インタビュー
高知県三原村 村長 田野正利
聞き手
TURNSプロデューサー 堀口正裕
高知県の西南に位置し、以前はどこにでもあった日本の原風景が広がる高知県三原村。
人々は自然に逆らわず、旬の食材を手間隙かけて昔ながらの「食」の文化や日常の営みを守って暮らしています。
そんな三原村の魅力と可能性を田野村長に伺いました。
堀口: 田野村長は、生まれも育ちもこの三原村だとうかがいました。まずは、三原村はどんなところか、教えてもらえますか?
田野: 一言で村の魅力を紹介するなら、「水源に広がる美しき農山村」です。高知県の西部に位置する幡多郡に三原村はあるのですが、周囲の四万十市、宿毛市、土佐清水市のすべての源流をなし、三原村を水源として3市に川が流れ出しています。村の南には標高868メートルの今ノ山があり、昼夜の寒暖差が大きく、水源のミネラル豊富な水に恵まれ、米づくりが盛ん。甘く旨味の濃い良質な「三原米」は、高い評価を得ています。
もう一つ、大きな魅力は、なんと言っても「人間愛あふれる村の住人」一人ひとりです。三原村には〝遍路道〟が通り、県外、国外から多くのお遍路さんが訪れます。そうした皆さんを何百年にわたりもてなしてきた、あたたかなホスピタリティあふれるところが、村の大きな自慢です。
良質なお米を生かしたどぶろく作りも盛ん
堀口: お米づくりが盛んということは、基幹となる産業は、やはり農業でしょうか?
田野: はい、農業に加えて、多くの住民が林業も一緒に手がけています。ただ、これから農家が生き残り、水田や美しい農山村の原風景を守っていくためには、プラスαの新たなビジネスを生み出していくことが重要だと考えます。いわゆる6次産業化になりますが、三原村では「三原米」を生かした村おこしを目指して、2004年に国内第一号となる「どぶろく特区」の認定を受け、三原米を使った酒造りに力を入れてきました。現在、村内には6軒のどぶろく農家があり、甘口、辛口と、それぞれ異なる味わいが楽しめます。11月に開かれる「三原村どぶろく・農林文化祭」は、毎年多くの人で賑わっています。
堀口: 移住にあたって、まず気になるのが〝ナリワイ〟だと思います。三原村では、どのような仕事や支援制度がありますか?
田野: 農林業が産業の根幹となっている村ですので、移住者の多くも、農林業に携わっています。なかでも、三原村では「ユズ産地化計画」を進めており、ユズの栽培を中心に米づくりや、ブロッコリー、ししとうなどの露地野菜栽培が複合的に行われています。
支援制度としては、「新規就農研修支援事業」があり、村内で新たに自営の農業を始めたいと希望する人を支援しています。研修期間は最長2年で、未経験からでも農業を学ぶことができます。
また、三原村は土佐端渓と呼ばれる「土佐硯(とさすずり)」が特産品の一つとなっています。中国の名硯「端渓硯」にも匹敵すると言われ、書家などから高い評価を得ているのですが、職人の高齢化によって技術を受け継ぐ人が減少しておりました。そこで、研修制度を設けて後継者を募集したところ、都会から若者が移り住み、伝統技術を受け継いでいます。
お試し移住から定住まで手厚い住宅支援制度
堀口: もう一つ、移住希望者が気になるのが〝住まい〟についてだと思います。住宅に関する支援制度は、いかがでしょうか?
