ローカルからグローバル
現在から未来へとつながる教育

宮城県気仙沼市 気仙沼市立鹿折小学校

『持続可能な開発のための教育』と訳される
ESD(Education for Sustainable Development)。
国連機関『ユネスコ』がその憲章に基づいて提唱する、
グローバル人材を育てる考え方とメソッドで、
推進拠点は『ユネスコスクール』加盟校に認定される。
その一校である、気仙沼市立鹿折小学校を訪ねた。

 

移住先での教育が不安という声も

移住を検討する時、大都会を離れ自然豊かな環境でゆったりと子育てしたい、と考える人も少なくない。一方、暮らしやすいとはいえ、地方は子供の教育面でデメリットを感じるのも事実。親の自分はいいけど、子供の将来を考えると……検討中の自治体が教育に積極的かどうか、という視点も移住の条件として重要課題に挙げられるだろう。

そこで参考にしたいのが宮城県気仙沼市。東日本大震災の被災地というイメージが強いが、実は震災前の二〇〇二年から市の環境基本条例に基づき、持続可能な社会づくりを教育に取り入れている日本屈指のESD先進地なのだ。同年、アメリカの『フルブライトメモリアル基金』に選抜されたのを機に、市立面瀬小学校ではインターネットを活用したグローバル教育にも着手。二〇〇五年六月には、国連のユネスコから七つのRCE(地域拠点)としてトロントやペナンと共に仙台広域圏として認定され、ESDを積極的に推進する立ち位置を確立したという経緯がある。

ところでESDを語る前に気仙沼はそもそも日本屈指の漁港を抱える街。海や漁業との繋がりが深く、船を通じた国際色豊かな土地柄を生かして、海洋と水の環境をメインテーマに掲げながら『持続可能な社会づくり』を実践する人材育成に取り組んできた。その取り組みとして市立鹿折小学校が行っている総合的な学習の現場を訪問した。場所は『気仙沼港エースポート』。七月中旬のこの日は、三六人の五年生がおよそ二時間、宮城県気仙沼向洋高校の生徒たちから船の仕組みと航海術に理解を深めた。

 

グローバル人材を育成するESD

ここまでだといわゆる体験学習にも見えるが、その違いについて同校の淺野亮校長は「発見で終わってしまうのが体験学習。ESDでは自分との関わりと他とのつながりにまで学びを深める」と説明する。

ESDには『Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、足元から行動せよ)』という標語がある。「これは目の前にある環境を見つめ探求しながら、その先にある地球規模での関わりにまで関心を深めることが目的」(淺野校長)という。

例えば、日本の海にはいくつもの海流が流れている。偏西風もある。漁業はこれら外部環境に左右される。一方、船には多くの外国人が乗組員として乗船している現状を踏まえ、同じ漁業の仲間として共に生きていく必要がある。では、魚はどこまで獲っていいのか? なぜ外国人と仲良くしなければならないのか? 自分達だけでは生きていけない共に生きていく社会作り(共生社会)、そして児童達が大人になった時のありたい自分(自己実現)の両立を、身近にあることから情報を集め、整理し、咀嚼して課題を見出し、自分なりの解決策を編みだしていく。日本の教育は海外に比べてアクティブラーニングの実践が遅れているとされるが、突き詰めれば、ESDはアクティブラーニング。これは大きな魅力と言えないだろうか?

 

学びは東大安田講堂でも発表

「学びはアウトプットが大事。発信することを通して人ははじめて自分事として捉えるから」と淺野校長。発表の場は地元の公民館でのイベントから、なんと東京大学・安田講堂で行われた『全国海洋教育サミット』までローカルかつグローバル。

「テストの点数が目に見えて変わる、いわゆる即効性のある手法ではありませんが、人間性に大きく力を与え、高校生になったり社会に出たりした時に違いが実感できる、それがESDの特徴と言えます」

気仙沼市は幼稚園から高校のほとんどの学校がユネスコスクールで、ESDを教育の柱に掲げている。教育を重視した移住には真っ先に候補に挙がる環境と言えるだろう。

 

取材・文/長瀬 稔(シイタケ・アンド・カンパニー) 写真/松本 伸(P-BOX)

                   

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