雄大な南阿蘇で移住者が営む「ひなた文庫」

熊本県南阿蘇村 ひなた文庫

光景が突きうごかし、本屋を始める。

神々しいまでに雄大な自然が広がる熊本県南阿蘇村。まっすぐと伸びる南阿蘇鉄道の駅のひとつ、「南阿蘇水の生まれる里白水高原」で「ひなた文庫」は金曜と土曜に営まれる。

店主は南阿蘇村で生まれ育った夫・中尾友治さんと、岡山県出身の妻・恵美さん。2人は大学時代に広島で出会った。友治さんの父親が営むたこ焼き屋を継ぐため、2014年に熊本へ戻ってきた。移住前から、南阿蘇の風景に魅せられた恵美さん。ゆったりと走る汽車もお気に入りのひとつだった。移住してふたたび、その汽車に乗った。

そのときに出会った光景が、本屋をはじめる動機となる。
「この駅に降りたとき、木造の建物にちょうど西日が差し、まるで小学校の図書室のようでした。ここに本を並べたらステキだろうなって」

さっそく役場に相談すると、すぐに動いてくれた。2015年、「ひなた文庫」は2人の蔵書を中心に約1500冊でスタート。現在は暮らしの本から自然科学、建築までいろんなジャンルで約3千冊を揃える。鍵をかけることができない駅舎で管理するため、すべての本を営業日ごとに陳列する。「毎回少しちがう配置にしています。本に触れるこの作業が、とても愛おしいです」と恵美さん。

 

汽車は走らなくても、本屋のあるこの駅へ。

2016年の熊本地震で線路は大きなダメージを受けた。全開通は数年先の見込みだ。ひなた文庫がある駅舎も現在、不通区間にある。「村の人や南阿蘇鉄道を応援するひとたちとつながってイベントをしながら、全開通までつなげていきたい」と恵美さんは語る。

南阿蘇のひとたちにとって「ひなた文庫」がある限り、集う場所と理由がある。静かに、温かく灯り続ける本屋へ、たくさんのひとに訪れてほしい。

(文:ハタノエリ)

 

お詫びと訂正 
TURNS vol.34 71ページに掲載されております「ひなた文庫」の記事におきまして、実際の店舗ではない写真が誤って掲載されておりました。
訂正するとともに、読者の皆様、及び関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。

 

                   

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