都市×中山間地域の豊かな自然のいいとこどり。
駅周辺の開発を契機に
新たな人流が生まれる相模原市

TURNS 相模原市レポート

2022年11月某日、神奈川県相模原市の「オンリーワンをめぐるプレスツアー」にTURNS編集部が参加。今回は「リニア中央新幹線工事」や「相模原駅北口地区開発」など、主に都市部の注目スポットを訪ねました。総面積の60%が森林という恵まれた自然に都会の利便性を加えることで、より住みやすく、新しいまちへと進化する相模原市の“今”をお届けします。

橋本駅と相模原駅間の開発で広がる「広域交流拠点」

東京都の中心部から南西へ約40㎞のエリアにある神奈川県相模原市。西部には丹沢山地・秩父山地・相模湖などの雄大な自然を抱えていて、本格的なアウトドアに出かけられるまちとして知られています。一方で、市内にはJR線・京王線・小田急線など計6つの路線があり、都心から電車で約1時間と好アクセスなのも特長です。

そんな同市が今、市をあげて取り組んでいるのが、「橋本駅」とそこから1駅先の「相模原駅」までの地域を「広域交流拠点」とする計画。
背景には橋本駅付近にリニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)ができること、相模原駅の北側にある米軍基地の一部が日本に返還、または共同使用区域化されたことがあります。


手前が橋本駅、奥が建設中のリニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)。右手には丹沢山地が広がります。

橋本駅は1990年に京王相模原線が乗り入れるようになったことから、周辺に複合商業施設や文化ホール・図書館などができ、近年、とくに発展を遂げてきました。そんななか、新たに神奈川県駅(仮称)ができれば、品川間が約10分、名古屋間は約60分(各駅停車)で結ばれ、さながらひとつの都市のように。このことと相模原駅北口エリアの開発を一体で行うことで「住む人・働く人・学ぶ人・訪れる人」が、広い範囲で交流できるまちにしようとしているのです。

相模原市といえばキャンプやハイキングを楽しめる「中山間地域」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、後述する「たまご街道」や「「JAXA相模原キャンパス」の存在からも分かるように、古くからの産業があるほか、広大な公園も充実。交流拠点を含めた一帯の開発を契機に、観光に教育に人の賑わいにと、さまざまな魅力がミックスされたまちに変化しています。

 

地下25mまで掘削が進むリニア中央新幹線駅の工事現場へ

リニア中央新幹線の東京-名古屋間は2027年、大阪-名古屋間は2045年に開業予定。神奈川県駅(仮称)は2027年までの完成を目指し、工事が進められています。
プレスツアー一行は、まず神奈川県駅(仮称)の工事現場に向かいました。


神奈川県駅(仮称)は全長約650m・幅約50m・深さ約30m。地下3階建てで1階が改札、地下3階がホームになる見込みです。


リニア中央新幹線の背景には、東海道新幹線と2本立てにすることで巨大地震のリスクを回避する目的も。神奈川県駅(仮称)ができれば、上部は道路、周辺は広場になります。

橋本地区の地盤は、太古に富士山などから噴出した火山灰が堆積したことでできた関東ローム層。堅固で掘削しても地下水があふれ出る心配がないため、側面に壁をつくり込まず、敷地を広く確保したうえで、一旦、最下部まで掘ってから構造物を建築。安全にかつ効率的に作業できるのがポイントです。


掘削は約17mまで進んでいますが、25mまで掘られている場所も。上部に掛かっているのは、資機材を降ろすための工事用の橋。


工事現場の出入口には、掘削した土を積み上げたコーナーがありました。

一般的な工事では、掘った場所を埋めるための土を別の場所から運んでくるケースが見られますが、ここは敷地が広いため、掘削した土を保管して再利用。運搬車両の台数を減らし、CO2を削減しています。

 

相模原北口エリアには、多世代が使える巨大公園が誕生

相模原市には1940年前後から、陸軍士官学校をはじめとした旧日本陸軍のさまざまな施設がありました。敗戦したことでそれらは米軍に接収され、今でも市内にはキャンプ座間などの米軍基地がありますが、市では長らく返還を求めてきた歴史があります。
その成果もあり2008年、日米政府の間で相模原駅北口にある米軍基地・相模原総合補給廠(しょう)の17ヘクタールを返還することが承認され、さらに2012年には35ヘクタールの共同使用が合意されました。


相模原駅北口の上方から見た返還エリアと共同使用区域。手前の旧米軍住宅群の奥が相模原スポーツ・レクリエーションパークです。

相模原市では相模原駅から徒歩約8分という立地を生かし、共同使用区域の一部を広大な公園にすることに決定。2020年から段階的にオープンしているのが、相模原スポーツ・レクリエーションパークです。
「多様な人とのつながり」をテーマにしたこの公園は、人工芝野球場(2023年オープン予定)・遊具広場・ボール遊び広場・人工芝グラウンドなどを完備しています。


子どもの遊ぶ力を育む最先端の遊具がたくさん。遊具は全部で13基あり、3~6歳向けと6~12歳向けがあります。


ノーマライゼーションの観点も大事にしていて、車椅子に乗ったまま使える砂場や点字があしらわれた遊具も。

相模原駅北口エリアは返還に伴って道路も整備され、近隣住人の方々の駅までのアクセスがぐんとよくなりました。今後は周辺で宅地造成を含めたまちづくりが行われていく予定。“住むまち”としての期待が高まるエリアと言えるでしょう。

 

