群馬県みなかみ町で自分らしさ再発見!
「旅するついでに仕事する」を体験してみた

多くの人気温泉地を擁する群馬県。その中でも、みなかみ町にある水上温泉に対しては、通好みの渋いイメージを抱く人が多いかもしれない。新潟県との県境に位置し、さまざまなアクティビティも楽しめるこの地はしかし、実は「旅するついでに仕事する」のにうってつけの場所。

今回はTURNS編集ディレクターである僕、ミネシンゴが群馬県みなかみ町で「ワーケーション」を体験してきました。

\体験してきた人/
ミネシンゴさん
1984年生まれ神奈川県出身。夫婦出版社アタシ社代表。TURNS編集ディレクター。
書籍、雑誌の編集をはじめ、神奈川県三浦市で「本と屯」「花暮美容室」「泊まれる仕事場TEHAKU BOKO」「雑貨屋兼イベントスペースHAPPENING」「三浦三崎の観光サイトgooone」などを運営。全国飛び回るローカル編集者として、さまざまな地域で活動中。2022年5月には神奈川県真鶴町にて「本と美容室」を立ち上げる予定。

 

美味しいものを食べて、美しい景色に見惚れて、しっかり遊びながらも仕事をこなし、夜は温泉で身体を休める……。そんな贅沢な時間を通して実感したのは、心にゆとりがある時こそ仕事のパフォーマンスも上がるということ。

今回は2日間という短い旅程。それでも最高だった僕のワーケーション体験をリポートします。

 

〈1日目〉

僕が暮らす神奈川県の三浦三崎は三浦半島最南端の町。早朝に車で家を発ち、3時間半ほどでみなかみ町に到着しました。なお、新幹線の最寄り駅は上毛高原駅で、東京駅から1時間15分ほど。思っていたよりもずっと近い。

まず向かったのは、道の駅「たくみの里」。この周辺に、和紙、草木染め、七宝焼きなど、さまざまな「たくみの技」を体験できる施設が点在しています。1日800円の電動アシスト付き自転車をレンタルして、さっそく散策へ。

道の駅 たくみの里
住所:〒379-1418 群馬県利根郡みなかみ町須川847
電話:0278-64-2210
HP:http://takuminosato.jp/

「道の駅 たくみの里」から北に伸びる宿場通りは、かつての三国街道の「須川宿」と呼ばれたエリア。歴史的・文化的価値の高い「歴史国道」にも選定されていて、江戸時代に迷い込んだかのような古い街並みが保存、復元されています。

広々とした街道を自転車で走るだけで、「来てよかった!」と心から思える爽快感。道沿いの小川に目をやると、透明度の高い水が静かに流れていました。

そして、特筆すべきは空の広さ。
ふと畑の向こうを見ると、まだ雪を冠した谷川連峰のきりりとした姿が。
日々の疲れやストレスが、空にすっと溶けていきます。

しばらく自転車を走らせていると、突如目に飛び込んできたのは、僕の背丈の倍以上ありそうな巨大な馬の像! どうやらここは牧場の敷地内。自転車を止めて見上げていると、牧場のおじさんが出てきてくれました。

聞くと、これは群馬県出身の美術作家の指導のもと、地元の人たちでつくった「わらアート」。計7ヶ所で展示されていて、高さ4・6メートルもあるこの巨大な馬の像は、昨年亡くなった愛馬を偲んでつくられたもの。
話をしているうちに興が乗ってきたのか、付近の山の岩肌が馬の姿に見えるといった豆知識を次々と披露してくれました。こうした地元の人との交流も、旅の醍醐味ですね。

お昼ご飯にはお蕎麦を。揚げたての天ぷらや厚揚げ、名物のこんにゃくの田楽と、地元食材を堪能できます。

「たくみの里」の物産コーナーで買った飲むヨーグルトは驚くべき濃厚さ。ヨーグルト好きの僕には堪らない逸品でした。

午後からは、さまざまなアクティビティを提供しているというアウトドアガイドサービス「ワンドロップ」へ。
冬場はスノーボードスクールやスノーサーフツアーなどのウィンタースポーツ、夏場はカヌーやトレッキング、川下りを楽しめるほか、1年を通してタイダイ染め体験ができます。

