歴史と自然に抱かれた奈良県奥大和で、
自分らしい暮らしに帰る。

北西部に人口の多くが集まる奈良県。それ以外の南部・東部地域は「奥大和」と呼ばれている。そこに残っているのは、古代の息吹と雄大な自然、受け継がれる伝統行事や手仕事の数々。〝まち〟では気づくことができない、人間本来の暮らし方に帰れる場所だ。

そんな奥大和に根を張り、地域のために動く人々を追った。

【下市町】2024年夏に廃校内に複合観光施設が誕生。
その賑わいを移住定住につなげるために


左)下市町賑わい創出協議会 事務局長
松原正城さん

右)下市町賑わい創出協議会 賑わい創出コーディネーター
水口善文さん

下市町賑わい創出協議会とは

産・学・官・地域が協働して下市町全体の賑わい創出に取り組むことを目的に設立。出身者や移住者からなる賑わい創出コーディネーターを中心に、各種プロジェクトの推進や、賑わいづくりに取り組む事業者、団体への補助金申請などの支援も行う。

奈良県の下市町は近年、廃校となった小中学校や既存施設を活用した新たな拠点づくりが、活発に行われている。例えば、今回訪れた旧広橋小学校は、「一般社団法人 峠のまなび舎」が町から借り受け、元教員住宅をDIYによりゲストハウスに生まれ変わらせた。

また、旧下市南小学校で進む「KITO」の取り組みも注目を集めている。飲食店からキッズスペースなどを含む複合施設を2024年夏に開業予定だ。こうした賑わい拠点が続々と誕生するなかで、2023年5月に、産・学・官・地域が連携し、「下市町賑わい創出協議会」が誕生した。

「協議会では、下市町内で地域づくりを手がける団体や、町外から拠点づくりに参画する企業、さらには大学、行政など、すべてのリソースを結集し、賑わい創出をスピーディーかつ柔軟に図っていくことを目指しています」

と、語るのは事務局長を務める松原さん。賑わい創出を行う企業や団体が最短の時間で事業を始められるよう、行政手続きのサポートや、町内の企業や団体、県とのパイプ役などを積極的に果たしている。 

そしてもう一人、キーマンとなるのが下市町出身で「賑わい創出コーディネーター」として活動する水口さんだ。大学進学を機に一度は地元を離れたが、3人の子どもたちを外で自由に駆け回れるのびのびとした環境で育てたいと、この町へのUターンを決意した 

「けれど、戻ってみると、町に暮らす人や子どもたちは減り、自分の記憶にある町の姿からは変わりつつありました。そこで、協議会のコーディネーターとなってからは、下市を舞台にした歌舞伎『義経千本桜 すし屋の段』を町内の小中一貫校で上演したり、下市の歴史を学べる「しもいちかるた」を作ったり、自分が好きな町の姿に近づくよう、賑わいを生み出す様々な取り組みを行なっています」 (水口さん)

「KITO」がオープンすると、多くの観光客が訪れることが予想される。その観光客を、いかに町の他の観光施設に誘導するのかが課題だ。そして、そのためには新たな拠点による賑わい創出を、町民一人ひとりに〝自分事〟として捉えてもらうことが必要となる。

「例えば、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが、町に『KITO』という新しい施設ができたから帰ってこないかと、離れて暮らす子や孫を誘ったり、若い世代が友人を招いたりすることで、関係人口が増えていきます。一度、施設を訪れてよかったら口コミで情報が広がり、さらに訪れる人が増えていく。そんな好循環を生み出したいと考えています」(水口さん)

<下市町に賑わいをもたらす新たな拠点>

◆峠のまなび舎・つわいらいと(旧広橋小学校)

1874年に創立され1999年に閉校した木造の旧広橋小学校を守り続けていこうと、「一般社団法人 峠のまなび舎」が町から借り受けて活動の拠点に。2022年には元教員住宅だった一軒家をDIYで改修し、ゲストハウスをオープンした。一部立ち入りができる木造校舎内には、五右衛門風呂や漫画図書室、ワークスペースなどが設けられている。

