地域おこし協力隊リレーTALK Vol.23
​「憧れだった職人の道を目指すために協力隊に応募 」

宮城県 大崎市 現役隊員
田邉さん 

活動内容:鳴子こけしの伝統技術の習得およびSNSによる情報発信等を通じた鳴子こけしの知名度の向上と販路拡大  

田邉さんは大学卒業後、これまで数々の大学研究機関で分析や研究者の補助業務に従事してきた結婚後は宮城県東松島市に居住し、直近では東北大学大学院工学研究科に勤務。分子ロボティクスに関わる基礎研究実験の補助業務に従事していた。 

大学との契約任期の5年が満了することに伴い、年齢的なこともあって今度は一生できる仕事に就きたいと考えました。個人的な事情もあり、あえて正社員ではなく、自分の時間が多くなる契約社員という立場で分析の仕事を続けてきました。大学を卒業して以来、一貫して研究の現場で働いてきたこともあり、このまま分析の仕事を続けるという選択肢もありましたが、契約社員という立場上、数年後にはまた職探しをすることになるので、別の道も模索しはじめました。私の父が石英ガラス加工職人だったこともあり、子どもの頃からもの作りが好きで職人に対して敬意と憧れをもっていたのですが自分には職人の仕事はできないだろうと考えていました。そんなときに、大崎市の『鳴子こけし工人の継承者』をミッションとした地域おこし協力隊の募集を見て、強く惹きつけられました。」 

こけしの深い知識はなかったものの、鳴子こけしに関して調べた田邉さんは、これを一生の仕事にしたいと強く思い、応募を決めた。 

「ひとりの手で、一からこけしを作り上げるという点に惹かれ、失われつつある日本の伝統工芸を守るという使命感を持てることも魅力でした。何より、もの作りをしたいという私自身の想いが膨らみダメ元で応募したところ採用されて2020年4月に着任しました。」 

師匠の岡崎靖男さん(右)と 

田邉さんが作った伝統的な鳴子こけし 右伝統鳴子こけし工人である岡崎靖男さんが作った伝統的な鳴子こけし 

 

師匠のもとでこけし作りに挑む毎日が楽しい

地域おこし協力隊に着任した田邉さんの主な活動内容は、鳴子こけし作りの技術習得のために、伝統鳴子こけし工人である岡崎靖男さんに師事しこけし作りの修業を行うことだ。 

「師匠を見ていると簡単に削っているように見えますが、こけし作りは非常に奥が深く、難しいです。こけしを作るカンナという工具も刀鍛冶のように自分でたたいて形成して作ります。鉄の温度などの見極めが難しく、師匠について技術を習得しているところですが、カンナ作りは想像以上に大変だと感じました。これも職人として一本立ちするには不可欠ですから、懸命に学んでいます。」 

鳴子こけしの工人は主に60代以上の高齢者が多く、若手が少ない。後継者の育成が急務とされ、地域おこし協力隊制度を活用して後進を育てることになったという背景がある。 

「私がその第1号となりました。本来はこけし工人となるための修業期間は最低5年だと言われていたところを、協力隊の任期である3年に短縮して教わっています。もし私が成功できなかったら、次に続く人がいなくなってしまうので、責任重大です。プレッシャーは感じていますが、しっかり頑張ろうと思います。」 

技術の習得は難しいものの、毎日が充実していて、とても楽しい日々を送っているという田邉さん。 

「師匠に言われたことを理解できて、それを達成した時の喜びが大きいです。もともと研究職だったので、探求心が強いのか、言葉では伝えにくいことを、やりながら少しずつ体得するという過程が楽しいと感じます。また、拙い私の作品もお店の店頭に並ぶのですが、それを買ってくださった方に『かわいい』と言ってもらった時は言葉にできないほど嬉しかったです。」 

田邉さんが下宿している鳴子温泉の藤島旅館 

 