ワンドロップ
住所:〒379-1303 群馬県利根郡みなかみ町上牧2230-1
電話:0278-72-8136
HP:https://onedrop-outdoor.com/

まずはタイダイ染めを体験。
タイダイ染めとは布を絞って染料をかけ、開いた時に複雑な模様が浮かび上がるというもの。「ぐるぐる」「マーブル」「蛇腹」など、絞り方によってさまざまな模様になるそう。

僕が染めるのは手ぬぐいとトートバッグ。
まずは手ぬぐいから。悩んだ末、黄色とオレンジのマーブル模様に染めることに。丸型に絞った布に慎重に染料をかけていきます。そして、トートバッグはブルー、グリーン系を中心としたぐるぐる模様に。

色を定着させるのに少し時間がかかるらしく、その間に雪山へ。ここからが本日一番のイベント。標高800メートルほどのエリアで、人生初のスノーシューを体験します。スノーシューとは専用の平たい器具を靴に取り付け、雪山や雪原を歩くアクティビティのこと。

ガイドを務めてくれたのは地元出身の好青年、入澤仁さん。愛称は仁(じん)くん。
開始後、いきなりの急斜面にちょっと戸惑ったものの、丁寧にコツなどを伝授してもらえるので、すぐに慣れてきました。ふかふかの雪の上を歩くのが、ことのほか楽しい!

「見てください、松ぼっくりが齧られてますね。さあ、齧ったのは誰でしょう?」
「仁くん!」
「僕も齧らなくはないですが……正解はリスです」
仁くんが折に触れて繰り出す大自然クイズも一興でした。

尾根にそって歩き、今度は谷に向かって降りていきます。気がつくと、そこは完全に雪と木々しかない静寂の世界。
来てよかったなあ。今日すでに何度目かの言葉が口から漏れます。2時間弱と短めの行程でしたが、別の世界に行って帰ってきたような気分でした。

心地よい疲れを感じながら「ワンドロップ」に戻ると、タイダイ染めが既に完成。僕としては、思い描いたイメージにかなり近い仕上がり。いかがでしょうか?

そうこうする間にも、実は仕事関連のメールや問い合わせがちらほら。少し早めに今夜の宿泊先である「辰巳館」にチェックインして、急ぎの仕事だけ済ませることに。大正13年創業の老舗旅館です。

湯もりの宿「辰巳館」
住所:〒379-1303 群馬県利根郡みなかみ町上牧2052
電話:0278-72-3055
HP:https://www.tatsumikan.com/

素泊まり8千円の部屋はレトロモダンな和洋折衷。もちろんWi-Fiや電源は完備。華美すぎない品の良い佇まいが風格を感じさせます。「裸の大将」のモデルとして知られる画家、山下清もこのホテルに計4年ほど滞在していたそう。浴場には日本のゴッホとも呼ばれた山下の、特殊ガラスを用いた大壁画が飾られています。


写真提供:辰巳館

机に向かうと、窓の外には利根川上流の清らかな流れが。えも言われぬ安心感に包まれ、仕事をしながらも心身がデトックスされていく感覚。いつもなら気が重い案件も、この日は苦にせず終えることができました。

夕食前にもう1ヶ所、向かったのはクラフトビールの醸造所「オクトワンブルーイング」。「タップルーム」と呼ばれるビールを飲めるスペースが併設されています。代表を務める竹内康晴さんは4年前に地元みなかみに戻ってきたUターン組。以前は東京都内で音楽系の出版社に勤めていたそうです。

オクトワンブルーイング
住所:〒379-1617 群馬県利根郡みなかみ町湯原702-2
電話:0278-25-4520
HP:https://oct-1.com/

「最近は移住者が増えてきて、街が盛り上がってきた実感がありますね」と竹内さん。
ここで作られているのはアメリカンスタイルのクラフトビール。さまざまな国のビールの要素を取り入れながら、オリジナルなものに仕上げていく点が特徴だとか。

