺の澄んだ空気とともにいただきます。

お昼は「とん鈴」で、三大軍鶏のひとつである奥久慈軍鶏を使用した親子丼をいただきました。軍鶏はあっさりとしていながらも深い味わいがあり、出汁や卵との絶妙な調和がたまりません。疲れた体に優しい味が沁み渡ります。

大子の大自然の中を駆け降りながら、高校生だったときのことを思い出しました。片道6kmの激しいアップダウンを、自転車で毎日往復していたあのころ。今では自転車に乗る機会も減り、すっかり運動不足の大人になってしまっていました。
こんなふうにサイクリングがしやすい環境が整っていると、気軽に運動を始めることもできるし、たくさんの自然に触れることもできる。東京に暮らす自分にとっては、とても貴重な体験でした。

移住のハードルが下がってきた昨今。「強い行動力がなくても地域に入っていける仕組みがあるといいなあ」と、帰りの電車を待つ常陸大子の駅で『Michiru Bakery』のパンを食べながら思いました。

 

写真・文/横尾涼

                   

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