妙高高原は首都圏からのアクセスがよい日本屈指のスノーリゾート。毎冬スキー場を目指して多くの人が訪れます。長期滞在をする国内外からのお客様を迎え入れるため、ペンションやコテージが密集しているのも特徴の一つ。周囲を見渡せば、白樺の木の群生は雪化粧で白く輝き、妙高山の神秘的な佇まいに圧倒されるでしょう。
妙高高原・池の平温泉と言えば、妙高市内でも観光の拠点となるエリア。妙高市の魅力はスキー場だけではなく、「妙高雪合戦大会」や「かんずり雪さらし」なども開催されています。
そんな多様な人々が行き交う妙高高原のひとところに「森の宿ビヨルク- björk 」があります。2018年11月にオープンしたこちらの宿を営むのは、移住してきたご夫婦でした。
※ビヨルク- björk : スウェーデン語で白樺
※かんずり:妙高市特産の唐辛子が原料の香辛料
爲石篤史さん (以下、篤)
千葉県千葉市出身。ウィンタースポーツで冬の時期に訪れていた野沢温泉、白馬、北海道を巡ったのち、妙高の物件に出会う。前職はアウトドア関連の仕事に従事。
爲石麻美子さん (以下、麻)
新潟県新潟市出身。バックパックで世界を旅した経験があり、移住先を見つけるために実際に暮らしている人を訪ねていた。前職はアパレル関連。最近やりたいことは妙高の食に触れること。
いつか宿をやりたい、その夢の第一歩
篤「暮らしにオンとオフをつくりながら、四季のある生活を田舎でならつくれると思って移住を決めました」
麻「窓の景色一つとっても全然違う。稲の成長、草木の成長、景色が緑になって、濃くなって、黄金色になって、白くなっていく。肌に触れる空気、自然の中で出会うリスや鳥。四季を感じる喜びを妙高に来て感じていますね」
妙高高原で暮らす魅力を語るのは、爲石篤史さんと麻美子さんご夫婦。
「いつか宿をやりながら、田舎に住みたい」という夢を長い時間をかけて叶えました。移住を決めるまでの間、日本各地の「暮らし」を訪ねて自分達の場所を夫婦で探していたと話します。
晴天に雪景色、妙高の気まぐれな空の下
篤「妙高高原じゃないといけないという気持ちはなかったです。学生時代からスノーボードのために通っていた場所を中心に現地に赴いていました。白馬、野沢温泉、北海道とか」
麻「八ヶ岳にも行ったよね。その地域に住んでいる人の家に泊めてもらってました。見るのと暮らすのはどうしても違うから」
妻の麻美子さんは行き帰りの航空券だけ持って1人で海外を回るほどのバックパッカー。興味があれば現地へ赴き、人や暮らしに触れたいという好奇心を持って各地で情報を集めました。
Sea glass-同じものは一つとしてない
麻「最後の最後の決め手はもう勢いというか…。実はほかのエリアの物件が最初に候補にあがっていたのですけど、頓挫してしまって」
篤「僕はその時に移住するのを諦めてましたね。でも、妻が田舎の暮らしを諦めたくないって言ってくれて、その後に見つけたのがこの場所でした。ただ『勢い』での移住は大変なことも多かったです」
木と照明の温かみが印象的なラウンジへの通路
リノベーション、職人との出会い
ビヨルクとなる物件は妙高高原の観光拠点には最適の場所でしたが、宿として開業するには大規模な改修が必要な状態でした。
篤「正直、最初は家に愛着を持つことが出来ませんでした。でも、宿を少しずつ形にしていく中で、好きな場所が少しずつ増えていったんですよね」
開業前の思い出を語る
その時に出会った1人の大工(綿貫鉄夫)さんがいたから、妙高と家を好きになれたと篤史さんは話します。篤史さんの思い入れが深い場所は2ヶ所。1つは二階の洗面台のあるスペース、もう一つは1階の窓枠だといいます。
篤「この洗面台を乗せている分厚い板。予算がないけど一枚板がいいって話をしたら、大工さんが複数の角材を圧着して作ってくれたんです。壁もクロスじゃなくて木が良いだろうって、ホームセンターに売ってる木材を見繕ってくれました。そこは窓も最初はなかったんですけど、暗くて『これじゃ商売できないから、窓をつくって光をいれよう』とアドバイスしてくれました。ずっとお客さん目線で考えてくれる人でした」
この空間に2人への愛が満ちている
職人気質の大工さんで、仕事に対する姿勢はとても厳しい方だったそうです。そのおかげで、『中途半端にはやれない』という覚悟を持てたとも話します。