毎年、講堂で開催されている「ふるさと元気寄席」も好評で、今年で10回目を迎えた。「MIND TRAIL」という吉野町、下市町、下北山村で開催される芸術祭にも休憩所として協力し、地元作家や子どもたちの作品を展示した。

◆Kito(旧下市南小学校)

全国にアパレル・雑貨ブランドを展開する「パルグループホールディングス」が、新たに地方創生に挑戦。拠点を探すなかで、創業者の出身地である下市町の賑わい創出の取り組みを知り、プロジェクトがスタート。

旧下市南小学校をリノベーションした1階には、ショップやカフェレストラン、薪火ベイクショップ、2階にはライブラリーが誕生。体育館には本棚遊具を導入し、子どもたちが思わず登りたくなるような、本を読みたくなるような空間を作り出す予定だ。

また、下市のいちごや桃を使ったフルーツスムージーの発泡酒など、オリジナル商品も開発。

◆ならコープ下市ステーション(旧南都銀行下市支店)

空き店舗となっていた南都銀行 下市支店を、「ならコープ下市ステーション」として活用。地域の暮らしを支える食品宅配、移動販売、日用品販売の拠点として使われている。

また、交流スペースも設けられ、コミュニティづくりの拠点に。子ども食堂も開催している。移動販売車に町の保健師が同行し、健康相談会なども実施している。

◆下市集学校(旧下市中学校)

〝集学校〟とは、廃校を再び人が集う場所として活用するとともに、ITと地域の力で町を元気にするプロジェクト。リングロー株式会社が運営し、奈良県下初の集学校として2023年9月にオープン。

無料IT相談やIT機器の販売・サポートなどを行う他、交流スペースも開設。教室は、サテライトオフィスや工房としてレンタル可能。

【吉野町】〝食〟を通じて子どもたちを笑顔に。
幅広い年代の人が活躍できる場所

よしのっ子食堂

中島知帆さん・本田智里さん

美しい自然あふれる吉野町。中島さんは2020年5月から、こども食堂「よしのっ子食堂」を主催している。当初は「おんぶカフェ」という小さな子どもをおんぶするお母さんたちが主体となった、幅広い年代の人が集うカフェを営んでいたが、コロナで継続が困難に。しかし、 自身が移住直後に周囲に同世代が少なく心細さを感じた経験から、同世代と気軽に情報交換できる場を作りたいと考え、子ども食堂を立ち上げた。

「子どもたちも外で遊びたくても出られず、どこに行くにもマスク、マスク。お母さんたちもしんどそうで。こんなときだからこそ、誰もが集え笑顔になれる『こども食堂』をつくろうと思ったのです」(中島さん)

【左】「よしのっ子食堂」は、町内の公民館を中心に月1~2回開催【右上】この日は、好きな料理が選べるバイキング方式に【右下】子どもたちも料理に参加。自分で作ったものは、やっぱりおいしい!

『よしのっ子食堂』では、子供からお母さん、お父さん、年配の方までが自然と手伝う文化が生まれている。5年前、奈良県香芝市から移住した本田さんも、食事の準備を手伝ううちに1年前からメンバーとして参加するようになった。アレルギーのある息子さんを持つ経験を生かし、アレルギー対応食アドバイザーの資格を取得。卵・牛乳アレルギーに対応した食事を届けている。

「アレルギーのあるお子さんと一緒に訪れたお母さんが、『あなたも食べられるよ』と言うと、お子さんが『食べていいの!』ってニコニコしていて。そんな姿を見ると、本当にうれしいですね」(本田さん) 

運営は企業や県からの助成金が中心で、メンバーはボランティアで参加してくれている。だからこそ、中島さんは初めての人も気軽に入れる雰囲気づくりを大切にしている。最近では、年配の方が紙芝居、大学生がゲームを主催したりと得意分野を生かして提案してくれる人も増えた。

「『よしのっ子食堂』は自分がやってみたいことを実現できる場所。子どもたちを中心に、その元気をもらって輝く大人が増えていけば、吉野町がさらに盛り上がっていくと思います」と未来の姿を語ってくれた。

【川上村】25年前に始まった林業の村の新たな挑戦!
奥大和のアートと人、自然の交流拠点に

匠の聚(むら)