インターナショナル・ビアカップ(日本地ビール協会主催)で昨年、柚子ビール部門金賞に輝いた「ゆ・ゾン」を飲ませていただきました。その名の通り、柚子の皮を用いたビール。口に含むと、柑橘の香りが鼻腔を抜けてゆき、なんとも爽やか。それでいて、芳醇な味わいもしっかりある。これならどんな料理にも合いそう。

軽やかな飲み口のエールビール、イギリスの伝統的な黒ビールなどラインナップは多彩。各600円と、お値段もクラフトビールとしては破格です。どれも飲んでみたくなり、500円で買える特製のエコバックを瓶でいっぱいにして、お店を後に。

良い気分で「辰巳館」に戻った僕を出迎えたのは、見ているだけで心躍る豪華な晩御飯でした。懐石のお弁当に、地元の野菜やきのこ、お肉、川魚の炭火焼きがついて3500円。みなかみ、いいところです……。

希望すれば、お鍋などをプラスで付けることもできます。

新鮮な食材を存分に味わい、締めには味噌をつけて炭火で焼いたおにぎりを。味噌が香ばしく、ピリッと辛味も効いて、まさに絶品。これを食べるだけでも来る価値がありますよ!

部屋に戻ったら、少しだけ仕事の残りを済ませて、温泉へ。ゆっくり身体を温めてから就寝しました。

 

〈2日目〉

たっぷり睡眠をとり、朝から温泉に浸かって、身支度をしたら、さあ出発。
温泉街にあるゲストハウス&コワーキング「ほとり」に向かいます。

ゲストハウス&コワーキング「ほとり」
住所:〒379-1617 群馬県利根郡みなかみ町湯原809−6 2F
電話:050-5586-9767
HP:https://www.hotori-minakami.com/

コワーキングスペースの利用は3時間500円、丸1日でも1000円!
建物の奥には2段ベッドが4台あるゲストハウスがあって、平日は3300円、それ以外の日は3800円で泊まれます。

「地元の人と外から来た人との繋がりをつくりたくて、ゲストハウスとコワーキングスペースを組み合わせたんです」
そう話す田宮幸子さんは神奈川県からの移住者。聞くと地元出身者2人、移住者2人の計4人で昨年ここを立ち上げたのだそう。

前日は「ワーク」と「バケーション」のうち、後者の割合が高かった僕。今日は朝からここで2時間ほど、オンラインでの打ち合わせと原稿仕事をします。窓際の席に陣取ると、太陽の光が眩しいほど注ぎ込む。何かが特別なわけではないけれど、足りないものは何もない、そんな空間です。フランクな田宮さんの対応からも、宿泊客、コワーキング利用者らが気持ちよくこの空間を共有している姿が目に浮かびますね。
こういう場がある街って、いいなあ。

お昼近くになり、次に向かうのは山道を少し登った先にある温泉宿泊施設「さなざわ㞢テラス」。「㞢」は「の」と読みます。かつては温泉宿だったこの建物。現在は主に企業の研修や大学の合宿といった団体向けに一棟貸ししているそう。

入ってみると、内装がとってもおしゃれ。1階がコワーキングスペースで、2階には宿泊用の個室、3階にはドミトリーが。

温泉宿泊施設「さなざわ㞢テラス」
住所:〒349-1313 群馬県利根郡みなかみ町月夜野2537-2
電話:080-6781-8727
HP:https://sanazawa.jp/

カフェやコワーキングスペースとしても利用でき、温泉入り放題+ドリンク2杯という「温泉ワークプラン」は1500円。地下に降りていくと温泉があり、露天風呂からの景色は絶景。機関車トーマスみたいな形状のかわいいサウナもありました。

僕が特に気に入ったのは、こたつの置かれた畳のスペース。ちょうど少しだけ細かい作業が残っていたので、こたつでぬくぬく、少し仕事をさせてもらいました。ここより上にはもう建物はないというロケーションだけに、閑静なみなかみの中でも特に静か。外を歩いても、ほとんど鳥の声しか聞こえてきません。これもまた一つの贅沢ですね。

