TURNSでもお伝えしてきた「花と海の街 館山市で学ぶ地方創生×ビジネススクール」(主催:館山市、東日本旅客鉄道株式会社)が2/23(木)~3/4(土)にわたり開催されました。
このスクールは、「企業進出や移住を検討している方々が地域関係団体や地域事業者とのコミュニケーションを通して館山市での暮らしや新たなビジネスの萌芽を育てる」というコンセプトを掲げ、「地域の魅力のカチテンカン」をキーワードに実施されたものです。「館山市は魅力的な地域資源の宝庫である一方で、それが活かしきれていないという現状が課題。そこで、館山市で活躍しているビジネスパーソンとの交流や、館山市の魅力や課題の体験・体感を通して、館山市がもつ魅力や地域資源について理解を深め、それを新たなプロダクトやサービス等へと転換させるアイデアや、館山市の魅力を発信していくための効果的な手法を学ぶ」ことを目的とし、以下のスケジュールで執り行われました。
①2/23(木)/オリエンテーション
②2/25(土)・2/26(日)/1泊2日の現地視察・体験
③3/4(土)/ビジネススクール総まとめ
さて、本記事では前編・後編に分けて、参加者の皆さんが体感したビジネススクールを振り返ります。
館山現地でのフィールドワークを前に開催されたオリエンテーションは、『LivingAnywhere Commons館山』を会場に、オンラインでの参加も可能なハイブリッドスタイルを採用。地域復興やコミュニティ醸成に精通する株式会社しびっくぱわー・小泉祐司さんをファシリテーターに迎え、館山市の特性や課題の共有(館山市役所)、特別講演(館山信用金庫)、ビジネススクールの主旨・行程などの説明、講師紹介、参加者による自己紹介が行われ、意見交換会(館山商工会議所 青年部)にて締めくくられました。
沖ノ島で学ぶ持続可能な自然環境維持
オリエンテーションを経て迎えた2/25(土)、フィールドワーク初日。
館山駅に集合した参加者はバスに乗り、一路沖ノ島へ。出迎えてくれたのは、NPO法人『たてやま・海辺の鑑定団』の理事長・竹内聖一さんでした。
竹内さんがまず一行へ見せてくれたのは、沖ノ島の海岸で出会うもの。
それは、暖かい海に面する南房総ならではといえる、多彩なタカラガイやサンゴの骨格をはじめ、化石化した動物の骨など。一方でペットボトルや空き缶、ビニールゴミなどの漂着物が散見される事実も伝えられます。
沖ノ島の海岸を美しく保つことの難しさを知った参加者を引き連れ、竹内さんによる沖ノ島ツアーがスタート。沖ノ島の水面下には縄文時代の遺跡があることや、温暖化などに起因する生態系の変化などの話に耳を傾けながら島を巡っていきます。
沖ノ島の海岸を注意深く観察しながら歩くと、実に色とりどりの貝殻が漂着していることに気付かされます。
開放的な海岸を見学した後に案内されたのは、沖ノ島の“森”エリアでした。そこで目にしたのは、2019年9月に発生し、房総半島に甚大な被害を及ぼした台風15号による倒木の爪痕。島内にある宇賀明神の御神木(樹齢約300年)さえもなぎ倒した被害の原因について、竹内さんは島がコンクリートや人工物で整備されたことによる地盤の乾燥も影響したと語ります。そこで、竹内さんたち『たてやま・海辺の鑑定団』は専門家の指導のもと、館山市と連携しながら、雨水が島の土に浸透するべくコンクリートを剥がす活動を始めました。島内のすべてを変えるのではなく、まずは階段部など地盤の改善に最適な場所を重点的に再生させる試みから行っています。
「今日ご覧いただいたのは、沖ノ島の森と海が50年後も健全であるように進めているプロジェクトなのです。それは子ども達にきれいな沖ノ島を引き継ぐための活動とも言えます。プロジェクトはまだまだ始まったばかりで、活動資金の面では活路が見えてきつつありますが、継続していくための課題は少なくありません。多くの人に活動、意義を知ってもらい、ともに歩んでもらいたいです」と竹内さん。
館山が誇る自然環境であり、観光資源でもある沖ノ島。そこで学んだのは持続可能な活動の必要性と、プロジェクトを推進するための熱量の大切さでした。
荒廃した山林のポテンシャルを引き出す工夫
フィールドワーク1日目、次に訪れたのは『ふれあい神余の里』。
館山市南東部、周囲を山に囲まれた盆地にある 神余エリア。以前は豊かな自然の実りにより、この地域のみで地産地消が叶っていた里山ですが、高度経済成長期を迎えると里山は荒廃の一途を辿ることとなりました。
「この地域では高度成長期に農耕を辞め、東京へ移住する人が増えました。結果、神余で必要とされてきた自然資源は、地域外または海外からの資源に取って替わったのです。また、広がった荒廃山林は獣害の温床となりました。私が神余に根を下ろしている理由の一つは獣害駆除ですが、荒廃した山林を練り歩くなかでこのエリアのポテンシャルに気付いたのです」と語るのは代表の松坂義之さん。
まず松阪さんが案内してくれたのはジビエの解体場。ここでは松坂さんたちが獲ったジビエだけでなく、依頼があれば地元の方が持ち込むジビエの解体にも対応しています。
解体場を後に、一行はハイキングコースへと向かいました。
「以前は耕作地だった山なので、車も入ることができる農道が残っていたのです。その道を整備することでハイキングコースに生まれ変わらせました。観光資源であると同時に、山に人が入ることで人間を怖がる猪などを山の奥へ追いやることができるのです」(松坂さん)
ハイキングコースを進むと松坂さんが仕掛けた罠がありました。猟銃を用いない獣害対策では、獣道を頼りに最適な場所に罠を配置し、その注意喚起として罠があることの注意書きも設置しているのです。
さらに山を巡り、辿り着いたのは竹林でした。
「荒廃した竹林も獣害の温床となります。竹林は放置すると老齢化し、新たな竹が生えることがなくなり、筍も出てきません。この一帯も手付かずの竹林が広がっていましたが、地権者の方の御了承をいただき間引きを進めてきました。まだ結果は出ていませんが、新たな観光資源となるよう諦めずに整備を進めていきます」(松坂さん)
半日のツアーを終え、松坂さんはこう締めくくります。
「今日見ていただいたハイキングコース、竹林は豊かな自然を感じていただける観光資源ではありますが、それぞれ単体では誘客には繋がりづらいと考えています」
「神余の里で開催するマルシェでジビエを料理にして振る舞っているのもそうした理由です。マルシェに訪れ、ハイキングコースを散策し、竹細工などを体験し、ジビエ料理を楽しむ……。こうした掛け合わせにより、神余でしか味わえない体験が、価値を生むと思うのです。つまり、ポテンシャルの活用方法の工夫です。その先に、観光客と移住者、そして地域の良い関係が生まれ、神余が活性化すると期待しています」
沖ノ島では自然環境の再生と保全を目の当たりにし、神余の里では荒廃した里山の整備による観光資源化を学んだ参加者。館山の課題と可能性への大きな気付きとなったことは言うまでもありませんでした。
–後編へと続く-
Text: 諸橋 宏(HIROSHI MOROHASHI)/LEMON SOUR, Inc.
Photo: 諸橋 宏(HIROSHI MOROHASHI)/LEMON SOUR, Inc.
小泉 祐司/株式会社しびっくぱわー