埼玉県で「農ある暮らし」をイメージする方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか?
東京のベッドタウンとして知られる埼玉県は住宅街としての印象が強く、農と結びつく方は少ないかもしれません。しかし実際は、花き類の算出額全国第5位、野菜の算出額全国第7位(農林水産省 平成27年「生産農業所得統計」)。そして、こまつな、さといも、ゆり、パンジーの4つは全国第1位の産出額を誇る日本有数の農業県でもあるのです。また、小川町では化学肥料や農薬に依存せず、自然の力を借りる循環型の農業への取り組みが盛んで、SDG’sの視点でも「持続可能な暮らしを実践するまち」として注目されつつあります。
そんな埼玉県には「農業をしたい!」という理由で移住されたり「農ある暮らし」を実践されている方が数多くいらっしゃいます。2022年11月某日の夜、埼玉県を食と農の観点から支えるみなさんが集まり、その取組をもっと多くの方々に認知してもらうための交流会が開催されました。
◆ イベント概要
「埼玉の食と農に携わる人のための交流会」
日時:2022年11月7日(月) 19:00〜21:00
場所:小川町コワーキングロビー NESTo
埼玉で活動している人たちって楽しそうで面白そう!
埼玉県は平成28年から農ある暮らしの事業をはじめています。先輩移住者や地域コミュニティのキーマン及び農山村地域で農業地域活性化に関わる方、移住実践者で受け入れに協力してくださる方を「地域支援者」として、支援者同士のつながりが深まりつつあります。今後、移住検討者や農ある暮らしをはじめたい方との連携をより強めていけるよう、埼玉県ではメーリングリストや県のHPを活用した、支援者による体験イベント、援農ボランティア募集などの情報発信を増やしていく予定です。
今回のイベントは埼玉県内の人たち同士がお互いの理解を深め、県内だけでなく県外の人にもその面白い活動を知ってもらうことを目的としています。
乾杯は的場園さんの狭山茶で
的場園は入間市で狭山茶の生産、製造、販売まで一貫して手掛けています。イベント中は終始、的場園の的場さんが交流の場をなめらかにするようなお茶を淹れてくれました。
今回ご提供いただいたお茶はこちら。
◆ 狭山茶煎茶
的場園の特許製法で作られた濃くて甘いお茶。熱湯で淹れても渋味が出づらく、冷めても美味しく飲める独自加工が施されています。◆ 焙じ紅茶
甘い香りと味に特徴のある「和紅茶」に独自焙煎を加え、更に甘味を引き出した香ばしい紅茶。海外産の強い紅茶が苦手な方におすすめです。◆ 熟成焙じ茶
一度焙煎を行い冷蔵保存させ、改めて煎った焙じ茶。風味に丸みを帯び、飲みやすくなります。煮出しても美味しく飲めるので、水分補給にも。
的場さんは、12年前に的場園に婿入りし、伝統産業の後継者となったそうです。外の世界を経験したからこそできる方法で、硬直化しつつある伝統産業を盛り上げようとお茶を使った新しい可能性を模索されています。
また、ときがわ町の「lagomcafe」さんより、有機野菜がメインの栄養満点なお弁当もご提供いただきました。
埼玉県の「農ある暮らし」って?