麻「今でもお付き合いがあるのですけど、仕事を越えて、関係を持ってくれている人なんです」
「ここの曲線が職人業(わざ)」
篤「僕はその大工さんを心から尊敬していて、工事が終わる時に窓枠にサインをしてもらったんです。自分が初心を忘れないようにお願いしますって」
この隠し方からも仕事への誇りを感じる
窓枠に書かれたサインは大工さんが隠してしまったとのこと。他にも宿をつくっていく過程で、東京や大阪からも多くの仲間が休みを合わせて集まって手伝ってくれたそうです。家具の一部は家具職人の友人(長沼泰樹)が作ったものをいれ、宿が出来るまでに出会いと感謝を積み重ねながら、2018年11月、冬を目の前に2人の夢が叶いました。
2階の寝室には4人部屋と2人部屋がある
妙高高原に住み続けるために
こうして始まった2人の妙高高原での暮らし。最初の冬を越えて、段々と日常をつくり始めている中で、忘れずに心がけていることを聞いてみました。
篤「暮らし始めて、大変なこともたくさんありました。だけど、僕らが楽しまないと人は集まって来ないと思って、やりたいことや楽しみたいことをノートに書いています」
「碍子(がいし)」は電線を巻く糸巻き状の陶器
麻「私も食文化をお客さんに知ってもらうために、たくさんの食と繋がりたいと思ってます。地元の美味しいトマトやお隣の信州のリンゴなど、私たちが感動した食をお客さんにも味わってもらいたい」
妙高高原で暮らし、宿でお客様を迎え、交流を重ねる中で、大事にしていきたいことの輪郭が見えてきたように感じます。
特製のキャロットラペと信州マルヤマリンゴ農園のジャムがおすすめ
篤「あとはお客さんからも妙高での楽しみ方を教えてもらいたいですね」
麻「そうそう。この宿が旅行者のHUBになって欲しいと思っていて。私達を介さなくても、お客様同士が交流して、情報交換をして欲しい。色んな国の色んなことをしている人達が来るので、それを楽しみに来てもらえたらと思っています」
自分達とお客様が融合して、来るたびに少しずつ変化している宿。白樺の木の様に季節ごとに立ち居振る舞いが変わり、四季の魅力を伝える宿になっていきそうです。
宿の近く。春には、いもり池で逆さ妙高が見られる
最後に、妙高での暮らしを考えている皆さんへメッセージをいただきました。
篤「僕らと同じ感覚を持った人たちに、たくさん来て欲しい。でも、安易には考えないで欲しいと思っています。生活の基盤、仕事の基盤を冷静に見つめて、実際に滞在して『生活』をみてから来てもらいたいですね」
麻「ここで暮らす楽しみを見つけて欲しいです。山に入ったり、自分で畑をしたり。食に触れて暮らす楽しさは伝えていけたらと思います」
篤「そうやって基盤をつくれたら、こんなに良い場所はないですよ。山も海も近くにあって、四季と食に恵まれた自然環境での生活は都会では出会えませんから」
四季のある雪国での暮らしの物語。地方に夢を見て住み始めても、全てが順調にはいかないかもしれません。それでも「自分の理想の暮らし」を見据え、人との繋がりを大切にすることで、どんな壁も乗り越えていけるでしょう。
あなたの理想の暮らし、妙高高原に探しにいってみませんか?
【INFORMAITION】
björk(森の宿 ビヨルク)
住所:新潟県妙高市関川1252-8
アクセス:妙高高原ICより車で10分/妙高高原駅より車またはバスで10分
TEL:0255-86-3772
H P:https://www.bjorkmyoko.com/
※ご予約は、お電話または予約フォームにてお願いいたします。
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●第9回妙高スポーツ雪合戦大会
日程:2020年3月14日(土)〜15日(日)
会場:新潟県妙高市池の平2275 池の平温泉観光協会前会場
申込締切:2/15
申込要領:http://bit.ly/31PHAHF
●「妙高へ移住したいなら、まずは暮らしに会いに行こう。」妙高市 移住・定住サイト
https://www.city.myoko.niigata.jp/myoko-life/
(文:大塚眞/写真:本間さゆり)