てげいっちゃが…宮崎の方言で、てげ=「とても」、いっちゃが=「良いよ」の意味
自然豊かで温暖な宮崎県は移住先に人気のエリア。空き家を利活用する移住者も増えている。移住費用を抑えられて自由に改修できるなど空き家はメリットがたくさん。県内各地の空き家とその地域がもつポテンシャルを活かしてやりたいことにチャレンジし、生き生きと暮らす2組を訪ねた。
【多拠点→宮崎県日向市】
古民家シェアハウス「kokage」
海辺の閉鎖旅館を再生。移住者の声からできた港町のシェアハウス
▲双子の愛娘たちをだっこしながら「出産ギリギリまでDIYしていました」と笑う奈緒さん。広い共用リビングは入居者に限りイベント等での貸し出しも可能。
日向市美々津は宮崎県北部の港町で江戸時代には廻船問屋が軒を連ねた。その面影を残す閑静な町の一角で古民家シェアハウス「kokage」を営む金丸さん夫妻に話を聞いた。
歴史ある元旅館を、地域に新しい風を吹き込む拠点に
▲玄関のたたきのタイルや階段などは手を加えず、そのまま活用している。建物内にはサーフボードが置けるサーフルームやコワーキングスペースも完備。
世界中を旅していた金丸文武さんと妻の奈緒さんが日本に戻ったのは2018年。「古民家で暮らしたい」と文武さんの故郷の日向市美々津にUターンし、旧廻船問屋を改修して古民家食堂「ひなた屋」を開業した。
「店には、お試し移住したいという方も来られていて、美々津に賃貸で住める場所はないか? ってよく聞かれたんです。でも、この地区に賃貸物件はなくて。今まで移住希望者やワーケーションをしに来る人は、民宿等を利用していましたが、宿泊費が高くついてしまう。シェアハウスをつくれば美々津に住みたい人も滞在したい人もまとめて受け入れられるし、人が増えて良いなと思っていました」。
▲共用リビングの窓から日向灘を一望。日差しもぽかぽかと心地よい。
その矢先に、割烹旅館だった古い物件が売りに出た。「すごいタイミングでした。でも、食堂を始めてから1年経っていなかったので、周りからは、もう次のことするの? って(笑)」。
金丸さんはシェアハウスの実現に向けて事業・資金計画を立て、採算がとれることを確認。旧割烹旅館は地元で親しまれてきた場所で、シェアハウスに再生されることを美々津の人たちも歓迎してくれた。
「美々津の古民家に中長期滞在できれば理想的と言う声が後押しに。歴史ある建物を蘇らせることは町並みの保存や活性化にもつながると思いました」。
現在、シェアハウスは全て満室に。入居者の大半が宮崎で仕事を見つけ、お試し移住から定住にシフトする人も。築160年近い空き家が、町に新しい風を吹き込んだ。
▲入居者の田辺さん(東京都出身)。金丸さんの紹介で宮崎牛の牛舎で働いている。
船底天井や漆喰など伝統工法を活かすDIY
▲キッチンは旧割烹旅館らしく広々とした造り。サビついていた作業台もグラインダーでピカピカに。
「ひなた屋」に続き2軒目となる古民家改修。テーマは「明治2年建築当時の本来の姿に近づけること」だった。あえて具体的な設計プランを立てず、自ら現場に入って作業しながら考えるのが金丸さん夫妻のスタイル。
「最初の古民家改修で大体の流れは把握できたので、ほとんど自分たちでDIYしました」。
まず取り掛かったのは、大量に残されたモノの選別。布団や浴衣等は処分し、家具や骨董品など受け継ぎたいモノは残した。約40帖の宴会場は天井板を撤去し、梁を現してより開放的に。昭和の名残りがある砂壁も取り除いて漆喰を塗った。
▲以前の家主や地域住民から受け継いだ骨董品・調度品をディスプレイ。
「昔は船大工さんが家も建てていたので、古民家には伝統工法が見られます。天井は勾配のある船底天井で、漆喰も特徴のひとつです」。
古き良き時代の歴史が刻まれた「kokage」。一軒の古民家が美々津の魅力を物語り、これからも人と人との縁を紡いでいく。
改修フロー
DIY改修でコストを軽減。楽しく愛着もわく!
日向市美々津で物件探しシェアハウスに最適な物件を探していたところ、空き家になっている旧旅館の情報を入手。2019年初夏、不動産会社を通して購入。
↓
予算計画・資金調達改修予算は約700万円。綿密な事業計画書と改修工事見積書を準備して、金融機関から融資を受ける。
↓
改修工事スタート水回りや電気工事は業者に依頼し、その他ほとんどを金丸さん夫妻でDIY。家族や友人の協力も得て作業を行った。
↓
シェアハウス「kokage」完成!約1年の改修期間を経て、2020年7月1日にオープン。伝統的な町並みに調和する新しいシェアハウスが誕生!
【沖縄県→宮崎県】
えびの市マーシー邸
大家族ものびのび。広い畑付きの空き家をDIYで楽しく快適に!
