【新潟県長岡市 ミッション型 地域おこし協力隊】
近隣自治体と連携して行う隊員サポートと、新潟で起業家を生み出す「NaDeCBASE」コミュニティ

2009年に制度が始まり、今や職業としての認知度も高まっている『地域おこし協力隊』。全国各地に多種多様な募集が乱立する中で、どこを選べば良いか悩んでいる人も多いのではないだろうか。

地域おこし協力隊の人数では全国5位を誇る新潟県
これから先、人数だけではなく『受入体制、日本一』を目指すという。

ただ闇雲に数を増やすのではない。市町村や組織の壁を越えて、新潟県内のどこにでも、安心して飛び込める。そんな受け皿をつくるために、隊員・地域・中間支援組織が三位一体となって取り組む『ALL NIIGATA』でのサポート体制を県内で活躍する地域おこし協力隊の姿とともに取材した。

 

周辺市町村と合同で研修を行う長岡市

地域おこし協力隊の孤立を防ぎ、活動をより良いものにするために、各市町村が負担金を持ち寄って、合同で地域おこし協力隊の研修を実施しています。近隣の市町村で活動する地域おこし協力隊同士が繋がれることは、この地域で活動する大きなメリットだと思いますよ」

そう話すのは、長岡市で地域おこし協力隊の担当をしている関さん。新潟県の自治体の一つ、長岡市現在は17名(2023年10月現在)の地域おこし協力隊が活動している。この長岡市がリーダーシップをとり、隣接する市町村の小千谷市、見附市、出雲崎町の隊員と合同研修を開催しているという。


(プロフィール)
長岡市地域振興戦略部 主査 関 佑一郎
長岡市役所に入庁後、環境部、総務部を経て平成30年に3つ目の配属先で地域おこし協力隊の担当になる。平成28年に導入した長岡市における第一期地域おこし協力隊のサポートから現在に至るまで、全般的に担当。地域内での受入促進に注力している。

「今年の4月に一般社団法人新潟県起業支援センター様から地域おこし協力隊の研修プログラムを作らないかと打診がありました。隊員の出口支援として『起業』も一つですが、近隣市町村の隊員も一緒に集まって、情報交換をする場、キャリア形成を考えるための場としても活用してもらえたらと思い、独自にスタートしました」

長岡市が主導する合同研修は、年間4回ほどのプログラム民間の起業支援団体とともに自己分析、計画策定、実現に向けたリスク分析やフォローアップまで行うと、手厚い内容だ。

「長岡市としては、市も制度運営にしっかり参加していく方針です。受入団体と隊員のマッチングをして、定例ミーティングも必ず三者で行うようにしています。隊員に投げっぱなし、受入団体に投げっぱなしではなく、着任後の活動の軌道修正、仕事や生活の相談、場つなぎや人つなぎをしてあげられるようにしています。広域連携をした合同研修も、そうした支援の一つですね」

総務省の制度にただ乗っかるのではなく、市としてリソースを割く。せっかく地域おこし協力隊に着任しても、活動のフォローを十分にしてもらえない地域もあるという声が出ている中、関さんの言葉は心強く響いた。そうした姿勢が隊員にも伝わってか、合同研修の参加者は述べ30名を超えたという。

「来年は合同研修のプログラムをブラッシュアップさせたいと思っています。近隣市町村の隊員の方にも参加いただいてますが、参加できる地域を拡大して、隊員の横のつながりをつくってあげたいですし、地域おこし協力隊の任期終了後のことも伴走しながら支援していきたいです」

最近では、元地域おこし協力隊の結婚式に呼んでもらえたことが嬉しかったと話す関さん。市役所職員という枠を飛び越えた「オフ」の関係性も含めて大切にしている。

こうした手厚い支援、フォローアップ体制の中で活動する隊員はどのように感じているのだろうか。

 

制度の認知度は活動のしやすさに繋がる

上田夏子さんは、長岡市の中心市街地にある「4つの大学と1つの高専、長岡市、商工会議所のコンソーシアム」によって運営されている『NaDeC BASE(ナデックベース)』というコワーキングスペースを拠点に産学連携やコミュニティづくりに取り組むミッション型の地域おこし協力隊だ。


長岡市ミッション型地域おこし協力隊
NaDeC BASE コーディネーター
上田夏子さん
(プロフィール)
新潟県上越市出身。長岡高専に進学したことをきっかけに長岡市で暮らすようになる。卒業後は大手のゼネコンに勤め、現場監督に従事。転職を考えていた時に学校の恩師からの薦めで長岡市の地域おこし協力隊を知る。地域おこし協力隊として産学連携をミッションに活動中。

上田「初めて市外の地域おこし協力隊が参加している研修を受けて、市外に協力隊同士の関係ができたのは、私の活動にとっても大きな一歩でした。同世代の隊員と仲良くなることができたのも良かったのですが、別の受け入れ団体の方とも繋がれて、私自身が任期終了後にやりたいと思っている『まちづくり会社』のヒントにもなりました

上田さんは大手ゼネコン会社で働いていたが、転職を考えていた矢先に長岡市のミッション型地域おこし協力隊を知った。最大3年間しか働けないという制約に不安はあったが、ミッションである「まちづくり」に対するワクワク感の方が大きく、思いきって飛び込んだ。

