館山市地方創生ビジネススクールREPORT -後編-

TURNSでもお伝えしてきた「花と海の街 館山市で学ぶ地方創生×ビジネススクール」(主催:館山市、東日本旅客鉄道株式会社) が2/23(木)~3/4(土)にわたり開催されました。

さて、本記事では前編に続き、参加者の皆さんが体感した地方創生ビジネススクールを振り返ります。

6次産業化に向けた4代目の挑戦と実績

フィールドワーク2日目となる2/26(日)に訪ねたのは、館山市安東に居を構える『須藤牧場』です。

案内をいただくのは『須藤牧場』の4代目、須藤健太さん。「曽祖父の代から続く牧場をこれからも発展させ、みなさまに美味しい牛乳を楽しんでいただくために取り組んでいるのが6次産業化です。といっても説明が難しいので、まずは牧場をご案内しましょう」

まず見学したのは牛舎からほど近い場所に広がる放牧場でした。牛たちは気候や気温次第で自由に牛舎とこの放牧場を行き来するのです。

続いて牛舎へ。須藤牧場では牛を繋ぐことなく、自由に歩き回らせるフリーストール牛舎というスタイルを採用しています。個体の管理が難しい反面、牛たちはストレスが少なく、牛舎が清潔に保たれるというメリットがあると言います。

一行は餌やりも体験しました。参加者からは「間近で見た瞳が可愛くて愛おしかった」「カラダは大きいが、穏やかな性格をしていることに驚いた」などの声が聞かれました。

「主に学校を対象にして、こうした餌やりや乳搾り体験などに対応しています。牧場や牛乳を身近に感じてもらいたいのは当然のこと、子どもたちに普段とは違うこと、非日常を体験してもらいたいのです。そうして視野が広がり、気づきが変われば、自分の考えと異なる意見も受け入れられるようになると感じているからなのです」(須藤さん)

餌やりの後、用意されていたのは2種類の牛乳の飲み比べ体験でした。
「須藤牧場ではホルスタインとジャージーの2種の乳牛を飼育しています。いま試飲いただいているのはすべての牛の生乳をブレンドした『須藤牧場牛乳』と、ジャージー牛の生乳のなかでも条件を満たしたものだけで作った『プレミアムジャージー牛乳』です。飲み比べてみていかがですか? 答えは人それぞれで良いと思っています。どちらが良いとか美味しいとか、決めつける必要はないのです。スーパーマーケットでは、品切れすることなく牛乳が販売されていると思いますが、大手メーカーの牛乳は、我々のような酪農家が農協に納めた生乳をブレンドしたものです。ブレンドする仕組みは安定的な流通を叶えた素晴らしいシステムですが、須藤牧場では牛乳の個性の違いも楽しんでもらいたいのです。そのために、少量でも、多品種の牛乳を作っています。そして、須藤牧場の専用アイスを使ったシェイクで地域を繋ぐべく立ち上げた“生シェイク”プロジェクトも広がりをみせています。館山市内の16店舗から始まった、それぞれのお店の個性を活かした生シェイクを販売するイベントは吉祥寺や兵庫、札幌へまで拡散し、今年は150店舗の参加を予定しているのです」

酪農を1次産業としてのみとらえるのではなく、流通を多角化し、商品の企画開発から販売、さらには酪農文化の啓蒙にまで取り組む須藤さんの姿と熱の入ったお話には、多面的かつ多様なビジネスを育むためのヒントが得られました。

