「美酒美県やまなし」体験メディアツアー
参加レポート

高品質な日本酒、ワインを生み出す山梨のポテンシャルを探る

富士山、ブドウ、ワイン、温泉、ほうとう…。山梨県は首都圏の一角として位置づけられながら、山岳に囲まれ、自然に恵まれた地域。東京から日帰りで往復できる距離感から、移住や二拠点居住を考える人たちにも注目されています。

とくに近年は、生産地の特性を生かした品質を満たす商品に認められる国の地理的表示(GI)制度において、ワイン、日本酒について「山梨」が指定を受け、公にそのブランドが認知されることとなりました。

そんな地域の魅力とポテンシャルをアピールするため、山梨県では、「美酒美県やまなし」体験メディアツアーを 2021 年 12 月 16 日に実施。山梨県の誇る酒蔵とワイナリーの見学を通して、未来への生き残りをかけて高付加価値化、国際化に取り組む人たちの姿をレポートします。

 

甲斐駒ヶ岳の伏流水のよさを引き出す酒造り

ツアーの最初に訪れたのは、スパークリング日本酒「七賢」で知られる山梨銘醸。山梨県北西部、八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳といった山々に囲まれた北杜市白州町にある酒蔵です。創業約 300 年の老舗を率いるのは、13 代目となる代表取締役社長の北原対馬さん、弟である専務取締役兼醸造責任者の北原亮庫さん。ともに 80 年代生まれの若い兄弟が伝統を受け継ぎながら、改革を進めています。

山梨銘醸の 13 代目となる北原対馬社長。工場を案内して製造工程を説明してくれました。

山梨銘醸は、信州で酒造業を営んでいた北原伊兵衛が江戸時代の寛延 3 年(1750 年)に創業。「七賢」は、天保6年(1835 年)に高遠城主から「竹林の七賢人」を彫った欄間が贈られたことが由来。その欄間は明治天皇が行在所として使った母屋の奥座敷にいまもなお飾られています。現在は、酒造業のほか、発酵技術を生かした料理のレストランや、米糀から作った甘味料「糀糖」を使ったカフェも直営。観光スポットとしても好評を博している酒蔵です。

山梨銘醸の本社は、幕末に建てられたという木造家屋。内部には直売所も併設。

「七賢」の由来となった、「竹林の七賢人」を彫った欄間。

しかし、今のような活気を呈するようになったのは近年のこと。北原兄弟が家業である山梨銘醸に入社した 2007 年~2008 年ごろは、厳しい状況が続いていたといいます。「日本酒がもっとも売れていたのが 1973 年。以来、食生活が変わったり、海外からいろいろなお酒が入ってきたりするようになって、日本酒の消費量はどんどん低下し、現在は、当時の 4 分の 1 程度でしかありません。思いつく限りの営業を試みましたが、まったく成果が上がらない。これは、営業だけの問題ではなく、プロダクトから変えていかなくてはならないという結論にたどりついたんです」(北原社長)。

当時の山梨銘醸は、山廃から古酒に至るまで、約 40 種の日本酒の銘柄がありました。さまざまな需要に幅広く応えてきた結果ではありますが、そのままでは蔵元としての個性が埋没してしまいます。銘柄を絞り込んで生産過程の負担を軽減し、営業のリソースを集中させるという戦略を選ぶことに。

その絞り込みの際によりどころとしたのが、仕込みに使用している水の風味でした。山梨県内には南アルプス山麓、八ヶ岳山麓、秩父山麓、そして富士北麓、富士・御坂および御坂北麓の 6 水系があります。いずれも標高の高い山々であり、そこに降り注いだ雨や雪は、花崗岩や玄武岩、安山岩などの地層によってろ過され、適度なミネラル分を含んだ伏流水となって、水系ごとに異なる性質や味わいが生まれることになるのです。

「特に日本酒は成分の 8 割が水。仕込みの水で大きくその味の系統が決まります」と北原社長。北杜市の上流にある甲斐駒ヶ岳に端を発する白州の水は、硬度約 20 と日本でも有数の軟水で、北杜市のミネラルウォーター出荷数は日本一だそう。実際に試飲させていただいた仕込み用の水も口当たりがとてもまろやか。ほのかな甘みさえ感じる、透明感ある水でした。

試飲させていただいた「七賢」の仕込み用の水。とても口当たりがよく、自然に舌先に馴染むやさしい風味がありました。

「水と向き合い、受け入れる。そのポテンシャルを引き出す酒を造ることが醸造家の務め」。杜氏制を廃し、2014 年から醸造責任者を務める北原専務はこのように語ります。白州の水を使うのであれば、目指すべきは香りが華やかですっきりとしたタイプの酒、と方針も定まりました。

