【地域のミライを考える】
オンライントークイベント vol. 6 開催レポート

ITを活用し、子供たちのミライの選択肢を増やすために、
多様なキャリアの見える化や、大人の意識のアップデートを

地域資源を活かした多彩な新規ビジネスを展開する「一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構」(宮崎県新富町/以下、こゆ財団)と、“これからの地域とのつながり方” を提案するローカルライフマガジン「TURNS」がタッグを組んだオンライントークイベント『地域×企業のミライを考える』が10月26日に開催されました。

第6回となる今回は「IT技術で地域に“シゴト”をつくる」を軸に、改めて「IT」×「教育」がテーマ。

ゲストは、ソフトウェアやアプリ開発などを手掛ける株式会社エー・アール・シーの尾崎健一さんと、オンライン学習プラットフォーム「DQ World」を展開している株式会社サイバーフェリックスの現役大学生、増田城司さん。

なぜ今、地域の教育現場が「IT技術」を取り入れているのか? ICTに関わる企業が、子どもたちにどのようにICTを活用してほしいのか、どんな学びの場を提供したいのか。ファシリテーターの2名を交え、ゲストの活動内容、目標、夢などをふまえて展開されたトークセッションを詳しくご紹介します!

 

【ゲスト】
尾崎健一さん
株式会社エー・アール・シー 取締役/株式会社イトナブ 取締役
(プロフィール)東京都出身。大手商社で油国内外取引に従事し、商品やサービスの「差別化」に強い関心を持つ。その後、エンタメやキャラクターなどのライセンス業界に転職。企画、マーケティング責任者を務め、現在は起業し、IT、ヘルスケア、防災、教育など様々なジャンルにて新規事業の企画立案、マーケティング戦略策定・実行を行う。国家資格キャリアコンサルタント。

増田城司さん
明治大学 商学部3年/株式会社サイバーフェリックス カスタマーサクセスマネージャー
明治大学 商学部3年/株式会社サイバーフェリックス カスタマーサクセスマネージャー
大学入学と同時に#DQEcveryChild運動に参加し、DQ学習ツール「DQ World」をそれぞれの教育機関に適した形式の導入を支援。ワークショップをのべ5000人以上の教職員、生徒、保護者に提供。日本だけではなく、世界各国に対しても DQ Institute と連携しセールス活動を展開。

 

【モデレーター】
高橋邦男さん
一般財団法人こゆ地域づくり推進機 執行理事/最高執行責任者

堀口正裕
TURNSプロデューサー/株式会社第一プログレス 代表取締役社長

 

身近な人材のキャリアパスこそ最高の教材
多様な人材のキャリアや人生を可視化し、学びの場に

冒頭、「毎回、レベルアップするプレゼンの内容に期待している」とTURNSプロデューサー堀口の言葉に続き、いつものようにオープニングは高橋邦男さんによる宮崎県新富町および、「こゆ財団」の活動紹介からスタートしました。今回その中で焦点を当てられたのは「こゆ財団」が現在取り組んでいる“学びの場づくり”への取り組みです。

「こゆ財団」は、宮崎県新富町にて活動をする地域商社。地域と人をつなぐ中間支援組織として、高橋さんはこれまで、地元の事業者や農家、移住者など多種多様な人々と関わってきました。その中で感じたのは、「身近な人材のキャリアパス(今の職歴までの道のり)こそ最高の教材」であり、「他人のキャリアパスを見える化すると、学びの機会になる」ということだったとか。

例えば、新規就農したベンチャー企業の若者の紆余曲折や、有機農家がおにぎり専門店をオープンさせ、オンライン配信などにも取り組むようになった道のり。彼らの歩んできた道を知ることは、「若い世代の人生選択に影響を与えられる」と高橋さんは語りました。

また、新富町で実際に学習の場として成立しているケースも紹介。養鰻家が、高校生向けの教育プログラムにホストとして参加したり、口蹄疫で全頭失った酪農家が「命の循環」を学んでほしいと酪農体験の場を提供したりとまちの中で、キャリアと学びの循環が積極的に行われているそうです。さらに何十年も前から行われているウミガメの保護活動も、自然と子どもたちの学びにつながりました。

高橋さんはスティーズ・ジョブズの「一見して無関係な過去の経験が、今になって役に立ち、新しいキャリアにつながる」という”connecting the dots”の言葉を引用し、「これまでの活動を振り返って、新富町でたくさんのドット(点)を作ってこられたと思う。これはまちの事業者やロケーションのおかげであり、これからも学びを提供し続けられる可能性が新富町にはある。ユニークで多様な人材のキャリアパスを見える化(可視化)することで学びの機会となり、それが新たなチャレンジを生む。世界一チャレンジしやすい町とは、まさにこの状況のことかなと感じている」と話しました。

