【地域×企業のミライを考える】
オンライントークイベント vol. 4 開催レポート

「IT技術」によって、「教育」はもっと広い世界へ!

地域資源を活かした数々のビジネスを立ち上げ展開する「一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構」(宮崎県新富町/以下、こゆ財団)と、“これからの地域とのつながり方” を提案するローカルライフマガジン「TURNS」がタッグを組み、地域×企業の可能性を探るオンライントークイベント『地域×企業のミライを考える』。

7月29日(水)に開催された第4回目のイベントのトークテーマは、「IT」×「教育」です。

コロナ禍でリアルな対面の機会が減りオンライン教育が広がる今、企業は自社のIT技術を子どもたちに必要な教育分野に生かすため様々な取り組みを行っています。
今回は、そんな「IT技術」がもたらす「地域×教育」の魅力と、子どもたちにもたらす効果、そして “これからの企業×地域のミライ” についてたっぷりとお話を伺いました!

【ゲスト】
阪井 祐介さん/SRE AI Partners株式会社 ゼネラルマネージャー
山田智樹さん/株式会社セブンアンドアイ・ホールディングス 経営推進部 D-Stadium主宰

【モデレーター】
高橋邦男さん/一般財団法人こゆ地域づくり推進機構
堀口正裕/TURNSプロデューサー

 

子どもたちが帰ってきたくなるまちへ

冒頭では、地域×教育の取り組みを行う「こゆ財団」の高橋邦男さんから、宮崎県新富町の「学びにつながるまちのあり方」についてお話を伺いました。

「新富町の人口は約16,500人。20年後にはマイナス3,000人になると想定されていて、少子高齢化と地域産業の担い手不足という課題を抱えています。町には高校がなく、中学を卒業した子どもたちはみんな町外の高校に通うので、そのまま町外で就職して戻らないというケースも多いです。そうした中で新富町は『世界一チャレンジしやすいまちを作ろう』というコンセプトのもと、一度町外に出た子どもたちが将来また帰ってきたいと思える、新しいチャレンジをしたくなるまちづくりを行っています。

具体的には、今ある地域資源を生かした新しい特産品や観光体験プランの開発を通して、誰もが新しいチャレンジを積極的に行える風土を作り、そこで生まれた利益を人材育成に還元することで、更なる新しい挑戦を生む循環を作っています。

企業とのコラボレーションにも力を入れていて、例えばANAホールディングス株式会社とは、東京の高校生を新富町に招いて地元農家さんの元で体験学習&ワークショップを行い、100年先まで事業継続を可能にするアイデアをプレゼンする授業を行うなど、新しい学びの場も作ってきました」

前例のない挑戦は失敗する可能性もありますが、どんなことが起こるか分からなくても、その分からない先に “新しい楽しみ” があります。新富町は、そのような “不確実性を楽しむ” エネルギーがある町です。

町の姿勢に共感する方々が全国から集まり、新しいイノベーションと学びが生まれる風土が育まれています。

 

テクノロジーが生み出す、新しい学びの場。

よりリアルで自然な遠隔コミュニケーションを実現

IT技術を活用した企業の取り組みについて、ソニーグループ株式会社のテレプレゼンスシステム『』を開発した阪井祐介さんは次のように語ります。

「『窓』は、ソニーが培ってきた映像や音声、様々なテクノロジーを駆使して、オンライン上でもまるで相手が目の前にいるかような、リアルで自然な対話ができる遠隔コミュニケーションシステムです。物理的に離れていても “共にある感覚” を互いに感じられるよう、基本的には常時、“無目的” に空間をつなぎます」(阪井さん)

“無目的” であることは、実はとても大事なことかもしれません。人とコミュニケーションをとるとき「沈黙がつらい」と感じる瞬間はしばしばあると思います。しかし、“ただ時間を過ごす” ということも、人と人との関係性を考える上では大切な概念なのです。

『窓』は、そんなコミュニケーションの大切さを教えてくれるツールです。

「既に教育現場への導入も進んでいて、例えば島根県の離島・海士町にある「隠岐島前高校」では、島の高校生たちが理系の難関大学にチャレンジするための専門講師が島内にいなかったのですが、地域の学習センターに『窓』を設置し、東京の一流講師と常時接続することで質の高い対話と空間を超えた学びを実現しました。島内外の高校同士をつないで新しい仲間と新しい学習コミュニティーを作って授業を行うなど、まだまだたくさんの活用方法があると思っています」(阪井さん)

▼ソニー の テレプレゼンス システム「窓」
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/technology/activities/mado-project/

 

