地域おこし協力隊リレーTALK Vol.16
​「​客室乗務員から地域おこし協力隊に転身 」

 宮崎県 えびの市 現役隊員
高杉せれなさん 

活動内容:市内全域の観光プロモーション業務

 

宮崎県えびの市の地域おこし協力隊、高杉せれなさんは、ANAの客室乗務員を休職して、2021年4月に地域おこし協力隊として着任した。客室乗務員時代はSA(サービスアドバイザー)としてVIPサービス部も経験し、国内外の最重要顧客へのサービスも担当していた。

「1998年に新卒入社して、20年以上にわたり空の仕事に携わってきましたが、客室乗務員としてのキャリアは頭打ちの状態でした。これ以上のキャリアアップを望むなら、地上に降りて管理職を目指すしかなかったと思います。もちろん客室乗務員の仕事にやりがいは感じていましたが、今後どちらの進路を目指すかの岐路に立っていたタイミングでした。」

コロナ禍によって仕事にも余裕が生まれ、将来のことを考えていたところ、業務連絡で同社のグループのシンクタンクが地域活性化事業に取り組んでいることを知った。「この機会にチャレンジしてみよう」。そう思った高杉さんは、えびの市を選択した。

「うちは別居婚をしていて、私は東京に暮らし、夫は宮崎県小林市で生活しています。だから、宮崎には何度も訪れていて、えびの市にも浅からぬ縁を感じました。夫も快諾してくれたので、とんとん拍子で話は進みました。」

高杉さんは大学生と高校生の子を持つ母でもある。協力隊の道を選んだ高杉さんは、東京の住まいをそのまま残し、月のほとんどをえびの市で暮らす二拠点生活をスタートさせた。


えびの市の名所、えびの高原にて。韓国岳を背景に雄大な自然が広がる

 

観光プロモーションのために地域を奔走

高杉さんに課せられたミッションは「市内全域の観光プロモーション業務」だ。

「えびの市は以前から協力隊を受け入れていた実績があります。そのため、協力隊の活かし方も心得ていたのだと思います。」

アウトドア拠点施設「アウトドアステーションえびの」の活用や、協力隊として全国で活動する客室乗務員が担当地域の特産品をリレー形式で紹介するオンラインツアー「ANAの客室乗務員がご案内!日本全国”厳選”グルメフライト」への参加、物産展でのPR活動、ラジオ出演と様々な場面で活動する高杉さんだが、着任当初は客室乗務員とのギャップにとまどうことも多かったという。

「数百人のお客様に均質なサービスを提供しなくてはいけない客室乗務員の仕事は『マニュアルがすべて』といっても過言ではありません。乗務員が機転を利かせる場面は多々ありますが、突出した個性は不要。だから、えびの市に来たばかりの頃は不安だらけでした。」

まずは市内にある観光施設の調査から始めた高杉さん。観光名所のえびの高原をはじめ、温泉郷のある京町エリア、道の駅、オートキャンプ場などを巡るうちに少しずつ地域の課題が見えてきたという。

「観光サービスを提供する施設やそこで働く従業員から積極性があまり感じられませんでした。まちを楽しんでほしいという意気込みが伝わってこないのです。『ハコをつくったらだれか来てくれるだろう』、そのような雰囲気を感じました。お土産店や飲食店の方たちにも『えびのは何もないし…』と、どこかあきらめムードが漂っていました。」

快適な空の旅を提供するためにまい進してきた高杉さんにとって、地域の受け身の姿勢が、とてももどかしく思えたという。こうして地域の課題が見つかり、活動の道筋も見えてきた。地域の人たちとともに、自信をもっておすすめできる観光資源を見つけること。それが高杉さんの原動力になっている。

左)物産展では客室乗務員の制服を身につけて参加  右)宮崎ブーゲンビリア空港で行われた歴代制服ショーにも出演

 