※こゆ財団とは?
「こゆ財団」とは、2017年に新富町が設立した地域商社。「世界一チャレンジしやすい町」というコンセプトを掲げ、人材育成や商品開発、関係人口創出などに取り組んでいます。なかでも、ふるさと納税の運営と人材育成を大きな軸とし、農産物のブランディングを通じて付加価値を高めるなどし、4年間で60億円の寄付金につながっています。手数料などによって得た収益は人材育成に投資、オンラインなどを通じて学びの場を提供しています。

 

子どもたちにITを学ぶ環境を提供したい
地方も都市部も関係なく、ITを学べる機会を

続いて、ゲストがそれぞれの事業や取り組みについて紹介しました。

まずは、ソフトウェアやアプリ開発などを手掛ける株式会社エー・アール・シー取締役であり、株式会社イトナブ 取締役の尾崎健一さん。東京生まれ東京育ちの尾崎さんは、総合商社で石油関連事業に携わったのち、ベンチャー企業にて版権エージェントとして活動。その後独立し、キャリアコンサルタント(国際資格)としてのスキルを活用し、新規事業立ち上げ支援などを行ってきた人物です。

尾崎さんが今回、手掛けた仕事として紹介したのは、「ナブかつ」という、ITに興味のある高校生が地元のIT企業とつながるための求人サービス。ここでは求人票だけでは伝わらないそれぞれの企業の魅力を、動画などを通じて配信しているそうです。

「地方の高校生の課題として、IT企業の情報が少ない、技術を学ぶ環境がない、学んだ技術で就職できないという点がある一方、企業側には、技術者不足、売り手市場、特に地方のIT企業では深刻な人材不足という課題を抱えています。そういった両者の課題を解決するべくこのサービスを展開し、地元の高校生が地元のIT企業に関心を持ち、地元で学び、働く環境づくりを支援しています」(尾崎さん)。

また、東日本大震災後の復興支援活動を通して、石巻市をはじめ首都圏以外の若者がIT技術を学ぶ機会を作り続ける「イトナブ」という団体の代表古山さんと出会い、事業展開に参画。石巻の若者が、石巻から世界に挑戦できる環境づくりに尽力してきました。

尾崎さんはその他にもITを活用した事業を数多く展開しており、移住促進を図るためのプラットフォームづくりや、岩手県での産官学連携によるIT教育、南三陸町にある高校の魅力化プロジェクトなど、幅広い相手とタッグを組み、ITの効果的な活用や就職を後押しする活動をしています。

 

ICT活用のリスクを最小限に、チャンスを最大限にするために

ゲスト2人目は、現役大学生でありながら、株式会社サイバーフェリックス カスタマーサクセスマネージャーとしてIT教育に関わっている増田城司さん。
香川県出身の増田さんは、大学受験のための浪人時代に、教育について考えるようになったと言います。通っていた地元の小さな予備校で触れたが「受験のためではなく、人生を豊かにするための教育」。外部から有識者を招いての金融講座に参加するなど、とても有意義な経験し、そこでの経験と出会いが今のキャリアにつながったのだと語りました。

現在、増田さんたちが手掛ける事業は、子どもたちがテクノロジーを効果的に活用するための土壌づくり。具体的には、セキュリティやプライバシー、ネットいじめへの認識など、ICTのベース部分にあたる情報モラルを習得させることを目的とした講座や指導の実施です。提供しているのは国際的な規格に適合しているデジタル教材「DQ World」。2020年には50校が同社のサービスを導入するに至り、今期においては導入校が180校に届く勢いだといいます。さらに、兵庫県養父市や鹿児島県鹿児島市では自治体を挙げての導入が行われたそうです。

「DQ Worldは、本格的にテクノロジーを使う前に知っておくべき力を習得できる教材になっています。まさに自動車の運転をする前に交通ルールを学ぶようなもの。現在、国としてICT教育が進む一方、情報モラルの習得がなかなか定着していません。情報モラルを優先させるために、やみくもに使用を禁止、制限されるなど、望ましい使い方ができていないのが問題。子供たちにぜひ、正しいテクノロジー利用のルールを身に着けてほしいと考えています」(増田さん)

さらに増田さんは、この教材を通して「子どもたちには、情報モラルをしっかり習得し、ICT活用のリスクを最低限にチャンスを最大限してもらいたい。その上で、プログラミングなどを学ぶ次のステップに橋渡ししたい」と意気込みました。

こうした教育を浸透させることによって、プログラミングを活用して実際の社会課題を解決していくキャリアなど、尾崎さんや高橋さんらの事業にもつながるキャリア形成が子供たちに見込まれます。そのことから、増田さんは、このイベントでの出会いをきっかけに、このメンバーで共同できる動きを作っていけるのではと、今後の可能性に期待を寄せました。

 

IT教育とキャリアについてのトークセッション

ここからはモデレーターとゲストを交えたトークセッション。IT教育と子どもたちのキャリア教育、就業について、ゲストお二人と高橋さんに質問を投げ掛けました。

質問1 都市部と地方でIT教育の格差を感じていますか?