社会全体を学びのフィールドに

今年5月に開講したばかりの中学生向け新規教育事業『D-Stadium』を主宰する株式会社セブンアンドアイ・ホールディングスの山田智樹さんは、日常生活で接する機会の少ない “斜め” の存在が子どもたちにとって大切な学びを生むと語ります。

「『D-Stadium』は、全国の中学生が誰でも無料で参加できるオンラインの全国アカデミーです。普段通っている学校の先生や保護者だけではなく、いつもと違う仲間や周りにいない素敵な大人と出会いつながり対話する機会を、自宅にいながら得ることができます。

これからの時代に必要な主体性や協働性、多様性への感覚、自分と社会・世界を結んでより良い人生を実現していく力は、子どもたちの身近にいる先生、保護者だけが育むものではありません。ですが、特に地方では小中高で学区が変わらないので、学びの環境が変わりにくい現状があります。

自分はどんな人になりたいのか、どんな人生を描くのかと人生の岐路に立つ中学生が、生まれた環境に依存せずに、どこからでも多様な大人や企業と接点を持てるようにする。そうすることで多様な価値観に触れ、自分と向き合い人生の選択肢を広げ、将来のキャリアイメージの解像度を上げられるようにする。そのきっかけになれたらいいという想いで事業をスタートさせました」(山田さん)

『D-Stadium』では様々なプログラムを展開していますが、中でも中学生と各分野の第一線で活躍する大人をオンラインでつなぎ、対話を通して自分の心がどのように動いたかを記事にしてもらう「面白人にインタビュー」という取材プログラムにも力を入れているそうです。
去年からスタートした事業ですが、既に60本の記事が上がっていて、今年からいくつかの中学校の授業に導入することが決まっているのだとか。

オンラインとテクノロジーのおかげで、子供たちが学ぶ場の選択肢は確実に増えてきています。

▼中学生がもっと自由になる オンラインの全国アカデミー
https://d-stadium.jp/2020/

 

これからの教育のカタチ

ゲストによる『窓』『D-Stadium』それぞれの紹介が終わったところで、「IT×教育」に関する気になる問いをぶつけてみました。

質問1
「IT×教育」の取り組みを続けていくと、教育の在り方はどのように変わっていくのでしょうか?

山田さん「今後の教育は“集まる”ことの意味が変わっていくと考えています。従来は子どもたちを一つの教室に集めるのは、知識を効率的にインプットさせるためでしたが、今は良質な教材に自宅からでもアクセスできる時代です。これからは自分でできるインプットは個人でして、そこで得た情報を元にみんなでディスカッションするために教室に集まるような、新しい意見やアイデアを生み出すことを目的とした教育にシフトしていくと考えています。学校の先生の役割も、子どもたちが生き生きと学びに向かえるように良質な問いを投げかける、ファシリテーターのような存在になるのではと思います」

阪井さん「インプットを目指す教育では学習目標が明確に定められていたので、無目的にただ共に時間を過ごすことは良しとされていませんでした。ですが、『窓』が作り出すような意図ある無目的空間では、自他の境界線やパブリックとプライベートの境が自然に溶け出し、より本質的なコミュニケーションが生まれます。そうした空間では他者との対話は自分自身との対話にもつながり、多様な価値観を持つ大人、集団の中で深いコミュニケーションを取ることで、子どもたちは様々な角度からよりクリアに自己理解する機会を得ることもできます。だだ共に時間を過ごすことのように、これまで軽視されがちだった学びの価値が見直されていくのではないかと思います」

質問2
子どもたちにはどんな変化が起こるのでしょうか?

山田さん「中学にあがると不登校者数も自殺者数も異常に増える現状があります。様々な要因がありますが、一つは子どもが抱えている違和感や疑問を周囲の大人が正面から取り合ってくれない、理解しようとしてくれないことが挙げられると思います。例えば、学校の勉強って意味があるのか、将来役に立つのかという疑問を周囲の大人に聞いても、役に立たないとは言いませんよね。そうすると子どもたちは次第に心を閉ざしてしまう。『D-Stadium』の「面白人にインタビュー」でその疑問を取材対象者に聞いた子がいたのですが、『自分が知らないことは夢に見られない。想像すらできない。だから、知識として、経験として多くのことを知ってた方がより豊かな人生を歩める』という答えを得ていました。学校生活と並行してこうした学びの機会を持つことは、子どもたちの人生をより充実したものに変えていくと思います」。

