徳島駅前にある商店街は、どこの地方都市でも課題となっているように、土日でも人がまばらなシャッター通り。その一角に、若者や移住者が集い、にぎわっている場所がある。「ミンナノバ ミツシカ」だ。土日祝は不定期でカフェを営業、毎月第四土曜の夜は「カレーとワインとあまべ牡蠣」として営業。それ以外は、独立を目指す人や、新しいことにチャレンジしたい人向けの、シェアキッチンやレンタルスペースとして活用されている。ここを運営しているのがBlue Knot株式会社の代表取締役、伊澤昌高さん。ものづくりやアートに興味のある少年時代を送り、美容師として活躍していた伊澤さん。ここに至った経緯と、これからの展望について伺った。
シャッター商店街の一角にある「ミンナノバ ミツシカ」
徳島との出会いと徳島の魅力
伊澤さんの徳島との出会いは、2014年に立ち上げた自身の美容オリジナルブランドLHOOQの製品に配合する希少価値のある国産原料を探している時だった。吉野川市山川町に残るたった1軒の藍農家と出会い、足繁く徳島に通うことになり、長年の研究の末、蓼藍を配合したシャンプーとトリートメントの開発、販売に至っている。
「ヒトも、環境も、社会も健康に」をコンセプトにしたLHOOQのヘアケア/スキンケアプロダクト
徳島に通う中で、伊澤さんは徳島の紙漉きや木工、阿波番茶、藍染など伝統工芸がしっかり残っている文化度の高さに気づいた。さらに、阿波商人と呼ばれる人たちが活躍した時代の豊かさの名残からだろうか、穏やかな県民性で、幸福度が高く見える。県外への人口の流出が課題になっている昨今だが、それも教育熱心で子どもを県外へ送り出せる経済基盤があってこそ。そして、環境に対しての意識が高い徳島に魅力を感じている。
一次産業を守りたい
伊澤さんは、和歌山出身。実家は林業を営んでおり、通った小学校は、当時全校生徒3人という過疎地域で生まれ育った。当然、周りにお店などなく、自然とほしいものは自分で作るようになった。ものづくりが好きな少年は、成長と共にアートやカルチャーに出会っていく中で、美容の世界を目指すことに。10代で渡英し、帰国と同時に上京、美容師として働き始める。同時期に、グラフィティアーティストとして活動していた経験もある。美容師として3年ほど勤めたタイミングで、美容総合メーカー数社から商品開発やインストラクターとして働かないかと声がかかり、兼業を開始。2年後の2004年、25歳で独立。2008年には製品のプロデュース開発やブランディング、デザインなど、スタートアップ支援をする株式会社VIZMへと法人化した。商品開発は、科学者や営業マンなどいろんな人と話すことができ、商品を通して人と繋がる喜びを知った。「モノの縁のおかげで、色んな人と繋がれた。」と目を細める。
2014年には新たに法人を設立しオリジナルブランドLHOOQを立ち上げ、一次産業を支えたいという思いから、商品を開発・販売する中で、原料はできるだけ国産のものから厳選している。「正しいものを置いてきてしまったのではないか」と言う伊澤さん。林業を継がなかったことに対する、どこか後ろめたさのようなものを常に感じていることが、一次産業を守りたい気持ちを強くするのだ。
ミンナノバ ミツシカの始まり
そんな伊澤さんが、徳島市のシャッター商店街に、いったいどうやって場を持つことになったのか。始まりは、2019年の久野淑子さんとの出会いからだ。久野さんは、「pontneuf(ポンヌフ)プロジェクト」の仕掛け人。「シャッター商店街に灯を」を合言葉に、徳島駅前の新町橋商店街と東新町商店街の交わるところにある「pontneuf」やマーケットのプロデューサーを務めている。プロジェクトの一つとして、「pontneuf kissa」という場所があり、その2階が空いていたため、徳島の拠点を探していた伊澤さんが借りることにしたのだ。pontneuf kissaは、シェアキッチンとして運営されており、ワイン好きだった伊澤さんが友人と「ワインとカレーとあまべ牡蠣」というイベントを行ったところ、たくさんの人に喜んでもらえた。2階に拠点を持つ予定のはずが、1階の運営も譲り受けることになり、今に至る。