白州は米の名産地でもあります。「地元の水で育った米を使うことが本来の酒造り」という方針から原料には県産米を使用。伝統的な日本酒醸造の手順を大切にしながらも、最新の技術・機器も取り入れて、高品質で再現性の高い酒を安定生産できる体制を確立させていきました。

米麹の仕込みに取り組む北原専務。機械化、自動制御の技術を取り入れる一方で、手作業で行う工程も大切にしており、職人の繊細な感覚を酒造りに生かしています。

 

国際化と高付加価値化が生き残りのキーワード

いま同社が力を入れているのが 2014 年に誕生したスパークリング日本酒「七賢」。瓶内の二次発酵で生まれる泡はきめ細かく、「泡持ち」がいいのが特長です。豊かな香りと滑らかな口当たり、深みのある余韻もまた魅力的。
「現在、日本の市場におけるアルコール飲料の中で日本酒が占める割合はわずか 5%。一方、アルコール全体における炭酸ガスを含む飲料の割合は約 60%もあります。そのことから日本酒にも泡系が必要だと考えました」(北原社長)。

そうした発泡性アルコール飲料のニーズを背景に、約5年の歳月をかけて開発した「七賢」シリーズはいまや売上の約 2 割を占めるほどに成長したそうです。
その発酵技術を生かし、発酵食品ブランド「ひとさじ糀」や基礎化粧品ブランド「COJIE」の開発にも着手。日本酒を飲まない人を含め、より幅広い年齢層の消費者にも視野を広げています。
「蔵元が生き残っていくには、国際化と高付加価値化がポイントだと思います。スパークリング日本酒であれば海外でも日常的な乾杯のシーンで飲んでもらえる。また私たちの持つ技術で高品質な”ヴィンテージ日本酒”として仕上げることで付加価値を持たせ、ラグジュアリー市場へ届けることも考えています」(北原社長)。

これまでワインに比べると”知る人ぞ知る”存在であった山梨の日本酒。しかし、水と自然に恵まれた地の利を生かし、つくり手の知恵と情熱が、GI「山梨」の銘酒をワンランク上のステージに導く日はそう遠いことではなさそうです。

 

多彩な風味を楽しめる山梨ワイン。
フルーツや野菜、甲斐サーモンも。食材も豊富な山梨県

山梨銘醸の視察のあとは、昼食会へ。会場となったのは、フルーツパーク富士屋ホテル。
この日は「美酒と県産食材のマリアージュ」と題して、特別にランチコースの一品ごとに山梨の日本酒、ワインが合わせられました。

「甲州」を使った白ワインは香り豊かで穏やかな味わいで和食や魚介との相性抜群。鮮やかな赤紫色の「マスカット・ベーリーA」を使ったワインは、華やかな香りと心地よい渋味が特長で、洋食のほか、醤油やみりんを使った和食にも。焼き鳥で例えると、塩は「甲州」、タレは「マスカット・ベーリーA」と合うのだそうです。

この日のメニューでは、シャインマスカットにデラウェアなどのフルーツに県産野菜、甲斐サーモン(ニジマス)、ニジマスとキングサーモンをかけ合わせた「富士の介」、鹿肉など多種多様な食材を和洋幅広く調理した料理とともに味わいを深めるワインと日本酒が供され、山梨ならではの食のマリアージュを堪能することができました。

昼食会に参加した山梨県知事の長崎幸太郎さんは「山梨県は食の宝庫。首都圏を始め、各地域から八ヶ岳近辺や河口湖周辺などに若手の料理人の方々が移住してきて、新たなグルメの世界を開拓しています。県としても盛り上げていきたい」と語りました。

フルーツパーク富士屋ホテルからの展望。山々に囲まれた盆地の地形が見てとれます。

ランチのメインとなった鹿ロース肉のポワレと内もも肉のクロケット。丸藤葡萄酒工業の「ドメーヌ ルバイヤート2017」が添えられました。

昼食会に参加した長崎知事。山梨県の力の入れ具合が伝わってきました。

⼭梨県酒造研究会の北原亮庫さん、⼭梨県ワイン酒造組合若⼿醸造家・農家研究会の有賀翔さんによるトークでは、山梨県の風土がもたらす日本酒、ワイン、それぞれの可能性について語られました。

 