温泉郷の女将たちと甘酒クッキーを開発

高杉さんは特産品を活用した商品開発にも取り組んでいる。目をつけたのは「お米」。えびの市は米の生産が盛んで、市内で生産された「ヒノヒカリ」は専門家からの評価も高い。このお米からつくった甘酒を原料にしたのが「京町甘酒クッキー ノカイドウの蕾」である。

「えびの市で、なにか代表的なお菓子がつくれないかと考えました。お米は住民にとっても身近な農産物ですし、世間からもある程度認知されています。」

民間主体の取り組みで、市内にある京町温泉郷の女将たちが開発に加わった。京町温泉郷はえびの市の名所のひとつだが、観光客の減少などが影響し、活気が失われつつある。このクッキーを活性化の起爆剤にと、女将たちも期待を寄せる。

「手づくりにこだわりました。業者に委託すると市外で製造することになるかもしれませんし、パッケージの記載される製造元が地元であることが大切だと考えます。えびの市民がつくったクッキーを、えびの市に訪れて味わい、購入してもらうことに意義があります。成功した実績ができれば、地元の方たちも地域に眠っている魅力に目を向けてくれるはずです。」

地域の人々をグイグイと引っ張っているように見える高杉さんだが、あくまでもサポート役として立ち回っている。地域の人たちの主体性を引き出すことこそ、活性化の糸口になると考えているからだ。

「私のようなよそ者からダメ出しされても、快く思わないでしょう。皆さんにも地元の観光業を支えてきたプライドや自負がありますし、そこは尊重するべきです。例えば『温泉郷に元気がない』と嘆く人がいたのなら、そのような事態に陥った理由を一緒になって考える。そして、対話を通じて解決のヒントを掘り下げていき、やる気を引き出す。大切なのは、当事者自身が課題に目を向けることです。」

女将たちと試作を重ねて完成させた「ノカイドウの蕾」

 

まちの名所、えびの高原に新たな価値を

商品開発のほかに、観光名所のあり方の再構築にも取り組んでいる。その舞台が県内屈指の観光名所、えびの高原だ。2021年11月は「デトックスツアー」と題して、えびの高原を舞台にしたトライアルツアーを実施。高杉さんも企画に携わり、コースや立ち寄りスポットの選定に加わった。

「女性をターゲットにした企画で、これまでえびの高原に訪れていた既存の登山客ではなく、よりライトな層にアプローチするのが狙いです。コンセプトは『山に登らない登山ツアー』といったところでしょうか。高原でのアフタヌーンティーや星空観察、焚火体験など、これまでアウトドアに興味がなかった人たちの裾野を広げたいと思っています。」

また、えびの高原にある観光施設をリニューアルする計画にも携わっている。内部からは「休憩所程度の設備があればいいのでは?」との意見も挙がったそうだが、高杉さんは「高原で景色を見て終わり、ではわざわざ足を運ぼうとは思わないでしょう」と思いを伝え、地元の人も観光客も楽しめる施設をつくるべく、有志とともに知恵を絞っているところだ。

「やはりカフェなどの施設は必要です。市内にはゆっくりできるカフェが少ないので、地元の方にとっても憩いの場になってほしいです。」

高杉さんは、協力隊の活動を通じて感じた今後の働き方について、このように語ってくれた。

「これまでは企業に属する働き方が一般的でしたが、今後は個人で仕事を生み出していく時代が来るでしょう。自分の起こしたことが誰かの幸せに直結している働き方を、協力隊の活動を通じて、ひしひしと感じています。」

 

地域の人たちとえびの高原の可能性を模索中

 

 

宮崎県 えびの市 地域おこし協力隊 現役隊員
高杉せれなさん 

アメリカ出身、東京育ち。1998年、ANA(全日空)に入社し、客室乗務員の業務に就く。2019年、VIPサービス室に配属、各国要人のおもてなしを担当する。2021年、客室乗務員を休職してえびの市の地域おこし協力隊に着任、観光プロモーション業務に尽力する。

宮崎県えびの市地域おこし協力隊:https://www.city.ebino.lg.jp/kurashi_tetsuduki/kyodo_machidukuri/kyodo_shiminkatsudo/2026.html

 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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