阪井さん「『窓』を通して深い対話を重ねた方と初めて現実で会った子どもが、『○○さん、今日は3Dだ!』って言ったことがあって。きちんとしたルールを設けてお互いに本当にいい関り方ができる場を作っていれば、オンライン上でも深い対話は生まれますし、人と人の本質の部分は伝わります。学びにリアルかバーチャルかは関係なく、むしろテクノロジーがリアルを追求することで人と人とがコミュニケーションをとる上で本当に大切なことが浮き彫りになります。そういう本質的な物事こそ大切だということを子どもたちは既に知っていると思っています」

 

一緒に話を聞いていたTURNSプロデューサーの堀口は、「テクノロジーなのに、“人の気配” を感じることができる『窓』や『D-Stadium』は、意義ある素晴らしいサービスですね。子供だけではなく、大人にも体験してもらいたいです」と感想を述べました。

また、これまでの質問に対する回答を受けて、モデレーターの高橋さんは次のように語りました。

「私たち大人は、鎧のように色々なものを身に着けて今に至っていますが、それがオーバーリスクヘッジになっていることも多いと思います。そういうものを手放して、本当に大切なことを大切に、いかに自分自身に素直に正直に生きていくかは子どもだけでなく大人にも共通の問題です。みんなで焚火を囲む時のように、普段身に着けている鎧や人と人との境界線が自然に溶け出し、本音で語り合えるような場所や機会を社会にどれだけ増やしていけるか。そこに明確な答えはなくて、みんなが少しずつやっていくことが大切なのだと思います」(高橋さん)

これからは、子どもたちと関わる大人自身も、本質的な眼差しで子どもたちと対峙できるようなライフシフトが求められていくでしょう。

 


 

『窓』や『D-Stadium』のように高度なテクノロジーが人と人とをリアルに繋ぐようになった今、これまで個々の生活圏の物理的な制約の中でしか見出せなかった学びの場が、オンライン上に広がり始めています。

ITは、単なる端末や教材として存在する無機質なものではありません。予想もしなかった反応を生み出したり、出会いや議論を作り上げたり、使い方次第で“温かなつながり”を生むこともできるのが「IT」なのです。デジタルネイティブと呼ばれる子ども達は、「IT」によって“自由な生き方”を手に入れられるかもしれません。

意志ある大人がこの新しいテクノロジー空間と教育現場とを結び合わせることで、新しい人と人の出会い、多様性との触れ合い、まだ見ぬ学びを生み、子どもたちがより自由に“自分らしい人生”を思い描く力になっていくはずです。

テクノロジーが描く未来は無限だからこそ、大人たちがその道しるべを作り、企業×教育現場の連携によって、子ども達の可能性を拡げるための努力をし続けなければならない。そう感じずにはいられない、オンライントークイベントとなりました。

 

 

トークメンバー

【ゲスト】

阪井 祐介(さかい ゆうすけ)さん
SRE AI Partners株式会社 ゼネラルマネージャー

シニアUXプランナーとして “あたかも同じ空間にいるような” 自然なコミュニケーションが実現する「窓」を開発しながら、SRE AI Partners(株)において、「窓」を通じて人と人、空間をつなぎ、関係性の質を向上させていくコンサルティング事業を進めている。

▼ソニー の テレプレゼンス システム「窓」
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/technology/activities/mado-project/

 

山田智樹(やまだともき)さん
株式会社セブンアンドアイ・ホールディングス 経営推進部 D-Stadium主宰

株式会社セブン-イレブン・ジャパンを経て、セブンドリーム・ドットコムでサービス事業の立ち上げ、セブン銀行で新事業創出に携わる。現在はセブン&アイ・ホールディングスにて、中学生向け教育の新規事業「D-Stadium」を主宰。立命館大学客員教授。経済産業省が主催した「始動NextInnovator2015」のシリコンバレー派遣メンバー。

▼中学生がもっと自由になる オンラインの全国アカデミー
https://d-stadium.jp/2020/

 

【モデレーター】

高橋 邦男(たかはし くにお)さん
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事/最高執行責任者

新富町の地域資源を生かした人材育成、商品開発、関係人口創出などに取り組む「一般財団法人こゆ地域づくり」で人材育成事業や視察研修を通じた1万人以上の関係人口を生み出しながら、企業誘致や移住促進に取り組んでいる。2020年4月より執行理事兼最高執行責任者に就任。

 

堀口正裕(ほりぐち まさひろ)
㈱第一プログレス 代表取締役社長 TURNSプロデューサー/総務省地域力創造アドバイザー/TOKYO FM『Skyrocket Company』 内「スカロケ移住推進部」ゲストコメンテーター

これからの地方との繋がりかたと、自分らしい生き方、働き方、暮らし方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。地域と都市の若者をつなぐ各種イベントを展開し、地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。

 


 

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