首が回るえじこ型の創作こけしを作って評判に 

技術の習得と並行して、鳴子こけしの知名度の向上と販路拡大を目的にSNSなどでの情報発信を行うほか、さらに積極的に取材対応もしているという田邉さん。 

「最近ではNHKの『小さな旅』という番組に師匠と共に出演して、大きな反響がありました。伝統こけしを継承することはもちろん、その上で〝創作こけし〟も作っていいと師匠に言われていて、相談しながら私が作り上げた『なるこ温泉湯とろぎこけし』を番組で取り上げてもらいました。温泉に入っている姿をしたえじこ型と呼ばれるこけしで、首が回るように自分で工夫を施したものです。Instagramでも紹介したところ、『首が回るこけしを作ってほしい』と師匠に注文の連絡がありましたしかし、それは私が工夫して作ったものなので、師匠から『あれはどうやって作るんだ?』と逆に聞かれてしまいました。まさか私が師匠に教えることになるとは思いませんでしたが、師匠は私がとても苦労したところを軽くクリアしていました。さらに、自分のアイディアを加えてきれいに首が回るこけしを作り上げていて、さすがだなと感心しました。」 

田邉さんは市内にある鳴子温泉の老舗・藤島旅館に下宿して暮らしている。 

「観光部門で活動しているもう1名の隊員もこの宿に下宿しています。毎日温泉に入れるなんて至福ですね。大崎市の地域おこし協力隊は藤島旅館で受け入れてくれるお陰で、安心して活動することができていると感じます。じつは『なるこ温泉湯とろぎこけし』を着想できたのは、藤島旅館の素晴らしい温泉がヒントになったからです。いつもお世話になっている感謝を込めて、藤島旅館仕様のこけしも限定で作りました。」 

左)様々な絵柄のえじこ型こけし。手前がなるこ温泉湯とろぎこけし 田邉さん藤島旅館大女将の藤島勝子さん。手前の小さなこけしが藤島旅館限定のもの 

 

いつかは師匠のようにこけし作りを後進に伝えたい 

着任した当初は、行政との連絡がうまくいかなかったこともあったが、地域おこし協力隊サポートデスクや他地域の地域おこし協力隊の現役隊員やOB・OGたちに相談するなどして解決していったそうだ。 

私が伝統こけし技術の習得をテーマとした協力隊の第1号ということもあって、当初はやや戸惑うこともありましたが、徐々に解消されていきました。2年目の後半からは起業に向けた相談ができる地域おこし協力隊アドバイザーの派遣などを受け入れて下さり、サポート体制の拡充を感じているところです。」 

技術を習得するために修業に励む毎日だが、鳴子こけしの知名度向上にも貢献したいという。コロナ禍で地域の住民の方々に直接役立つことがあまりできていないので、何か地域の方々の印象に残るような役立つことをしたいとも語る。 

「もっと広く住民の方に協力隊の活動を知っていただけるように、市民に向けた報告会を行うなど、もっと積極的に情報発信をしていこうと思います。任期終了後は伝統的な鳴子こけし作りを継承して、見た人が笑顔になるようなこけしを作り続けたいです。また日本古来の伝統こけしを広く紹介し、より知名度の向上と販路拡大に貢献したいと思っています。そして、私もいつかは師匠のようにこけし作りを後進に伝えることが目標です。」 

最後に、協力隊になりたいと思っている人へのアドバイスもしてくれた。 

「自分のやりたいことに繋がるのか、任期終了後にそこで生活することが可能か、その2点をしっかりと見極めて候補地を選定することが大切だと思います。任期中や任期終了後に受けられるサポートなどについても、ある程度は知っておいたほうがいいでしょう。現地に足を運んで、隊員の方に話を聞いてみるのもいいと思います。」 

鳴子温泉にある、こけし型の電話ボックス 

 

宮城県 大崎市 現役隊員 
田邉さん  

1974年生まれ。埼玉県出身。大学卒業後は研究員や水質分析員、技術補佐員として大学や研究機関等に勤務。幼少期より職人に憧れを持っていたことから、伝統鳴子こけしの継承というテーマの宮城県大崎市の地域おこし協力隊に応募し、採用される。 

大崎市地域おこし協力隊:https://www.city.osaki.miyagi.jp/shisei/soshikikarasagasu/shiminkyodousuishimbu/seisakuka/5/3/3213.html 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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