【静岡県賀茂地域・西伊豆町】
海藻文化を未来につなぎ、海も、人も豊かに

伊東茉由さん|合同会社シーベジタブル

伊豆半島の南部に広がる賀茂地域は、海山川がそろう自然環境と温泉、グルメ、アクティビティ、歴史・文化などの観光資源に恵まれた、1市5町(下田市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町)から成るエリア。
近年、賀茂地域の豊富な地域資源と自らのスキルを掛け合わせ、自分らしいワーク&ライフスタイルを確立する若者が増えている。

今回TURNSが訪ねたのは、日本一夕陽が綺麗に見えるまちとして知られる西伊豆町。

温暖な気候と黒潮が育む漁場が広がる、古くからの漁師町だ。

 

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途絶えかけていた、ふるさとの海藻を復活させたい

伊東茉由さん|合同会社シーベジタブル

静岡県松崎町出身。高校入学と同時に故郷を離れ、卒業後は高知県内の大学でまちづくりを学ぶ。結婚・出産を機に、2021年3月にUターン。現在は「合同会社シーベジタブル」の社員として松崎町の隣町・西伊豆町を拠点に地域の海藻文化の復活・継承に取り組みつつ、「伊豆まつざき田舎暮らしサポート隊」や、父親が経営する「ゲストハウス・イトカワ」の手伝い、週末には屋台「」も運営している。

 

「今、海水温の上昇により海藻を食べる生き物の活性期が長期化して、各地で藻場が減っています。かつて松崎町の特産品だった『川のり(スジアオノリ)』も、この辺りの地域ではもうほとんど採れなくなってしまったんです。

海藻が茂る豊かな海を取り戻せば、地域固有の生態系も文化、風土も戻り、人々の暮らしをもっと豊かにできる。そう信じて日々海藻と向き合っています」

そう話すのは、海藻産業の六次産業化に取り組む「合同会社シーベジタブル」の社員として、西伊豆町を拠点に地域の海藻文化の復活と継承に取り組んでいる伊東茉由さん。

西伊豆町の隣町・松崎町出身で、高知県内の大学でまちづくりを学び、地元の活性化に貢献したいと2021年3月にUターンしてきた。

伊東さんがこの地で研究・生産に取り組む海藻の一つすじ青のりは、川と海、淡水と海水が混ざる汽水域で育つ性質を持つ、青のりの中で最も香り高いとされる品種だ。那賀川と岩科川の二河川が駿河湾へと注ぐ松崎町は、かつてすじ青のりの産地の一つだった。毎年1~2月上旬にかけて地元の人たちが川に入り収穫する光景は冬の風物詩とされ、古くから地域の食卓に季節の味を添えてきたが、近年、地球温暖化などによる海洋環境の変化を受けて収穫量は激減。

西伊豆の海で自然に採れることは、もうほとんどない。

海とともにある暮らしを築いてきた伊豆地域にとって、磯焼けは地域の産業、文化、風土の衰退を意味する。

「私が幼い頃は、毎年4月中旬~末頃にかけてひじき漁の解禁があって。地元漁師さんたちが生き生きと海に出て行って、大量に収穫したひじきを浜で炊いてご近所中に振舞うのが春の恒例行事だったんです。でも今はひじきもこの辺りの海では大きく育たなくなってしまって、漁の解禁すらされない年もあるほどです。故郷の風景が少しずつ失われていくのを実感しています」

伊東さんが所属する「合同会社シーベジタブル」では、全国に研究・生産拠点を設け、すじ青のりやひじきを含む30種類以上の海藻を研究、人の手で培養し、陸上栽培・海面栽培に取り組んでいる。さらに、これまで日本の食卓に馴染みがなかった海藻のおいしい食べ方を伝えるなど、海藻食文化の普及・発展にも力を入れており、海藻を食べることで取り組みを支援し、海の豊かさを守るという新しい流れを生み出している。

自然豊かな西伊豆の海をフィールドに、個々の海藻の最も適した生育条件を探り、効率生産するヒントを各地の生産拠点に伝えること。それが伊東さんに託された仕事だ。

「まず、屋内のラボですじ青のりのお母さんから種を取り出し、シャーレやビーカーの中で1〜2週間掛けて培養します。その後、屋外の水槽に移してさらに大きく育てます。気温、水温、日当たりなど海藻の生育に影響を与える要素はたくさんあって、例えば太陽光は強すぎても弱すぎてもダメ。遮光種類や取付期間を調整するなど、海藻にとって最も快適な環境を探っているところなんです」

