ものづくりのプロと語る
チャレンジできる山梨の魅力
「デュアルでルルル♪カフェ vol.3 」レポート

山梨でものづくりをするならば、どんな挑戦ができる?

3回にわたって開催してきた「デュアルでルルル♪カフェ」が、いよいよ最終回を迎えました。

コロナ禍におけるワークスタイルの多様化に伴い、注目を集めている地方移住。特に首都圏からほど近い山梨県は、毎年の移住希望先ラインキングでTOP3の常連となっています。そんな山梨県から、都市生活を送るリスナーに「ライフシフトのヒント」を届けてきた、TOKYOFMのラジオ番組「デュアルでルルル♪」が、今回もスタジオを飛び出してオンラインイベント会場へ。

最終回のテーマは「ものづくりのプロと語る。チャレンジできる山梨の魅力」。都市生活を経験後、山梨に移住してものづくりに向き合う2人のゲストを迎え、「山梨でどんな挑戦ができるか」をものづくりの視点から語り合いました。

緊急事態宣言の延長により、急遽オンラインイベントとなった最終回。会場にはラジオでもおなじみのパーソナリティ、ハードキャッスル・エリザベスさんとコメンテーターの堀口正裕(TURNS プロデューサー)、そしてゲストのお2人、さらに「やまなし暮らし支援センター」の移住専門相談員、藤萌さんが集まりました。

イベントはエリザベスさんの進行でスタート。

「地域の魅力は人にある。脈々と続く地域の営みの中でキーパーソンに出会い、その人に惚れ込んで移住をするということも多い。特に、ものづくりに携わる人の魅力はとても大きいものがある」と語いう堀口さんの言葉に続いて、山梨県のキーパーソンともいえる、ゲストお二人の自己紹介が始まりました。

まず最初のゲストは、甲府を代表するキーパーソン五味醬油の五味洋子さんです。

明治元年から続く創業153年の「甲府のまちのみそ屋」五味醬油に生まれ、高校卒業まで甲府で育ったという五味さん。大学で醸造学を学んだ後、一度は東京で就職するものの東日本大震災をきっかけに自分の生き方を見直し、2013年に山梨県へUターン。五味醤油の6代目を務める兄の誘いを受けて、2014年から家業を手伝うようになったそうです。

自己紹介の動画では、味噌のつくり方はもちろん、五味さんが力を注いでいる、食の体験スペース「KANENTE」での味噌づくりワークショップなどが紹介され、大人から子供までたくさんの人に味噌のある暮らしを提案している様子が映し出されました。

普段から地元のワインや温泉を楽しんでいるという五味さん。今はまっているのは「やまなし立ち寄り百名湯手帳」にスタンプを集めること。昨年よりスタートし、すでに40個のスタンプをためたそうです。

これにはエリザベスさんも「山梨を味わい尽くしていますね」と羨ましくも感心していました。

続いてのゲストは、堀口さんから「大人が憧れる男性」と紹介された、もう一人のキーパーソン、南アルプス市で赤ワインをつくる醸造家の渋谷英雄さんです。

東京生まれ、大阪育ちという渋谷さんは、沖縄で航空管制に携わった後、海の魅力に魅せられダイビング専門学校を設立。その後、東大大学院で心理学を学び、スクールカウンセラーになったという異色の経歴を持っていました。

50才を迎えるにあたり「形あるものを作りたい」と山梨県でワインづくりをスタートしたという渋谷さん。自己紹介映像には、渋谷さんのワイナリーである「ドメーヌヒデ」のブドウ畑やワイン造りの様子が映し出されました。

「どうして山梨県だったんですか?」という堀口さんの質問に、「日本全国、水はけのいい土地を探して回った結果、南アルプス市にたどり着いた」と答えた渋谷さん。なんと、実際に水を入れたぺットボトルを持ち歩き、水が浸透するまでの時間を計る旅をしたのだといいます。

「手掛けたワインが2020年大阪サミットのレセプションワインになるなど、すでに日本を代表するワインとなりましたが、こだわりはどこにありますか?」というエリザベスさんの質問には、「なるべく自然のものだけで混じり気のないワインをつくること」だと渋谷さんは答えました。

ここからは、都市生活を経て山梨に移住し、ものづくりに携わりながら山梨ライフを満喫しているゲストのお二人に、会場でどのような質問がされたのかを紹介します。


Q
 山梨県で新たな生活、ものづくりをスタートすることに、不安はありませんでしたか?

