新潟県十日町市、東下組の願入(がんにゅう)集落。ここで暮らす「おかあちゃん」たちは、みんな元気に笑い、人を出迎え、嬉しそうに村やまちのことを話す。
彼女たちのパワフルであたたかい力で出迎えられた人たちは、
もう一つのふるさとが出来たような気持ちになって「また来るね」と帰っていく。
皆が口を揃えて「あそこは女しょ(女衆)が元気だよね」というだけあって、弾けるような笑顔と笑い声がいつも聞こえて来る。
「うぶすなの家」と呼ばれる茅葺きの古民家で茶飲み話をするように、「おかあちゃん」たちと村のことを聞いた。
このまちで2000年から始まった現代アートの祭典「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 」の作品の中でも人気が高い「うぶすなの家」を村の女しょが切り盛りしているのだ。
うぶすなの家(制作年2006年)
(大地の芸術祭HPより引用)
1924年築、越後中門造りの茅葺き民家を「やきもの」で再生した。1階には、日本を代表する陶芸家たちが手掛けたいろり、かまど、洗面台、風呂、そして地元の食材を使った料理を陶芸家の器で提供するレストラン。2階は3つの茶室から成るやきものの展示空間。温もりのあるやきものと茅葺民家、集落の女衆たちの溌剌とした笑顔とおしゃべりが人気を集めている。
【プロデュース=入澤美時/改修設計=安藤邦廣】
願入に暮らす静子さんは、その女しょたちの中心にいる。
「私が村に来たのは22、23歳くらい。昔は女の人が車に乗るのも、仕事するのも良くないことだって言われていたけど、十日町は織物のまちだから、昼どきになれば女しょたちが町に溢れてたよ」
静子さん
新潟県十日町市は京都、金沢と並ぶ織物の生産地で、一時期は県内中の女性達が仕事と花嫁修行に集まった。そんな土地柄もあってか、「ここの女性たちは元気がある」と言われるようになった。
春から秋にかけて、山では家族で農作業が行われ、養蚕が盛んで家庭で蚕を育てる。冬の仕事は機織りと牛飼いをして生計を立てるのが、この地域の風土だった。
「この村の人たちは、男の人も女の人も働き者だったから」と静子さんは少し誇らしげに言った。
時を越えて、形を変えて受け継がれる風土
静子さんが暮らす願入集落は、東西に連なる集落を繋ぐ道の通る往来が多い集落だった。「貫入(がんにゅう)」の名前の由来がその歴史を物語っている。外に出て、あたりを見渡すと、村の歴史は古く、400年以上続く村で神仏習合の文化が色濃く残っていた。
「村の人数が減って、神社の行事は塞の神という五穀豊穣を願って火を上げるものしか残っていないけど、鎮守様はずっといてくれるからね」
静子さんの思いは、この村を残していくこと。そのために大地の芸術祭にも積極的に関わり、村で人を出迎える。その拠点になっているのが、冒頭に触れた「うぶすなの家」だ。
「うぶすな」は神道の「産土神」を意味する。この神様は土地の守護神で信仰を持つ人が他所に移っても守り続けるという鎮守神で、村を残していきたいという「おかあちゃん」たちの願いと重なる。
「60人くらいの『おかあちゃん』たちが関わってくれてね。関わり方はそれぞれだけど、みんなで家と村を守って、外から来る人を出迎えてる」
大地の芸術祭のトリエンナーレ、および通年の季節プログラムの会期中には、焼き物のギャラリー&農家レストランとして運営される。「おかあちゃん」たちのエネルギーの源泉は「自分たちの作った米や野菜が認められて、美味しいと喜んで食べてもらえること」なのだという。
「やっぱり、この村で獲れる野菜やお米にはみんな自信があるのよ。「美味しいね」「良い物だね」って食べてくれたり買ってくれたりするのが一番のエネルギーになってるよ」
棚田の米やスイカ糖、黒豆を買って帰れるように
住んでいて楽しいと思える村にしたい
「この家もこの村も受け継いでいきたい。でもさ、私たちが受け継いで欲しいって思ってるだけじゃダメなのよね。」
願入集落の空き家を整備して、移住検討者やインターン生の受け入れも始めた。家のまわりには山水が流れ、少し山を登れば展望台のある慶地の棚田を見渡すことができる。
雪国の古民家で暮らしを体験できる