「本物のワインを造るには本物のブドウを育てること」

午後に向かったのは、ワインの銘醸地、勝沼町に隣接する「ルミエール」(笛吹市一宮町)。
国の有形文化財に登録されている歴史ある石造りの発酵槽で醸した赤ワイン「石蔵和飲」や数々のコンテストでの受賞歴を誇る白ワイン「光 甲州」で有名な老舗ワイナリーです。2007 年から山梨銘醸と同様に「瓶内二次発酵方式」を取り入れたスパークリングワインも手がけるようになりました。

山梨県は日本ワイン発祥の地。明治時代から約 150 年にわたって行政のバックアップを受けながら、産地全体で品種改良や生産技術向上に注力。現在、県内には全国トップクラスの約 90 社にのぼるワイナリーが活動しており、国内の約 3 割の日本ワインを生産しています。
GI「山梨」を冠するワインの原料は 100%山梨産であることが条件のひとつ。富士山や南アルプスなどの高い山々に囲まれた山梨県は、豪雨や台風の影響を受けにくい、日照時間が長い、寒暖差が大きいといった風土の特長がぶどう栽培に適しており、日本固有の品種である「甲州」、「マスカット・ベーリーA」を中心に、「シャルドネ」や「メルロー」といったヨーロッパ系品種ぶどうまで幅広く育てられています。

2021 年に創業 136 年を迎えた老舗「ルミエール」の 5 代目社長を務めるのは木田茂樹さん。
創業者である降矢徳義さんの「本物のワインを造るには本物のブドウを育てること」というモットーを守り、自社農園でのぶどう栽培からワインの醸造、瓶詰め、販売までの過程をすべて自社で行うことにこだわっています。

ルミエールの自社農園は日照量の多い甲府盆地の中でも標高 400 メートルほどの高台にあります。京戸川の扇状地でもあり、非常に水はけがよいのが特長。化学肥料や化学合成農薬なども使用せず、自然に近い状態の草生栽培でぶどうを育てています。
最も多く栽培されているのは、白ワイン用品種の「甲州」。先代のときには欧州系品種である「カベルネ・ソーヴィニヨン」「メルロー」「カベルネ・フラン」なども植えられました。最近では「プチ・ヴェルド」や「テンプラニーリョ」「タナ」など南欧系品種も。

かつてはすべて棚栽培でしたが、欧州系の赤ワイン品種では垣根栽培にトライ。単位面積当たりの収穫量は減るものの、作業効率がよいというメリットがあるためです。
そのほか、100 年以上の付き合いのある契約農家からのぶどうも原料に使っています。いま山梨県では栽培が容易で販売価格が高いシャインマスカットに切り替える農家も増えているそうですが、ルミエールの契約農家は長年の同志。ワインづくりをしっかりと支えてくれています。

 

ルミエールの自社農園。カベルネ・ソーヴィニヨンの畑が斜面に広がります。

自社農園のぶどうの品種の配置について説明する木田社長。

探求心豊かな木田社長。毎年さまざまなチャレンジに取り組んだ結果、30 種以上のワイン銘柄を販売している。

 

たゆまぬ探求心で価値が高まる GI「山梨」ブランド

木田さんの代になってから手がけるようになったのが、甲州を使ったスパークリングワイン。特に注目されているのが、オレンジワインのスパークリングワイン「スパークリング オランジェ」。和食にもよく合うと好評です。2010 年にはワイナリーレストラン「ゼルゴバ」もオープン。

ワインと食のマリアージュを楽しめるようになりました。「ワイン造りは 10 年、20 年ではなく代々続けていくこと。いま 136 年ですから次の目標は 200 年。そのくらいのスパンでワインづくりに取り組んでいます」(木田社長)。

 

ルミエールのレストラン「ゼルゴバ」。ワインと料理のマリアージュを楽しめます。

ワインの仕込み作業の様子。

地下のワインセラー。ワインを貯蔵するコンクリートタンクとして使用されていました。

 

こうした日本酒やワインの醸造家たちの努力によって、GI「山梨」のブランドはさらに高められていくはず。海外の権威あるコンクールで評価されたり、私たちの生活の中に取り込まれていったりと、その価値は国内外を問わず、浸透中。甲府盆地の水と土、そして人がもたらす美酒は、個性豊かに山梨県の食のイメージを彩っていきそうです。

 

当日試飲した「スパークリングオランジェ 2019」はオレンジ色の辛口スパークリングワイン。「石蔵和飲 2020」は石造りの発酵槽で伝統的な手法によってつくられた本数限定ワイン。いちごのような香りと柔らかなタンニンを含んだやさしい味わいが魅力。

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