朝から仕事をして、そろそろお腹も減り、街を楽しみたくもなってくる頃。
ちょうど次が最後の目的地。ガラス工場の体験工房がある「月夜野びーどろパーク」です。まずは併設された地ビールレストラン「ドブリーデン」へ。

月夜野びーどろパーク
住所:〒379-1305 群馬県利根郡みなかみ町後閑737-1
電話:0278-62-2211
HP:https://www.vidro-park.jp/

ここでは地ビール「月夜野クラフトビール」が作られています。みなかみにはクラフトビールの醸造所が二つもあるんですね。「オクトワン」がアメリカンスタイルだったのに対して、こちらはチェコ系。県産の大麦小麦を用い、麦芽100パーセント。ハーブ、米、コーンスターチといった副原料を用いていないのが特徴です。

注文した「牛肉の柔らか煮ライス」(1100円)、蕎麦粉を用いた「そばピザ」(748円)は、予想通りのやさしい味わい。

そして、ここまで来たらクラフトビールも試したいところ。4種類を100mlずつ飲み比べできる「お試しビール」(1100円)を注文しました。

欧州系の苦味の効いたビールからフルーティーなビールまで、なるほど、どれも純度の高い味わい。しっかりとこくのある黒ビールも、後味はすっきりです。

醸造家の齋藤季之さんは約12年、ドイツで醸造を学んだそう。職人肌の厳しい方かと思いきや、話してみるととっても気さく。県産のイチゴ「やよいひめ」から取った酵母を用いたビール「プリンセスマーチRONA」の開発秘話も話してくれました。

この「月夜野びーどろパーク」を運営するのは、上越クリスタル硝子株式会社。日本で初めて体温計を作ったのも実はこの会社。厚生労働大臣に表彰された「現代の名工」を多く輩出するなど、高い技術力で知られています。

ラストを飾るのは、工場内での「ガラス体験」。僕が体験するエンジョイコース(3850円)では、職人さんの指導のもとオリジナルの花瓶を作ることができます。真っ赤に熱せられたガラスに息を吹き込むあれ、一度やってみたかったんですよね。

意気揚々と始めたものの、棒の先についた1400度のガラスからは想像を超える熱気が……。気を抜くとぐにゃりと曲がってしまうため、常に棒をくるくると回さなきゃいけないのですが、これがまた難しい。

少しずつガラスを巻いて増やし、色付きのガラスを混ぜ、形を整えて。職人さんにかなり助けてもらいながら、20分ほどで花瓶が完成。紛れもなく職人技でした。

花瓶は後日郵送していただきました。太陽のような黄色いガラスの花瓶、みなかみで浴びた陽光のようで、良い思い出の品になりました。

 

と、僕の「ワーケーション」体験はここまで。

今回は2日間の旅程だったためやや過密気味ではありましたが、英気を120%充填できたと思います。自分は本来もっと自由に生きていたい人間だったなとか、自分はこういうことを面白がれる人間だったなとか、忙しい日々の中で忘れかけていた〝自分らしさ〟を再発見する2日間でもありました。

強く印象に残ったのは、みなかみという地域が持つポテンシャル。
同じ群馬県でも草津や伊香保といった「集約型」とは違った、いわば「点在型」の温泉地。それだけに、一人で集中する時間、誰かと交流する時間の双方を必要とするワーケーションには、うってつけの環境だと思います。

温泉や自然という〝キラーコンテンツ〟の力だけでなく、狭い範囲でこれだけ多様なアクティビティを楽しめる土地もそうはないはず。地元の人と移住者らが一緒に盛り上げようとしている町は、これからもっと面白くなっていくでしょう。

次はもっと長期滞在して、春夏のアクティビティも楽しむぞ! そう誓いながら、名残惜しく帰路につきました。
旅をしながら、仕事にも遊びにも全力で打ち込みたい──。そんな人はぜひ、みなかみに足を運んでみてください。きっと忘れていた自分と再会できるはず。

ミネシンゴがお送りしました!

 

編集・文:ミネシンゴ 瀬木広哉(アタシ社)
写真:三根かよこ(アタシ社)

                   

人気記事

新着記事