養鶏家と地元住人が共生する、麻溝台のたまご街道

相模大野駅から2㎞ほど西にある相模原市麻溝台では戦後、盛んに養鶏が行われてきましたが、急速に都市化が進むなかで、古くからいる養鶏家と住民とのつき合い方に課題が生じていました。
そこで養鶏家同士で結成した麻溝畜産会では、「地域の人と共生していこう」と考え方をシフト。
鶏舎が点在する道を「たまご街道」と名づけ、直売所やカフェを開いたり、加工品を開発して販売したり。養鶏場とは何かを知ってもらうことに努めたのです。今では地元の方たちがカフェでくつろいだり、お歳暮用にたまごを買いにきてくれたりと、親しまれる場所に。
プレスツアー一行は、養鶏家の久木田幸城さんのガイドのもと、たまご街道にあるレストラン兼売店「スウィートエッグス」へ向かいました。


養鶏場「小川フェニックス」の久木田幸城さん。


レストラン兼売店「スイートエッグス」のテラス席で、採れたてのたまごを使ったランチをいただきます。

 


お店では、たまごをより美味しく食べられるメニューを開発。写真のカルボラーナやオムライスのほか、エッグベネディクトやパンケーキなども。

 

余すことなくいただく気持ちがSDGsや食育につながる

「養鶏をすることで得たものを、いかに無駄なく使うかを日々、考えています」と久木田さん。
鶏ふんを肥料にし、トウモロコシを育てて店頭で販売したり、たまごを生み終えてお肉が硬くなった親鳥を、こりこりとした食感を楽しめるメンチカツにしたり、試行錯誤を続けています。
「どういう思いでたまごをつくっているかまでを知ってもらいたい」と、地元の小学生・中学生・社会人に向けて不定期で鶏舎の見学会を実施。
「ものごとをポジティブに捉え直し、私たちが地域の人と関わろうとした結果、課題が解決されていきました」という久木田さんのお話が印象的でした。


物販コーナーでは加工品のほか、地元の野菜やお惣菜も販売。


お店のすぐ隣に鶏舎があり、SDGsや食育にまつわる各種イベントを行うことも。写真はたまご街道で行われる中学生の職業体験。

 

宇宙研究の最先端に触れられるJAXA相模原キャンパス

日本のロケット開発の歴史は1955年に東京大学の糸川英夫教授が長さ23cmのペンシルロケットの実験に始まります。JAXA(ジャクサ)宇宙科学研究所はその東京大学の研究を引き継ぎ、1989年に東京都目黒区から米軍から返還された旧キャンプ淵野辺の跡地に移転して来ました。そのJAXA相模原キャンパス訪ね、今までの研究活動などのお話をお伺いしました。


JAXA相模原キャンパスは本物の「M-Vロケット」(写真)やハレー彗星に探査機を送った「M-3SⅡロケット」の実物大の模型が屋外展示されています。


宇宙科学探査交流棟には「M−Vロケット」の先端部の実物展示(写真中央)などがあり、解説員の清水幸夫さんからお話しをうかがいました。

次に訪れたのは、宇宙探査実験棟。ここは400㎡の砂場実験施設があるのがポイントで、ロボットや着陸機を研究開発するほか、企業や大学と共同研究も行っています。


JAXA宇宙探査イノベーションハブ・主任研究開発員の片山保宏さん。後ろにあるのは伊豆大島の火山帯探査で行った自律移動機能のある大型探査ローバ「Micro6A」。

 

子どもだけでなく大人の好奇心もそそる、宇宙教育とは

続いてJAXA宇宙教育センターに伺い、センター長の北川智子さんから新しい教育分野である宇宙教育について教えていただきました。


JAXA宇宙教育センター長の北川智子さん。宇宙教育のイベントは、SNSやホームページ・相模原市の広報誌などでお知らせしています。

宇宙教育とは簡単に言うと、「宇宙を素材として、子どもにさまざまな教育の機会を提供すること」。そして、そこから一歩踏み込んで「科学として宇宙そのものを学んでもらうこと」。
学生と一緒に国際宇宙教育会議に出席したり、宇宙・航空ミッションに取り組むJAXA事業所での宿泊型プログラムを実施したりするほか、相模原市の小学校で宇宙関連の連携授業を行うことも。こうした先進性・多様性に触れられる点も、相模原市のよさと言えるでしょう。

JAXA相模原キャンパスには個別に見学を申し込んだときか、特別公開時にしか入ることはできませんが、近くの相模原市立博物館ではJAXA相模原キャンパスと連携して不定期で企画展を実施。常設展で小惑星探査機「はやぶさ」の実物大模型などを見たり、直径23mのプラネタリウムを楽しんだりできます。

 

相模原産の美味しいものが見つかるアンテナショップ

最後に訪れたのは、相模大野駅に隣接するボーノ相模大野内にある「さがみはらアンテナショップsagamix」です。


25坪の店舗に相模原を代表するやまといもをはじめ、地元の特産品がいっぱい。JAXA関連のグッズもあります。

店内の約9割が相模原産のもので、野菜・たまご・精肉・パン・ジャム・ワインなどがところ狭しと並びます。まさに地産地消を叶えるショップでした。

主に相模原市の都市部の注目スポットをめぐった今回のツアー。
より住みやすく進展する駅周辺の様子や宇宙開発施設など、山林エリアとはまた違う一面を見ることで、自然と都市の両方のメリットを体験でき、様々なライフスタイルを受け入れてくれるまちであることが分かりました。広域交流拠点の整備で都心からのアクセスもしやすくなり、相模原市のもつ豊富なコンテンツにも触れやすくなります。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

                   

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