井上進哉さん・福田さおりさん

奈良県の川上村は林業発祥の地として知られ、500年前から植林が続けられてきた。そんな林業の村で、いち早く取り組まれてきたのが“アート”を核にした地域づくりだ。

「川上村では林業の担い手不足や高齢化などを見据えて、観光業にも力を入れようと35年前にホテルを開業。更に村の魅力を高めようと誕生したのが、『匠の聚(むら)』です と教えてくれたのは、オープン当初から運営に携わる井上さん。

施設には、カフェやギャラリー、工房室などが一体化した空間が広がり、移住した作家たちはアトリエで暮らしながら、創作活動に打ち込んでいる。

「アトリエに暮らす作家の皆さんも、川上村の住民です。中には、ここで子どもが誕生し、村内の学校に通い、すでに成人している方もいる。住民としてここで生活しながら、地域の皆さんと深く関わる中で多くの刺激を受け、それらを創作に還元されているように思います」 (井上さん)

「匠の聚」ができたことで、地域にもプラスの影響が生まれた。例えば、毎年5月に開催する「匠の聚アートフェスティバル」や、11月の「~匠と過ごす秋~山のふゑすた」では、入居する作家が陶芸や木工などの体験プログラムを実施し、住民や外から訪れた人がアートに触れられる良い機会になっている。

左上】山々の絶景を望むカフェでは、入居する作家の器で料理やケーキが味わえる【左下】陶芸体験などができる工房室【右】カフェ・ギャラリーがあるセンター棟。裏山には遊歩道があり、子どもの遊び場としても人気だ
【下中央】陶芸や七宝などの体験教室を開催【右下】5月の「匠の聚アートフェスティバル」には、多くの住民や観光客が訪れる。

 

作り手と一緒になって、芸術祭でどんなイベントを行うかを考えたり、アーティストを招いて企画展を開催したりするのも、井上さんたちの仕事だ。 

1年半前から「匠の聚」で働く福田さおりさんは、自然を守る林業を生業にしたいという父親と共に、家族で川上村の移住ツアーに参加。自然の美しさや人の温かさに惹かれ、移住することを決意した。 

「村の皆さんは、初めて会う私にもまるで家族のように、とても気さくに話しかけてくれました。移住後の今も仕事から帰ると、近所の方が『おかえり~』と言ってくださり、とてもうれしいです」 (福田さん)

「匠の聚」は、アートに触れることをテーマにした施設だが、景色を眺めながら食事を楽しんだり、コテージに宿泊したりと、幅広い年代の人たちが来館する。その際に、川上村のアートへの取り組みや村の魅力を発信する場所にもなっている。 

「ここ5、6年で、20~30代の木工作家さんが、村内に4人も移住されています。そのきっかけの一つに、アートやものづくりの拠点である「匠の聚」がなれていたらうれしいですね

今後は、奥大和の他の地域とも連携を図りながら、アトリエに入居されている作家さんだけでなく、近隣の市町村の様々な作り手、住民と交流できるような仕掛けを広げていきたい。そしていずれは〝奥大和全体のアートと人、自然と交流できる発信拠点〟になれたらと考えています」(井上さん) 

現在、「匠の聚」ではカフェやコテージで共に働く仲間(正社員)を募集している。興味のある人は「匠の聚」、または川上村までぜひ連絡してみてほしい。

匠の聚

奈良県吉野郡川上村東川135

TEL 0746-53-2381

営業時間 10:00~17:00

定休日 水曜日・年末年始

https://takuminomura.gr.jp/


移住に関する相談窓口

◆奥大和移住定住交流センター

「engawa」

奈良県橿原市に位置する、情報発信と繋がりづくりのHUB拠点。移住相談窓口にはコンシェルジュが常駐し「奥大和をもっと知りたい」「奥大和に住んでみたい」という人のさまざまな相談に対応している。

TEL:0744-48-3019

◆奈良県 総務部知事公室 奥大和地域活力推進課

https://locallife-okuyamato.jp/

TEL:0744-48-3016

FAX:0744-48-3135

                   

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