【格差を感じている尾崎さんと増田さんの意見】
尾崎さん「選択肢が多い、通いやすいなど、総合的に見ると、身近にITに触れられるという点において、地方間の格差はあると思います。IT企業にさくっとインターンに行ける都市部と、そうではない地方では、やはり格差という言葉を使わざるを得ないと思います」

増田さん「都市部では、ITだけでなく、さまざまなことに挑戦する心理的なハードルが低いように感じています。人口が多く、自分と同じような経験をしたいという学生が周囲にはたくさんいます。人とつながれる機会も豊富で、ともに頑張ろうと応援し合える仲間がいること、助けてくれる人がいることが安心感につながり、背中を押してくれる要因になっています」

【格差はバイアスではないかと考える高橋さんの意見】
高橋さん「僕は格差があるというのは、バイアスによる側面があるのではないかと、思っています。デジタル環境が当たり前になっている現代において、格差は飛び越えられるのではないかと。その一方で『地方だから、選択肢が少ない』と言ってしまっている人がいるのが課題です。特に教育現場において、その点をアップデートする必要があると思います」

ここでモデレーターの堀口は、双方の意見に深く頷きつつも、「先生たちは自分の余暇などはもちろん、子どもに向き合う時間も勉強する暇もない」と、教育現場の多忙さを指摘。そのうえで、ICT教育がうまく進んでいる愛媛県西条市の事例を紹介しました。
同市では、全小中学校にICT支援員として外部人材を派遣。授業にICTを取り入れるだけでなく、校務もICTによって徹底的に効率化。結果的に、先生一人あたり子どもたちと接する時間が120時間(年間)増えたほか、学力の向上も見られたと言います。

「ICTをどんどん活用することで、学びの環境づくりが整備され、教育の格差がなくなり、どの場所でも安心感を持って学べるようになると期待したいですね」(堀口)

 

質問2 子どもたちがキャリアを考える上で、大切なことは何ですか。

尾崎さん「子どもたちにITを学ぶ機会を作っても、ITを仕事に活かせるかどうかには、彼らのまわりの大人が関係しています。大人が変わる必要があるんです。例えば、高校の進路指導でITへの漠然とした興味を示しても、先生にその知識がなければ上手な進路指導はできない。結果的に、子どもたちの興味をつぶしてしまう。子どもたちの学びについて、大人側がどれだけ真剣に考えられるかがポイントです。僕達(IT教育を推進する側)も、どれだけ大人の意識を変えられるかが勝負だと思っています。」

増田さん「香川にいた高校時代には、関西圏や県内の大学を薦めてくる先生が多かった。いわゆる先生が経験してきた範囲内にとどまってしまっているのではないでしょうか。大学3年の就職活動においても、会社の外見しか分からず、何に興味があるか自分に問いかけても、何も返ってこない学生もいるんです。僕自身は仕事をする中で、たくさんの人のキャリアパスを知る機会を得ました。これは、本当に恵まれている。子どもたちがキャリアを考える上で、ロールモデルを間近で見られることが、とても重要だと思います」

高橋さん「子どもたちの選択肢を拡げる意味で、彼らに身近な人のキャリアパスを見せてあげたい。一方、大人自身も、その地域に魅力や可能性を感じてほしいと思っているので、大人にも学びの機会を提供する方法を、試行錯誤しています。新富町で言うと、多種多様のキャリアパスを学べる人材がたくさんいる中で、従来の教育とは別の軸で、大人も子どもも総合的に学び、企業とのつながりや起業にも結び付く、何か面白い仕掛けができないかな、と思っています」

IT教育の格差とキャリア教育に対する大人の関わり方について、大いに盛り上がった今回のトークイベント。たとえIT教育が進んでも、そこに関わる大人が変わらなければ子どもたちの選択肢を狭めてしまうという危険性について、気づきを得た人も多かったのではないでしょうか。

IT教育を含め、教育が子どもの人生を豊かにするには、まず「こんな人生があるよ」「あんなキャリアもあるんだよ」と彼らに示し、彼らの選択肢を増やしてあげることからスタートする必要があるようです。

「将来、何がどうつながるか、誰にも分からない。だからこそ怖がるよりも、新しいことにチャレンジし続けたい」と大学生の増田さんは言っています。子どものミライは無限大。私たち大人の仕事は、彼らがたくさんのことに挑戦し、たくさんのことを学べる環境づくりを早急に進めることである。改めてそう感じたトークイベントとなりました。

 

以上、第6回のインベントリポートはこれで終了になります。

 

次回は11月30日開催!どうぞお楽しみに♪

                   

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