渋谷さんの回答

私自身、ワイン造りの経験はありませんでした。しかし、50才を間近にして、「かたちのない」心理の仕事をしてきたからこそ、「かたちあるもの」を作りたいと思ったんです。2011年から山梨に通うようになり、その後、勝沼で研修を受けて、いちからワインづくりを学びました。ワインづくりをしたいという気持ちが強かったので、カウンセラーの仕事はすっぱりやめましたね。家族はきょとんとしていて、山梨にはついてきてくれず……。結局、東京に家族を残して、私だけ山梨に移りました。本気で「美味しい日本のワイン」を作りたいと思っていたので、不安はないわけではなかったけれど、楽しみで、前を向いていましたね。

土地探しには苦労もありましたが、役場の人が親身になって情報を探してくれたので頼もしかったですね。住民票を移した頃から、本気度が伝わって、周囲の方々が積極的に協力をしてくれるようになりました(笑)


五味さんの回答

もともと、実家に戻る気はなかったんです。でも、東日本大震災をきっかけに「消費される社会で私は生きているな」と感じるように。生き方を考え直すために山梨に帰ることにしました。家業を手伝うことに不安はありませんでしたが、「私がやること」の意味については考えることがありました。「味噌づくりの文化を伝えたい」けれど、自分よりも長く味噌に親しんできた人が周囲にたくさんいる。その中で私らしい伝え方って何だろうと考えるようになって。それがきっかけで生まれたのが3分で味噌のつくり方を伝える「手前みそのうた」です。ご先祖様もまさか子孫が歌って踊って味噌づくりを紹介しているとは思っていないでしょうね。(笑)

※手前みそのうた 五味さんが兄と組む「発酵兄弟」がプロデュースした手作り味噌レシピを紹介する歌

https://www.youtube.com/watch?v=wG-yslfgw6I

 

Q ものづくりをする上で、大切にしていることは?

渋谷さんの回答
私のワイナリーでは、小さなタンクで自分の見える範囲でワインを製造しています。なるべく機械を使わない、昔からある技術を使ったシンプルなワインづくりをすることが私のこだわりです。なるべく自然な形で、除草剤を使わず、ブドウの木も畑も、働きすぎにならないようにすることを大切にしていますね。


五味さんの回答
昔ながらの味噌の味は変えないことです。美味しい味噌を守りつつ、新たな挑戦をしていきたいと思っています。味噌づくりのワークショップで食文化を伝えたり、その場所で新たなコミュニケーションが生まれるのを目撃すると嬉しくなりますね。

 

Q ものづくりに挑戦する場所として、山梨はどんなところがおすすめですか?

渋谷さんの回答
みんなで「いいものをつくろう」という文化があり、情報も集まりやすいです。例えばワインづくりでもワイナリー同士で情報をどんどん共有してくれる。ライバルは世界なので、一緒にいいものつくる仲間として、快く私も受け入れてくれました。


五味さんの回答
ヒデさんの言う通り、仲間意識があって、仲間が増えると嬉しくなります。一緒の山梨を盛り上げようよ! というふうに、人とつながっていけるところが面白いですね。特にヒデさんの周りには面白い人が集まっていて目が離せません。(笑)

発酵つながりだという二人は、お互いの施設を見学し合うなど、普段から交流があるそうで、質問タイムは和やかに進んでいきました。最後はオンラインで参加している皆さんからの質問に、会場にいる5人が回答をしていきました。

 

♪オンライン参加の皆さんからの質問コーナー

Q移住してみて、山梨じゃないとできないことでインパクトがあったことは?