▲欄間はそのまま残し、床をフローリングに張り替えて和洋折衷リビングに。収納の目隠しを兼ねて白い布を垂らし、プロジェクターで投影してホームシアターを楽しむ。
熊本県と鹿児島県に接し、南九州のほぼ真ん中に位置する宮崎県えびの市。
緑豊かな山あいの集落に佇む一軒の空き家に、賑やかな8人家族がやってきた。
「空き家バンク」で見つけた理想のわが家
▲元押入れは子供たちの秘密基地。木の廃材を活用してデザイン的にもユニークな転落防止ストッパーに。床は板材を1枚ずつ張り合わせた。
2022年3月に沖縄県から移住したマーシーさん一家は、夫婦と6人兄妹の大所帯。
「主人が『畑をやりたい』と言ったのが移住のきっかけになりました」と語るのは妻の由美さん。夫のブライアンさんは元アメリカ空軍の整備士で、19歳で沖縄に赴任してから一度も県外で暮らしたことはなかったという。移住の話を沖縄の友人にしたところ「空き家バンク」のWEBサイトを教えてくれた。
「彼女のお母さんがえびの市に住んでいて、『自然が豊かで良いところだよ』って教えてくれたんです」。
ブライアンさんと由美さんは、早速空き家バンクで物件をチェック。鹿児島や福岡の物件とも比較したが、畑付きの空き家で予算面で合うのはえびの市だった。購入前に内見したのは現在の住まいのみ。決め手は、畑のはるか遠くに見える霧島連山。
▲畑から見える霧島連山。
「僕のふるさとのバージニア州は、山々に囲まれた自然が豊かなところ。畑や家の窓際から見える景色がすごく気に入りました」とブライアンさん。
敷地内には、4DKの平屋の母屋と2階建ての納屋、広々とした3面の畑。また、裏庭には家畜舎の跡や竹林、柿や柑橘類の木々も生い茂っている。「やりたいことが全部詰まっている!」と、ポテンシャルを感じたブライアンさんと由美さん。子供たちも移住に賛成してくれて、内見からわずか3ヶ月後、新天地での生活がスタートした。
畑仕事も子育ても地域のみんなが応援
▲マーシー家の畑では大根や玉ねぎ、アスパラ、唐辛子など、さまざまな野菜を栽培。早春には庭にフキノトウも生えるそう。「この土地は宝の山。資源の宝庫です」と由美さんも大満足。
いざ購入が決まり、入居する前に取り掛かったのが「とりあえず住める状態にする」こと。以前の家主は時々掃除に来ていたものの、5~6年ほど住む人はなく、家財道具も置いたままだったという。
「入居前にバタバタと掃除と補修をしました。畳も水が浸みていたので全部外に出して、台所の古いキッチン台も撤去して。すぐに住めないかもねって主人に言うと、『僕が直すから良い』って。主人はDIYが大好きだし、私も何とかなるかって納得しました(笑)」。
▲夫婦と6人兄妹が大集合。大家族が快適に暮らせる夢のマイホームを目指してDIY改修は続く。
大工さんなどプロの手は一切借りず、床の張り替えから天井の塗装まで、ほぼブライアンさんがセルフ工事。仕事や育児の合間をみてはコツコツと作業を進めている。「空き家は自由に手を加えられるし、自分たちらしい家をつくっていくのは楽しい」と、ブライアンさん。
畑に面した縁側には廃材を使ってウッドデッキを造作。また、リビングの天井板を外して、その上にロフトをつくるプランも。ユニークなDIYはまだまだ進行中だ。
▲畑と庭に面したウッドデッキにも廃材を有効活用。ハンモックを吊るしたデッキは子供たちの格好の遊び場。
▲ゆったりと余裕のある台所は大家族にぴったり。食器や調理器具が納まる棚も随所に造作。
「念願の畑作業も楽しんでいます。私も主人も農業は未経験だけど、自治会長さんやご近所のみなさんが親切に教えてくれて、初めてお米をつくりました」と由美さん。家族が食べる野菜は自給自足し、余剰分は商店街などに卸すことも。「みなさん本当に親切。子供たちも可愛がってくれて、地域の人みんなで応援してくれている感じです」。
母屋の改修がひと段落したら、次は納屋をDIYしてカフェ&マッサージサロンを始める予定。夢はどんどん膨らんでいく。
改修フロー
廃材や古道具もアイデア次第で立派な資材に!「空き家バンク」で物件探し
沖縄在住時に「空き家バンク」を利用して物件情報を収集し、比較検討。内見した際にひと目惚れした今の家に即決。
↓
予算計画・資金調達移住・改修資金にはコロナ給付金や金融機関の融資、えびの市移住者住宅取得支援金などを利用。
↓
沖縄からえびの市に移住移住後に6人目の子供が誕生。地域住民や学校・保育園にも温かく迎え入れられ、えびのライフがスタートした。
↓
暮らしに合わせて手を加えながら住む母屋の高い天井を活かしてロフトを造作するほか、裏庭に子供たちの遊び場をつくるなど、ブライアンさんのDIYは進行中!
移住・空き家探しの相談は…
宮崎県移住・UIJターン情報サイト
あったか宮崎ひなた暮らし
宮崎県の移住情報は『あったか宮崎ひなた暮らし』へ。住まい・空き家・仕事探し、子育てなどについての移住支援・サポートのほか、移住体験プログラムなどさまざまな情報をわかりやすくご紹介。相談窓口もあるので気軽にご活用ください。
取材・文:山田美穂 写真:内藤正美