 

“海のゆりかご”を守るということ

海藻が海の豊かさの源であることを知る人は、まだ少ない。

海藻は、人が排出する洗剤や農薬、肥料などに含まれる窒素やリンを成長過程で吸収して海水を浄化するほか、光合成により二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、あらゆる生き物が生息しやすい環境をつくる。さらに、海藻自体が生き物の産卵・生息・エサ場となることでさまざまな魚介類を育み、多種多様な生き物が生息する豊かな海を生み出している。

しかし、地球温暖化の影響で海水温が上昇したことで、アイゴをはじめとする藻食魚やウニ等の活動時期が長期化。それらの生き物が、晩秋から芽吹く海藻の新芽を根こそぎ食べてしまうことで食害が発生し、藻場は減り続けている。藻場が減れば生き物も減り、水産資源は減少。海の生態系はもとより、地域の産業・文化もやせ細る。

「海藻は、海の生態系を根底で支えることから『海のゆりかご』とも呼ばれていて、地域固有の海藻を守ることは、海と町、人々の暮らしを守ることにもつながります。

やっぱり、伊豆で育つ子どもたちには、地域で長年愛されてきた海藻や地魚をたくさん食べて大きくなっていってほしいので、地元の人間としてもローカルな海藻を復活させたいですし、川のりもひじきも、条件を整えてあげれば伊豆の海でちゃんと育てられるということを仕事を通して伝えていきたいです」

 

季節の仕事を楽しむ伊豆暮らし

高校生の頃から、「いつかは故郷に帰って、地元の活性化に貢献したい」という思いがあったという伊東さん。子どもを授かったことが「いつか」を定める良いきっかけとなり、2021年に実家がある松崎町にUターンした。

今はシーベジタブルの仕事を主軸に、父親が経営する「ゲストハウス・イトカワ」の手伝いや、屋台「」の運営、「伊豆まつざき田舎暮らしサポート隊」として移住希望者のサポートに取り組むなど、さまざまな仕事を行なっている。

「一般的には仕事を探す=就職先を探すと捉えられがちですが、自然豊かな伊豆地域では季節ごとに仕事があるので、“働く”をもっと柔軟に捉えることができます。例えば、地元の人たちと仲良くなると『野菜の収穫作業を手伝ってほしい』『お中元用のさつま揚げ作りを手伝ってくれない?』など、色々な仕事の依頼が舞い込んできて、それらを組み合わせれば十分に食べていけるんです。

ただ、そういう仕事は一般的な求人という形では表に出ないので、地域外で暮らしていると見付けにくいかもしれません。伊豆地域には人と人との支え合いの中で困りごとを解決していく風土があるので、仕事に限らず情報は人づてに入ってきます。まずは住んで地域の人たちと積極的に交流し、その中で暮らしを築いていくのが良いと思います」

実際、伊東さんが海藻収穫の手伝いを依頼しているパートさんも、アロエ農家としての仕事をベースに、海の仕事や動物園のパンダに与える笹を収穫するバイトなど、複数の仕事を掛け持ちして生計を立てているのだという。他にも、農林漁業を生業に、夏休み等のハイシーズンだけ下田・伊東市のホテルにバイトに行くなど、さまざまな働き方が実現し得る。

仕事と暮らしのバランスを自分自身で調整しながら、心地良いライフスタイルを実現できるのが伊豆暮らしの魅力だ。

 

海も人も豊かに

仕事に子育てにと忙しい日々を送る伊東さんに、今後の目標を聞いた。

「もともと西伊豆町は漁師町だったので、海に関わる仕事をしてきた方がとても多いんです。近年は水産業の衰退により海の仕事だけでは食べていけなくなりましたが、それでも何かしらのカタチで海に関わりたいという方が多い。そうした方々に知恵を貸していただきながら、みんなで一緒に西伊豆の海を守り、ゆくゆくは地域雇用の拡大にもつなげていきたいです。

豊かな伊豆の海を取り戻すことが人も町も元気にし、誰もが生き生きと暮らし働ける地域づくりにつながっていくと信じています」

 

■合同会社シーベジタブル
https://seaveges.com/

■屋台「灯」
Instagram:@yatai_bar_tomoshibi
https://www.instagram.com/yatai_bar_tomoshibi?igsh=MXZrcWFyM2hndXhp&utm_source=qr
facebook:https://www.facebook.com/Yatai.Bar.Tomoshibi

■伊豆まつざき田舎暮らしサポート隊
https://izu-iju.jp/support-team/

 

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