山形県南東部に位置し、古くから城下町・ 宿場町・温泉町で栄えた上山市。近年は芸術活動やものづくりが仕事の移住者やギャラリーも増え、芸術祭の会場になるなどアートな風も感じられ注目されています。
そんな上山市を舞台に、昨年「#かみのやまローカルインターン」が開催されました。
大学生を中心に、自ら写真を撮り様々な取材体験やワークショップを行いながら現地を巡り、その魅力を発掘することで今後の自分たちのライフスタイルのヒントを掴もうというこのプログラム。
参加した若者たちによるレポートの最終回です。
暮らしの知恵 ほどよくつまる かみのやま
「抱きつ木」。ちゃっかり恋人スポットまであるが、目的は健康促進
「明日の朝、いい散歩道に連れていってあげるよ」地域おこし協力隊の大岩さんの提案に、その場で学生のみんなが挙手。早起きが不得手な私は、最初は乗り気ではなかったが、せっかくの機会なのでと早起きに奮闘した。
「クアオルト」とはそもそも、ドイツの医学療法を参考にした健康保養地・療養地のことを指す。ここでは、朝のウォーキングのことを、特にクアオルトウォーキングと言っている。このクアオルトウォーキング、ただ漠然と歩き続けるだけではない。歩いていると様々な仕掛けに出会う。ほてった体温を冷やすために井戸があったり、クロモジの葉を鼻に詰め、脳に刺激を与えたり。ドイツ療法の知恵が、様々に散りばめられている。
体ほぐしをしたり、肩のずれを治すために金属の棒にぶらさがったり、「やっほっ」と叫び、やまびこを楽しんだり。朝からなかなかハードなことをした。気が付くと、眠気は吹っ飛び、気分は晴れやか。朝から幸せな気持ちになれる。
土澤木工を経営されている土澤ご夫婦は、出身は山形で、東京や長野での仕事を経て、この地に戻ってきた。ハキハキした性格の奥さんはデザインの仕事をされている。旦那さんは物静かな方だが、木材のこととなると口調に熱が帯びる。ひとりで、オーダーのデザイン、製作をこなす。
この空間は、木のぬくもりに包まれている
土澤木工は、顧客に直接会い、ひとりひとりに合わせたものを製作する体制をとっている。ひとつのものをじっくり丁寧に製作していくため、とても忙しいそうだ。しかし、作りたいものを作れており、小規模な今の暮らしに満足。簡単なものを作ってもしょうがないと、さらりと言う旦那さんは、まさに職人。
実際に作業を見せてくれた
これからは、奥さんもデザインの仕事を通して、土澤木工を経営していければと考えているそうだ。何かに追われるでもなく、自分たちのやりたいことを模索しながら実行されてきた姿には、小さな生活の知恵の積み重なりが垣間見える。やりたいことに前向きに向かっていくお二人を見て、とても力をもらった。
蔵六面工房の木村さんの作品。上山の祭り、「加勢鳥」がモチーフ
蔵六面工房の木村さんが絵付けを行う作品は、色合いがどこかやさしい。特に「加勢鳥」の置物に強く惹かれた。この笑顔のように、日々を生活していきたい。木村さんは家を継いで働いているが、好きなことをやっているという感覚が大きいそう。休日には、子供向けのお面の絵付けワークショップも開いている。
地域おこし協力隊の和地さんが、さきほどまでいたそうだ
和地さんは芸術系の大学に進学したのをきっかけに山形へ。その後、茅葺き屋根の修繕を行う協力隊の募集があり採用された。課外活動で取り組んでいた茅葺き屋根の保全の経験が生きたのだ。和地さんの生き方を見ていると、どこに暮らしのヒントが転がっているか、本当にわからない。
上山に暮らす人々は、皆それぞれ自分の生き方をもって、のびのびと暮らしている。都会には便利な暮らしがぎっしりつまっているが、上山にはそれがほどよくつまっている。ほどよい便利さの上山に、ぜひ一度お越しくださいませ! きっと、町の人々と自然に心躍るはず。
(写真・文)髙見堂 亜美 獨協大学2年
大学では主に、観光学と英語、スペイン語の三本柱で学んでいる。今年の2月に今回と似た企画で、長崎県五島市、久賀島を訪れたことをきっかけに、旅に目覚める。現在、リュック一つで日本のゲストハウスを泊まり歩き、地域を盛り上げることと、旅を合わせた仕事ができないか、模索中!
