TURNS ビジネススクール番外編レポート
和歌山県白浜町・すさみ町で地域の可能性を
探る散策ツアーを開催

「地方創生」と「ビジネス」を掛け合わせて、新しいビジネスを創造する「TURNS ビジネススクール」。昨年12月、スクール受講生たちが、“ワーケーションの聖地”として知られる和歌山県白浜町と、「スーパーシティ特区」として新たなまちづくりの一歩を踏み出すすさみ町を訪問。

働く場所・時間を社員が自由に選べる制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を導入するなど、新たな働き方を牽引しているユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社の島田由香さん(人事総務本部長)のアテンドのもと、さまざまなイノベーションを起こしている宮崎県 新富町の小嶋崇嗣町長も同行し、各町の首長同士の対談も実現。ツアー参加者がさまざまな地域のポテンシャルを知ることのできたツアーとなった。今回はその一部をレポートします。

TURNS BUSINESS SCHOOL : 第1期第2期

 

ワーケーションの聖地でリゾートサテライトオフィスを訪問!

白浜町を訪れた一行は2020年11月に開業した「ANCHOR(アンカー)」を訪問。「リゾートサテライトオフィス」をコンセプトとするこの施設は、事務所用の区画7室のほか、コワーキングスペースやシアタールーム、ガーデンなどを併設。入居企業や地元住民とのコミュニケーションを深め、新たなシナジーが生まれる場を目指しています。

「ANCHOR は、町内で初となる民設・民営のサテライトオフィスです」。そう話すのは、町役場の滝本さん。受講生たちにANCHORを案内していただきました。

 

「白浜町が県外からの企業誘致に乗り出しのは2000年頃。出発点は、遊休保養所をサテライトオフィスに再活用するためでしたが、2015年頃から、総務省が推進する『ふるさとテレワーク事業』により、さらに積極化したのです。2017年、県内でワーケーションの機運が高まったことで、より付加価値の高い施設の模索がはじまりました。そのひとつの答えともいえるのが、このANCHORなのです」

 

 

施設は白浜の豊かな自然を一望できる小高い丘に立地。窓の外に広がる景勝に、受講生たちからは思わずため息がこぼれました。

この日は、ANCHORにて白浜町長の井澗誠氏と島田由香さん、そしてさまざまなイノベーションを起こしている宮崎県新富町の小嶋崇嗣氏との対談も行われました。話題は、「農産物のブランディング」「人材育成」「組織づくり」など幅広く広がりました。

 

民間のノウハウ、アイデアを取りこんで地域活性化の起爆剤に

島田さん:
私は月の半分くらい、白浜町を訪れているので、井澗町長にはとてもお世話になっています。今回は私が地域活性化におけるリーダーのベスト3に入ると思っている小嶋町長とクロスオーバーできればと思いまして、この場を設けました。

井澗町長:
新富町は気候や農産物などが白浜とよく似ていて親近感を覚えますよ。

小嶋町長:
新富町は白浜町さんと異なり、宿泊施設がまったくないのが悩みの種でして……。“新婚のメッカ”と謳われる白浜町さんからは学ぶべきポイントは多いと思いますね。共通点も多いのでまち同士で人事交流ができるといいと思います。

井澗町長:
白浜町は韓国の泰安(テヤン)郡と友好都市を提携しているので、新型コロナウイルスの感染流行が起こるまでは職員同士の行き来が行われていました。海外渡航が厳しくなった今、国内の自治体同士でそういったコラボをするのも意義がありそうですね。

島田さん:
職員交流に弾みが付いたら、民間企業の従業員も交えてほしいです。ユニリーバからもぜひ(笑)。
冒頭、井澗町長から「農産物」の声が出ましたが「農作物のブランディング」について、お二方はどのような意見をお持ちですか?

