見たことも、食べたこともないおはぎをつくりだす
「つくる人も食べる人も幸せ。それを感じられる仕事って素敵やなぁと思って」。
デザイナーからおはぎ職人に転身した森百合子さんに会いにゆきました。
「ナカメシグルリアンだよ」親戚の伯父さんはいつもそれを片手に家にやってきた。おみやげとしてもらったり、家でつくったり……、いまほど華やかな洋菓子がなかった時代から、中がご飯(メシ)で、ぐるりが餡(アン)のおはぎは、皆を笑顔にする、幸せのおやつだった。
関西に、有名なおはぎ専門店がある。大阪府豊中市の「森のおはぎ」は、店主の森百合子さんが2010年、普通電車しかとまらない小さな街・岡町の商店街に創業した、ちっちゃなおはぎの専門店。テレビや雑誌の取材にひっぱりだこ、店舗はもちろん、全国各地のイべントでも行列ができる。
森さんにとっておはぎは幸せになるおいしいもんの代表だった。「おばあちゃんがつくってくれたあんこ餅や素朴な和菓子って、それをつくったり、食べたりしたシーンを思い出すじゃないですか。自分も誰かの思い出づくりをしたい、それが一番にあったんです」
皆に愛されて、食べて幸せな気分になってもらえる、その反応を直接感じられる、おはぎ職人の道を一生の仕事として選んだ。
店を始めるにあたり、まず考えたのは見たことも、食べたこともないおはぎをつくりだすこと。雑穀を使ったぷちぷちのお餅と、季節の素材を生かした変わり餡。粒餡やきなこといった定番はもちろん、木の芽みそや焼きとうもろこしなど、創作おはぎも期間限定で登場する。
「私もやけど(笑)、女の人は欲張りさんやから、いろいろ食べたいでしょう。うちのおはぎは3つ4つぺロッといけると思います」
つくり方にも強くこだわっている。手間はかかるが、素材に合わせ、あんこはすべて炊き分ける。たとえば、苦味や香ばしさが強い深煎りきなこの餡は甘味を強く。香ばしいクルミ入りの餡は隠し味に白みそを加え、味に塩気と深みを出す。ころんと愛らしい形や、互いに引き立てる色のバランスも考えつくされたもの。
じつは森さんは元テキスタイルでデザイナー。それだけに彼女のおはぎは、見た目はもちろん、販売する空間、パッケージにもこだわりがたっぷり。お土産用の包みは巾着型の紙袋にした。手提げ袋には陶芸作家の鹿児島睦さんの図案があしらわれる。店先の品書きは森さんのお母さんの書、鉄看板は金工作家の弟さんのお手製だ。
選んで、買って、持ち帰るまで。お店にはちょっぴりうれしくなる、心のこもった要素があふれている。
おはぎづくりのポイント
1 おはぎをつくるときの気持ちが味に直結!むずかしく考えず、楽しんでつくろう!
2 餡とご飯のバランスをとるにはそれぞれを個数分に分けて最初に丸めておくと、均等な大きさに。
3 つくって半日置くと、餅とあんこがなじむ。食べる時間から逆算しておはぎづくりを開始。
文:安田祥子 写真:柳大輔
記事全文は本誌(vol.23 2017年6月号)に掲載