駅前の賑わいを取り戻すべく、エリアの価値向上を

フィールドワーク最後の訪問地は館山駅東口駅前に誕生した『sPARK tateyama(スパーク タテヤマ)』でした。

当日は月1回のマルシェが開催されていました。建物前のスペースにはフードトラックが並び、ピザやクレープ、まぜそばや焼き芋などが販売され、賑わいを見せていました。

建物内では地元・館山のオーガニック野菜や陶器、アクセサリーを販売するブースや、常設のクラフトビール専門店、コーヒーショップが来場者を楽しませていました。

『sPARK tateyama』を立ち上げ、運営するのは、館山エリアの価値を高めるべく立ち上がった『館山家守舎』​です。2名で代表を務める漆原 秀さん(左)と本間裕二さん(右)は施設誕生の背景を語ってくれました。
「この場所には元々映画館があって、その後は館山の生活に欠かせないデパートのビルになりました。しかし、高速道路やバイパスが開通するとともに、鉄道利用者が減少することで、エンターテインメントや買い物のフィールドが駅前からロードサイドへと移っていったことで、駅前エリアは集客の場所ではなくなり、テナントの退去が始まったのです。いつしか駅前周辺は遊休不動産が目立つようになりました」(本間さん)
「そこでわれわれがビルを借りて、パブリックスペースを運営し、人々の賑わいを取り戻し、エリアの価値を高めるようと動き始めたのです。構想から1年、2022年冬に開業へと漕ぎ着けました。さて、エリアの活性化は駅前だけではありません。一緒に街を巡ってみましょう」(漆原さん)

漆原さんの引率により『sPARK tateyama』から徒歩5分程度、到着したのはガレージを改装したような建屋でした。
「現在ここには、レンタルスペースでありつつ、マルシェなども開催している交流拠点『ねじ』と、『WEEKEND american』というバーが入っています。館山市における遊休不動産の活用プロジェクトとして始動したリノベーションスクールの1期生が生み出した場です。遊休不動産に魅力的なコンテンツをフィットさせることで、賑わいを醸成しているケースの一つですね」

さらに館山の街を巡ると、改修工事途中のビルに出会いました。「ここは本屋になる予定だそうです。このビルの反対側はイタリアンダイニングのお店が数カ月前に入りました。仲間のビルオーナーが、新しいプロジェクトとして仕掛けています。どうです?町に変化が生まれている感じがしませんか?」

そしてたどり着いたのはマイクロホテル&ゲストハウス『tu.ne.』。
「何を隠そう、ここは私が経営するゲストハウスです。元は内科の医院だった場所を買い取 り、ゲストハウスへ生まれ変わらせました。館山駅からほど近い場所で、宿泊の需要はあるのか? との懸念はありましたが、このゲストハウスができたことでインバウンドをはじめ、館山へ訪れる人の層に変化が起き、街を巡る人々が増えたと地元の方からもお声をかけていただいている今日この頃です」(漆原さん)

館山駅周辺エリアの街巡りを終え、再び『sPARK tateyama』へ戻った参加者一行は、2つのチームに分かれて、館山市での新規ビジネスモデルについてブレストをしました。そこへ漆原さんが一言。

「皆さんが考案するビジネスモデルを体現する場が『sPARK tateyama』のマルシェであると伺いました。さて、マルシェを見て、何を感じたでしょうか? お気付きかもしれませんが、ここでのマルシェは観光の方をターゲットに据えていません。目指したのは地元が繋がるマルシェなのです。観光を軸に考えると、一過性のイベントになりますが、『sPARK tateyama』は交流拠点なのです。ピザのフードトラックを覚えていますか? あのピザはピザ屋さんが売っているわけではなく、農家さんがご自身の野菜を使ったピザを販売していたんです。美味しい野菜のピザを食べた先に、この野菜を食べたいと感じ、地元・館山市の野菜を生産者さんから購入してもらう繋がりが生まれれば嬉しいと考えています」

地域外から考える地域活性は、ともすると観光目線での仕掛けになりがちなところ、『館山家守舎』​が実践しているエリアマネジメントは、地域に根ざした恒久的な街の価値向上でした。

フィールドワークでの気づきを実りへと……

館山での2日間のワークショップを経て迎えたのは、まとめの場です。

幕開けは館山において既にビジネスを成立されている方々による館山の魅力と現実を語り合うトークセッション。登壇したのは株式会社館山家守舎・漆原 秀さん、株式会社須藤牧場・須藤健太さん、株式会社クルージズ・テクノロジーズ・牟田健登さん、合同会社AWATHIRD・永森昌志さんの4名でした。