井澗町長:
白浜は、お米の栽培が中心になりますね。梅や柿も広く知られていると思います。この頃は、小規模ですがマンゴーやコーヒー豆の栽培に取り組む生産者もいるそうです。新富町のライチは一粒1000円するとか。我々もそのような独自のブランドがほしいですね。

小嶋町長:
ライチは楊貴妃が食べていたともいわれるフルーツです。新富町でははじめ「楊貴妃ライチ」の名で売り出そうとしていたんですが、商標が使われていて(笑)。現在の「新富ライチ」の名に落ち着きました。
商品化・ブランディングを手がけたのは、町内に拠点を置く地域商社の「こゆ財団」です。おかげで、生産者の方々に新富町の作物が全国に通用することを証明できました。

 島田さん:
こゆ財団は、観光協会から派生した組織ですよね。白浜町でも既存の観光協会を解体して、新たな組織を立ち上げたとお聞きしています。「稼ぐ組織づくり」についてお聞かせいただきたいのですが、お二方は新しい組織に何を求めたのでしょう。

井澗町長:
新組織立ち上げの経緯を話しますと、白浜にはもともと白浜観光協会と、後発の南紀白浜観光局がありました。しかし、両組織の動きがかみ合っていない印象を受けましたので、体制を一から見直すことになったのです。そして、2021年の4月に誕生したのが一般社団法人の南紀白浜観光協会です。

小嶋町長:
観光地である白浜町さんにとって、白浜観光協会は歴史のある組織だったはず。新組織の立ち上げは相当なご決断だったのでは?

井澗町長:
そうですね、大きな反対はありませんでしたが、官民が入り混じったベストな体制になったと思います。昨今疲弊気味の観光業において、民間のノウハウやアイデアがどのような効果をもたらすのか、とても期待しています。ゆくゆくは、白浜だけではなく紀南地域をあげた取り組みに発展させたいです。

小嶋町長:
新富町の場合は、既存の観光協会の活動が消極的だったんです。それならば解体してもいいのではないか、と判断しました。行政と対等に意見交換できる組織として、民間運営のこゆ財団に委ねることにしたんです。

島田さん:
先ほど、人事交流の話題が挙がりましたが「職員教育」について、心がけていることはありますか?

小嶋町長:
人材育成は悩ましい問題ですよね。この頃痛感するのは、採用の段階からよい職場づくりの第一歩が始まっているということ。多様な人材に門戸を広げようと、この三年は採用枠を三倍に増やしました。
入職一年目がとくに重要な時期なので、メンター制度も取り入れています。人材育成も業務の一環ですので、職員には丁寧かつ厳しく取り組むよう伝えています。

井澗町長:
職員個人の努力も大切ですよね。この度、ANCHORも設立されましたし、外部の方々と積極的に交流して可能性を広げてほしいです。

小嶋町長:
そうした環境が整っていることをうらやましく思いますね。

井澗町長:
たしかに恵まれていると思います。現在は、IT系の企業だけでも15社ほどが県外から白浜に拠点を移しています。観光地ならではのメリットともいえるでしょうね。

 

 

 

白浜町長と新富町長が抱く、まちの将来像とは?

島田さん:
新富町では役場職員の副業が可能です。ほかの自治体にはない珍しい取り組みですよね。

井澗町長:
職員の副業については、うちはまだハードルが高いですね。やってみたい気持ちはあるのですが、どうしても慎重にならざるをえません。

小嶋町長:
職員の副業を解禁した理由は、おもに3つの側面があります。ひとつは、新富町はとにかく人材が足りないこと。職員のマンパワーを役場だけに集中させず、地域に分散できれば、人材不足解消の手立てになると考えました。
二つめは、職員が民間とかかわる機会を増やすため。新たな刺激を得て、それを役場にフィードバックしてくれると考えました。三つめは、民間の仕事でこそ能力を発揮する職員も少なからずいること。役場では控えめな性格だけど副業先では大活躍している、といった話も珍しくありません。
副業解禁はまちを存続させるための措置です。一部の町民からは不満の声も挙がりましたが、そこは納得していただきたいですね。

島田さん:
現代は、個人の力が必要とされる時代です。「雇用」という言葉が「個要」に変わりつつある。それは自治体の職員にも同じことがいえるのでしょうね。最後に「まちの未来像」について教えてください。