上田職員の方に相談がしやすいです。本当に親身になって相談に乗ってくれます。なんでもペラペラと話してしまいますね。協力隊の活動以外のこともしっかり見守っていてくれていると感じます」

長岡市の地域おこし協力隊の着任先は、都市部と中山間地に分かれているが、6割以上が都市部のミッション型地域おこし協力隊として活動しているという。受入団体ごとに数名の隊員がチームで動くことにより、人口26万人の地方都市での活動であっても、地域に大きな影響を与えることができる。

上田長岡市は都市でありながら、地域おこし協力隊が活動する土壌が育っていると感じます。どこに行っても『地域おこし協力隊です』と話すと、スッと受け入れてくれる。これまで、多くの方が活動してきた流れもあると思いますが、名前や制度が浸透していると活動もしやすいです」

これまでに50名の協力隊が活動してきた長岡市。協力隊が活動するにあたって、制度自体の認知度が低い地域では住民や受入団体との軋轢が生じやすく、地域おこし協力隊の立場や目的が共有されにくい。その点において、継続的に十数名の協力隊が活動を続けている長岡市は、そうした軋轢によるストレスやトラブルが少ない地域と言えそうだ。


運用していたSNSのフォロワーは500人から1900人に

上田とにかく仕事が楽しいです。『地域おこし協力隊』と検索すると後ろに『ひどい』って言葉が出てきて不安にもなりましたが、全くそんなことありませんでした。誰かが喜んでくれたり、新しい物事が生み出される場づくりができることにやり甲斐を感じています

 

満開の笑顔で活き活きと話す上田さんと、それを見守る関さん。お互いの信頼関係を感じることができる一幕であった。

 

受入体制のさらなる強化を目指して

こうした手厚い支援の土壌がある長岡市だが、それでも課題はあるという。その一つが『承継』というキーワード。地域おこし協力隊は任期3年目になると、任期終了後の進路や活動の引き継ぎについても準備を始める必要がある。


同階には書店やファブラボが並び、多くの人が行き交う

上田「私のミッションはNaDeC BASE人が集まるための仕組みをつくること。学生や起業家のコミュニティづくりから着手して、任期3年目でカタチになってきました。この人の流れを継続させる方法を考えています

協力隊としての活動や関わっていた事業を所属している組織に引き継ぐ人もいれば、自分自身で続けていく人もいる。上田さんは、協力隊の経験を活かして『まちづくり会社』をつくることで、コミュニティに継続性と相乗効果を生み出そうとしている。

上田「法人を設立して、今後もまちづくりをしていけたらと思っています。活動的な学生と交流してきましたが、まだまだ何をしたらいいか悩んでいる学生の方が多いのが現状です。シェアハウスや学生のためのライトなパブリックスペースをつくっていきながら、協力隊卒業生として長岡市の地域おこし協力隊の支援にも関われたらと思っています」

 

これまでの活動を活かしながら、取り組んでいく上田さんのまちづくり。多様なプレイヤーが地域にいることで、新しい人の流れが育っていく。

 

上田「地域おこし協力隊という特殊な立場だからこその悩みもあると思います。受入団体の中でのポジションづくり、業務の設計、目標や立場を一緒に整理しながら、本来の目的から外れないように調整役になれたらと思います」

「私も行政職員ですので、異動はつきもの。市の体制として、引き続き地域おこし協力隊をしっかり支援していきたい。担当者はもちろんですが、地域内の受入団体、中間支援組織の地盤、協力隊卒業生の協力体制をかためていくことも、重要なテーマになってくるでしょうね」


笑顔で語る二人の姿からは、お互いの信頼関係が伺える

 

地域おこし協力隊の制度運用が成熟してくると、支援を行う民間団体や協力隊卒業生による中間支援組織が生まれてくる。長岡市においても、受入方法や支援のノウハウが蓄積され、人材も育ってくる。

まさにいま、長岡市の地域おこし協力隊制度は成熟期を迎えようとしている。

 

長岡市の地域おこし協力隊は、個性豊かで協調性があり、若い方が多い。ミッションも明確で、長岡市に縁がない人であっても孤立することは少ないと思います。地域おこし協力隊に関わる多様な団体や個人がそれぞれの立場からサポートを行うこと。長岡市としては、そういう部分も大事にしていきたいですね」

地域おこし協力隊の受け入れ経験の差はたしかに存在する。これまで受入れてきた協力隊の人数や年数によっては未成熟な地域も多いだろう。

しかし、長岡市のようなサポート体制の充実に力を注ぐ自治体が真摯な姿勢とリーダーシップで地域おこし協力隊制度を推進することで、知見は近隣の市町村へも共有され、新潟県全体へと広がっていくはずだ。新潟県では、そうした土壌がじわじわと広がり、ゆっくりと育っている。

 

【拠点データ】
NaDeC BASE

NaDeC BASEは多様な知、アイデア、価値観、個性が出会う場所。 領域、地域、世代、時代を超えて、好奇心を加速させる。 NaDeC BASEは出会いを通して変化がうまれる場所。

住所:新潟県長岡市大手通2丁目3-10 米百俵プレイス ミライエ長岡 5F
HP:https://miraie-nagaoka.jp/nadec-base/

 

文/大塚眞
撮影/ほんまさゆり

                   

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