この地域には気持ちの良い陽の光が差し込む
小さな農地を耕しながら、ゆっくりと暮らすことも良い。大地の芸術祭が始まれば、観光客が作品を鑑賞しに来るので、農家民宿をやってみても良い。手仕事や畑仕事も「おかあちゃん」が教えてくれる。
この村で獲れた黒豆でつくる甘い豆菓子が人気
「この場所を使って暮らすだけでもいい、農業をやってみてもいいし、民宿をしてみてもいい。それをずっと続けなくても良いの。人が来てくれるのが嬉しいから、出来ることは何でもしてあげたい」
その言葉には、あたたかさがあった。それは朗らかな太陽の光が村全体に行き届いているような、そんな言葉だった。
この村は太陽の光の入り方が心地良い
「若い人に来て欲しい」「村のために役立つ人が来て欲しい」そういった集落側の要望を話す地域もあるが、この集落で大事にしているのは「自分がやりたいと、自分の意志で思えるようになったことをしてもらいたい」ということだ。
10年後、20年後まで家や村があるか分からない。牛を飼っていた牛舎は震災で倒壊してしまった。それでも、東下組で暮らす人たちは、なめこ工場を始めたり、スイカ糖を加工して販売したり、新しい取り組みを通して、この村を活気づけようとしている。
「例え人が住まなくなっても、村でやってきたことを続けられる方法を考えてる。このうぶすなの家も。実際に暮らして、関わって、『自分でやりたい』って言ってくれる人が出てきたら、それが叶うように手伝いたいね」
それでも、子供たちや新しく暮らす人が「楽しい」と思ってもらえるように、まずは自分たちが楽しむことから始めている。それが評価され、願入集落や東下組で暮らす人たちの活力へと繋がっている。
「東下組のために私が出来るなら、何でもやる。ここでの滞在が、この地域だけじゃなくて十日町全体と関わる入り口になってくれたら嬉しい」と静子さん。「おかあちゃん」たちが集まる場所、東下組・願入集落。
もし自分の第二のふるさとを探しているなら、この地域を訪ねてみてはどうだろうか。
あなたを迎え入れることが、「おかあちゃん」たちの生きがいなのだ。
大地の芸術祭
東下組・願入集落には「うぶすなの家」のほか、「胞衣―みしゃぐち」(作家:古郡弘)が展示されています。
(大地の芸術祭HPより引用)
十日町市の北限、5軒の家が暮らしを紡ぐ願入集落。市街地とは時間の流れが違うこの場所で、作家は「場所の気配を形にしよう」と試みた。
最終的に場所が決まったのは会期の40日前。当初予定されていた工法では時間も人出も足りず、試行錯誤のなか、地元の土建屋さんが編み出した画期的な工法でつくられた作品である。
胎児を守る胎盤を意味する「胞衣(えな)」が象徴するように、土の中、何かに守られたような神聖で穏やかな空間が生まれた。[作品設計=柗井正澄]
文/大塚眞
写真/ほんまさゆり
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- 新潟県十日町市 願入集落
移住体験プログラム -
開催日 2020年11月5日(木) 〜2021年2月28日(日) 地図 住所 新潟県十日町市 願入集落 参加費 大人1名(1泊2日):14,000円
大人1名(2泊3日):21,000円参加費補足 ※費用に含まれるもの
滞在先での宿泊費用、移住者との懇談会、十日町市内で使用するレンタカー(必要な場合のみ)、十日町市内到着時・現地出発時の滞在場所までの送迎
※上記費用とは別に、参加者には十日町市内までの交通費と余暇の費用、ガソリン代金、飲食代金を負担していただきます。
※現地にて体験アクティビティに参加される場合は別途参加費が必要です。
※お子様も参加可能です。料金はお問い合わせください。主催 プログラム企画・運営:
新潟県十日町市
株式会社HOME away from HOME Niigata
参加方法 体験プログラムへのお申込みは、以下の「詳細・問い合わせ」フォームよりお問い合わせください。
※お申込み締め切り:2021年1月31日お問い合わせ先 HOME HOME Niigata
https://forms.gle/NTE5YneDWCPhQqeRA