井澗町長:
白浜町は長く人口減少に悩まされています。高校卒業後の進学先がないので、若者たちは県外に出てそのまま居ついてしまう。やはり、若者がUIターンしたくなるまちにしなくてはなりませんよね。そうして労働人口を増やしていく。企業誘致がその糸口になることを願っています。

 

「すさみの暮らしがハンディになってはいけない」。
すさみ町長が抱くまちづくりへの思い

一行は白浜町と隣接するすさみ町も散策。役場に赴くと、町長の岩田勉氏が出迎えてくれました。すさみ町といえば、2021年4月、政府が選定する「スーパーシティ特区」に申請したことが話題になっている町。和歌山県と共同で、最先端テクノロジーを活用した社会基盤の整備を目指しまてます。社会のあり方そのものを変えていく「スーパーシティ」にまちづくりのヒントを探るべく、岩田町長と小嶋町長、島田さんが意見交換を行いました。

 

 

小嶋町長:
すさみ町では、「スーパーシティ特区」への応募をご決断されたようですね。

岩田町長:
ええ、「移動」「観光」「一次産業」「健康・医療」などの7分野を中心に課題解決していくのが狙いです。スーパーシティ構想に反対する声もありましたが、いつか誰かがやらねばならないこと。地域に脈々と受け継がれてきた文化や生活を守るためにも、改善すべきところは改善しなくてはなりません。
人生は、順風満帆に見えてていても予期せぬことは必ずやってきます。それはまちづくりも同じことで、困難を乗り越えるためのテクニックを身につけねばなりません。スーパーシティ構想はその一環といえるでしょう。
こうしたプロジェクトは人口を増やすことに目が行きがちですが、昔から住んできた人たちが不安なく生涯を過ごせる環境をまずは意識して整えたいですね。

小嶋町長:
それはとても重要なことですよね。
岩田町長がスーパーシティ構想に「公共交通の整備」を挙げているのもうなづけます。
さらに、地元の子どもたちを対象に医療費や給食費の助成制度も設けていますよね。そういった取り組みは県内でも珍しいのでは?

岩田町長:
医療費の助成はこの頃増えている印象ですね。すさみでは、高校生を対象に通学費を助成する制度もあります。このまちに住んでいることが若者たちのハンディになってほしくないのです。

小嶋町長:
たしかに、それは人口を増やすことより優先すべきことですね。まさに岩田町長のお人柄ありきの事業計画と感じます。

岩田町長:
人柄だなんてとんでもない。昔から、お酒好きでいろんなところに顔を出していたら、顔が広くなったようなものです(笑)

島田さん:
岩田町長は、長く任期を務めていらっしゃいますよね。お伺いしたいのですが、地域を引っ張るリーダーの素養ってどのように育まれていくものなんでしょうか?

岩田町長:
「自信」が人を成長させると思います。町長でいうなら、一期目の4年間で、場数を踏み経験を重ねて磨かれていく。町長とはまち全体の責任を背負う、孤独な職業です。それでも、職務を楽しむことを忘れてはいけません。楽しんでまちづくりに取り組んでいれば、職員や町民にもそれが伝播していきます。
ほんとうの勝負は二期目からだと思いますね。小嶋町長はまだまだ若いし、今後どのように新富町が変化していくのか楽しみです。

小嶋町長:
ありがとうございます。今日は勉強させていただきました。いやぁ、和歌山に来て本当によかった。

 

 

一行はこのほかにも、白浜の有名旅館「しらさぎ」を訪問。ワーケーション設備の充実に取り組む旅館で、女将自慢のうつぼ料理を堪能しました。また、すさみ町では移住者が営むゲストハウス「SUSAMI LIFE HAUS(スサミ ライフ ハウス)」を訪れ、地域ビジネスの在り方にも触れました。

ふたつのまちで、ローカルであるからこその柔軟さと可能性に触れた散策ツアー。TURNSビジネススクールの受講生たちにとっても、新たな地域との関わり方が垣間見えた2日間でした。

 

文・名嘉山直哉

                   

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