三重県 紀北町 地域おこし協力隊 現役隊員
豊川真規子さん
活動内容:SNSによる情報発信、オンラインコミュニティ運営、「しごとカード」製作など
三重県紀北町出身で、高校卒業後は関東へ。就職後も首都圏で長く暮らしたという豊川さん。
「仕事は、カウンセラーの資格を取得し、2013年からは個人事業主としてメンタルサポート講座の講師や個人向けカウンセリングといった業務を行いながら、横浜市に家族で暮らしていました。そんな折、2019年に紀北町にある母校の小学校が閉校になるという知らせを聞きました。高校を卒業してからは、年に一度帰省する程度で、帰る度に故郷でも少子高齢化が進んでいることを実感していましたが、自分の母校がなくなるという出来事は相当な喪失感がありました。」
豊川さんはこのとき初めて故郷の現状に危機感を覚えたという。
「これまでは、町に元気がなくなっていくことはどこか他人事のように感じていましたが、母校の閉校を経験して故郷のために自分も何かしなくては、という気持ちになりました。しかし、子ども達の学校のことや夫の仕事のことを考えるとUターンは現実的には難しいと悩んでいました。」
そんな矢先に、長女が不登校になるという出来事がありそのことが豊川さんの行動を後押しすることになった。
「2019年12月に実家の両親から紀北町で地域おこし協力隊を募集していると連絡が来ました。これまでは子ども達の学校のことを考えて故郷に帰ることを躊躇していましたが、田舎の生活が娘にとってもいい変化をもたらすかもしれないと思い、地域おこし協力隊に応募しました。夫とは離れて暮らすことになりますが、夫婦で話し合い、子ども達を連れて故郷に移住したいという私の意向を理解してもらいました。」
地域おこし協力隊に採用された豊川さんは、2人の子どもを連れて30年ぶりに故郷にUターン。2020年5月に地域おこし協力隊として着任した。
SNSで発信するため、町の様子を撮影する豊川さん
都市部で暮らす人と故郷をオンラインで結ぶ
協力隊として着任した豊川さんに課せられたミッションは、都市部に向けて紀北町の情報を発信し、つながりをつくることだった。
「大きく捉えると関係人口の創出ですが、進学や就職のために町を出た人たちとのつながりをつくることも目指していました。私自身、Uターンしてきた身なので適任かなと思ってはいたものの、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で活動が制限されました。本来であれば都市部で紀北町出身の人たちと関係性をつくるためのイベント等を開催したかったのですが、町から出ることが難しい状態でした。」
そこで、インターネットを通じて何かできるのではないかと考え始めた豊川さん。
「横浜にいた頃、紀北町の情報をインターネット上で収集することがとても難しいと思っていました。地元で面白いイベントがあっても、帰省前にそういった情報をなかなか入手できないことに、もどかしさを感じていました。そんな思いから、紀北町と都市部の人達をインターネットで繋ぐことを最初にやろうと決めました。手軽に情報を入手してもらうためにSNSを開設して、紀北町を離れている人たちに、故郷を感じてもらえるようにしたかったのです。」
豊川さんは、Instagram、Twitter、note、公式LINEという4つのSNSを「きほくる|紀北町魅力ナビ」という統一アカウントで開設した。さらにオフラインでの取り組みとして、ハローワークには届いていない紀北町の仕事や、町で働いている人達の姿を紹介する「しごとカード」の製作もスタートした。
町の第一次産業を紹介するオンライン配信にも取り組む
熊野灘を望む紀北町。風光明媚な風景で知られる
町でいきいきと働く人たちへのインタビューに充実感
「しごとカード」とは、紀北町でいきいきと働いている人達にインタビューし、仕事への思いや人生で大切にしていること等をまとめたメッセージカード集で、一次産業従事者、会社員、公務員、起業者、家業継承者など幅広く紹介している。カードの二次元バーコードを読み込むとインターネット上で詳しい仕事情報を見ることができる。
「Uターンを考える人には、仕事情報が重要です。しごとカードのインタビュー記事はできるだけ多くの方に読んでいただけるように『きほくる|紀北町魅力ナビ』のSNSでも配信しています。さらに、双方向の交流ができて、みんなで何かを作り上げるような取り組みができるように、2021年9月に、町の人と都市部で暮らす紀北町出身の人達をオンラインで繋ぐコミュニティ、『きほくラボ』を立ち上げました。」
現在はSNS、しごとカード、きほくラボの3つの活動に取り組んでおり、それぞれに手ごたえを感じているそうだ。
「SNSは町の日常の1コマを配信しているので、紀北町を離れている人から『懐かしい』という声をたくさんいただけて、とてもうれしいです。しごとカードは、取材でお話を聞くこと自体が、自分自身の勉強になります。皆さんがどんな人生を送って、どんな思いで仕事に励んでいるのかを聞くことができて、非常に実りのある仕事ができていると感じます。」
インタビュー記事を読んだ町民の方からは「身近な仕事なのに知らないことが多かった」、「町に誇りを持てた」という感想が寄せられたという。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で活動が制限され、苦労も多かったが、協力隊としての活動を通して自分自身もエネルギーをもらっていると感じられるそうだ。
「しごとカード」のインタビューをする豊川さん。自分自身も学ぶことが多い
「しごとカード」は地元の人からの反響も大きいという
任期終了後は子どもや若者を支援する活動をしたい
故郷にUターンして協力隊に着任した豊川さんだが、最初は戸惑いもあったという。
「知らない土地にやってきたわけではないので他のまちから移住して着任した人よりは地域に馴染みやすかったと思うのですが、周囲が世代交代していたこともあり、当初は戸惑いがありました。そうしたとき、役場の担当者の方が活動と生活の両面でサポートしてくれました。また、地元の人たちも地域の新聞に私が紹介された記事を見て話しかけてくれるなど、都会にはない温かさを感じました。」
故郷ということもあり、町を歩いていると、昔と比べて子どもや若者の姿がとても少ないことが気になるという。
「暮らしてみると、自分が子どもだった頃と比べて子どもの姿はものすごく減っていることを実感します。少しでも少子高齢化に歯止めをかけたいという思いが改めて強くなりました。」
今後もオンラインコミュニティづくりに力を入れ、交流の輪を広げていきたいという豊川さん。さらに、リアルな交流の場づくりへと構想は広がる。
「コミュニティカフェのような場所をつくりたいと思っています。町には子どもや若い人が楽しめる場が少ないので、任期終了後は子どもや若者を支援する活動をしたいと思っています。例えば、親と子のためのサードプレイス、家庭でも学校(職場)でもない親子の心地よい居場所をこの町に作れたらと思います。つながるだけではなくて、そこから何かを生み出せる場にしていきたいです。」
日頃からお世話になっている役場のメンバーと一緒に。左が係長、真ん中が豊川さん、右は担当職員
故郷に帰って生活が充実していることを実感
三重県 紀北町 地域おこし協力隊 現役隊員
豊川真規子さん
1971年生まれ。三重県紀北町出身。高校卒業後は首都圏で暮らし、カウンセラーの資格を取得し個人事業主としてメンタルサポートなどの仕事をしていたが、母校の閉校をきっかけに故郷へのUターンを決意。紀北町の地域おこし協力隊に採用され、2020年5月より活動中。
きほくる|紀北町魅力ナビ:https://www.town.mie-kihoku.lg.jp/kakuka/kikaku/kikakukakari/2_1/kihokuchotte/3365.html
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省