埼玉県の「農ある暮らし」の定義は「新たに農業を始める、農産物の生産から加工販売まで手掛ける農業の6次産業産業化に携わる、または自宅近くの市民農園で野菜を育てるなど、それぞれの希望に応じて様々な形で農に関わる暮らしをすること」というものですが、今回集まった約20名の中でいわゆる「農家」という方はなんと1名ほど。
「農業」というとハードルが高くきこえるかもしれませんが、暮らしの中で「農」を取り入れることはもっと手軽でいいはず。イベントの前半では「農」と触れる楽しさを伝えることに焦点をおいて活動しているお2人にお話いただきました。
◆ プチファーマーズ:田島 遥菜さん
「人に地球に優しい食を今も未来もずっと」というテーマで、畑仕事に興味のある方や食のあり方に興味をお持ちの方と、オーガニック農家さんをマッチングしています。
例えばカモミールの植え付けと収穫祭をしたり、青山在来大豆の収穫のお手伝いの場などを企画運営しています。オーガニックの農家さんは手作業が多く時間がかかります。参加者の人達がそういった現場を知ることで食へのありがたみを感じたり、顔が見える生産者からの購入を検討するなど、一人でも多く食との関わりに対する気持ちの変化を感じてもらえたらと考えています。
【プチファーマーズ】
https://www.petit-farmers.com/
◆ FARMWEDDING代表:水川瞳さん
モデル業から梅農家に飛び込み、「埼玉農業かってに応援プロジェクト」を立ち上げ、県内の農家さんを取材したり、梅農園でのウェディングフォトサービスの代表をつとめています。また、モデル業の経験を生かして取材した農園のお野菜を使い、美と食と健康をテーマにしたランチやスィーツを提供しています。私達のような農業とあまり関わりがない世代に対し「農業っていいよね」としみじみ思ってもらえるよう視覚的に伝える工夫しています。
写真や動画をSNSで見つけて連絡をくださる方もいて、「農園って実は身近な存在なんだ」と気がつき、そこから農業体験など実践につなげてもらいたいというのが今のモチベーションです。農業というくくりではなく、美容に興味がある方が食に関心を深め、生産者とのつながりを持つというような、農業との敷居を下げる取り組みを中心に活動しています。
【FARM WEDDING】
https://www.instagram.com/return.to.soil.wd/
【ひとみ喫茶の情報】
→毎週金曜日・越生町の梅農園さん(シェアキッチン内)でオープンしています
https://www.instagram.com/hitomi_mizukawa/
【埼玉農業かってに応援プロジェクト】
https://www.youtube.com/channel/UC7m1NbCMkjX-dYB9Kb2o7Aw
「農ある暮らし」は人それぞれ
だからこそ、個性を生かして伝えていく
イベントの後半では、グループにわかれて、援農体験や農と触れるプログラムの情報共有、実施へのハードルなどの意見交換会が行われました。
「農体験においては天候や作物の状況などによって、日程が組みづらい、適切な連絡手段が見いだせないといった課題感があります。また、初めての人でもできる作業が少なく、手伝いに来てほしい農家さんが、実はそんなに多くないのでは、という意見もあります。農家さんにも様々な年代やキャラクターの方がいらっしゃるので、最終的には個々の農家さんとのコミュニケーションが大切ですよね。(横瀬町地域おこし協力隊 赤岩さん)」
「農業体験というと、植え付けや収穫といったイメージを持たれる方は多いと思います。ただ、さらに一歩踏み込んだ案内、たとえば着替えはどうすればいいのか、トイレがあるのか、どのように応募するのかといった、細かな情報は意外と案内されていないことが多いのではと思います。予算含め現実的な課題はありますが、ロゴ入りの作業服が用意されていたりすると体験としての価値は高まりますよね。また農家さんによってそれぞれの考えや価値観があると思うので、一緒くたに農業体験ではなくて、その体験をしたら何が得られるのかというメリットがわかると共感を呼びやすい気がします。(グラフィックデザイナー 安川さん)」
「埼玉県行田市では、市外や都内で働く20代〜30代の方が、週末だけ行田市に来て、農ある暮らしを実践する取り組みをしています。この活動のために行田市内に家を借りて週末移住している方もいるので、1つの先進的な取り組みなのではと思っています。(グラフィックデザイナー菅井さん)」
その他にも、植え付けや選定など労働の要素が強いと人が集まりにくいので、「収穫したものを食べる」「ランチを提供する」といった食のコンテンツを用意すると集客がしやすくなるという意見もありました。また、そうした食への結びつきのためにも、加工品を開発したり販売できる場所が必要だという声も。
今後、埼玉県の「農ある暮らし」の事業を通して、農家さんの個々の活動を線で結ぶようなハブとなる存在や仕組みをつくっていけると、県内全域で農ある暮らしへの理解を広めていけるように思います。今回のような場も会を重ねることで、農ある暮らしを楽しむ方々が埼玉県内で支えあえる、有機的なつながりを育んでいけるように感じました。
「農ある暮らし」は日々の暮らしを豊かにすることに繋がる
「農ある暮らし」は土に触れることだけではありません。どんな人がどのように作っているのか関心をもつことも「農ある暮らし」の1つであり、普段の生活の中でも取り入れられることはたくさんあります。あたりまえにある自分の衣食住を紐解くと、いつもよりおいしく感じたり、質の良いものを選んだり、人のあたたかさを感じたり、暮らしが少し豊かになるかもしれません。
まずは埼玉のキーマンたちの魅力あふれる活動を知っていただき、興味をもたれた方はぜひ直接足を運んでみてください。
(写真:赤井恒平 文:櫻井智里)