ミンナノバ ミツシカ。飲食店や製造業としてのレンタルも可能、新しいチャレンジをしたい人にはありがたい場所
現在、「ミンナノバ ミツシカ」と名前を変え、利用登録者は42名になり、カフェ、パン教室やボードゲーム、イベントなど幅広く利用されている。利用者には若い人も多く、チャレンジの場でもあり、カルチャー発信の場にもなっている。
人に頼ってもらえることに存在意義を感じると言う伊澤さん。お願いされたことは、できないこと以外は基本断らないのだそう。今までもずっと商品開発などゼロをイチにする仕事をしてきたので、ミツシカの運営もそれと同じ感覚で楽しんでいる。東京と徳島に拠点を置いていたが、2022年の4月、拠点を完全に徳島に移し、移住者となった。ミツシカという場を持っていたことで、地域コミュニティーに入ることがスムーズだったし、移住者の交流の場所という役割もミツシカが担っている。昔からこの商店街にいる人が、アーケード内にモップかけする姿を見かけ、愛されている商店街なんだと心が動かされた。「人が一人頑張ってもでも街は変わらない」と自身を謙虚に評しながらも、ここに新しいムーブメントが起きていることは間違いない。
地元の人に愛されてきた商店街。少しずつ賑わいを取り戻してきている
良くにしかならない
今後は、国内外からの観光客向けにも徳島のPRを行っていきたいと考えている。「おもしろいところにおもしろい人が集まる」から、発信していきたい。KYOTO JOURNALという外国人向け雑誌のカメラマン兼ライターでもある伊澤さんだからこそのPRが楽しみだ。また、徳島県の推進している「サステナブル複業プロジェクト」では、都市部で働くスキルやノウハウを活かし、地域づくりや社会貢献活動など複数の役割を担う人を「複業人材」と位置づけ、誘致を推進している。その受け入れ企業としても、地域に貢献している。「一緒にプロジェクトを立ち上げたり、その人のやりたいことのスタートアップのお手伝いをしたりできたら」と、すでに数人の複業人材と面接済みだ。
過疎地域の林業を営む家で生まれたから、どこでも生きていける自信がある。だから、様々なことに挑戦できる。自然の中で育った原体験や原風景が、今の伊澤さんを作っているのだ。ものづくりやアートが好きだった少年は、今や色んな顔を持っているが、本人としては好きなことを続けているに過ぎない。好きを続けていくことで、点が線に、線が面に、そして面は立体になっていっている。伊澤さんはこれからのことを言う。「良くにしかならない」と。
商品を売るための営業活動はしない。その時間を、会いたい人に会ったり行きたい所に行ったりすることに使っている。
ミンナノバ ミツシカ
ミンナノバ ミツシカは、独立して自分のお店を出したい方、副業で新しいことにチャレンジしたい方などにおすすめなシェアキッチン/レンタルスペース。
https://www.3shika.com
伊澤昌高(いざわ・まさたか)さん
Blue Knot株式会社 代表取締役
株式会社VIZM 代表取締役
一般社団法人エシカル・ビューティ・アソシエーション 理事長
Blue Knot
https://www.blue-knot.co.jp/
文・ひらかわひろこ 写真・山川 明訓
徳島県では、「複業」や「サテライトオフィス勤務」、徳島ならではのワ―ケーション「アワーケーション」を通して、地域と継続的に関わり、自身のスキルやノウハウを活かしながら活躍の場を広げることで自分らしいライフスタイルや働き方を実現することを「サステナブルワークスタイル」と位置づけ、人材の誘致を推進しています。
「徳島に惹かれた人が新しい人を呼ぶ」をコンセプトに、 徳島への「新たな人の流れの創出」を目指す取り組みです。
TOKUSHIMA Satellite office
サテライトオフィスポータルサイト
https://www.tokushima-workingstyles.com/
移住交流ポータルサイト「住んでみんで徳島で!」
https://iju.pref.tokushima.lg.jp/
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