「何気なくごはんを食べていると、食卓にならんでいるもの全ての生産者さんが分かることがあります(笑) 特別ではなくて本当に自然に、これはお隣さんが作った野菜で、卵も○○さんのところので、全部地元産。コースターを織ったのも誰が分かって、幸せな気分になりますね」(五味さん)

「映画館がとてもきれいで、都会では考えられないくらいゆったりと映画鑑賞できます(笑)」(渋谷さん)


Q全く山梨に縁のない私。友達ができるか心配です。窓口はありますか?

「趣味が似た人は、どんどんつながっていけますよ。お店で声をかけて友達になったり、みんなおせっかいなので“移住します!”と言えば、“ウェルカーム!”となりますね」(五味さん)

「困ったら、五味さんのところに行くとよさそうですね(笑)」(エリザベスさん)

 

Qそもそも人口が少ない地方で、飲食業や小売り業が成り立つのでしょうか?

「東京でレストランをやっていた夫婦が、地方に移住してレストランを開き、地域の食材、作家さんの器などを使って、そこでしか体験できないことを提供して成功している例は他にもあります。地方ならではのやり方で事業経営をすれば、成り立つのではないでしょうか」(堀口さん)

「日用品の物価は正直都市部と変わりませんが、食材は安くて新鮮なものが手に入りやすく、家賃はとても安いです。そのあたりを上手く使って経営をしていく必要がありますね」(藤さん)


Q山梨に移住して、考え方など、何か変わったことはありますか?

「老後でも山梨であれば、いろいろなことができるなと思うようになりました。畑で野菜をつくったり、ワイン以外のものづくりに携わったりして生きていけるな、と。可能性の幅が広がりましたね」(渋谷さん)

「通勤時間が無くなって、自分と向き合う時間が増えました。それから趣味も増えましたね。山は見るものだとずっと思っていたんですが、友人に誘われて山登りの楽しさに目覚めました」(五味さん)

「東京出身で、山梨に移住し、また東京に戻ってきたのですが、山梨に住んでいたことでおおらかになったと感じています。富士山を見てほっとするなど、自分の中にそういう風景を持っていられることが嬉しいですね」(エリザベスさん)

 

Q医療や交通面での心配はありませんか?

「山梨県はしっかりとした医療体制が整っていて、甲府市や富士吉田市など大きな市には市立病院があります。交通面も市街地では整ってはいますが、郊外で車がない場合には交通手段を確かめておく必要がありますね」(藤さん)

「病院のレベルは高いと感じています。場所にもよるかと思いますが、交通面もあまり不便だと感じたことはありません」(渋谷さん)

 

Qおすすめのワインはありますか?

「うちのワイン、ドメーヌ・ヒデの“愛してる”ですね(笑)。同じくマスカット・ベーリーAを使っているダイヤモンド酒造さんのワインと飲み比べしてみるのもおすすめです」(渋谷さん)

「選ぶのが難しいですけど、シャトー酒折さんの甲州ドライは、コスパが良くて、どんな料理にもあう美味しいワインです」(五味さん)

「キザンワインも美味しいですよね」(堀口さん)

「ハラモ甲州もおすすめです!」(エリザベスさん)

ワインの話題になると饒舌になる皆さんでしたが、まもなく終了の時間に。
今後は、「美味しいワインづくりを追求したい」という渋谷さん、そして「手前みそのうたの次に、たんぼのうたもつくりたい」という五味さん。
二人のものづくりは、山梨の豊かな自然と人々の営みのなかで、まだまだこれからも続いていくのだと感じた2時間でした。

 

山梨の可能性を感じたら、五感で確かめに行こう

3回に渡って開催してきた「デュアルでルルル♪カフェ」。様々な視点からライフシフトのヒントをお届けしてきたカフェを終え、参加者の皆さんが、新たな山梨の魅力を感じてくれたのではないか、と堀口は期待を口にしました。そして「ぜひ現地に行って、五感で水が合うかどうかを確かめてほしい」と締めくくりました。

 

文・笠井美春

 

                   

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