館山に根ざし、日々事業を展開する4人の言葉からはリアルな現場と可能性を感じることができました。

・館山市をフィールドにしているプレーヤーが少ないため、得意ジャンルで第一人者になることができる(漆原さん)、エリアにおける唯一無二になれる(牟田さん)
・首都圏から近いため、二拠点からのグラデーション移住が可能なロケーションが魅力(永森さん)
・不動産をはじめとしたコストが低額であるため、スモールスタートが可能(漆原さん)

ランチを挟んだ午後には、館山市地域おこし協力隊として、『LivingAnywhere Commons館山』でコミュニティマネージャーを務める北村 亘さんから観光需要の創出や社会課題の解決についてのヒントをいただきました。

満を持して最終タスクとなるプレゼンテーションへ

そして各チームが本スクールを通して考案したビジネスモデルの発表へ移ります。参加者は2チームに分かれましたが、スタートを飾ったのは、主催者でありながらフィールドワークに帯同した「チームJR(東日本旅客鉄道株式会社)」の皆さんによるプレゼンテーションでした。
JRは館山市大賀にホテル『ファミリーオ館山」を展開していることもあり、フィールドワークを通じて見出した価値とコト体験を宿泊プランに紐付けるプランを打ち出しました。

続いてプレゼンテーションをしたのは、オンライン参加のチーム『イントゥザタテヤマ』。

メンバーのなかにキャンプ好き、ビール好きがいたこともあり、掲げたコンセプトは「キャンプ×ビールで館山の魅力発信を!」でした。

コンセプトに、フィールドワークで学んだジビエや薪になる資源のポテンシャルを掛け合わせ、さらにはターゲットを館山エリアに住まう”おじさん”にフォーカスしたユニークな提案でした。
「館山滞在中に出会った60代の男性へ『館山の魅力は何ですか?』と尋ねたところ、『そんなもん、何もない』と返されたのです。観光目線でも、地元目線でもなく、『館山のおっちゃん目線』で、考察したのが、駅前にBBQサイトがあり、ビールが飲めて、交流ができる場の創出だったのです』(イントゥザタテヤマ・矢野さん)

このプレゼンテーションに対して講師陣からは、帰りの足(交通手段)のケアへの配慮や、プロジェクトの枠組みのみならずシーンを生み出す意欲への評価が与えられました。

3組目として現地で登壇したのはチーム『館山クリエイション』の2人。
「寿司バトル」と名付けたビジネスプランは、海産物が豊かな館山で獲れながらも、流通にのらないマイナーな魚にフォーカスを当てたものでした。

流通の都合上、廃棄されてしまう魚を首都圏で腕を振るう寿司職人さんを招聘して、握ってもらい、マルシェで販売。さらにはお客様に美味しさで投票してもらうことでエンターテインメント性を持たせる企画は、館山市が魚の街であることの認知を深め、口コミを生むであろうとの先見性を持ったプランでした。

講師陣からは「すぐにやったほうが良い! 夏にでも実施しましょう!」という声がある一方、「ゆったりと食事を味わうのであれば、地元・館山市の住人を対象としたプランがベターとも考えられる。または宿泊をセットにしても良いか。廃棄の魚で缶詰というアイデアもある」とのアドバイスがありました。

1泊2日の現地でのフィールドワークに加え、事前のオリエンテーションとプレゼンテーション会を含め、4日を費やした『館山市で学ぶ地方創生ビジネススクール』。年齢、性別、キャリアが多様な参加者が集い、ともに同じ館山市の景色を見て、実態とポテンシャルを目の当たりにし、当事者意識をもって臨んだプレゼンテーションには、各々の想いが詰まっていました。館山市の活性を、熱く、一方でシビアに洞察した経験を経た参加者の姿には、このビジネススクールの意義が見てとれました。

Text: 諸橋 宏(HIROSHI MOROHASHI)/LEMON SOUR, Inc.
Photo: 諸橋 宏(HIROSHI MOROHASHI)/LEMON SOUR, Inc.
   小泉 祐司/株式会社しびっくぱわー

                   

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