田野: 住宅については、3段階の支援制度を用意しております。最初の段階として、いわゆるお試し移住などのニーズに応える「三原村移住促進共同住宅」を7室、用意しています。こちらの特徴は、5日〜1カ月未満の短期滞在だけでなく、条件を満たせば、1カ月〜最長2年まで利用可能であり、三原村に移住するための生活基盤や人間関係を築くためにも活用していただけます。
2段階目は、空き家の有効活用です。村では、空き家の情報が入り次第調査を行い、毎年3〜5棟、移住者が住むための住居として整備する際に、補助を行っています。これまでに空き家再生は26棟の実績があり、空き家の中でも人気がある場合は、抽選を行なったケースもございます。
3段階目ですが、「星ヶ丘団地」という83区画の分譲地があり、「定住促進用分譲宅地購入助成」により、世帯主の年齢などの条件を満たせば、売買代金の一部を補助する制度を設け、定住を促進しています。
子育て、教育も村がバックアップ
堀口: 子育て支援や教育制度について、力を入れている取り組みがございましたら、お教えください。
田野: 1歳から保育園の利用料や給食費が無料のほか、満18歳に達した最初の3月31日まで、医療費の助成を行うなど、子育て支援制度も充実しています。
教育については、三原村では英語教育が盛んで、「保小中連携による英語教育」に力を入れています。保育園の段階から国際交流員によるネイティブな英語に親しみ、小学校、中学校と力を伸ばし、その集大成として中学3年生では全員がオーストラリア・ケアンズへ海外研修に8日〜10日間、出かけています。この取り組みは15年以上継続しており、今後はケアンズの小中学生の受け入れも行っていく計画です。
また、三原小学校では、「放課後子ども教室」を日曜以外に開催。土曜、祝日、長期休業中は午前中から開催し、宿題などの学習から軽スポーツ、土佐硯を使った書道、昔ながらの遊び体験など、さまざまな取り組みを行っています。
中学生に関しては、この小さな三原村には民間の塾がございません。そこで、週1回、「中学生みらい教室」という公設の塾を開催しています。そうした公設塾におけるサポートもあってか、村内の中学生の学力は、県内でもトップクラスの成績となっております。
日本のモデルになる持続可能な里山づくりを
堀口: このほか三原村で注力している活動や取り組みがございましたら、ぜひ教えてください。
田野: 大きく三つの重要な取り組みがあります。一つは、「20年、30年を見越した里山づくり」です。三原村には約3000ヘクタール(約900万坪)の国有林、3000ヘクタールの私有林、1500ヘクタールの公有林があります。日本の多くの山や森林がそうであるように、三原村の森林も手入れが行き届かず、下草も生えないような状態のところが増えつつあります。そこで、国や東京大学、高知大学と連携して、まずは約30ヘクタールの村有林に、約9万本のクヌギを植林し、保水力のある山へ育てようと、10年以上前から取り組んできました。山の保水力が高まることで、その下流にある約50ヘクタールの田んぼに、ミネラルを豊富に含んだ湧き水が流れ、おいしいお米が育ちます。また、山の保水力を高めることは、地震や土砂災害に強い里山を作ることにもつながります。
約30ヘクタールの村有林の上には、約120ヘクタールの国有林が広がっています。現在の取り組みの結果をみながら、国とも連携して、国有林へも里山づくりの活動を広げていく計画です。日本の中山間地には、三原村と同じように森林の荒廃に悩む地域が数多くあります。三原村のこの自然を生かした、災害にも強い里山づくりが、日本の一つのモデルになればと願っています。
二つ目は、新たな〝ナリワイ〟づくりにもつながる活動として、先ほど紹介した三原米を使ったどぶろく製造を手がける農家が、農家民宿やグリーンツーリズムもスタート。現在、5軒の農家が農家民宿を手がけており、新型コロナの影響で昨年、今年は宿泊客が減っておりますが、ホテルや旅館が一軒もなかった三原村に、年間1300人ほどが宿泊されるようになりました。古くからお遍路さんをもてなしてきた地域の魅力を生かし、こうした取り組みも広げていきたいと考えています。
三つ目の重要な取り組みは、「集落活動センター」による村民が主体となった地域づくりです。高知県では各地で、集落活動センターを拠点とした地域づくりに、長年取り組んできました。三原村では、村全体で一つの集落活動センターを立ち上げ、住人が主役となって地域のイベントや福祉、米のブランド化や特産品の販売、移住促進、観光などの幅広い活動を、総合的に手がけていただいております。なかでも、村のおかあさんたちが、四季折々の地元の食材を生かして、この村ならではの田舎料理を、日替わりで定食として提供する「やまびこカフェ」は、住民だけでなく、村外から訪れる方からも人気を博しています。
1500人の住民全員が村を愛するワンチーム
堀口: 最後に、村長として実感される三原村の強みとは?
田野: 令和元年に、三原村は村政130周年を迎えました。その間、一切合併することなくこられたのは、1500人の村人全員がワンチームだからです。先ほどの集落活動センターの活動もそうですが、住民一人ひとりがこの三原村に愛着や誇りを持ち、地域のために一つになって活動されています。
また、ワンチームの小さな村だからこそ、小回りが利くのも大きな強みです。どぶろく特区や農家民宿、未来を見越した里山づくりなど、新たな活動に機敏に対応できるのも小さな村だからこそだと言えます。そして、なんといっても長年お遍路さんを受け入れてきたおもてなしの心、人間愛が最大の魅力。ぜひ一度、体感しにこの三原村へお越しください!
文・杉山正博 写真・岡田悦紀