田舎だからできる「ものづくり」
上山市は東京から2時間半ほどで行けるという利点がある。しかし私はこれまで上山市のことを全く知らなかった。それに加えて「なぜ2時間半あれば東京に出られるのに、わざわざ田舎で働くのだろう?」と不思議でたまらなかった。
普段の仕事を実演してくださった修二郎さん その目つきは真剣そのもの
土澤木工の土澤夫妻は一度都会で働いた経験がありながらも、「Uターン」というスタイルで上山で働いている。都会と田舎、両方で働いた経験のあるお二人は、田舎で働く良さについて話してくれた。都会で働こうと思うと、雇われて働けば自由に働くことは難しいし、通勤時間や仕事時間も束縛される。といって自分の工房などを持つには土地代や材料を運ぶ問題が出てくる。
田舎はあまり土地代も高くないため職人は仕事場を持ちやすく、自由な時間で働けるメリットもある。都会の働き方が当たり前だと思っていたが、田舎には田舎ならではの働き方もあるのだ。
くだものうつわのカトラリー ラフランスや桑など様々な木で作られている
くだものうつわで働く齋藤由加里さんは、くだものうつわの食器やカトラリーは上山の果樹を使って作っていると語ってくれた。
「上山は果樹園が多いことが特徴です。しかし、伐採した果樹のやり場がない。その木を使って食器やカトラリーを作っています。木によって色味や重さ、使っているうちに出る味などが全然違うのが果樹で作った食器の良さです」
これは真似しようにも都会に果樹園はなかなか無いし、まさに上山でしかできない仕事なのだろう。
都会で暮らしたことしかない自分は、田舎で働くことは不便で生活がしづらいだろうと思いこんでいた。しかし、田舎だからこそできる生活、田舎でなければできない仕事もたくさんあるのだと気づくことができた。
1日目の夜、上山で働く人や参加者を交えて交流会を行った。そこで名産のワインを飲みながら話したことの中にとても印象深いエピソードがある。
「上山はとてもおいしいワインができる。でも、それを都会にお土産に買って帰って飲んでも、現地で飲んだときほどの感動は得られないんだ」
確かに、沖縄の有名なビールも、奄美大島で買ってきた黒糖焼酎も、何か違う気がしたことを思い出した。味は変わっていないはずなのに、現地で飲むのと別の場所で飲むのではまるで別物。美味しくないわけではない。ただ「別物」なのだ。
蔵王スターとかみのやまテロワール テロワールはフランス語で「風土の特徴」を意味する
私は、美味しいのならもっと宣伝をして、ネット通販をして、色んな人に飲んでもらえばいいとばかり思っていた。しかし必ずしもそうとは限らない、というのが面白かった。
地元で作ったものの良さが地元で発揮されるのは、ワインだけではない。上山で作られているものは上山でとても愛されている。
それは、その場でこそ出る良さがあるからかもしれない。良いものはたくさん発信していってほしいと同時に、ほかの地域に少しでも気になるものがあるという人は、ぜひ“その場に”良さを体感しにいってほしい。
上山の風景 自然豊かなことがよく分かる
(写真・文)田中聡美 実践女子大学 人間社会学部人間社会学科 3年
革製品の職人として働く母や元大工の祖父などがおり、ものづくりにあふれた環境に育つ。世間知らずに育ったことがコンプレックスで学生のうちに様々なことにチャレンジすることを決意。モットーは「出来ないのではなくやっていないだけ」
以上、8名の学生たちのレポート、いかがでしたでしょうか?
普段の生活ではなかなか触れる機会のなかった地域との出会い、新鮮な気持ちで綴っていただきました。
彼らが見た景色や出会った人たちを追体験することで、上山の魅力がさらに身近に感じられると思います。
今度はぜひ、読者のみなさんが上山に足を運んでみて下さい。